「ひとりで死んでも“孤独死”ではない」上野千鶴子が“幸せな最期”について主張し続ける理由とは?

「ひとりで死んでも“孤独死”ではない」上野千鶴子が“幸せな最期”について主張し続ける理由とは?

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 2007年時点で15.7%だった高齢者の独居世帯率が、2019年にはなんと27%に急増。高齢独居世帯予備軍である、高齢者のみの夫婦世帯率33%を合わせると「おひとりさま」で最期を迎える可能性のある世帯は全体の60%にまでのぼっている。

 ここでは、10年以上にわたっておひとりさまで過ごす老後生活の素晴らしさを説く社会学者の上野千鶴子氏による新著『 在宅ひとり死のススメ 』を引用。在宅で最期を迎える幸福について紹介する。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

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■ひとり静かに死んでいくことを「孤独死」と呼ばれたくない

 わたしには家族がいませんので、基本、ひとりで暮らしています。高齢者の仲間入りをしましたが、まだ春日キスヨさんのいう「ヨタヘロ期」には至っていません。「フレイル(虚弱)などという横文字を使われるより、「ヨタヘロ」の方がずっとわかりやすいですね。

 そのうち要介護認定を受けて介護保険の利用者になるだろうと思います。たくさんのお年寄りを見てきて、PPK(ピンピンコロリ)など望むべくもなく、なかなか死にきれない下り坂を、ひとはゆっくり下っていくものだと認識しました。そのうち動けなくなり、食べられなくなり、飲めなくなり……そしてある日呼吸が止まる、それを臨終と言うのだと教わりました。ひとり暮らしのわたしが、ひとり暮らしのまま下り坂を下っていって、ある日ひとり暮らしのまま在宅で死ねないだろうか……そう思いました。ひとりの暮らしを過ごしているわたしの臨終の場にだけ、ふだんめったに会わない一族郎党・親類縁者が全員集合するのも、妙なものです。ひとり静かに死んで、ある日亡くなっているのを発見されたら、それを「孤独死」とは呼ばれたくない。それが本書の執筆動機です。

■変わりゆく老後の常識

 わたしは私利私欲のために研究をしている、と言ってきました。介護保険ができたとき、これはわたしのためにできたんだ、と思いました。そのわたしの「おひとりさまシリーズ」がたくさんの読者に読まれたのは、わたしと同じような立場にいるひとが、思ったより多かったからです。『おひとりさまの老後』(2007年)を出してから『おひとりさまの最期』(2015年)を出すまで8年、それからも6年経っています。わたし自身も順調に加齢しましたし、そのあいだに社会も変わりました。

 何より独居の高齢者が急速に増えましたし、「おかわいそうに」の代名詞だった「おひとりさま」のイメージがすっかり変わりました。最近あるオッサン向け週刊誌に、こんな特集をみつけました。「ひとりになったとき、人はここで失敗する」……失敗の内容は「子どもと同居する/孫の教育資金を出してしまう/息子や娘に財産を渡してしまう/再婚してしまう」。それを見ながら、10年くらいのあいだに、老後の常識が変わったと感慨を抱きました。

 わずか10年余で、老後の常識が180度変わりました。「子どもと同居が幸せ」から「同居しないほうが賢明」へ。「おひとりさまはみじめ」から、「おひとりさまは気楽」へ。その「常識」を変えた功績のいくぶんかは、わたしにもあったと思いたいです(笑)。

 若い頃、「今日の常識は明日の非常識!」そして「今日の非常識は明日の常識!」と言ってきました。そのとおりになったようです。

■ひとりで死んでも「孤独死」ではない

 そして、次に残された課題が、ひとりで死ぬことです。ひとり暮らしは「孤立」ではない、ひとりで死んでも「孤独死」ではない、と言ってきました。だから「在宅ひとり死 ?ChizukoUeno」という新しいことばをつくりました。それでも「在宅ひとり死のススメ」などという思い切ったタイトルの本が出せるようになるとは、10 年前には想像もしていませんでした。

■福祉先進国とも見劣りしない日本の介護保険制度

 在宅ひとり死ができるようになったのは、介護保険のおかげです。介護保険がスタートしてから20年、現場の経験値は確実に蓄積されました。「在宅ひとり死」は現場の専門職の支えがあればできる、というわたしが得た手応えを、読者のあなたにもお伝えしたくてこの本を書きました。日本の介護保険は、制度も担い手も、ケアの質も、諸外国の福祉先進国にくらべても、決して見劣りしません。最近わたしは、海外在住の日本人に、老後を過ごすなら日本がよいかもよ、と勧めているくらいです。

 この制度を決して後退させてはならない、とつよく思っています。ウエノさん、介護保険、これからどうなるの? 介護の労働崩壊がすすむのでしょう? とよく聞かれますが、そのたびにこう返します。「どうなるか、ではなく、あなたがどうしたいか、を考えて下さい」と。介護保険を作ったのもわたしたち有権者なら、介護保険をよくするのも悪くするのもわたしたち有権者だからです。

■誰もが暮らしやすい社会をつくるために

 老いは誰にも避けられません。死亡率は100%です。認知症になるのは5人に1人だそうです。自分だけが要介護にならないようにPPK(ピンピンコロリ)体操に励み、認知症にならないように認知症予防ドリルに取り組むよりも、要介護になっても安心できる社会、安心して認知症になれる社会、そして障害を持っても殺されない社会をつくるために、まだまだやらなければならないことはいっぱいありそうです。

 あなたもご一緒に闘ってくださればうれしいです。

こちらより上野千鶴子氏のメッセージ動画を視聴できます
?youtu.be/RgBLCyoMtsc

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急増する高齢者世帯の独居率…「おひとりさま」が自宅で迎える最期にはいくら必要? へ続く

(上野 千鶴子/文春新書)

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