賭博、闇市、豚解体…ナンパアプリと「群馬の末弟」から見えた“ベトナム人アングラ社会”の現実

在日ベトナム人が家畜を窃盗か 長年にわたりおこなわれ続けてきたと記者が推測

記事まとめ

  • 豚の肉や内臓を無許可販売したベトナム人男女には、家畜窃盗疑惑も浮上している
  • ベトナム人による家畜窃盗は長年おこなわれており、労働者急増などで気づかれたという
  • 技能実習制度が半グレ層ベトナム人たちの巨大なアングラ社会を作り上げた元凶らしい

賭博、闇市、豚解体…ナンパアプリと「群馬の末弟」から見えた“ベトナム人アングラ社会”の現実

賭博、闇市、豚解体…ナンパアプリと「群馬の末弟」から見えた“ベトナム人アングラ社会”の現実

場所を探り当てたものの住民不在で取材を断念した、もうひとつの「豚解体アパート」。2020年11月22日、群馬県太田市由良町にて。筆者撮影。

 ──そこは、相変わらずの群馬だった。

 場所は群馬県館林市上三林町である。赤城颪が吹きすさぶ師走の畑を歩き、手元の写真に合致する家を探し回る。私たちが捜索していたのは、豚の肉や内臓をSNSを通じて無許可で販売していたことで、12月2日に食品衛生法違反(無許可販売)の疑いで逮捕されたベトナム人男女2人の住居である。豚肉の入手経路は当然ながら不明だが、報道では彼らが窃盗肉を転売している可能性があるとされていた。

 2020年11月中旬以降、在日ベトナム人による家畜窃盗疑惑を追いかけている私たちは、「群馬の兄貴」の異名で知られるレ・ティ・トゥン容疑者(39)ら男女13人が入管法違反などの疑いで逮捕された群馬県太田市新田上中町の貸家、豚を自宅アパート風呂場で解体した容疑(と畜場法違反)で1人が逮捕された埼玉県上里町三町のアパート、さらにベトナム人4人が同容疑で逮捕された太田市由良町の豚解体アパートなどを探し出し、手土産を持って突撃取材を続けてきた。

 これらのうち、新田上中町の 兄貴ハウス と埼玉の 豚解体風呂 は取材に成功し、由良町のアパートは住人不在のため失敗した。12月20日、上三林町での「豚販売男女」宅の特定と訪問は、4番目のアタックになるはずだった。

■「豚売り男女」の自宅を特定

 この日の捜索チームのメンバーは、私と、ベトナム難民2世で通訳を担当する23歳のT、さらに参加を立候補してくれた新メンバーの女子大生L嬢(後述)だ。私たちは地道に情報収集を続け、日没が迫った午後4時になり「豚売り男女」の自宅を特定。場所は地域の土地持ちの老人の離れの貸家だった(老人への取材は断られた)。

 部屋数は合計4部屋で、問題の部屋は2階。ほかに1階にもベトナム人らしき住民が入居しており、ドアの付近には買い物のレシートや外国人名が書かれたATMの利用明細が落ちていた。では、「豚売り男女」についてはどうかといえば──。

「隣の夫婦は逮捕以来、帰ってないよ。もう出ていった」

 隣戸に入居している日本人男性はそう話した。豚の売買や解体をおこなうベトナム人は逃亡した技能実習生が多く、アジト化した安物件に4〜10人ほどで集住しがちだが、今回の男女はなぜか、本当に2人だけで住んでいたらしい。

■「Nearby」(近くにいる人を探す)をオンにすると……

 たまには、このように空振りすることもある。だが、私たちは情報収集の過程で驚くべき事実を発見した。

 それは、日本人の女の子がベトナム製のメッセンジャーアプリ『zalo』にログインして「Nearby」(近くにいる人を探す)機能をオンにすると、近所に住んでいる技能実習生や不法滞在者のベトナム人男性の情報を大量に取得できることであった。zaloはLINEやWeChatに似たアプリだが、ベトナムではしばしばナンパツールとして用いられている。

■数十人の“ナンパ男”からメッセージ

 今回の取材チームに新たに加わったL嬢は、2016年に不法滞在者のベトナム人男性と交際。当時、太田市郊外の技能実習生寮の庭で開かれた不良ベトナム人たちのパーティーに招かれ、技能実習生の一人が近所の牧場からかっぱらった子豚の丸焼きを振る舞われたという稀有な体験の持ち主だ。

