よくあるバターチキンじゃない…プロが実食してわかった「無印カレー」本当のウマさ

よくあるバターチキンじゃない…プロが実食してわかった「無印カレー」本当のウマさ

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スゴすぎる「無印のレトルトカレー」、マニアの度肝を抜いた立役者の正体 から続く

 従来の日本のカレー、特に高級志向の欧風カレーは、外食でもレトルトでも常に、家庭では出せない「旨味とコク」を重視した味わいを目指してきました。インドカレーもまた日本における主流のそれは欧風カレー同様の傾向があります。

 しかしその傍らでこの10年ほどは、それとはだいぶ方向性を異にする、より土着的で「伝統的」「家庭的」な本場志向のカレーも確実に支持を集めつつあります。無印良品のエスニック系カレーは確実にその静かなトレンドの延長線上にあります。

 無印良品のインドカレーを食べてまず感じることは、これはインドの家庭や街場の食堂で食べられているカレーがわりとそのまんまレトルト化されているのでは? という印象です。

■旨味やコクだけに頼らない香りのインパクト

 一口目から鮮烈なインパクトを残すのはその「香り」です。香りの主役はもちろんスパイス。本場に倣ったというそのコンセプトを全く裏切らないスパイスの配合、ただし配合と言っても単に粉のスパイスをブレンドするだけではない、調理の段階ごとに適切に素材とスパイスを合わせていくインドカレーならではの技術がレトルトの中に封じ込められています。

 そして、普段スパイス料理に慣れ親しんでいる人なら香りと同時に気づくのは、素材由来のジワジワくる素朴で飽きないおいしさです。香りのインパクトにかき消されがちですが、インドカレーは意外にも旨味やコクといった要素は控えめであり、無印のカレーはそれを十分に再現しています。

 旨味やコクだけに頼らない香りのインパクトがありつつその本質は素材主義的な素朴で食べ飽きない味わい、これが無印の全てのカレーに共通する魅力と言ってもいいのではないでしょうか。ここからは、そんな無印のカレーの中からインド系のそれを中心に実食した感想を記していこうと思います。

■よくある甘い味わいと一線を画す「バターチキン」

 数ある無印のカレーのなかでも特に人気のあるカレーです。食べるとそのバランスの良さに唸ります。一般的にインド料理専門店のバターチキンは、トマトをベースにしつつもそこにふんだんにクリームやナッツペーストが加えられ、さらにはっきりとした甘みを加えた「デザートのような」と評されることもある仕立てが主流。しかしそれはあくまでナンと合わせることを前提とした、カレーとしてはかなり異端のバランスです。

 そこを無印のカレーはより「カレーらしい」バランスに着地させています。乳製品のコク、トマトの酸味と旨味、やや抑え気味の甘さ、それらは何かが突出することもなく、結果的にこれまで欧風カレーに慣れ親しんでいた人でも違和感なく受け入れられる味わいの構成。また、そのバランスゆえにナンではなくライスとの相性も抜群です。

 スパイスの配合もその着地に合わせたものになっています。専門店の「デザートのような」バターチキンの場合は、カルダモンをやや極端に強調することで「お菓子感」がより強まっていることも多いのですが、無印のバターチキンはそこもぐっとスタンダードなインドカレー寄りのスパイスブレンドにチューニングされています。そしてそのことで誰もがすんなり「食べたことない味わいだけどおいしいカレー」と感じる味わいになっていると思います。

 インドカレー初心者の方にも太鼓判を押しておすすめできる間違いのない逸品です。

■インドの大衆食堂の味を思い出す「スパイシーチキン」

 ひと口食べた瞬間、インドの旧都市デリーの大衆食堂の味を思い出しました。「スパイシー」とあるだけに、しっかりとした辛さがありますが、それ以上にクローブとシナモンが醸し出す甘く骨太な香りが印象的です。その香りに合わせるような炒め玉ねぎのコクと微かな酸味。

 酸味はトマトの他にヨーグルトにもよるものかと思いますが、原材料をよく見るとわずかに「りんご酢」が加えられているようです。ヨーグルトの酸味が高温の加熱で弱まってしまう分の補填というイメージでしょうか。そんなところにも高い技術とこれまでの経験が生かされているように感じます。

 バターチキンと比べると好き嫌いが分かれる味かもしれません。スパイスのバランスがいわゆる日本式の「カレー粉」とは大きく異なるクラシックなインドカレーのそれだからです。このことは同時に「インドカレー好きにはたまらない」ということであるとも言えます。

 そして昨今の「スパイスカレーブーム」が示唆するように、こういう(日本人から見ると個性的な)香りのカレーが好きになり始めている層は実はかなり厚い。実際にこのカレーは比較的最近加わったラインナップであるにもかかわらずあっという間に売り上げ上位に食い込み、主力定番商品の仲間入りを果たしたようです。

 実はこういったタイプのチキンカレーは日本の北インド料理店では案外出会えないものの一つ。そういう意味では、最近スパイスカレーが好きになり始めた人だけではなく、筋金入りのマニアでもニヤリとするであろうカレーでもあります。

■意外な色合いと香ばしい香りに裏切られる「ココナッツチキン」

 これもまたマニアなら袋を開けた瞬間その色合いと香りにニヤリとするかもしれません。ココナッツとあるのでタイカレーのような白っぽいマイルドなカレーを連想する人もいるかもしれませんが、実際の中身は濃い褐色。

