教師からポケベルで呼び出し、夜間に“処理”させられて…スクールセクハラ被害者が声をあげる理由

教師からポケベルで呼び出し、夜間に“処理”させられて…スクールセクハラ被害者が声をあげる理由

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部活の顧問はホテルの前で「断るんか」、口止めの“わいせつ写真”…スクールセクハラ被害の悲痛な叫び から続く

「スクールセクハラ」と総称される、教師による児童生徒へのセクシュアル・ハラスメント。スクールセクハラの被害者の苦しみは、被害の渦中にある時だけでなく、成人してからも長く続く。ジャーナリストの秋山千佳さんが「文藝春秋」2019年9月号で取材した「いま、あなたの娘と息子が危ない! スクールセクハラ「犠牲者」たちの告発」を全文公開する。※肩書きや年齢などは掲載時のまま。(全2回の2回目/ #1 から続く)

■部活、車、携帯電話

 スクールセクハラは、「指導し評価する者」と「教え子」というような力関係を利用して起こる。そこには支配と被支配の構造がある。特に小野さんのケースのように、指導者が絶対的存在になりがちな部活動は被害の温床になりやすい。

 NPO法人「スクール・セクシュアル・ハラスメント防止全国ネットワーク」(SSHP)代表の亀井明子さんはこう分析する。

「子どもは選手選びや内申書に響くと思うと抵抗しづらく、イエスと答えるしかない。こうした圧倒的な力関係を背景に、一般にイメージされるようなロリコン教師でなくとも、妻子のいるようなごく普通の中高年、ベテラン教師が加害者になるのがスクールセクハラです」

 元公立中学校教師の亀井さんは、約20年にわたり2000件以上の被害相談を受けてきた。その経験から、「北海道から沖縄までどこでも起こっていて、まるで金太郎飴のように手口が似通っている」と指摘。相談に頻出するキーワードとして、「部活動」「車」「携帯電話」の三つを挙げる。

 もっとも、子ども自身が被害を打ち明けるハードルは高い。亀井さんいわく「子どもは被害が深刻になるほど、親が悲しむと考えて言い出せなくなる。また、加害教師に秘密を強要されていたり、口外すれば教師の立場が危うくなることをにおわされ、セクハラでなく指導だと無理に自分を納得させたりすることもある」。さらに性の話に抵抗がある子は多く、SSHPへ電話してきても、最初は体罰など別の話から入るケースが大半だという。

 ただ、こうした被害を教育現場でキャッチして対応できるかというと、亀井さんは「学校は閉鎖社会で、何か起こると保身や隠蔽工作に走る。自浄能力は極めて低い」と手厳しい。亀井さんも教師時代、女子生徒から被害相談を受け校長に対応を求めた際、教師らによって内部告発を潰すための数々の嫌がらせを受けたという。校長はそれを黙認した。

■学校は、加害教師のスクールセクハラを把握

 実は冒頭の田村さんの学校は、加害教師のスクールセクハラを把握していた。この教師が別の女子生徒と性的なメールを交わしていることが明らかとなり、教師への厳重注意があったからだ。ただそれ以上の処分はなく、教壇に立ち続けた教師は、田村さんだけでなく別の生徒とも性的行為をしたと得意げに話していたという。また小野さんも、呼び出しのかかる教官室は他の教師が在室する時も多く、「ほぼ毎日のことで気づいている人もいたはず」と語る。しかし、指導者として実績のある顧問を咎める教師はいなかった。

 被害時にSOSを発したにもかかわらず、教師や親に黙殺された人もいる。

 島拓也さん(仮名、43)は「被害に遭った中学の3年間で過度に神経質になって、人間関係をうまく構築できなくなった」と悔しさをにじませる。千葉県松戸市の公立中学で、担任であり部活動の顧問だった男性教師から口腔性交などを強要され、周囲の大人も助けてくれなかった。こうした男子の被害は女子以上に表に出にくいが、SSHPへの相談でもおよそ20件に1件が男子のものだといい、決して特殊なケースではない。

 島さんは1年夏から、加害教師に「お前には問題がある」と難癖をつけられては夜遅くまで学校に残されるようになり、秋には性器を触られるようになった。両親に説明して助けを求めると、社会的地位の高い父親は「担任ともめるのは内申点に響くからまずい」、母親は「熱心な先生だから」と言うばかり。学年主任にも訴えたが、「あの先生がそんなことをするわけがない」と取り合ってもらえなかった。

 教師は「おれの言うことが聞けないならクラスから出て行け」「おれがいないとお前はいじめられる」などと、島さんの抵抗する気力を奪う言葉を繰り返した。行動もエスカレートしていき、2年になる前には、キスや口腔性交を強要されるようになった。

 こらえきれず、職員室で泣きながら訴えたこともある。だが、教頭やその場にいた教師らは目を丸くしたが黙っていた。島さんは加害教師から「お前が悪いことをしたんだ」と執拗に刷り込まれ、3年の2学期最終日に「これからは自由にしてやる」と一方的な宣言をされるまで、学校内外で被害を受け続けた。

