武蔵小山の“親子カフェ”オーナーはなぜ大田区でそば屋になったのか? 西馬込の「ポツンと一軒そば屋」で聞いてみた

武蔵小山の“親子カフェ”オーナーはなぜ大田区でそば屋になったのか? 西馬込の「ポツンと一軒そば屋」で聞いてみた

「そば三」の最寄り駅は都営浅草線西馬込駅

「なんでこんなところにそば屋があるんだろう」というロケーションの店がたまにある。通称「ポツンと一軒そば屋」である。文春オンラインでも何軒か紹介してきた。

 八王子市石川町にある「 田吾作 」はJR中央線日野駅から、川崎市多摩区菅馬場の「 星川製麺 彩 」もJR南武線中野島駅から遠い立地だった。千葉市中央区寒川町の「 寒川そば 」も街道沿い。川崎市幸区下平間にある「 大年 」は旧川崎街道沿いに立地していた。「 なかむら 」はJR南武線稲城長沼駅前なのにポツンと佇む孤高の店。横浜市泉区上飯田町にある「 ひなた山蕎麦 」も小田急江ノ島線桜ヶ丘駅から歩いて30分以上かかった。

 そして、その立地にはポツンと佇むそれぞれの理由があった。

■新しい“ポツンと一軒そば屋”「そば三」

 さて、今回は「結果的にポツンと一軒そば屋になった」という新しい店を紹介しようと思う。大田区仲池上の「そば三」(そばぞう)である。

 緊急事態宣言が出た1月連休明けの火曜日、小雪の舞う中、「そば三」に向かうことにした。お店は都営浅草線西馬込駅からが一番近い。南口改札を出て第二京浜を渡り、「そば太田」の脇を入って行き、一山登り馬込給水所前の信号を渡り、呑川方向へ下っていき、十中通りを右折してしばらく行った右側に「そば三」がある。だいたい15分程度で到着する。

 到着したのは午前10時少し前。ところが店に近づくと、暖簾が出ていない。自分の記憶違いで開店はなんと午前11時だった。しかたなく開店まで近所を散策することにした。

■まわりには大きな運送施設や流通関係の工場

 お店のある一帯は呑川を挟んで広がる平坦な土地で、北側には新幹線と横須賀線が通り、その向こうは呑川が北上し洗足池方向に至る。南西側は久が原の高台に至り、呑川を下れば池上本門寺方向である。大きな運送施設や流通関係の工場が立ち並ぶ。南北に第二京浜、東西に環八が走るので、都心部への物流の拠点にするには都合がいい場所のようだ。また、区画整理も進んでいて、大きな分譲マンションがあちこちにできている。公園は保育園児でどこも大賑わい。

「そば三」開店の午前11時、再度店前まで来ると、ちょうど暖簾を出しているところで、安堵して入店した。お店は入り口に券売機があり、右がカウンター、左が立ち食い席で、奥はゆったりと4人掛けや2人掛けのテーブルが並ぶ。お店の雰囲気も落ち着いていてなかなかよい。アクリル板で仕切っておりコロナ対策も十分である。

■もとは下準備をするキッチンとして借りた場所

 店主の瓦井三博さん(43歳)に人気のメニューを聞くと、かき揚げなどの「天ぷらそば」(450円)や「春菊天そば」(450円)、「ミニカレーセット」(600円)などのセットメニューだというので、「春菊天そば」に即決して、「いなり」(120円)とともにいただくことにした。

 注文している間に瓦井さんにお店の開店の経緯などをいろいろ聞いてみると、それがなかなか面白い内容だった。

「そば三」は2020年10月に開店した。それまでは武蔵小山パルム通りの東急ストアの2階で「三びきの子ぶた」という親子カフェを奥さんと一緒に順調に経営していたそうだ。

 ところがビルの耐震不足の影響で閉店することに。ちょうどキッチンカーを所有していたので、イベント会場などでフードトラックを営業しようと考え、今の場所に下準備などをするためのキッチンを借りることにしたのだという。

■半径600m範囲にそば屋がない

 しかし、コロナ禍でイベントは激減し、キッチンカーの出番がしぼんでしまった。そんな時、今の物件をよくよくみてみると、元小料理屋だった内装はなかなか綺麗で、少々の改装で十分飲食店ができることがわかってきたという。しかも、「隣は焼肉店ですが、ほかに昼飯を提供している飲食店が少なく、そば屋がほぼないことがわかったんです」と瓦井さんは言う。

 確かに開店前に1時間ほど散策して、飲食店が少ないことは自分も気が付いていた。コンビニは点在するが、弁当屋や総菜屋、そしてそば屋も見当たらなかった。後日、地図で調べてみると、確かに半径600m範囲にそば屋は見当たらなかった。

 瓦井さんは「働いているひとは多いし、古くから住んでいる人も多い。マンションも多いので家族連れも多い。それでこの場所で、気楽に入れる大衆そば屋を始めようと考えるようになった」という。

 そんな話をしていたら、「春菊天そば」と「いなり」がちょうど出来上がった。

■「春菊天そば」(450円)と「いなり」(120円)

 さっそくつゆをひとくち。沁みる。沁みわたる。出汁がじんわり利いた、きれいなムラサキのつゆがたまらない。小雪の中を散歩していたから、なおさらである。麺は大手製麺所の茹で麺で、これもよい。春菊天はかき揚げ「ソフトタイプ」で、しっとりとつゆになじむ。話をするのも忘れて食べ進んでしまった。

 

「もともと、このあたりの十中通りは昼、営業している飲食店がないので、自転車もあまり通らないのですが、お店ができてから、見ていると通り過ぎた自転車が戻ってきて店内をのぞき込んだり、その後、食べに来てくれたりという具合に、お客さんに少しずつ認知されてきている」と瓦井さんは言う。

■店内でも食べることができるお弁当

 厨房をみてみると、コロッケや唐揚げなどもたくさん揚げて用意されていた。瓦井さんに聞いてみると、その答えがまた面白い。「お惣菜として買っていく人が多い」という。そんな理由から、親子カフェで作っていたメニューもお弁当として昼に出すようにしたら、好評で意外と注文が多くなっているという。お弁当はテイクアウトだけでなく店内でも食べることができるという。よいアイデアだ。

 最後にコロナ禍での思いを聞いてみた。すると、瓦井さんは静かに話し出した。

「これからどうなるか、わからないですよね。不安です。でも、できることから少しずつ改善して、チャレンジしていきたい。麺もいろいろ試行錯誤していますし、メニューももっと増やしていきたい。確実にゆっくりと…」

 噛みしめるように、不安を払拭するように思いを語ってくれた。

 

 瓦井店主は明るさを絶やさない根性のある青年だった。「そば三」は奥さんとともに切り盛りする家族経営の小さな店だが、そば屋のなかった仲池上地区に、新たなコミュニティを築きつつあるようだ。これからが楽しみな店である。また、訪問しようと思う。今度はミニカレーセットを食べようと思う。

写真=坂崎仁紀

INFORMATION

「そば三」
住所:東京都大田区仲池上1-17-10
営業時間:平日11:00〜19:30
      (ラストオーダー19:00)
     土 11:00〜15:00
      (ラストオーダー14:30)
定休日:日祝
(営業時間はコロナの為変更する場合があります)

(坂崎 仁紀)

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