(ちなみに在日ベトナム人による家畜窃盗は、必ずしも組織的な犯行ではなく、過去長年にわたり彼らの間で小規模におこなわれ続けてきた行為だったのが、ベトナム人労働者の急増とコロナ禍による困窮によって新規参入者や窃盗肉の転売者が増加。結果的に日本人にも気づかれるレベルの被害規模になっている──。というのが、 『文藝春秋』1月号 でも書いた私の見立てである)。

 さておき、そんなL嬢が群馬県の田んぼの真ん中で「Nearby」機能を使うと、近所に隠れ住むベトナム人のナンパ男たちが“置いてけ堀”の魚さながらにどんどん釣れはじめた。

 半日ほどの間に、メッセージが来たのは数十人、テレビ電話をおこなった人も7〜8人にのぼった。通話したうち3人は不法滞在者であり、その他の多くは技能実習生だ(ほかに変わり種として、ベトナム人に車両を売っている日本語ペラペラのパキスタン人が引っかかった)。

 隣で様子を見ていると、出会い系アプリで「ダラメ」(だらだらとメッセージのリレーを続ける行為)を続けがちな日本人と違って、ベトナム人男性にはマッチングが成功した瞬間にテレビ電話を掛けてくるアグレッシブな人が多いようである。

■奇妙な群馬ブラザーズ

 結果、私たちはzalo取材を通じて、太田市内に暮らす「E ?t Gunma」(日本語では「群馬の末っ子」)というハンドルネームの人物を発見する。本人が公開している情報をたどる限り、彼は新田上中町の「群馬の兄貴」のアジト(兄貴ハウス)に居住している。しかも、彼は大量の一万円札を手にした写真をアップロードしていた。

 さらに、さまざまな方法で兄貴ハウスに居住するベトナム人たちのzaloやフェイスブックのアカウントを特定したところ、他の一部住人についても同様の札束写真や、賭博をおこなっている写真のアップロードを確認できた。

 また、前回訪問時には「留置場で蒸れるので頭髪を剃った」と話していたスキンヘッド姿の一団が、本当は自分の意思でスキンヘッドにしていたことも判明した。日本とは違い、中華圏やベトナムにおけるスキンヘッドは(警官や僧侶を除けば)「不良の証」と言っていい。

■カネとバクチと「群馬の兄貴」

 昨今の家畜盗難事件について、群馬県警は10月以降に20人近いベトナム人を逮捕したが、大部分の容疑者は不起訴処分となり釈放。起訴された数人の容疑者についても入管法違反などの別件による起訴となっている。

 こうした捜査結果や、前回までの兄貴ハウス訪問の際の証言から考える限り、「群馬の兄貴」一派の家畜窃盗疑惑はシロ(少なくとも証拠不十分)であって、大捕物をおこなったはずの群馬県警の失態は明らかだ。だが、そのことは兄貴ハウスの住人の全員が100%品行方正な人たちであることを示すわけではない。もちろん、なかにはカタギの人もいるのだが、明らかにヤンチャな住民も一定数存在している。

 そもそも、兄貴ハウスに強制捜査が入った10月26日に逮捕されたベトナム人の一人・Nは、賭博の借金の返済をめぐるトラブルから同胞を拉致し、自宅(兄貴ハウス)に監禁した容疑が持たれていた。Nは結果的に証拠不十分で釈放されているが、兄貴ハウスに違法賭博をおこなうベトナム人が複数居住し、少なからぬカネが動いていたことは、他の仲間のzaloやフェイスブックの投稿からも明らかである。

 豚窃盗疑惑はおそらく濡れ衣だった「群馬の兄貴」についても、感心できる素行の人物ではない。太田市内に住むベトナム人の証言によると、兄貴は伊勢崎市内にあったベトナム人向け飲食店「カラオケ・ハノイ」の雇われ店長のような立場にあり、店内で不法滞在者(≒逃亡技能実習生)のベトナム人たちにポーカー賭博の場所を提供していたという。

