「ここまで来ればしゃべらなあかん…」小沢事務所裏献金事件で暗躍した政商・水谷功が生前にこぼした本音

「ここまで来ればしゃべらなあかん…」小沢事務所裏献金事件で暗躍した政商・水谷功が生前にこぼした本音

©iStock.com

タレントと家族ぐるみの“愛人契約”…政界・芸能界とも密につながっていた「裏金王」の知られざる正体 から続く

 平成の政商との異名を持ち、さまざまな裏金工作で“政治とカネ”問題の中心にいた水谷功が2020年12月17日に亡くなった。果たして彼は生前、どのようなことを考え、どのように行動していたのだろうか。

 ここでは、男の実像を追い続けたノンフィクションライター森功氏の著書『 泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴 』を引用し、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◇◇◇

■小沢裏献金の出どころ

 ダムや発電所をはじめとする大型工事の受注競争の裏で、何が起きているのか。一般には、足を踏み入れたことのない、知られざる世界に相違ない。建設業界における裏金づくりそれ自体、ほとんど実態が知られていないだろう。

 多くの場合、元請け業者が下請け業者を使って裏金を捻出する。単純なやり方としては、下請けに対する工事の発注額を水増しし、プラスした分をリベートや裏献金としてキックバックさせる。水谷建設でいえば、福島第二原発で請け負った60億円の残土処理事業のケースがまさにそれだ。

 また、前述したように、巧妙なやり方として、パワーショベルやブルドーザーなどの中古重機取引を駆使した裏金づくりもある。どちらも厳密にいえば脱税だ。だが、とくに重機取引は、売買を外国でおこなうため、国税当局も追及しづらい。その売買ルートづくりを担ってきたのが、バイヤーの貿易商である。彼らは重機ブローカーとも呼ばれる。

 小沢一郎事務所に対する裏献金の疑いを強めた東京地検特捜部は、この重機ブローカーの存在を見逃さなかった。そうして水谷建設に出入りしていた重機メーカーやブローカーたちを片っぱしから呼び出し、事情聴取を繰り返した。

「特捜部の捜査対象のなかで浮かびあがった一人が、『大阪トレーディング』の佐川(弘良)という業者でした。ちょうど04年から06年にかけ、ここが水谷と取引を始めています。それで、佐川が水谷の裏金づくりを担ったのではないか、と疑われたのです。かかわった裏金の額は4億円といわれます」

■キーマンとなった重機ブローカーとの出会い

 水谷功と佐川が取引を始める際、そこに立ち会った側近の一人がこう回想した。両者の初対面の場となったのが、麻布十番の高級ふぐ料理店「小やなぎ」だ。水谷功の気に入りの店で、水谷建設社長の川村もよくここを使った。前述したように、川村が小沢の秘書である大久保を最初に向島の料亭「花仙」のコンパニオンに引き合わせた場所でもある。

 特捜部の小沢事務所に対する調べは、水谷功の脱税事件のときの捜査が、基礎データになっている。重機売買の大阪トレーディングも、かつて国税当局の査察を受けていた。そうして09年8月になり、社長の佐川弘良が改めて東京地検から事情を聞かれるのである。大阪にいる当の佐川本人に取材した。

「たしかに8月初めから東京地検に呼び出されて、話を聞かれましたわ。6、7回ぐらいかな。21日が最後でしたから、集中的にやられました」

 と、こう認める。ただし、言質をとられないよう、言葉をにごした。

「でもね、水谷建設にとって、私のところなんか、新参者ですからね。取引の金額も知れてる。たまには1台1000万円を超える重機を扱ったこともある。けど、何十万のときもあったしね。それらの取引は、水谷さんから買うたやつを海外に売る単純売買です。その際、たとえば水谷さんから500万円で機械を買うても、300万円分の領収書しかくれへん。この差額の200万円が、裏金といえば裏金なんです。でも、それをどこに使うかなんか、聞くほどこちらも野暮やないで。だから、その先はわからへんよ。金額は言えへんけど、うちを使った裏金言うても、本人のカジノの負けより少ないのと違うやろか」

 小沢事務所に対する裏献金については知らない、とあくまで関与を否定する。

「インターネット(の情報)で初めて知った。検察からもそれは聞かれへんかった」

■裏金のマネーロンダリングに使っていたカジノ

 佐川は水谷建設との取引について、単純な重機売買という。が、それを水谷の裏金づくりに利用された側面を否定はしない。佐川は、ギャンブル好きの水谷に誘われ、しばしば海外のカジノ賭博にも付き合ってきた。

「マカオには行ったことがないけど、たしかに韓国にはよく行きました。向こうに行くときの水谷会長はファーストクラスの飛行機に乗り、空港に着いたら出迎えがいて、食事もホテル代も全部タダのVIP客でした。それも当たり前で、一晩に7000万くらい負けるんやからね。水谷さんは破壊的な博打をやる人でした」

