事務局は電話に出ない、3カ月経っても振り込まれず…旅行関係者が語る“GoToカオス”

GoToトラベル「菅義偉首相の肝いり」もトラブル続出 旅行関係者が憤り

記事まとめ

  • 菅義偉首相の肝いりだったはずのGoToトラベルは、様々なトラブルが起きているという
  • とある旅行会社の関係者は「GoToトラベルというよりGoToトラブル」と、憤りを隠せない
  • 7月22日に始まったGoToトラベルだが、3カ月経っても割引分の給付金が振込まれないとも

事務局は電話に出ない、3カ月経っても振り込まれず…旅行関係者が語る“GoToカオス”

事務局は電話に出ない、3カ月経っても振り込まれず…旅行関係者が語る“GoToカオス”

©iStock.com

「これではGoToトラベルというよりGoToトラブルです」。とある旅行会社の関係者は憤りを隠せない様子でそう語る。10月から東京発着の旅行も対象に加わり、盛り上がりが期待されるGoToトラベルキャンペーンだが、じつは水面下でさまざまなトラブルが起きているという。

 そもそも始まる前から東京がキャンペーン対象から除外される混乱があったうえ、つい先日も「Yahoo!トラベル」「じゃらん」などの大手宿泊予約サイトがGoToトラベルの割引上限額を1人1泊あたり3500円に引き下げると唐突に発表、それを数日で撤回する騒動が起きたばかりだ。

 菅総理の肝いりだったはずのGoToトラベルは、なぜトラブル続きなのか。その舞台裏について2人の旅行会社関係者に詳しく話を聞いた。

(取材・文=押尾ダン/清談社)

■◆ ◆ ◆

JTBが事務局となることが既定路線だった

 東京に本社のある旅行会社に勤務する山本高広氏(仮名)は、7月22日のキャンペーン開始当初からGoToトラベルに振り回され続けてきたひとりだ。

――大手宿泊予約サイトが10月10日以降の予約を1人1泊あたり3500円に制限すると発表し、それを受けて政府がGoToトラベルの予算枠を追加配分するという騒動がありました。なぜあんなことが起きたんですか。

山本 その理由を説明するには、まずGoToトラベルの運用を政府から委託されたJTBを中心とする事務局について知っていただく必要があります。委託先はいちおう入札で決まったのですが、最初からJTBが事務局となることが既定路線だったと聞いています。

 そこに近畿日本ツーリスト、日本旅行、東武トップツアーズの大手3社が加わって「ツーリズム産業共同提案体」というコンソーシアムをつくり、ヤフー、楽天、リクルートが協力団体として参加した。GoToトラベルをめぐる混乱は、政治問題である東京除外を除けば、ほとんどこの事務局に原因があります。

■まったく対応してくれない事務局のコールセンター

――大手宿泊予約サイトによる割引上限額の引き下げ問題もその点に起因するわけですね。

山本 そうです。JTBなどの大手は事務局としてGoToトラベルの制度設計にも深く関わっているので、かなり早い段階からキャンペーンの詳細を把握していました。それによって、中小の旅行会社に比べて準備がかなり先行していたのです。

 そのため予算枠を早々に使い切ってしまいそうになり、これ以上は販売できないからと3500円にしたのでしょう。それがニュースで大きく報じられて問題になったので、政府が慌てて大手に追加の予算枠を与えたわけです。出遅れた私たち中小の旅行会社は、予算枠を使い切るどころか余っているにもかかわらず……。

――業界大手4社によるコンソーシアムといえば、各社から事務局に出向している社員の高額すぎる日当も問題になっています。

山本 日当4万円と報道されていますよね。しかし、そのわりにコールセンターに問い合わせしても、事務局はまったく対応してくれないのです。10月1日から始まった地域共通クーポンについてもかなり問い合わせしたのですが、1度も返事が来ません。上の人間と話をさせてくれと頼んでも「上はいません」と言うばかりで埒(らち)が明かない。

 こうした事務局のお役所的な対応、情報の独占は、GoToトラベルが始まった当初から変わりません。大手以外の中小旅行会社は、開始前の説明会に始まり、この間ずっと事務局による情報の独占に苦しめられてきたのです。

■JTBがGoToトラベル参加ホテルの情報を独占

――事務局とのあいだでどんな問題があったんですか。

山本 たとえば、開始当初でいうとホテルの問題がありました。GoToトラベルでは、ホテルが事務局に申請し、認められるとキャンペーン対象となります。日航ホテルなら、全国に何十箇所もあるグループ全体がリストになっているんですが、それだけではホテルがどこにあるかがわからないんです。

