女性を指名したいのにと思うけど…なぜ女性美容師は圧倒的に少ないのか

女性を指名したいのにと思うけど…なぜ女性美容師は圧倒的に少ないのか

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 なぜ美容師は男性ばかりなのか。

「女性の社会進出」を問われる現代ですが、美容師さんは圧倒的に男性が多い。アラフォー世代には特に女性が少なく、仕事やプライベートの価値観が変化した20、30代であっても女性は少ないです。

 その一方で「男性の美容師が苦手、できれば女性で」というお客様側のご要望は少なくありません。接客業において女性は貴重な人材です。デパ地下食品フロアの店員さんなどは今もほとんど女性ですし、男性に対して見えない圧を感じる方も少なくないようです。

「技術職だから、器用な男性が残るのかな?」ともよく聞かれますが、そこには別の理由があります。

■美容学校は女性比率が高い

 下のデータは2019年の美容学校の在学生(「美容学生」と呼びます)の数です。女性比率は70%ほど、つまり美容学生は圧倒的に女性が多いのです。

美容学校在校生の男女別では、男子8672人、女子2万5618人で、男子学生が25%を占め、男女比は男子1:女子3だった。

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(「 美容学校在校生の男女比1対3に 」理美容ニュース、2019年8月9日)

 僕の美容学生時代も、学校の男女比は男2:女8でした。それが卒業して10年以上経つと、同じクラスの40人のうち美容師を続けているのは15人程度、そのうち女性はわずか2人、です。それでも業界では「美容師を続けている人が多い方だ」と言われます。

 結局残っているのは、ほぼ男性。僕らの時代では美容師は人気の職業だった為、都内の専門学校で倍率があがったほどでしたが、同級生は10年の間にほとんど美容師ではなくなっています。ではなぜ現場には女性が少ないのか?

■女性美容師が現場に少ない理由

 一つはまつげ業界の存在です。まつげ業界はパーマなど薬剤を使うことから、数年前から美容師免許が必要になり、それを目的として国家試験を受ける方も増えています。つまり在学生の何割かは、まつげの仕事に就くために美容師免許を取るのです。

 また、美容師をドロップアウトした方がまつげ業界に転職することも多くあります。既に美容師免許を持っていて、まつげの技術は習得するのに時間もそれほどかからないため、次の働き口の受け皿になっています。

 ちなみに、卒業後の就職先に美容室を選ばなかった方、また美容師を辞めた女性の多くは、美容部員(デパートの化粧品売り場で働く方のこと)やエステ、ネイル関係に就職します。

 これらに美容師免許の資格は必要ありませんが、元々お洒落の素養を持っていて、メイクやネイルの知識も活かされます。その他はお洒落好きな為アパレル関係、ファッション界から離れてOLになる方も多いです。

 ですが、まつげの仕事に就くために美容学校に通う事例はここ数年の話なので、10年以上前に在学生だった、僕らから上の世代には当てはまりません。多くの女性同級生は、美容室への就職をしていたはずです。

■美容師の離職率

 多くの若手美容師は、一人前になるまでに長く続く下積み、低賃金、毎日の長い拘束時間、華やかに見える理想と現実のギャップなど、過酷な労働環境での仕事を強いられています。それは今の20代であっても変わりません。

 詳しくは こちら で解説しています。

 また美容業界は体育会系の要素が色濃く、「しゃにむに働く」事を強いられ、男女関係なく、多くの若手は体調不良や手荒れなどに悩まされます。

 僕が新卒で勤め始めた美容室では、忙しすぎて営業中にトイレに行く暇がなく、膀胱炎で悩む女性スタッフもいたほどでした。その女性スタッフもそれが当たり前のことのように振る舞っていたし、僕自身当時は「そういう世界なんだ」と思い込んでいましたが、今考えれば、そんな働き方で続くわけがありません。

 その為多くは20代のうちにドロップアウトしていき、結婚、出産などを理由に30代以降の女性美容師は激減します。今の30代以降の女性美容師が少ない理由は、ここにあります。

■十数年前までは、「辞める」か「出産しない」か二択だった

 美容師に限らず、かつての仕事観では女性は結婚、出産をきっかけに退職、引退する人が多かった。出世欲、上昇志向を持たない女性にとっては、こと美容師という仕事は復帰するにはハードルが高いのです。逆に長く美容師を続けられる女性には、キャリアウーマン的な志向の方が多いです。

 特に難しいのは、出産後の職場復帰です。長期離脱による客離れ(業界では「失客」と呼びます)は必至で、復帰後は大きく売上を落とします。お客様側が「あの美容師さんでなければ、別を探そう」と思うのは自然なことです。

 そして、子供が大きくなるまでの間は保育園や学校、学童保育などに預ける為、フルタイムでは働けません。

 必然的に予約の受付時間も狭まる為、例えば自分を指名してくださるお客様が夜にしか来店できない、となると予約を受けることができない。すると、また失客してしまいます。

 なので、結婚、出産以前に「それでも貴方に切って欲しい」と言ってもらえる顧客をたくさん獲得していて、既に美容師として成功している女性しか、美容師としての復帰は難しかったのです。ですが男女問わず、20代のうちにお店の稼ぎ頭になれる程の美容師は、一握りです。

 また個人経営で少人数の運営をしている美容室にとって、一人のスタッフがフルタイムで働けないのは、大きな戦力ダウンです。多くの雑務も含めて「私が他のスタッフに負担をかけている」という心理もあり、十数年前までの多くの女性美容師にとっては、「辞める」か「出産しない」か、ほぼ二択だったのです。

■「面貸し」「業務委託」……人材不足による雇用の変化

 しかし、この10年の間に人材不足が顕著になり、現場が圧迫されるようになったことで、在籍している人材の確保は美容室の最重要課題になりました。

「仕事とプライベートの両立」という価値観の変化、それによる働き方の多様化、ここにきてのコロナ禍。会社側が柔軟に変化する事を余儀なくされている今、女性美容師でも働ける環境が整えられてきています。

 近年の美容界の大きな変化として、「面貸し」と「業務委託」という仕事のスタイルが確立されました。

 簡単に言うと「面貸し」は美容師が美容室から1席を借りて、自分が抱える顧客をやるスタイル、「業務委託」は美容室から接客をすることを専門に美容師が雇われて、報酬を得る形です。

 どちらも「従業員」ではなく「個人事業主(フリーランス)」として仕事に応じた報酬を貰い、今までのような会社との主従関係ではない、対等な関係で仕事ができます。拘束時間に縛られることもなく、副業や家事、子育てや趣味などの時間を、その人が配分することができます。

 詳しくは、 こちら で解説しています。

 美容師の働く環境が改善されると、気持ちの余裕が仕事のクオリティに反映されて、お客様に還元することができる。女性美容師のみならず、多くの美容師が心地よく働けるようになる、お客様と美容師がwin-winになれればと思います。

(操作イトウ)

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