「金属バットはフルスイング」「耳を切断」凶悪化する“半グレ”はヤクザと何が違うのか?《警察幹部が分析》

「金属バットはフルスイング」「耳を切断」凶悪化する“半グレ”はヤクザと何が違うのか?《警察幹部が分析》

いま「半グレ」による凶悪な犯罪が後を絶たない(写真はイメージ) ©iStock.com

「頭にネジ突っ込むぞ」「山に連れて行くぞ」。東京・六本木の路上に止めた車内で、そんなセリフを吐いて、知人男性から現金200万円を脅し取った恐喝容疑で逮捕されたのは、「半グレ」グループの1つ「新宿ジャックス」のメンバーだった。

 11月12日の報道で明らかになったこの事件。警視庁に恐喝容疑で逮捕されたのは、業界では名の知られた同グループのリーダー格の2人。今年7月、被害男性が電話に出なかったことに因縁をつけての犯行だったという。

 いま「半グレ」による凶悪な犯罪が後を絶たない。暴力団ほどの組織性はないが、暴走族OBらを中心にした緩やかな組織を保つ「半グレ」。ときに暴力団以上の凶暴性を発揮するだけでなく、近年は振り込め詐欺などで活動資金を得ているとみられている。

 警察当局は現在、半グレを暴力団にならぶ組織犯罪と認識し、強力な取り締まりを進めている。今回の逮捕もその一環といえるだろう。

■警察が「半グレ」を強く意識したあの事件

 警察当局が「半グレ」という存在を強く意識したのは、あの大物芸能人をめぐる事件だったという。組織犯罪対策を長年担当している警察当局の幹部が解説する。

「半グレが大きくクローズアップされたのは『海老蔵殴打事件』だろう。ヤクザではないが、粗暴な連中の集まり。容赦なく暴力を振るうことから、警察としても徹底した捜査が求められた」

 幹部の語る「海老蔵殴打事件」とは2010年11月に発生した、人気歌舞伎役者の市川海老蔵が殴られて重傷を負ったことを指す。

 事件があった日の晩、すでにアルコールが回り泥酔状態の海老蔵が東京・西麻布のバーに立ち寄った。ここで他の客と酒食をともにして楽しく過ごすどころか、アルコール度数の高いテキーラを灰皿に入れて周囲に飲ませるなど、行儀の悪さが止まらなかったという。

 海老蔵の振る舞いを制止した人物に逆につかみかかったところ、暴行を受け重傷を負うことになった。顔は腫れあがりシャツには血痕が付着したままタクシーで帰宅。人気絶頂の歌舞伎役者が「死ぬかと思った」と恐怖を語るなどテレビのワイドショーなどで連日のように大々的に報道された。

 後に逮捕されたのは暴走族「関東連合」OBの男で、米国人と日本人のハーフで恵まれた体格で腕力自慢だった。

■「金属バットを使うならフルスイング」

 この男が所属していた関東連合とは、1980〜90年代を中心に東京の新宿、渋谷、杉並、世田谷などで活動していた暴走族だ。海老蔵殴打事件当時は世間では聞き慣れない名称だったが、アンダーグラウンド社会に詳しい人間には知られた存在だった。

 かつて関東連合に所属しバイクで暴走を繰り返していたというOBが、全盛期の実態を明かす。

「当時は仲間とバイクで走り回っていた、いわゆる暴走族。交差点は赤信号でも突っ切るため、まず後輩が交差点に入って左右の道にバイクを置いてふさぎ、強制的に車を止めた。それでも交差点に入ろうとする車に対しては金属バットを振り下ろしてボコボコに殴りつけた。金属バットを使うならフルスイングするのが当時の流儀。相手がパトカーの時もあって、やった人間は全員逮捕されたが……」

 当時は、「18歳になったら卒業」する慣習があったという。

「関東連合を卒業して、ヤクザになったものもいたが、ほとんどはまともな仕事に就いた。そのうちの一部のOBたちが、その後も交流を続けてグループとは行かないまでも一緒に活動していた。そのメンバーが海老蔵事件などを引き起こしたのだろう」(同前)

■クラブ店内で振り下ろされた金属バット

 海老蔵殴打事件で暴力性がクローズアップされた関東連合OBグループ。その名が、さらに世間で恐れられることになった事件が2012年9月に発生する。それが「フラワー事件」だ。

 事件当日の夜、東京・六本木の繁華街にあるクラブ「フラワー」は多くの客でにぎわっていた。しかし、華やかなムードの店内には似つかわしくない、目出し帽をかぶり金属バットを手にした数人の男たちが突然、乱入して同席していた知人らと談笑していた男性に襲いかかった。

 男たちは多くの客たちの面前で男性を取り囲み頭部を中心に金属バットを繰り返し振り下ろして殴打し男性は死亡した。乱入した男たちは引き起こした事件の重大さを気にとめず、悠然と店から引上げ、店外に止めてあった車で逃走。店内は悲鳴が響き渡り阿鼻叫喚の修羅場となった。