 カレーにココナッツを多用するのは南インドカレーの特徴のひとつですが、その使い方には大きく2種類。ココナッツミルクの乳化が解けないように慎重に仕上げるやり方と、しっかり加熱してその香ばしさも引き出す方法。こちらはその後者となります。

 さらに印象的なのがカレーリーフとマスタードシードの香り。どちらもスパイスとしては比較的穏やかな香りながら南インドカレーの芯の部分を支えるしたたかな力強さがあります。その他のスパイスの香りも含めて極めて重層的な味わいで、こちらは南インドの高級レストランを思わせる典雅な味わいに着地していると感じました。

 マニアの方には「どこか『チキンチェティナード(タミル地方の交易都市チェティナード名物のスパイスをふんだんに使用した名物カレー)』的な趣もある」と説明するとわかりやすいかもしれませんね。

■レトルトの難易度は高いはず「プラウンモイリー(海老のココナッツカレー)」

 モイリー(モーレーと表記されることも)は、南インドケララ地方の魚介類を使ったカレーの典型的なスタイルのひとつ。先ほどのココナッツチキンの製法とは対照的に、ココナッツミルクの乳化を解かずに仕上げるクリーミーなカレーです。

 元々スパイスの量や種類を多く使わない極めてシンプルな、かつ短時間で仕上げて出来立てを食べるカレーであり、ある意味レトルトでの再現が最も困難なタイプのインドカレーのひとつとも言えると思います。原材料表をつぶさに見ると、本来はあまり使われない「でん粉」がわずかに加えられているようで、これがレトルト加熱下でのココナッツミルクの分離を防いでいるのでしょうか。ま

 たこのカレーは仕上げ間際に入れたトマトが完全には煮崩れしない状態で入っているとおいしいものなのですが、この点は「ドライトマト」を使用することでその形を最後まで保たせるという工夫がなされているようです。

 そういった技術レベルの話を抜きにしても、元々これはインドカレーに数多ある「カレーらしくないカレー」の中でも特に日本人の嗜好に合ったものだと思います。スパイスの量や種類は少ないと言いましたが、青唐辛子の辛味や、メティ(フェヌグリーク)の独特な甘い香りが、これぞカレー、というべきミニマルで鮮やかな風味を醸し出しているのです。

 インドカレーのスパイスというとたくさんの種類を使うのが本格的と信じられている一面がありますが、実はむしろ数を絞った方がその香りはビビッドなものになることが往々にしてあります。このカレーでそのことを体感してみるのもまた面白いのではないでしょうか。

 私の知る限り「モイリー」がレトルト商品化されているのは日本でこの一点だけだと思います。そういう意味でも必食です。

■名称がすでに“わかっている”「パラックパニール(ほうれん草チーズカレー)」

 これは袋を開封する前からまず名称にニヤリです。ほうれん草のペーストをベースとした緑色のカレーなのですが、このタイプのカレーは日本ではパラックではなく「サグ」と呼ばれるのが一般的です。しかし実はサグというのは正確にはアブラナ科の、日本で言えば「菜花」などに近い野菜の総称。ほうれん草を使う場合はこの「パラック」がより正鵠を得ています。

 地方によっては「サグ」を、アブラナ科を中心としつつ青菜全般の呼称に用いるケースもあり「サグ」でも完全な間違いとも言い切れないのですが、何にせよこういう部分でも、「本場を伝える」というポリシーにこだわる、そのスタンスが滲み出ているんですね。

 日本のインドカレーと本場のそれの大きな違いとして、日本ではチキンやキーマなどの肉系(ノンベジ)のカレーが中心なのに対してインドでは植物性の原料および乳製品のみで構成された「ベジカレー」が中心という点がありますが、このカレーはそのベジカレーです。

 無印良品ではこのパラックパニールの他にチャナマサラなどいくつかのベジカレーをラインナップしています。肉や魚介を使わないというのはすなわち日本人が好む「旨味やコク」を構築するのが難しいということでもあるのですが、このカレーに関してはそういう物足りなさをあまり感じさせない仕上がりになっているのはさすが。野菜としては比較的旨味が潤沢な素材であるほうれん草やトマトをふんだんに使い、やや強めの塩気とオイルでその食べ応えをブーストしている印象です。

 主役となるパニール(インド式カッテージチーズ)は、前編でも記した通り独自の国内生産なのですが、インドのそれよりもう少しホワホワしたソフトな食感に仕上げられているのも芸が細かい。日本人が大好きなモツァレラチーズにもどこか似た、ミルキーな味わいがより鮮明に感じられる仕上がりです。

■おすすめの買い方は「2個買い」

 今回ご紹介したのはラインナップのごく一部ですが、無印には他にも魅力的なカレーが沢山あります。売り場に立つとついつい目移りして何を買うべきか迷いに迷ってしまうところですが、最後に私がおすすめの買い方をひとつ。それは「2個買い」です。

 ひとつは味の想像がつきやすい、もしくは過去に食べて気に入ったものを選んだならば、もうひとつは聞いたことのないような名前の「怪しい」カレーを選ぶこと。そんな買い方がしやすいように一部のラインナップは「小さめサイズ」が用意されています。これをうまく使ってカレー専門店で言うところの「合いがけ」を楽しむのです。

「怪しい」とは書きましたが、そこに少なくともハズレは無いことは私が保証します。その体験を通じて、無限ともいえる本場のカレーのバリエーションの一端にぜひ触れてみてください。体験と味覚の幅を広げることで、今後の皆さんのカレーライフにおける幸せ度は確実に向上するはずです!

写真=今井知佑/文藝春秋

(稲田 俊輔)

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