 カジノが裏金のマネーロンダリングに使われている様は、前述したとおりだ。

 佐川が東京地検の事情聴取を受けた09年夏、特捜部は20人以上のゼネコンや重機取引の関係者を次々と地検に呼び出し、捜査を進めた。このころから、捜査の照準を建設業界から小沢事務所に渡った裏金に定めていた、と見て間違いない。

 折しも、水谷建設から小沢事務所への裏献金があった04年から05年にかけての時期が、佐川と重機売買を繰り返し、カジノに頻繁にでかけていたのとときを同じくする。東京地検特捜部は、重機取引が裏金の出どころの一つだと睨んだ。そうして地検がたどりついたのが、水谷功からの「1億円裏献金供述」なのである。

■綿密な調べをもとに尋問を繰り返した東京地検

 09年9月に入り、特捜部は三重県津市の刑務所で水谷功に対する出張尋問を繰り返した。脱税事件で取り調べたもともとの担当検事はあの前田恒彦だったが、その後、大阪地検に戻り、厚労省の郵便不正事件を手掛ける。最終的に前田は、小沢事件の大久保を取り調べるべく、2010年に東京地検に応援に駆け付けるが、この年はまだ厚労省元局長、村木厚子の事件の捜査や公判対策に追われていた。

 津の三重刑務所に出張尋問にやって来たのは、東京地検特捜部の女検事だ。

「あそこまで調べられていたら観念する以外にないやないか」

 当人が周囲にそう語ったほど、東京地検特捜部の取調べは綿密だったという。水谷功は女検事に次のように供述した。

「大久保さんなんかに邪魔されなければ、よかったんです。そうでなければ献金なんかせんでよかった」

■談合における裏金の役割

「鹿島建設の下請け工事を受注するため、その邪魔をされないよう、献金しただけだ」

 小沢事務所への裏工作について水谷本人は、私にもそう告白した。それは一応の道理が通っている。

 事実、裏金を運んだとされる時期と下請け工事の受注が、ほぼ重なっている。裏献金が04年10月と翌05年4月の2回。鹿島建設による本体工事の一次下請けとして工事を受注したのが04年10月で、大成建設の下請けに入ったのが05年3月だ。

 一般に誤解されているかもしれないが、建設業界における裏金づくりは、大手ゼネコンではなく、たいてい下請け業者が担う。裏金づくりは元請けに頼まれるケースもあれば、自分自身の会社が工事を受注する目的で使うこともある。

■水谷独特の計算が垣間見える供述内容

 そこで、関西談合のボス、東急建設の元顧問・石田充治に、水谷供述の真意について尋ねてみた。すると、この供述には水谷独特の計算が働いているのではないか、という。

「元来、政治献金は元請けが要請し、その資金づくりを下請けが担う。双方了解したうえだから、下請けに入れてもらうための献金という話自体が、うさん臭いと言わざるをえません。一方、水谷が鹿島や大成と取引実績がないから、小沢経由で仕事を取りに行った、と言われたら、それは筋が通る。いずれにせよこの場合、小沢事務所に下請けに入れるよう、鹿島への口利きを頼むという民間取引です。もとの発注者である国交省は裏献金とは何の関係もなくなる。あくまで民間同士の取引なのだから、贈収賄は成り立ちません。水谷さんはそれをアピールするため、意図的に邪魔されないようにしたと言っているのかもしれません」

 一見、政界への裏金工作と工事の受注という絵にかいたような汚職話に思えるが、水谷証言にしたがえば、必ずしもそうはならない。もし汚職に発展すれば、水谷は贈賄業者となり、罪に問われる。しかし、裏献金といえども、民間同士の受注・発注なら、贈賄罪を免れることができる。残るは、政治資金規正法違反に加担したという疑い程度でしかない。しかも、水谷が服役中だった09年10月に白状している。つまり、04年10月におこなわれた一回目の5000万円献金は、すでに公訴時効を迎えている。

■多額の献金をする見返りとは?

 ただし、この水谷供述には、額面どおりに受け取れない疑問も残る。裏金といえども、本来は利益の一部に過ぎない。建設会社は事業で稼いできた利益のなかから、裏金をひねり出す。たとえば重機取引の場合でも、減価償却して帳簿価格がゼロになったブルドーザーが5000万円で売れたなら、5000万円の特別利益として計上すればいい。その利益が課税対象になるだけだ。逆にあまり利益の出ていない会社なら、裏金をため込む余裕などない。裏金は、稼いでいる会社が、税金を払いたくないからおこなう帳簿操作である。おまけに、それを自由に使える。

 半面、裏金といえども利益の一部を削って政界工作に転用するのだから、それ相応の見返りがなければ、意味がないわけである。あくまで裏献金の目的は、献金以上の利益確保であり、水谷が下請け工事に入るために小沢側に1億円使ったとすれば、これだけの献金をする見返りがあることになる。それは何だろうか。