 そのため、中小の旅行会社は対象のホテルの所在地などをホームページを開いて一つひとつ確認しなければなりませんでした。ところが、大手はキャンペーンが開始された翌日の7月23日の時点で、参加しているホテルがオンラインシステムにほぼ反映されていたんです。とくにJTBは早かった。

――事務局にはホテルのリストについて問い合わせしたんですか。

山本 もちろんきちんとしたリストをくださいとお願いしました。しかし、いっさい教えてくれない。仕方なく社員総出でJTBのサイトを検索して一つひとつチェックしたのですが、作業が膨大すぎて1週間かけても終わらなかったくらいです。そのせいでシステム構築にかなりの時間とコストを費やすことになりました。

 私たちは横のつながりで、ほかの旅行会社と情報を共有しているのですが、彼らが口を揃えて言っていたのは「JTBがホテルのリストを出そうとしない」ということ。こうした大手による情報の独占がGoToトラベルにおける混乱の一番の原因といっていいと思います。

■3カ月経っても割引分の給付金が振り込まれない

 一方、GoToトラベルによる割引分の給付金が「振り込まれない」と明かすのは、兵庫県芦屋市で海外旅行を中心に取り扱う旅行会社「ブルーム・アンド・グロウ」の代表をつとめる橋本亮一氏だ。

――GoToトラベルは、簡単にいえば旅行代金の割引分を給付金で支援する仕組みですが、その給付金が振り込まれていないんですか。

橋本 はい。7月の割引分は直接旅行者に支払われるのですが、まだ振り込まれていないようです。GoToトラベルは7月22日に始まったので、もう3カ月以上がすぎていますが、旅行会社が立て替えている8月分以降も、少なくともうちには一度も振り込まれていません。

■GoToトラベルでキャッシュフローがより悪化した会社も

――どうしてそんなことになっているんでしょうか。旅行業界はコロナ以降、資金繰りが苦しいわけじゃないですか。だからこそGoToトラベルというキャンペーンが開始されたはずです。

橋本 振り込まれない理由はまったくわかりません。好意的に考えれば、急遽始めたキャンペーンだったので事務作業も相当混乱しているのでしょう。なにしろ、事務局への報告書式にしても、エクセルを加工しただけの「これで集計できるの?」というレベルのものですから。

 わかっているのは、GoToトラベルによって会社のキャッシュフローがより悪化したということです。なかには、給付金が振り込まれないせいで逆に資金が回らなくなった会社もあるかもしれません。

■このキャンペーンで得しているのは大手7者

――事務局も大変なのかもしれませんが、GoToトラベルは大手7者のために設計された不公平な制度に見えます。

橋本 もちろん、このキャンペーンでもっとも得しているのは大手7者かもしれません。ただ、そうした不公平さは大手と中小とのあいだにあるだけではなく、国内旅行をメインに取り扱う旅行会社と海外旅行をメインに扱う旅行会社のあいだにもあるのです。

 うちの場合、おもに海外旅行のオーダーメイドツアーを提案している旅行会社なので、4月から6月にかけては売り上げが前年比98%ダウンでした。飲食店の方が対前年比6割減と嘆いているニュースなどを見ると、4割もあってうらやましいと思ったくらいです。

■GoToトラベルだけじゃなくGoTo検査も

――たしかに、国内旅行を中心とする旅行会社にはGoToトラベルの恩恵に与って前年実績を上回っているところもありますが、いまの状況で日本から観光目的で海外に行く人はほぼいませんね。

橋本 先日、菅総理のブレーンのひとりであるデービッド・アトキンソン氏がテレビで「観光業を回復させるには、GoToトラベルだけじゃなく、GoTo検査もやらなきゃダメだ」と言っていたのですが、私もまったく同感です。GoToトラベルでは国内のオンライン予約に強い旅行会社だけしか潤いません。

 多少税金を使ってでもPCR検査の体制を強化すれば、コロナに感染するのが心配という人も安心して旅行に行けるようになります。PCR検査をもっと手軽にし、自分の受けたいときに検査を受けて陰性証明書を取れる体制ができれば、海外旅行に行きたいという人も増えるはずです。

■◆ ◆ ◆

 念のために付け加えておくと、山本氏も橋本氏もGoToトラベルを頭から否定しているわけではない。2人に共通しているのは、観光産業全体がコロナ禍で窮地に立たされているなかで、本来、GoToトラベルというキャンペーンは非常にありがたい施策と認識していることだ。

 しかし、現状はご覧のようなトラブル続きで、大手7社のための制度になってしまっている。菅総理はこの現状をどう思うのか。

(清談社)

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