そば屋が作る「江戸焼き」って何だ? 「しっとり、アツアツ、とろとろ」食感の正体とは

そば屋が作る「江戸焼き」って何だ? 「しっとり、アツアツ、とろとろ」食感の正体とは

秋晴れの亀戸駅北口から北西方向をみる

 今年の国産そばの生産は昨年並み。そろそろ市中には新そばが出回ってきており、新そばの幟をそば屋でよく目にするようになった。一方、通常は春から夏にかけて順調に消費されるはずだった2019年産の国産の玄そばが、コロナ禍でダブついているという。玄そばの在庫をかかえる製粉会社や製麺所は、その対策に苦心しているという。

 そんな中、亀戸にある「亀戸・養生料理 高の」で、この問題を解決するようなユニークなメニューを開発したという話が飛び込んできた。早速、11月最初の日曜日に訪問することにした。実に2年ぶりである。

■亀戸二丁目団地「高の」店主の笑顔

 午前10時半、亀戸駅北口に降り立つ。バス乗り場を通り抜け、北西の方向に数分歩くと亀戸二丁目団地が現れる。「高の」はその一階、中庭の左奥でひっそりと営業している。入店すると、店主の高野定義さんと奥さんのオスギさんがいつもの笑顔で迎えてくれた。

■奇想天外・前代未聞!「高の」の出汁

「高の」は唯一無二の店であることをまず説明しよう。「高の」の出汁の作り方は奇想天外・前代未聞だ。そば湯に「大豆」を入れて呉汁のように煮込み、そこにシイタケ、なめこなどのきのこ、鰹節、宗田節などを入れて出汁をとっていく。見た目はまるでそば湯のような出汁である。そば粉やそば湯にはルチンなどが多く抗酸化作用が強いことが知られている。それを余すところなく使っている「高の」の料理は、養生料理と謳うに相応しい。そばは墨田区文花にある「株式会社霧下そば本家」から国産そば粉を仕入れ、手打ちで平打ち太めのそばを提供している。

 今年で創業8年目。ようやく店の人気も定着してきてこれからというときにコロナ禍があり、高野さんは途方に暮れたという。そして、そば粉の仕入れ先である霧下そばの方から、玄そばのダブつきのことを耳にした。そして、試行錯誤の末、この問題を解決するようなユニークなメニューを開発したわけである。そのメニューとは「タコ焼き」ならぬ「江戸焼き」だという。

「タコ焼きは関西の一般大衆に深く広く浸透している人気食品で、タコと小麦粉をベースに作ってますよね。そこで、関東でもタコ焼きに寄り添うことなく、そば粉を使って、独自のメニューができないか考えたんです」と高野さんは話し出した。

「江戸焼き」とはいったいどんな食べ物なのか、期待が膨らむ。

 高野さんにその作り方を説明してもらった。そのコンセプトは次のようなものであった。

 小麦粉やタマゴを使わないで、そば粉だけを使う。  タコを使わない(たこ焼きにリスペクトを込めて)。  マヨネーズ、ソースは使わない(味の方向性を変える)。  関東でなじみの食材を使う

 高野さんはおもむろに、プリプリの鴨肉を刺した串を炭火で焼き始めた。

「江戸焼きではたこの代わりに、鴨を使います」

 というので、ちょっと驚いた。「高の」ではいま、ジビエ料理も人気となっている。発想はそんなところから来ているのかもしれない。

■そば粉が大活躍する、これが「江戸焼き」(1200円)

 焼きあがったら、それを一口大に切り、江戸焼きに入れる具として用意する。次に、炒ったむき身のそばとそば粉を合わせ混ぜて、そば湯の出汁を加えて適度なゆるさの生地をつくる。

 そして、鉄鋳物製のたこ焼きプレートをガスコンロに置いて熱し、油を引いてそば生地を流していく。そこに焼いた鴨肉を入れて、刻んだネギをちらして、高野さんは器用に金串でひっくり返していく。この一連の作業はたこ焼きとほぼ同じである。

 程よく火が通って出来上がったら、お皿にのせて、鰹節を振りかけ、ワサビ、返しを入れた呉汁のような出汁のつゆをつけ汁として添えて完成である。

■鴨肉がジューシーで、そばの生地もしっとりとしてアツアツ

 さっそく「江戸焼き」(1200円)を食べてみる。ほんのりと塩味の利いた鴨肉がジューシーで、そばの生地もしっとりとしてアツアツでとろけている。そば粉でもこの状態が作れるのかと驚いた。つけ汁に少しつけて食べるとまた、マイルドな醤油の返しの味とマッチして絶品である。

 昼前だが、酒を飲まないわけにはいかなくなった。「焼酎の蕎麦湯割り」(580円)の熱いのを注文した。これは焼酎を蕎麦湯であらかじめ割って熟成したもので、冷たいのも注文できる。マッコリのような酸味がある独特の味で人気である。自家製豆腐、ナスの鉄砲漬け、しし唐の天ぷらのお通しをいただき、「江戸焼き」の味を堪能していると、第9回からあげグランプリで金賞を受賞した「丸丸素揚げ」(390円)も登場した。しっとりとした焼き具合がすばらしい。洋風のスパイス調味料は一切使わず、返しなどにじっくりと漬けて下ごしらえしているようだ。

■人気漫画家が注文した「週末限定カレー蕎麦」(980円)

 入店して30分ほどで、お店の2つのテーブルは埋まり、カウンターも一人二人と入ってきた。店内は広く換気もよいので入りやすいのだろう。その多くが地元のお客さんで年配の客層が多いようだ。お隣にはなんと大人向けの人気漫画家、鬼ノ仁(きのひとし)先生が登場され、女将さんに漫画の評価を頼んだりしている。鬼ノ仁先生は週末(金土日)限定の「週末限定カレー蕎麦」(980円)をご注文。こちらのカレーつけ汁はカレールーをつぎ足して作っているそうだ。カレーつけ汁には焼きねぎ、素揚げナスや山芋、しいたけ、青菜などが入っており、固形燃料で温めながらそばをつけて食べる地元民必食の野趣溢れるメニューである。「高の」はふつふつと人気となっているようだ。

 さて、店も混んできた。長居は無用だ。高野さんが描いた油絵「いつもと変わらない風景」が目に入ったところで、店を後にした。想像を超えた出汁の世界の「高の」は、「江戸焼き」を通してまた一歩進化していることが実感できた。次はどんな世界が展開されるのか興味は尽きない。

写真=坂崎仁紀

INFORMATION

亀戸・養生料理 高の?
住所:東京都江東区亀戸2-6-1 亀戸二丁目団地内(108)
営業時間:
火〜土 9:00〜17:00(LO16:00) 
日・祝 9:00〜17:00(LO16:00)
※蕎麦なくなり次第終了
定休日:月曜日(月曜が祝日の場合火曜日振替)
03-6676-9055
http://kameidotakano.wixsite.com/web

(坂崎 仁紀)

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