「文春に情報を出した」DHC新入社員が“濡れ衣”で懲戒解雇 弁護士は「不当解雇にあたる可能性が高い」

DHC吉田嘉明会長「文藝春秋は反日メディアなので取材には答えない」 社員を懲戒解雇

記事まとめ

  • DHC吉田嘉明会長の"サクラ投稿指示"に反対した新入社員が年末に懲戒解雇されていた
  • 労働問題に詳しい神奈川総合法律事務所の嶋崎量弁護士は、不当解雇の可能性を指摘
  • 吉田会長は「文藝春秋は反日メディアなので取材には答えない」と回答している

「文春に情報を出した」DHC新入社員が“濡れ衣”で懲戒解雇 弁護士は「不当解雇にあたる可能性が高い」

「文春に情報を出した」DHC新入社員が“濡れ衣”で懲戒解雇 弁護士は「不当解雇にあたる可能性が高い」

証言するAさん ©文藝春秋

DHC会長の“サクラ投稿指示”に反対した新入社員が年末に懲戒解雇されていた!《本人告発》 から続く

 昨年末、差別的な発言で炎上した大手化粧品メーカーDHCの代表取締役会長・吉田嘉明氏(79)。吉田氏は差別発言以外にも、従業員に、消費者に成り代わってSNSに“サクラ投稿”をするよう指示していたことや、「愛社精神指数」と呼ばれる指標で賞与額を決めていること、人事評価で低評価の社員を「穀潰し」と呼んでいたことが判明。「文春オンライン」は昨年12月にこうしたDHCの内情を報じた。

 そしてその報道直後に不当な懲戒解雇処分を受けたのが、新入社員のAさんだった。2020年にDHCに入社し、研修中だったAさんは、これらの問題について社内で声を上げ続けていた。しかし12月18日、Aさんは人事部の女性社員X氏(40代)に呼び出され、こう告げられた。

「退職してもいいんじゃないか」

 X氏は退職勧奨の理由を滔々と語ったが、その内容はAさんにとって、到底納得のいくものではなかった。(全2回の2回目/ #1 より続く)

 ◆

■X氏が語ったAさん退職勧奨の理由

 退職勧奨を受けて驚くAさんを前に、X氏はその理由を次々に語った。

X氏 「配属が決まらない。その人がその部分に適性がないから、もう少し違うところで適性を測ってみようっていう前向きな気持ちと、やっぱり社会人としての適性だったりとか、働く意欲だったり、積極性の有無っていうところが圧倒的に低いっていう理由があるのね」

X氏 「いろんな部署で評価を受けている中で何れも評価が低いというのは、業務の出来不出来以前の問題だというのが上がってきてしまっているのが正直なところなのね」

X氏 「正直、少し舐めてるところありました? やる気が全く伝わらない」

 DHC社員によると「Xさんは会長に心酔していて、会長もXさんを可愛がっています。吉田会長の代弁者のような存在なので、彼女の言うことは絶対。女優の松下由樹さん似の美人で、噂では元レースクイーンだと聞いたこともあります。ほかの社員に高圧的な態度をとることもあるのですが、美人なだけに迫力が凄い」という。

■研修では成果を出してきたのに…

 Aさんが言う。

「研修では成果を出してきたと思っていたので、落ち込みました。マーケティングの部署でお正月に使うLINEスタンプを考案して採用されたり、ECサイトの課題点を挙げて実際に改修が行われたり、若者向けイベントの企画運営などにも携わりました。それに、先輩が飲みに連れていってくれたり、声をかけてくれたりしていましたから……」

  #1 でも報じたように、研修先の部署でAさんを高く評価するDHC社員はいた。取材に応じたある中堅社員はAさんについて「リーダーシップもあり、研修中に出される課題にも一生懸命取り組んでいました」と語っている。

 12月に発症した突発性難聴についても話は及んだ。Aさんが説明する。

■「突発性難聴の人もいるけれども、普通に働いてる」

「2020年8月に新型コロナに感染して以来、密室に大人数がいる状況に過敏になっていました。12月に倉庫勤務になったときに、コロナに罹患して辛かった記憶がフラッシュバックして、左耳が突然聞こえなくなったんです。その時、とても緊張して周囲のことを考えられない状態だったので、ご迷惑をかけたところがあったのかもしれない。少しでも挽回の糸口があればと、突発性難聴になったことを明かしたのですが、Xさんには全く相手にしてもらえませんでした」