 島さんは2年前、松戸市教育委員会に加害教師のわいせつ行為について調査を依頼した。以前地元で塾講師をしていた際、男子中学生から加害教師について「男子は全員股間を触られていて、他の先生たちも見ているのに何もしてくれません」と言われたことがあり、被害者は他にも数多いると感じていた。しかしその教師は数年前に退職し、呼出しに応じなかったとして、教委は書留を本人に送っただけで調査を打ち切ったという。(教委は「元教諭は退職し私人のため、調査権限がない」と回答)

 島さんは納得していない。

「加害教師だけでなく、犯行を把握しながら保身のために子どもを犠牲にして、何もしなかった人間が教育に関わっていることが許せないんです」

■「性被害ではない」と思い込まされている

 こうした島さんの行動を、なぜ今になってと訝しむ人がいるかもしれない。

 性被害のトラウマ治療に長く携わってきた精神科医で臨床心理士の白川美也子医師は、次のように解説する。

「被害の渦中にある時は、心に傷を負ったとはっきり自覚していない人が少なくない。自分が受けているのは性被害ではないと加害教師によって思い込まされているからです。しかしその体験は、心の傷、つまりトラウマとなって残っています。そのトラウマが時間を経て、後遺症のような形で障害を引き起こす。その典型がPTSDであり、そうなってようやく被害が認識されるのです」

 白川医師の元にも、年月が経ってから診療に来る人が少なくないという。また、佐藤陽子・北海道大学大学院法学研究科准教授の論文によると、ドイツでは2015年、未成年者の性被害は満30歳まで公訴時効停止と法改正されたが、その背景には、子どもの性被害者のためのコールセンターに問い合わせた人の平均年齢が46歳というデータがあるという。それくらいの年齢になってようやく被害をはっきりと自覚し、人に話せるようになるということだ。

 白川医師は、スクールセクハラについて注意すべき点があると指摘する。

「子どもは性に関することを大人のように知っているわけではなく、言葉など、あらゆる不適切な性的な働きかけが性虐待になりうるし、トラウマとして残ることがあります」

■定年間際だった教師は既婚者で娘がいた

 菊池真奈美さん(仮名、45)も、島さん同様、被害時に助けを求めたものの周囲の大人から黙殺され、その影響に苦しんできた一人だ。長野県松本市の公立小学校で4年時から6年時まで、担任男性教師に体を撫でられるなどの被害を受けていた。定年間際だった教師は既婚者で娘がいた。こう振り返る。

「今でこそスクールセクハラと呼べますが、当時はそのような言葉もなく、被害を伝える言葉が小学生では足りなかったし、どんなに訴えても親も先生も信じてくれなくて……。やがて黙って我慢するようになり、『誰も信じてくれないし、守ってくれない』という孤独感が心に根付きました」

 4年時にこの学校へ転校してきた菊池さんは、前の学校にはなかったルールにショックを受けることになった。授業中に担任から指されて答えられないと、校舎の周囲800メートルを走るか、国語の教科書を1ページ暗唱するかを選ばなくてはならない。後者を選ぶと、男子は担任の前に立って行うが、女子の一部は担任の膝に座らされる。そして暗唱の間、半袖半ズボンの体操着から出た腕や脚を撫でられ続けるのだ。

 菊池さんの印象では、発育の良い子と3人いた転校生がターゲットだったという。「転校生は嫌だと言えず我慢するだろうと思われたのかもしれません」と菊池さんは言う。

 菊池さんは最初のうち、走る方を選んでいた。しかし授業中に走らされるため、教室に戻ると授業が進んでいてまた答えられず、二択から選択させられるのを繰り返した。次第に諦めて、暗唱を選ぶようになった。

 他校を知らない同級生の多くは、以前からあったルールに疑問を感じている様子はなかった。むしろ膝に乗せられない女子は、菊池さんに対し「転校生で先生にかわいがられている」と言いがかりをつけることもあった。子どもの目にはえこひいきと映ったようだ。

「問題を解かされている時に、担任が机の前にかがんで『どうだ』と言いながらふくらはぎを触ってくることもありました。そういうことがいつ起こるかわからないので常に緊張していたし、しばらくお腹が痛かった時期もあります」

 菊池さんは両親に精一杯話したが、「先生がそんなことをするはずがない」「宿題もちゃんと出してくれるし良い先生だ」と聞く耳を持ってもらえなかった。菊池さんの父親は教員家系に育った教師だった。

■担任が教室でお尻を出している異様さ

 冬のある日、菊池さんは偶然、ショッキングな光景を目にすることになった。放課後、校内の見回り当番だった菊池さんが教室の引き戸をそっと開けると、担任がズボンを下ろして座り、もぞもぞと動いていたのだ。何の行為かは理解できずとも、教室でお尻を出している異様さは彼女の目に焼き付いた。夏にも教室で、プールの授業で女子の脱いだ下着を担任が体に擦り付けていることがあった。他の教師たちに「担任の先生がおかしい」と伝えたが、彼らもまた「そんなことないよ、何言ってるの」と聞き流すだけだった。