「普通、下請けに裏献金を負担させる場合、たとえば1億円ならそのあとの税負担も含め2倍の2億円程度の利益を相手に上乗せしてやる。だから、元請けが献金を知らないケースは考えにくい。つまり、業界を取り仕切る鹿島や小沢事務所、それに裏金づくりを担う水谷、すべて納得ずくでないと裏献金は成り立たないのではないでしょうか」

 業界歴50年の東急建設元顧問の石田は、そう指摘する。裏金のつくり方が、重機取引であろうが、水増し工事だろうが、その目的に大した違いはない。つまるところ、水谷建設のような下請けが裏金を払っても、それ相応のリターンがないと無意味だ。そのために損をしないよう、建設業者が高い落札率で工事を受注する必要がある。たいてい政界も含めた工事の関係者が、みなそれを承知のうえで、受注工作がおこなわれる。裏工作のための資金は、そうして建設談合のシステムそのものに組み込まれてきたのである。続けて、石田がこう補足説明する。

■小沢事務所への裏献金を行った理由

「胆沢ダムの受注業者を見ると、元請けは90パーセントを超える落札率になっている。その下請けに水谷のような裏金工作に適した業者が入っています。典型的な談合であり、受注業者は出来レースで決まっていたと思われます」

 やはり、小沢事務所への裏献金は、水谷建設が東北の談合組織に組み込まれているか、あるいはそこへ食い込もうとした行為の一環である可能性が高い、というのだ。

 業界サイドの仕切り役である鹿島建設と東北6県に「天の声」がおよんだ建設業界に対する小沢一郎。その懐にいかに潜り込むか。水谷は、政界きっての建設族のボスと業界を統べるスーパーゼネコンの両輪に近づくことを考えた。それは東北の大型公共工事の受注に欠かせない最低条件だからだ。そのために得意分野である裏金工作を駆使してきたといえる。

■胆沢ダム建設に狙いを定めた水谷功

 そして、数ある東北の公共工事のなかで、水谷功が狙いを定めたのが、胆沢ダムの建設だったのである。

「あの日は多分、小沢さんところで急な資金が必要になったのと違うやろうか。前日まで海外出張しとった川村が日本に帰国し、急きょ会うことになったらしいんや。それで桑名まで金を取りに帰る余裕がなかった。そのため、慌てて経理担当重役の中村に出金させ、別の役員に現金を持たせて新幹線で東京まで届けさせたんやで。そのあたりも、地検は全部つかんどるはずなんやけど……」

 水谷建設の元首脳が、そう打ち明けた。繰り返すまでもなく、「あの日」とは、水谷建設の社長だった川村尚が、東京・港区の全日空ホテルに駆け付けた2004年10月15日を指す。小沢事務所の事務担当秘書だった石川知裕に会ったとされる日だ。川村が二度、5000万円の現金を小沢事務所に渡したとされるうちの最初の話である。現金はその前に水谷建設東京営業所に届けられ、いったん金庫に保管されたともいわれる。

 水谷建設の裏献金疑惑は、これまでその実態が判然としなかった。それは否認を貫く小沢サイドの説明不足というより、むしろ水谷建設の関係者が口を閉ざしてきたからだろう。

「ワシャあ、話してもしょうがないやないか。(現金授受の)現場にいたわけでもないしな」

 2010年3月に出所してから5カ月あまり、水谷功本人もそう言いつづけて沈黙を守ってきた。この間、私は何度かその水谷に会い、少しずつ話を聞いてきた。やはり、そうそう饒舌には話したがらない。

■「ここまでくればしゃべらなあかん」

「ワシは言われるほど、政界との付き合いはないで。政治家に口を利いてもらって、工事をとることもないしなぁ」

 政治家との交友について尋ねると、水谷功は決まってそう語る。都合が悪くなれば口を閉ざす。あるいは行方を隠すこともあった。徐々に胸襟を開くようになってきたか、と胸をなでおろしていると、一転して連絡を絶つ。平成の政商と異名をとるだけあって、その言葉を額面どおりに受けとれない部分も少なくない。しかし、水谷功は巷間言われているような、支離滅裂で下手な嘘をつく詐欺師タイプではない。

「ここまでくれば、関係者は世のため、道義的にしゃべらなあかんやないかっていうこともあるやないか」

 といきなりそう言い、その重い口からショッキングな事実が顔をのぞかせた。そうして本人の思惑を読みながら、取材を繰り返していった。

 胆沢ダム工事は、総事業費2440億円の一大プロジェクトだ。それだけに大手ゼネコンのみならず、下請けの建設業者にとっても、喉から手が出るほどほしい。実は小沢事務所への裏献金工作は、二度にわたる全日空ホテルの1億円だけではない。献金相手も大久保や石川だけではなかった。水谷建設は、小沢サイドに五度にわたる受注工作を展開してきたのである。

?

(森 功/文春文庫)

関連記事(外部サイト)