 殺害されたのは、飲食店経営者の男性で当時31歳の若さだった。後に判明したことだが、関東連合OBグループとは無関係の人物。関東連合OBグループと対立する人物と間違えられて命を落とすという理不尽極まりない結果を招いた。

■関東連合リーダー格の実像

 この事件では2013年1月、警視庁は関東連合OBの20〜30代の男18人を凶器準備集合容疑で逮捕。同月末には、殺人容疑などで9人を再逮捕し事件の全容解明を進めたが、事件に関与した数人はすでに海外に逃亡していた。

 2つの事件の捜査が進む過程でキーマンとなる男が浮上した。見立真一という男で、関東連合OBグループを統率するリーダー格だった。

 見立を知る前出の関東連合OBが人物像について語る。

「見立はとにかく頭の回転が速く切れる男だ。何をするにも用意周到、準備万端。頭が良いというだけでなく、暴力的なことをするにしても容赦なく徹底的にやる。カネもかなり持っている。いまはフィリピンにいるが、一生暮らせるだけのカネもあるし、現地での生活に不自由しないしっかりとした支援者がいると聞いている。とにかく大した男だ。関東連合は一時期、活動を停止していたが、見立が関東連合のOBたちを集めて色々な仕事をしていたようだ」

 見立については、警視庁が殺人と凶器準備集合容疑で逮捕状を取って指名手配しているうえ、捜査特別報奨金制度に基づき重要情報の提供者には懸賞金上限額600万円が支払われることとなっている。

■「半グレは準暴力団」立ちはだかる警察

 当時を知る警察当局幹部が、今でも「公衆の面前で躊躇なく残忍な方法で殺害に及んだ。非常に危険なグループで看過できなかった」と語るフラワー事件。後に警察が本腰を入れて「半グレ対策」に乗り出す契機となった。

 半グレは、当然ながら「関東連合」だけではなかった。警察当局が当時、捜査対象としていたのが「怒羅権」と呼ばれたグループだった。関東連合と同じく暴走族OBが中心で、東京の江戸川区や江東区などの下町地区が活動拠点。中国残留孤児の2、3世が主なメンバーだった。

 その粗暴な行動は関東連合の向こうを張るほどで、暴力団相手の事件も多かった。2011年には東京・六本木の飲食店内で指定暴力団幹部ら5人を20人以上で取り囲みビール瓶などで殴り重傷を負わせた事件や、東京・錦糸町で暴力団組員とトラブルになり、殴る蹴るの暴行を加えたうえ刃物で耳を切断する事件も起こしている。

 警察庁は「フラワー事件」後の2013年3月、半グレグループについて、「準暴力団」と位置付け、警視庁をはじめとした全国の警察本部に情報収集を進めるよう通達を出した。警察当局が本格的に、半グレの活動の鎮圧に乗り出すこととなったのだ。

 まず警察庁は、半グレグループのメンバー構成や活動資金を獲得している実態などについて情報収集を進めることを決定。全国の警察本部で収集した情報を警察庁のデータベースに登録し、組織犯罪や少年事件、暴走族などの事件を捜査する部署で情報を共有するとした。

■事務所も会合もない……ヤクザとは全く違う

 半グレを「準暴力団」と位置付けたものの、警察当局の活動には限界がある。捜査幹部が解説する。

「半グレを準暴力団と定義したのは、『暴力団に準ずる危険なグループ』だとして、重点的な捜査対象としたということ。しかし『準暴力団』を取り締まる法律が特別にある訳ではないので、指定暴力団に対してのように規制の網をかけられない」

 暴力団の場合、暴力団対策法に基づいて『指定暴力団』と認定されると、繁華街の飲食店などからの『みかじめ料』の徴収を禁止され、対立抗争が起きた場合には事務所の使用制限もできる。さらに、対立抗争が激化すれば『特定抗争指定暴力団』となって、警戒区域でおおむね5人以上で集合すれば即座に逮捕できるのだ。

 しかし、準暴力団にあたる半グレは、暴対法や暴力団排除条例の規制対象ではない。警察当局は、殺人や恐喝、詐欺、覚醒剤取締法違反など個別の事件で、刑法や特別法を適用し、摘発していくことになる。

 準暴力団としての半グレに対する警察当局の情報収集について捜査幹部が解説を続ける。

「準暴力団といっても、半グレは“組織性があるようで無い”。ある事件についてはグループが組織的に実行したとしても、別の事件では複数のグループのメンバーが個人的なつながりでばらばらに集まり事件を起こすということが珍しくない。暴力団のようなきっちりとした組織がないため、厄介な存在だ。基本的には事務所もないし定期的な会合もない。ヤクザとは全く違う」

 半グレと警察当局の水面下での駆け引きがいまも続いている。(敬称略)

【暴力団幹部が語る】令和の不良の行き着く先「半グレ」を現役ヤクザはどう見ているのか? へ続く

(尾島 正洋/Webオリジナル(特集班))

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