 他者への不信感や孤独感を抱いて卒業した彼女は、中学では「いい子のまま」で高校は進学校に進んだが、突然摂食障害(過食症)となり、不登校になって退学した。

■心身の症状は時限爆弾

 私がかつて取材した別の被害者で、心身の症状が後になって突然出たことを「時限爆弾が弾けた」と表現した女性がいるが、菊池さんの場合、最初の“時限爆弾”がこの時だったのだろう。前出の島さんもやはり高校で精神状態が崩れ、退学している。記事中のどの被害者も、時期や症状に個人差があるものの、こうした“時限爆弾”に苦しめられている。

 菊池さんは成人してからも、摂食障害や睡眠導入剤の乱用問題を抱えてきた。痴漢のような別の性被害にも繰り返し遭ってきた。いずれも性被害の後遺症として起こりがちなことなのだが、菊池さんがその原因に思い当たり、トラウマ記憶を人に話すことによって苦しみを解消できたのはつい最近のことだ。彼女は語気を強める。

「昔のことだからもう忘れなさいと言う人もいますが、精神や人間関係を崩壊させて、何十年も引きずるものなんです。簡単に忘れるなんて無理ですよ、絶対に」

 これまで数多のスクールセクハラ被害が生じては埋もれていき、被害者は人知れず苦しんできた。だが今、表立って発言し、風穴を開けようとする人が出てきている。

■次世代のため声を上げる

 名古屋市で性被害や虐待などのトラウマを抱えた女性の自助グループ「ピアサポート リボンの会」を運営する、Thrive(スライブ)代表の涌井佳奈さん(44)。ピアサポートとは、同じ立場の人たちが悩みや問題を語るコミュニティのことだ。互いにアドバイスを求めたり意見したりはしない。涌井さんはその意義をこう語る。

「理不尽で苦しい経験を受け止められたことのない人たちが、蓋をしてきた思いを言葉に出し、他の人たちと共感しあうことで、否定してきた自分を認めて自分の力で傷を癒やしていけるのです」

 涌井さんは私立高校1年の時、放課後の校内で「花を活けてほしい」と頼んできた30代の男性教師から突然スカートの中に手を入れられ、「ディープキスはこうするんだよ」とキスをされた。教師にほのかな恋心を抱いていた涌井さんが放心状態になっていると、「僕が3年間彼氏だから誰にも言っちゃいけないよ」と一方的に口止めされた。

 ポケベルを持たされて夜間に呼び出されては、車やホテルでわいせつ行為をさせられた。「痛い」と涌井さんが言えば、「絶対良くなるから、君のためだよ」と諭された。

■「大学に行ったらいい恋しなよ」

「いずれ覚える時が来るのだから自分が教えてあげる、君のためだ、というような言葉は加害教師の常套句だといいます。一切経験のなかった私は『先生が言うならこれが付き合うということなんだ』と鵜呑みにする一方で、呼び出されてはただ性の処理をさせられるばかりの自分が薄汚れた存在だと感じるようになっていきました」

 教師は「大学に行ったらいい恋しなよ」と悪びれずに言ってきたが、実際に大学生になった涌井さんは、男性との関係をうまく築けず、自分を傷つけるような破滅的な衝動をコントロールできなくなった。その後、就職、結婚と表面上は普通に生きていたが、35歳で「死にたい気持ちが抑えきれなくなり」うつ病と診断された。そこでようやく、封印してきた過去がスクールセクハラであり、生きづらさの原点だと認識した。

 嫌だと言えなかった自分を責め、身近な人にも「隙があったから被害に遭ったんだ」などと言われたが、東京の自助グループで泣きながら本音をさらけ出し、初めて「自分は悪くない」と思うことができた。2015年に地元で「リボンの会」の活動を始めた。謝罪を促せればと今も加害教師がいる母校を訪ねたが、周囲から「先生の奥さんが自殺したらどうする」と止められ、会えなかった。活動について「有名になりたいんでしょ」などと言われ、傷ついたこともある。ただ、と涌井さんは言う。

「当事者が声を上げなければ、今の社会を変えられない。そんな義務感を持って活動を続けています」

 根幹にあるのは、現在小学生の娘を含め、次の世代に同じ苦しみを味わわせたくないという思いだ。

「性被害は体以上に、心の根本にある尊厳を底なしに傷つけられるもの。教師による性被害は一過性のニュースで終わりがちだし、ドラマなどの影響もあってか『先生と生徒の恋愛』と美化されて受け止められることもありますが、実際はそんな対等の関係ではない。被害の時点にとどまらず、大人になっても長く苦しみが続くものだと知ってもらいたいのです」

 この思いは私の取材に応じてくれた被害者たちに共通するものだった。今の子どもたちを守りたいという強い願いも。被害者たちが痛みとともに語ってくれた話はすべて実際に学校から起こってしまったことであり、また、どの子どもにも起こりうることなのだ。

「スクールセクハラ」の問題に関する当事者や関係者の方からの情報提供については、ジャーナリスト・秋山千佳さんの ウェブサイト までお寄せください。

(秋山 千佳/文藝春秋 2019年9月号)

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