もはやテニスプレーヤーではない…23歳の大坂なおみ“ゲームチェンジャーへの進化”と“7枚のマスク”

もはやテニスプレーヤーではない…23歳の大坂なおみ“ゲームチェンジャーへの進化”と“7枚のマスク”

全米オープン2度目の優勝

「ゲームチェンジャー」

 直訳では「途中出場して試合の流れを変え、活躍する選手」、意訳すると「大きな変革をもたらした人」という意味を持つ。

 ニューヨークなどに拠点を置く非営利団体アジア・ソサエティは、10月22日に大坂に「アジアのゲームチェンジャー賞(変革者賞)」を授与した。大坂は6日前に23歳の誕生日を迎えたばかりだった。

「テニス選手として確固とした立場を築いているのはもちろんですが、テニスという多くの人が注目する舞台を使って社会正義や社会の変革を訴えた点を高く評価している」と同団体は選出の経緯を説明する。

 またアメリカのE!(エンターテイメントテレビジョン)が実施しているテレビ、音楽、映画の賞「ピープルズ・チョイス・アワード」は、2020年ポップカルチャー「ゲームチェンジャー」部門で、レブロン・ジェームズやセリーナ・ウィリアムズとともに大坂を選出。同賞には8人がノミネートされたが、SNSなどでは大坂の受賞を推す声が大きい。

■プレッシャーやストレスを乗り越えて勝ち続ける

 8月下旬から開催された全米オープンで、大坂は警察によって命を奪われた7人の黒人の名前が入ったマスクをつけて会場入りした。不幸な形でこの世を去った彼らのことを大坂は世間に伝え続け、メディアは連日、マスク姿の大坂を追いかけた。

 新型コロナウィルスの影響で3月中旬以降、ウィンブルドンや東京五輪を含め多くの大会が中止や延期になり、なんとか開催にこぎつけた全米オープン。大坂をはじめ選手や関係者は「バブル(隔離地域)」に入れられ、行動制限がかけられた。コロナ感染への不安や、1月の全豪以来のグランドスラムに臨むプレッシャー。これに加えて大坂にはBLM運動(ブラックライブズマター)への積極参加に対する批判や非難の声もあり、大きなストレスを抱えて試合に臨むことになった。

 しかし、大坂は勝ち続けた。

■「みなさんはどんなメッセージを受け取りましたか」

 大坂は全米オープンの優勝インタビューでこう話している。

「(私のマスク姿、マスクに書かれた名前から)みなさんはどんなメッセージを受け取りましたか。みなさんが(この問題について)話しあうきかっけになればいいと思う」

 穏やかな口調もあり、このメッセージが胸にストンと落ちた人も多かったのではないだろうか。

 ここ数年、特にトランプ氏が大統領就任以降、アメリカでは自分の意見を押しつけ、反対意見の人へは容赦なく罵倒する人が増えているように感じられる。BLM運動に関しても同様で、この運動の背景よりも運動に対しての賛否ばかりを語る人もいる。

 だからこそ、大坂の「話しあうきっかけになれば」という平和的な呼びかけは新鮮な響きとともに受け止められ、家族や友人と話しあったり、被害にあった人のことを調べた人もいたはずだ。

「ゲームチェンジャー」。

 大坂はアジア人として男女通じて初めて世界ランク1位になり、テニスの世界に新しい風をもたらした。そして今年はBLM運動の流れや考え方を変えるきっかけを作り、テニスだけではなく、アメリカの人々に大きな影響力を与えたことで「ゲームチェンジャー」の一人になったのだ。

 全米オープンの大坂なおみがなぜアメリカ社会に大きなインパクトを与え、テニスの枠を超えた「スーパースター」になったのかをアメリカのスポーツ史から紐解いた「 大坂なおみが世界に『愛される理由』 」は「文藝春秋」11月号および「文藝春秋digital」に掲載されています。

(及川 彩子/文藝春秋 2020年11月号)

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