 面談でX氏はAさんの突発性難聴について、こんな発言をしている。

X氏 「社内に突発性難聴の人もいるけれども、普通に働いてる。多少はちょっとそれが支障になることがあったとしても、それが怖くて働けないっていうようなことになるんであれば、勤務継続が難しいのかなっていう風にも思う」

 面接のなかでX氏は「反論は何かありますか」と問いかけている。そこでAさんは会長の差別発言について問題だと思っていないのかと尋ねた。

■人事部X氏「(差別発言は)会社として問題だと思っていない」

「Xさんには直接意見を伺ったことがなかったので、『(会長の)差別発言が炎上しているじゃないですか』とおそるおそる聞いてみました。会長の発言は明らかに人権を侵害するヘイト行為ですし、Xさんも内心ではよくは思っていないんじゃないかと」(Aさん)

 しかしこの質問の後、X氏は突然早口になり、まくしたてるようにこう語った。

X氏 「あれは問題じゃないけどね、会社としては問題だと思っていないけどね、はい。ヤケクソくじ何か問題ですか? 会長の性格的にほかの経営者が思っていることを包み隠さず言ってしまうという性格はあると思います。世の中の人が表だって言わないことを正直に言われる方です。いさぎよいです。多少炎上はするけどあそこには真実が書かれています。あれはサントリーも特にコメント出してないです。事実と違うなら事実と違うってコメントを出すでしょう。だから両方の意見があっていいと思います。批判的な消費者に乗っかって自分もそっちに同調するっていうことしか思えないんだったら意味がないと思いますよ。いままで何度か会長ああいうメッセージ出してますよ。でも潰れてないですようちの会社。それで大きく顧客が離れたわけでもないです。商品力の低下が売上を下げている。マーケが下手だから売上が伸び悩んだ」

 これが会社の本音なのか、とAさんは落胆したという。そして、X氏はAさんにこう釘を刺した。

X氏 「ちなみにAさんのTwitter、会長はご覧になってますよ。情報社会なめないほうがいいと思います」

 Aさんが語る。

「以前、Twitterで《全国の消費者が見るホームページで、消費者をこき下ろして人種差別する人の気持ちなんてわかりません》と書かれた投稿を見かけて、リツイートしたことがあるんです。そのことを言っているのかなと思いましたが、そんなことまで咎められるのかとゾッとしました」

■サクラ投稿に反対すると「会社を理解する意識がないなら」

 Aさんは入社後、人事部の先輩社員と定期的に面談をしてきた。そのなかで“サクラ投稿”についても反対意見を伝えたことがあった。X氏はそうしたAさんの発言について、こう戒めた。

X氏 「この会社の事を好きにならないと仕事は続かない、会社を理解しようという意識がないと。その気持ちがないならいる意味ないからね」

X氏 「仮に会社に意見する時には、ある程度知識やスキルがあって自分に代替案があって言うべき。何もないのに文句言ってる人って相手にされないのわかるよね。どうして今まで気づいてくれなかったかなっていうのが現場の声です」

 Aさんにはまったく納得ができない通告だった。

■「就業規則」を見せてほしいと上長に頼んだら…

「たしかに自分の意見を言い過ぎたところはあると思います。学生気分が抜けきっていない態度もあったかもしれません。そこは反省しないといけないところだと思います。でも、会社を好きになるということが“サクラ投稿”や差別発言に異を唱えないということなら、それは違うんじゃないかと思いました。だからどうしても納得がいかず、この場で自分から退職しますとは言えませんでした。

 まずは自分のどの行為が退職を勧められるほど悪いことなのかを確認したかったため、『就業規則』を見せて欲しいと研修先の上長に頼みました。すると『情報が古くて更新しないといけないから待ってくれ』と言われたまま、見せてもらえませんでした」

 DHCに長く勤める社員が説明する。

「DHCの就業規則は各ビルに1〜2冊程度しか置いてありません。預かる部署が決まっていて、それ以外の人は申し出て読むのですが、複写は禁止なのでそもそも就業規則の存在を知らない社員がほとんどです」

