「嫌よ嫌よも好きのうち」は大間違い…危険な性行為につながりかねない“AV教科書化問題” とは

AVの誤った知識を鵜呑みにし、危険な性行為する男性も 「AV教科書化」で女性に弊害

記事まとめ

  • 「AV出演強要」問題など、アダルトビデオは様々な問題と関係している
  • AVの誤った知識を鵜呑みにし、女性を危険にさらす「AV教科書化」問題も
  • AVの真似をし、「嫌よ嫌よも好きのうち」だと思い込んでいる人もいるという

「嫌よ嫌よも好きのうち」は大間違い…危険な性行為につながりかねない“AV教科書化問題” とは

「嫌よ嫌よも好きのうち」は大間違い…危険な性行為につながりかねない“AV教科書化問題” とは

©iStock.com

SNSで卑猥な画像を送る男たち…なぜ彼らは女性に嫌がらせをしてしまうのか から続く

 2016年頃から顕在化してきた「AV出演強要問題」はもちろんのこと、AVの誤った知識を鵜呑みにしてしまうことによって起こる危険な

「性」にまつわる現状の問題と、これからの時代を生きていくうえで知っておきたい常識をまとめた齋藤賢氏の著書『 知らないと恥をかく「性」の新常識 』を引用し、紹介する。(全2回の1回目/ 前編 を読む)

◇◇◇

■課題としてのAV

 アダルトビデオは様々な問題と関係している。有名なところでいえば、本章の冒頭でも触れた「AV出演強要」問題がある。この問題は2016年頃から顕在化し始めた。きっかけは2016年3月に、国際人権NGOのヒューマンライツ・ナウがAV出演強要に関するレポートを発表し、法によって規制することを国に求めたことである。それを受けて、内閣府の男女共同参画会議が動き、マスメディアも報道した。その後、この問題で逮捕者も出た(*1)。

 AV業界の反応としては、2017年4月のAV業界改革推進有識者委員会の立ち上げが行われた。委員会は2017年10月にAV人権倫理機構となり、同機構は、自主規制ルールを定め、2018年4月よりルールの遵守を業界に求めた(*2)。先述した、元AV女優の森下くるみさんが出演したAVの流通停止もこの倫理機構の制度によったものである。

 また、内閣府男女共同参画局は2020年3月現在でも「AV出演強要」問題に焦点を当てたホームページを設置している。

 このように「AV出演強要」問題は、すでにAV業界や内閣府も動いている(だから十分だ、というわけではないが)。したがって、ある一定程度問題が認知されているといえる。「AV出演強要」問題の紹介はひとまず終わりにしよう。

 ここではAVが誤った知識を広めてしまっている問題を取り上げよう。理由や詳細は後回しにするが、ともかくAVはセックスのお手本にはならない。繰り返しになるが、この本では、お手本にならないはずのAVをお手本にしてしまう現象を「AV教科書化」と呼び、問題として扱う。この社会には「AV教科書化」問題があるのだ。

■AV教科書化という問題

 僕がこのちょっとふざけた響きがある「AV教科書化」という概念を、いたって真面目に採用したのにはワケがある。映像と悪影響を単純な因果関係で結びつけたくなかったからだ。この点に関して、少し説明が必要だろう。

 道徳的に望ましくない映像に対して、映像を現実に真似してしまうという批判が起こることがある。例えば、暴力的な映像ばかり見ていたら、実際に暴力に走る人になってしまうというものである。暴力的なテレビゲームに関しても同様だ。しかし、多くの場合、映像と現実をそんなに単純な因果関係で結べない。暴力的な映画を見ている人のほとんどは、基本的には現実とフィクションの区別をつけているだろう。また、格闘ゲームが好きな人が暴力沙汰を起こした場合、それは格闘ゲームがその人を暴力に走らせたのではなく、そもそも暴力的な人だったから格闘ゲームを好んでいた可能性もある。また、暴力事件を起こした人が動機を語る際に言い訳として格闘ゲームを持ち出しているだけの可能性もある。とまあ、こんな風に世の中で考えられているほど、映像と悪影響の関係はシンプルではないのだ。「AV教科書化」という新しい概念をあえて採用することで、この映像と悪影響の非常に単純化された発想を避けようと思う。だから、この本で「AV教科書化」といった時は、単に、AVを見ている人がAVの真似をしてしまう、もしくはAVを参考にしてしまう現象を記述するために用いる。

■AVが教科書化した弊害を受けるのは往々にして女性側

「AVが教科書化」してしまっている事態を「女性の生きづらさ」という観点から見た場合、次のことがいえるだろう。それは、AVから得た誤った知識によって傷つくのは往々にして女性側であるということだ。

