もはやサウナという名のテーマパーク 熊本「湯らっくす」が西の聖地になった理由

もはやサウナという名のテーマパーク 熊本「湯らっくす」が西の聖地になった理由

深さ171センチの水風呂はもはやアトラクション

“ストUチャンピオン”が熊本にテーマパークみたいなサウナ「湯らっくす」を作るまで から続く

 会社の経営が順調に盛り返す中、突然の出家宣言。MADMAXの面目躍如というべきか、西生の行動は常に想像のはるか上を行く。

■「千利休が着た5万円の作務衣を着て写経とかしてました」

「会社を立て直せたじゃないですか。その時はマネージメントが全てうまくいって、売上が過去最高になって。たったこれだけの成功体験で、自分は天才だと勘違いしたんですよ(笑)。それで千利休が着たっていう5万円ぐらいの作務衣を騙されて買って(笑)。気に入ってそれをずっと着て、写経とかしてました。そのまま飲みに行ったり。当然みんな嫌がるんですよ、気持ち悪いじゃないですか。でもよく覚えてないんですよ、僕も。あの当時の気持ちは(笑)。でもそれもすぐに終わりました。あっという間に売上が落ちていったんで。それで目が覚めたというか、またちゃんとしなきゃいけないなと」

 しかし、つかの間の出家生活は無駄ではなかった。このことがひとつのきっかけになり、西生は後に湯らっくすの温浴事業と並ぶ、もう一つの事業の柱になるヨガに興味を持ち始める。転んでもタダでは起きないところはさすがとしか言いようがない。

■ニュージャパンサウナに学んだ経営哲学

「当時ニューヨークでも、ヨガが流行ってるという話があって。ヨガはインド発祥ですし、仏教とヒンズー教って結構つながるところが多いので、ヨガも始めるようになっていきましたね。そんな時に大阪のニュージャパンに行ったんです。そしたらそこでストレッチ教室やってたんです、低温サウナの中で。今でいうホットヨガの走りなんですけど、ニュージャパンサウナはずっと前からやってたんです。おそるべしなんです、あそこ。ニュージャパンサウナはどうでもいいところにお金をかけるんですよ。当時、エレベーターガールが4人ぐらいいましたから。サウナですよ、デパートじゃないんだから(笑)。

 通い詰めるうちに『ここだ! 自分が目指すところは』と思って。それで湯らっくすにも、お世話係するだけ、おしぼり配るだけの女の子を入れて。当時の税理士さんに、『人件費上がってますよ』と言われましたが、とにかくニュージャパンサウナに近づきたかったので『俺は自分の殻を破るためにここにお金をかけるんだ!』と思いこんで。いかに無駄なことにお金をかけるかということに一生懸命でした。でも、いまだにそこは正解だと思ってるんです。いかに無駄を省くかじゃなくて、いかに人が無駄だと思うところにお金をはれるか。その幅を持てるかというところがサウナ運営には絶対大事だと思いますね。

■喧嘩して出て行ったけど、父、姉が亡くなり……

 マッサージも全部直営にして、ニューヨークで流行っていたホットヨガも取り入れた。最初はどれもこれも新しすぎて駄目だったんですが、途中からどんどんヨガブームになってきて。それで福岡にヨガスタジオを立ち上げたら、そっちがどんどん軌道に乗って面白くなっちゃって、福岡から帰らなくなってしまったんです。ヨガが楽しかったのと、ヨガって基本、女の子しかいないんですよね。風呂屋っておじさんしか来ないでしょう。30代半ばくらいだったし、今でいうIT企業の社長みたいな感じのノリで。IT企業の社長でもなんでもないですけど(笑)。それでもう親父も怒っちゃって。『姉貴を湯らっくすに戻すから、お前はもういらない』って言われたんですよ。俺も売り言葉に買い言葉で『ヨガの経営だってうまくいってるから、俺だってやらないよ』って。結果、7年ぐらい離れました。

 そうこうしているうちに親父が死んで、経営状態も悪化していって。こっちは半ば喧嘩して出て行ってるし、戻る気はなかった。姉がどうにか頑張るだろうと思ってたし。そしたら姉もその1年後に亡くなっちゃいまして。それで後継ぐ人がいなくなっちゃったんですよ。でもおふくろが、『お父さんと2人で作った会社だから、このまま続けたい』と。それで姉貴から僕への遺書を渡されて。そしたら、そこには『とにかくお金のことは心配しないでいいから継いでほしい』と書いてあったんで。それ読んだら、なんかカッコ悪ぃな、俺って思って。自分の子供が大人になったときに、そんな父親ってどうなんだろうと。でも実はどこかで自分がやる予感みたいなものもあったんですよね。だからその前に福岡の店を湯らっくすに負けないぐらい大きくしとこうとしてた。おふくろの想いと姉の手紙といった色んなものに圧されて、また湯らっくすに戻ってきました。結局やるかやらないかじゃないですか。数字がいいとか悪いとかじゃなくて」

 常人離れした発想と先見の明、そして運。そこに経営者としての男気も兼ね備えた西生は、最強の経営者にトランスフォームしたかに思えた。しかし、そこに最大の災厄が降りかかる。熊本地震である。

「2015年の12月に社長に戻って、4か月後に熊本地震が起きたんです。それで動かなくなっちゃったんです、うちの店。税理士さんとか家族とか、周りのみんなが心配しまして。社長になったはいいけど、さすがにこれは店をたたむんじゃないかって。でも僕は逆にそれがよかったと思ったんです。不謹慎かもしれませんけど、熊本が全国からここまで注目されることって後にも先にもないわけじゃないですか。こんな経験って生涯絶対ないと思って」