 最初の面談が行われた3日後の12月21日、Aさんは再度X氏に呼び出され、面談を受けた。Aさんは「自分にはDHCで働く意思があると何度も主張しましたが、結局は退職勧奨となりました」と肩を落とした。

「この面談を受けている最中から、動悸が止まらなくなってしまうことが増えました。面談中もそうですし、働いているとき、道を歩いているとき、家にいるときに胸が大きく脈打って呼吸がしづらくなってしまうんです。怖くなって精神科を受診したところ、重度抑うつ症状が顕著だと診断されました。そこで、会社にも必要とされていないし、もう、DHCは辞めようと思いました」

■失業保険が下りる「解雇」を希望すると…

「Xさんには自主退職を勧められていましたが、社会人になったばかりで貯蓄もありませんでしたし、親に迷惑をかけるのも気が引けたので、失業保険が下りる『解雇』にしてくださいとお願いしました」

 そして12月28日の昼、AさんはX氏に電話をかけた。解雇が言い渡されるのだろうと覚悟していたAさんに伝えられたのは「懲戒解雇」。その後すぐ、Aさんの自宅に懲戒解雇通知書が郵送で届いた。そこにはこのように書かれている。

《懲戒解雇通知書

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 所属 人事部付き

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 氏名 A(書面では本名) 殿

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 解雇年月日 令和2年12月28日

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 解雇の事由 上司及び周囲に対して無礼且つ粗暴で協調性に欠く言動を繰り返し、会社の批判を内外に吹聴するなど、会社内の風紀秩序を著しく乱し、円滑な業務遂行を阻害したため。また、自己本位な性格等から職場に適する能力を著しく欠いており、将来も改善の見込みが無いため。

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 就業規則該当条文 従業員就業規則第46条第2項(第2号、第3号、第4号、第7号)により懲戒解雇とする》

 Aさんは「解雇扱いにしてほしいとは言ったが、まさか懲戒解雇になるとは思ってもみなかった」と困惑を隠せない。

「就業規則を見せてもらえていないので、第46条が何にあたるのかわからなかったのですが、《協調性に欠く言動》や《自己本位な性格等》は、上司に何度も“サクラ投稿”や会長の差別発言についての批判的な意見を言っていたことを指しているのかなと思います。

 ですが《会社の批判を内外に吹聴するなど》という箇所が、どんな行為を指しているのかまったくわかりませんでした。もしかしたら、先ほどお話ししたDHCへの批判的な投稿をTwitterで1件リツイートしたことかなと思ったのですが、さすがにそれが懲戒処分にあたる行為だとは思えなかったので……」

 Aさんは戸惑っていたが、「28日の夜にその理由がわかった」という。

■Aさんにかけられた事実無根の嫌疑

「実は12月28日昼に懲戒解雇の知らせを受けたとき、Xさんから『会長が「文春に情報を出したのはAさんだね」って仰っていましたがご存じですか?』と聞かれたんです。その時はわけがわからなかったのですが、夜にネットを見て『ああこのことか』とやっと合点がいきました」

 Aさんが見たのは、12月28日20時に公開された「文春オンライン」の DHC内部告発記事 だ。取材班は12月25日にDHCへ事実確認をするための質問状を送付しているため、DHC側は社内事情に詳しい関係者が吉田会長の差別発言や“サクラ投稿”について告発していることは知っていた。吉田会長らは、かねてよりDHCに対して批判的な意見を言っていたAさんが内部告発者であると考えたのだろう。

 しかし、取材班がはじめてAさんと連絡をとったのは記事公開後、年が明けてからだ。Aさんにかけられた嫌疑はまったくの事実無根なのである。

「28日は『文春オンライン』の記事が公開された日で、しかもボーナス支給日だったんです。人事からは事前に『28日付で辞めたとしても賞与支給対象』だと伝えられていたのですが、懲戒解雇だったためか、その後に賞与が振り込まれることはありませんでした」

 懲戒解雇という処分にどうしても納得のいかなかったAさんが弁護士に相談したところ、「まずは質問状を送ってはどうか?」とアドバイスを受けたという。

「懲戒解雇に至った事由に思い当たるところがなかったので具体的な理由を聞きたいこと、就業規則を閲覧させてほしいこと、失業手当給付のために離職票を発行してほしいことを明記して、弁護士の助言をもらいながら1月7日に質問状を送付しました。今後の転職活動にも影響するので、少しでも納得のいく回答が得られればと思って……」