 AVに登場する様々な性技の中には、見せるためのテクニックも含まれている。映像的にはダイナミックで、とてもエロティックな行為に映るかもしれないが、それが必ずしも気持ちいいとは限らない。もちろん、なかには本当に気持ちいい行為も含まれているかもしれないが、画面越しに見ている僕らがその真贋を見分けることはなかなか難しい。

 液晶画面の中で、女優さんが気持ち良さそうにしているからといって、ホンモノの性技だとは限らない。なぜなら、当然だが女優さんは演技しているからである。

 パートナーがAVで覚えてしまったニセモノの性技を使うせいで、セックスが良くならないのは非常に残念な事態だ。女性側からしてみれば、自信満々に気持ち良くない性技をやられても困惑してしまうだろうし、男性側からしても、知らず知らずとはいえ、女性にとって気持ち良くない性技を使ってしまうのは不本意であろう。もっといってしまえば、気持ち良くない性技を自信満々にやってしまったら、だいぶ恥ずかしい。要するに、ニセモノを実際に使っても誰も得しないのである。

「誰も得しない」だけなら、(いいとはいわないが)さほど真剣に受け止めなくてもよいかもしれない。しかし、残念ながらAVに出てくる性技の中には単に気持ち良くないものばかりではなく、危険性が伴うものもある。そして、その危険性は男女間で非対称的に現れるから問題なのだ。つまり、男性が女性に対してニセモノの性技を使ってしまうことで、しばしば女性が傷ついてしまうという事態が生じてしまうのである。

■得意になってAVの真似をする男性

 危険性を伴うニセモノの性技としてよく取り上げられるのが、「ガシマン」と呼ばれる手技である。あまり生々しい言葉を使いたくないので、堅苦しい表現になってしまい申し訳ないが、この行為は「女性器に男性が指を挿入し、その指をかなり強く素早く動かす」というものである。この性技が気持ち良いか否かはさておき、指に何も着けずに女性器の中であまりにも激しく動かすことは、女性器を傷つける恐れがある。男性側は得意になってAVの真似をしているだけかもしれないが、女性側は危険にさらされているのだ。

■「AV教科書化」に対する問題提起

「性のせいで苦しむ人をなくす」を理念に活動している岡野めぐみさんは、中央大学の学生だった2018年11月に「AV教科書化に物申す」というテーマでシンポジウムを主催した。ちなみにこの本が採用した「AV教科書化」という概念はこのイベント名に由来する。豪華な登壇者たちがAVというなかなかキワドイ内容を語り尽くすのを聞こうと、多摩にある中央大学のキャンパスまで1000人が押し寄せた。

 ゲストはしみけんさん、紗倉まなさん、一徹さん、コンピューター園田さん、遠見才希子さんの5人である。しみけんさんと一徹さんは超有名AV男優であり、紗倉まなさんは超有名AV女優である。コンピューター園田さんはAVメーカーの社長であり、遠見才希子さんは産婦人科医だ(*3)。

 イベントを主催した岡野さんにイベントの内容や問題意識を尋ねてみた。

――どういう内容のイベントだったのですか?

 3部構成のイベントで、第1部は「AVはフィクションである」ということを伝えるために、AVの裏話や「実際はどうなのか」というテーマで話し合っていただきました。例えば、男優さんと女優さんに実際の私生活はどうなのかという話をお話ししていただくことで、来場者の方々に、いかにAVがフィクションであるかを知っていただきました。

 第2部では第1部での学びを受けて、「お手本とするべきAVがなくなった今、では何から学べばいいのか」ということで、「性教育」をやりました。これは産婦人科医の遠見さんのパートです。

 第3部は質疑応答です。大学生が悩んでいることだとか、来場者の皆さんが悩んでいることだとかを、登壇者みんなで共有して、話し合いました。

――「AVはフィクションだ」がテーマだったということは、逆に言うとAVがフィクションだとわかっていない人がいるのでしょうか?

 そうですね。程度の差はありますけど、AVの真似をしてしまうことは特に大学生だとよくあることかな。大学生じゃなくてもよくあるんですけどね。それこそ、「嫌よ嫌よも好きのうち」と思い込んでいる人もいます。性行為の流れが結局、AVの流れの真似であることもあります。

 他に見本にするものもないし、性教育もちゃんとなされていない。義務教育で性交に至る過程とか性交自体も扱いもしないのに、どうやってセックスを学ぶんですか、という感じです。

■性教育の重要性

――「嫌よ嫌よも好きのうち」だと本気で思い込む人がいるのはこわいですね。実際に性暴力の被害が出そうです。

 被害が出ていると考える方もいます。私は、AVはフィクションだと伝えて、実際に性教育を行うことで、防ぐことができる被害もあると思います。AVは個人の性欲なりなんらかの欲を満たすために作られた虚像です。性教育はAVの代替にはならないけど、性教育をきちんと受けていれば、その虚像であるAVも適切に扱えるようになる。