■工場から逃亡して不法滞在者に

「トゥン君(「群馬の兄貴」)はもともと、悪い人間じゃなかった。タトゥーも入れておらず、髪の毛も普通に伸ばしていた。小柄で優しげな感じの、普通の人だったんだ」

 ところで、ちょっとおもしろいエピソードがある。第三者を介した取材で得た情報ではあるが、「群馬の兄貴」ことレ・ティ・トゥンの過去の同僚がこうした証言をおこなっているのだ。かつて彼らは、兄貴ハウスからほど近い場所にある旋盤工場に勤めていたという。

 証言によれば、トゥンはおそらく2010年代に入ってから留学生として来日した。日本語学校から専門学校へと進み、なんと合法的な就労ビザである技人国ビザ(「技術・人文知識・国際業務ビザ」)の取得に成功する。その勤務先となったのが、群馬県太田市郊外のある旋盤工場だった。

 だが、「兄貴」は仕事になじめなかったらしい。専門学校で身につけたスキルを使う機会は少なく、やがて現在から2年すこし前に技人国ビザを取り消され、短期滞在ビザに書き換えられてしまう。

 本来、この手のビザ書き換え処分は珍しいことではなく、行政書士に相談するなどすれば再び技人国ビザに戻すことが可能なケースも多い。しかし、気の小さいトゥンは技人国ビザの取り消しに動揺し、そのまま工場から姿を消して不法滞在者になってしまった。彼本人は技能実習生ではなかったが、結果的には逃亡した技能実習生たちと似たような身分になったというわけである。

■「旋盤絶望37歳」が“兄貴”に変わるまで

 それまで真面目なベトナム人労働者だったトゥンが、頭髪を剃り上げ、腕にタトゥーを入れたお馴染みの「群馬の兄貴」姿になったのは、なんと2018年のテト(旧正月)以降だという。同年に37歳になる男性の、遅まきの不良デビューだったのである。

 証言者いわく「悪い仲間」と付き合いはじめたのもこの時期からだった。すなわち、スキンヘッドの博徒集団のことであり、トゥンは調子に乗ってしばしば大規模なパーティーを開くなどしていた(zaloで見つけた「群馬の末弟」も、そうした仲間の一人だったようだ)。

 不良ベトナム人は、フェイスブックの不法滞在者コミュニティなどで、ニセの車検証や偽造の在留カード、飛ばしの携帯や預金通帳、来歴不明(多くは盗難)の果物や肉の転売などを盛んに行っている。なかには、真の売り手は別にいて、フェイスブックに書き込んだ販売情報を通じて顧客が購入するだけで1000円ほどのマージンが入るシステムもある。

 10月26日の逮捕後、「群馬の兄貴」は逮捕容疑である入管法違反や偽造在留カードの使用は認めたが、豚の窃盗についてはかたくなに否認し(他の仲間も同様)、事実として豚の窃盗容疑では立件されていない。フェイスブックで多くのフォロワーを抱える兄貴の「真の罪」とは、せいぜいマージン目的で肉の販売情報を掲載した程度のことだったかとみられる。

 不良キャリア2年目でイキりたい盛りだった彼は、本当は小物なのに悪目立ちしていたせいで、日本の官憲から実態以上の巨大組織犯罪のボスであると勘違いされてしまった可能性が高い。

■技能実習制度と巨大な地下社会

 ──さておき、彼らを追う過程で見えてくるのは、令和の北関東の大地の裏側に広がる、ベトナム人アングラ社会の想像以上の広大さだ。

 前回記事でも書いた通り、技能実習制度とは、ベトナムの「情弱」なマイルドヤンキー層の若者を甘言で釣り、低廉な労働力として日本の中小企業に送り込む仕組みである。

 衰退を続ける日本の社会には、マイナス面に目をつむってでも安価な労働力を輸入せねばならない事情もあるに違いない。ただ、2019年まで2年連続で9000人前後の逃亡者を出し続けてきたいびつなシステムこそ、北関東の畑のなかに半グレ層ベトナム人たちの巨大なアングラ社会を作り上げた元凶であることもやはり事実だ。

「群馬の兄貴」一派の摘発にまつわる騒動は、この大いなる矛盾が表社会へと吹き出した最初の事件だったのかもしれない。

(安田 峰俊)

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