 DHCからは吉田氏の名前が入った回答が約1週間後に届いた。解雇の事由は懲戒解雇通知書に書かれていたものと同様だったが、該当する就業規則の条文が明記されていた。

《従業員就業規則第46条第2項第2号(本規則にしばしば違反するとき)、第3号(素行不良にしてしばしば会社内の風紀秩序を乱したとき)、第4号(故意に業務の能率を阻害し、又は業務の遂行を妨げたとき)、第7号(業務に不熱心なとき)》

 Aさんは回答書を読み、更に混乱したという。

「僕のどんな行動が懲戒処分に該当したのかを聞きたかったのですが、それは叶いませんでした。懲戒解雇にあたる“しばしば”とは、一体どの程度なのでしょうか……。回答書を読んで、もっと混乱してしまいました」

 東京労働局の担当者に話を聞いた。

「労働契約法第16条に『解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする』と記されており、この点に照らし合わせて不当解雇かどうか判断します。

 また、労働者が就業規則の開示を求めたにもかかわらず開示しなかった場合は、労働基準法第106条の就業規則を、『常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない』に違反することになります」

 労働問題に詳しい神奈川総合法律事務所の嶋崎量弁護士は「この場合は不当解雇にあたる可能性が高い」と解説する。

「解雇事由を見た限りの判断にはなってしまいますが、Aさんの解雇事由は懲戒解雇に値するものだとは到底思えません。『無礼且つ粗暴で協調性に欠く言動』や『業務遂行を阻害』などの素行不良について言及されている部分は、具体的な懲戒にあたる事実が示されず、社内での一方的な『評価』で、合理性があるといえるのか疑問です。また、懲戒解雇処分をするには、その重い処分に相当する行為でないと処分が有効にはなりません。新入社員の態度が少し悪かったり、社の方針に異を唱えたりくらいでは、懲戒解雇どころか、より軽微な懲戒処分にすることすら疑問です。

 懲戒解雇は労働者にとっての死刑判決と例えられるように重い処分ですから、会社の方針について異を唱えた人間を排除し、社内に見せつける意味で懲戒という不当なレッテルを張ったのではとも推測できます。仮にまっとうな批判をしても処分されるなら、労働者はまるで『奴隷』扱いで、会社の対応は疑問です」

■DHC会長の回答「反日メディアには答えない」

 Aさんは現在、資格の勉強などをしながら、転職先を探す日々を送っている。しかし1月7日には東京都に2度目の緊急事態宣言が発令され、1日の感染者が1000人を超える状況下での転職活動は予想以上に厳しいという。

「長く働きたいと本気で思っていた会社だったから、ステマや人種差別など間違っていることは間違っていると正したかった。ここにいるのが恥ずかしいと思いながら働きたくなかった。でも結果、こんなことになってしまいました。転職先にと考えていた企業からは、懲戒解雇された旨を伝えたら連絡が取れなくなりました。こんな肩書のついた新人をどこの会社が採用したいと思うでしょうか。着手金なしで相談に乗ってくれる弁護士の先生を頼り、会社と闘おうとは思っていますが、途方に暮れる毎日です」

 DHCに事実関係を確認したところ、人事部から以下の回答があった。

「Aさんの懲戒解雇に関しては、現在係争中なので回答を差し控えます。Aさんが12月まで本配属が決まらなかったのは本人の能力不足と周囲との協調性のなさ等が理由で配属できる基準に達していなかったからであり、就業規則は各事業所で閲覧できる状態なので拒んだわけではありません。また、文春への情報提供に関しては、情報提供者だと判断したわけではなく『提供したのか?』と聞いただけです」

 吉田会長にもインタビュー取材を申し込んだが、吉田氏は「文藝春秋は反日メディアなので取材には答えない」と回答するのみだった。

 1月26日(火)21時〜の「 文春オンラインTV 」では、担当記者が本件を含め、これまでの「DHC問題」について詳しく解説する。

《DHC人事部の退職勧奨音声》「差別発言は問題じゃない」サイト批判の新入社員を懲戒解雇 へ続く

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

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