 性教育も義務教育のものだけではなくて、家庭での性教育もありうるし、それこそ地域の性教育もありうる。その中でAVを含む氾濫した性情報についても扱うのであれば、性教育も意味があると思います。

■AVは「映える」ようにしている

――第1部の「AVはフィクションである」というパートで出た意見について教えてください。

 男性向けAVも女性向けAVも「当然、フィクションです」という話をしました。一部には、女性向けAVを見本にすればいいんじゃないかという意見もあるんですけど、私はその説には賛同しません。女性向けAVも「女性」ないし「女性的な人」の欲望を商品化したものに過ぎません。これではフィクションのものを現実として受け止めてしまうという構図は変わりません。

 あとAVは「映える」ようにしているという話をしました。

――やっぱり、あれはリアルではないと。

 そうですね。皆さん、口を揃えて言っていたのは「普段のセックスはもっと地味です」ということ。プライベートのエッチではあんなに体位を変えないとおっしゃっていました。AVでは気持ち良さではなく、どれだけキレイに見えるかが重要になってくると。

 普通のドラマだってそうじゃないですか。恋愛ドラマだって本当の恋じゃないでしょ。SFだって本当の火星ではないわけ。映像は作り物であるがために、いろいろな工夫をしている。それはAVも同じこと。

 AVにはいろいろなプレイが出てきますが、その中には危険なものもある。危険なプレイを撮る際には、たくさんの配慮がなされている。男優さんや女優さんはもちろん、監督だったり、それこそ裏方をやっている人たちにも配慮した上で、撮影に挑んでいる。それにもかかわらず、危険なプレイの映像の部分だけを切り取って、一般の人がやって事故が起きることもある。それはAV関係者が望んでいることではないだろうなと思う。

――何か世の中に対して言いたいことはありますか?

「AV教科書化」に物申す! なんてイベントをやらなくちゃいけない世の中はクソだと思いますね(笑)。

■どのようなAVが“望ましい”のか

 岡野さんは、現在、アクティビスト同士の横のつながりを作ろうと交流会の実施や、カフェ&バーの運営(中目黒の「カフェ&バーぬくぬく」。このお店は2020年2月17日をもってとりあえず営業を終了した)をしている。なかなか辛辣な意見も出たが、確かに21世紀になって20年も経つのに、フィクションをいちいちフィクションだと言わなければならない社会はどうかしているのかもしれない。どのようなAVが望ましいのか?

 岡野さんによる「AVはフィクションだ」という警告。実はいまではよく見かける警告でもある。でも、よくよく考えると「AVはフィクションだ」という警告は大切だが、それだけではあまりにも漠然としている。AVの何がどう創作なのかわからないからだ。日常の中のセックスを撮影したわけではないという意味でフィクションだというなら、それはいわれるまでもなく多くの視聴者が把握していることだろう。しかし、キスをすること、「挿入」をすることはリアルなセックスでも行われる行為だ。これはフィクションではない。では、「イラマチオは?」「スパンキングは?」「顔面騎乗は?」……。これらはリアルとも、フィクションとも言いがたい(ちなみにこれらはFANZA動画のカテゴリーに実際にあるものである)。たぶん、フィクションだと思う派とリアルだと思う派の両方が出てくるはずだ。

■創作ではないセックスの伝え方

 教育的な観点からいえば、単に「AVはフィクションだ」というだけでは足りない。AVのどのようなところが創作で、実際のセックスではどうすればよいのか、までアドバイスすることで、はじめて望ましいセックスができるようになる。つまり、ある意味で創作ではないセックスを伝える必要がある。

 このように考えた場合に、AVにはエンタメ以上のポテンシャルがあるように思われる。これまでの娯楽としてのAVじゃなくて、本当のセックスに役立つAVというのも十分に成立する(実際にセックスのハウツーを描いたビデオは昔から存在した)。安全なセックスをするためのAV、愛のあるセックスをするためのAV、お互いが気持ち良いセックスをするためのAVなどなど、いろいろなパターンの役立つAVが考えられる。そして、実際にこのようなAVの可能性を追求する動きがある。

【参考文献】
*1 河合幹雄,2018/1/28,「『AV 出演強要』何が問題だったのか?有識者委員会メンバーが明かす」

*2 河合幹雄,2019/7/16,「6361 本の作品を配信停止…「AV 出演強要問題」のその後」( https://gendai. )

*3 messy, 2018.12.02,「大学生が一徹、紗倉まなら有名AV 俳優や産婦人科医と『AV の教科書化』に物申す!」( https://mess-y. )

(齋藤 賢)

関連記事(外部サイト)