■地震によって改装の方向性が決まった

 父と姉の死の悲しみを乗り越え、やっと社長になった地平にあったのは、理想郷ではなく追い打ちをかけるような震災だった。何もかも失ったかに見えた西生。しかしここから仲間のサポートを得たMADMAX西生による「怒りのデス・ロード」の幕が切って落とされる。

「復興ってどさくさ紛れになんかストーリーがあるじゃないですか。実際すごく大変な思いもしましたけど、逆にすごく吹っ切れまして。その時にウェルビーの米田さんとスカイスパの金さんがサウナカー(※注 車でけん引するサウナトレーラー)を持ってきてくれたんです、『これを使ってください』と言って。そのサウナカーが素晴らしくて。地震の時だから、不安もたくさんあったんですけど、あそこに入ると落ち着くんですよ。『ああ、こんなサウナがやりたい』と思って。それがうちのメディテーションサウナにつながるんです。彼らに勇気づけられて。親父もサウナ大好きだったし、やっぱり俺はサウナの人間だよな、サウナまたやろうって。改装の方向性は地震によって決まりました。

■改装中からTwitterに全国からのすごい反響が

 でもいざ改装しようと思ったらお金もすごくかかる。どうしたもんかと頭を悩ませていたら、実は姉が亡くなる前から生命保険に入っていたんです、がんになる前から。それでお金を遺してくれていたんです。だから姉の弔い合戦だという気持ちになって、がむしゃらになった。そしたら改装中から、Twitterに全国からすごい反響がくるんですよ。『湯らっくすっていう熊本の風呂屋がすげー改装してるぞ』って。正直、東京の人が反応するとは思いもしなかったです。そこからサウナ好きの人たちが反応し始めて。ほんとびっくりしましたね。

 メディテーションサウナで一番重要視したのは呼吸なんですよね。呼吸するサウナ。当時は輻射熱が強いサウナが主流で。もちろんそれもいいんですけど、息苦しい。それとは発想を変えて、いかにストーブに一番いい空気吸わせて、入っている人間の呼吸もし易くしていくかっていう。そのためには空気が対流することが一番、ということを考えて。もちろんヨガの影響もあると思います」

 悲しみは人もサウナも強くする。神戸サウナも阪神淡路大震災をバネに最高の施設へと見事に復活を遂げた。湯らっくすも震災をきっかけに、炭治郎よろしく“呼吸”を手に入れ最高のサウナ室を産み出した。しかし、これで満足する西生ではなかった。

■映画『マッドマックス』から得た仕掛け

「映画を学びたいと思って留学したのに車屋で働いてたくらい、映画の『マッドマックス』シリーズが大好きで。MADMAXボタンはボタンを押すとニトロエンジンで車がぶっ飛んでいくイメージなんです。水が落ちてくるのは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で最後イモータン・ジョーがこうやるでしょう。バーッて。実はイモータン・ジョーが水出した時は虹かかってないですから。イモータン・ジョーが死んで最後みんなが出した時に虹がかかってるんですよ、実はあれ。だから、もしかして水を沢山降らしたら、風呂場に虹がかかるんじゃないかと思って。そうなったら大量の水が必要だなと。あと、水風呂の深さが171センチあるんで、ボタンは綱を登らないと押せなくなっているんですけど、それには理由があって。人間って登って落ちていかないとストーリーにならないんですよ、特に男の子は。恰好よくないんですよ、落ちたことない奴は。『蒲田行進曲』だって階段落ちが最高な訳じゃないですか。ああいう感じです(笑)。綱はカンダタの蜘蛛の糸のイメージ。半分ネタですけど(笑)。そういういろんな想いが詰まっているのが、あのサウナと水風呂なんです」

 一見何の関連性もないように見えるすべての事が、今の湯らっくすにつながる壮大なフリのようにも思える。MADMAX西生は今、そしてこれから何を思うのか。

■さらなる高みを目指して

「熊本地震が一番のハイライトだと思ってたらとんでもなかったですね(笑)。世界中がとんでもない目に遭ってますよね。自分はといえば、またヨガの練習をすごく頑張ってやっているんですよ。ヨガに“Practice, and all is coming”って言葉があるんです。これはアシュタンガヨガの祖、シュリ・K・パタヴィジョイスという人の言葉で。『ただただ練習しなさい。さすれば向こうからすべてがやってくる』という、シンプルかつ重要な教えとしてヨガ界では有名な言葉なんですけど、そういう心境です、今は。『何かやりたい、これをやりたい』というのも浮かんでは消えたりするんですけど、世界はどうなるかわからない。目の前の現実としてはこの会社を守らないといけないというのもありますんで。

 でもひとつだけ構想があって。今度休憩スペースに個室を作ろうと思うんです。僕、尺八をやるんで、防音の尺八の練習部屋を作ろうと思ったんです。それを防音ルームとして有料で貸し出そうと。バンドとか楽器の練習もできるように。それはやりたいなと思っています」

 ニトロエンジンを搭載したMADMAX西生の快進撃は、どんな世の中になっても止まりそうにない。

INFORMATION

湯らっくす
住所 熊本市中央区本荘町722
電話 096-362-1126
料金 大人(中学生以上)590円、小人(4歳〜小学6年生)300円ほか
※営業時間などの最新情報は公式HPをご確認ください。
https://www.yulax.info/

(五箇 公貴)

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