「キリストは中国女性に転生した」中国新宗教”全能神”の謎…勧誘拒否者撲殺事件の真相とは

「キリストは中国女性に転生した」中国新宗教”全能神”の謎…勧誘拒否者撲殺事件の真相とは

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トランプ支持とコロナデマを生む「Cアノン」筆頭…反共気功集団”法輪功”セミナー潜入記 から続く

 キリストが中国人女性に転生したという教義を信じる「全能神」は、1990年代から今世紀にかけて勢力を伸ばした中国のプロテスタント系新宗教だ。2014年には山東省のマクドナルドの店内で、勧誘を拒否した女性を信者たちが撲殺したとされる事件も、中国メディアにより報じられている。彼らは当局からは「邪教」として弾圧を受けており、中国国内では地下活動を余儀なくされる「秘密結社」化した存在となっている。

 中国ルポライターの安田峰俊氏は著書『 現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史 』(中公新書ラクレ)で、日本国内で暮らす信者へのインタビューをおこなったほか、全能神が成立した経緯とその教義の性質にも切り込んでいる。同書から一部を抜粋・再編集して紹介しよう。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

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■中国の「邪教」筆頭へ

 中国におけるプロテスタントは、三自愛国委員会という政府系の組織により統括され「中国共産党の指導」を仰ぐタテマエになっている。それに不満を持つ数千万人規模の信者たちは、家庭教会(地下教会)と呼ばれる非公認教会に集って信仰を守ってきた。だが、当局の弾圧のもとで正確な神学知識を学ぶ機会が限られ、また地下活動による閉鎖性の強さもあって、中国の家庭教会は数多くの「異端」的な教派やカルト的な新宗教を生む母体にもなってきた。

 今回の記事で紹介する全能神(東方閃電、実際神)も、中国の家庭教会をルーツとして生まれたプロテスタント系新宗教のひとつだ。中国公安部からは、法輪功と並ぶ「邪教」の筆頭格として強い警戒と取り締まりの対象となっている。

 まずは中国公安部の内部資料とされる「邪教「実際神」の活動情況及び工作要求」(2001年3月6日付)から、当局が把握している全能神の性質について見ていこう。

〈邪教「実際神」(またの名を「全能神」)は黒龍江省の元「呼喊派」幹部メンバー趙維山が1989年に創設した。趙はかつて1989年に黒龍江省阿城(現・ハルビン市阿城区)に「永源教会」を違法に建て、「能力主」を自称し、1000人近い群衆をペテンにかけていたことがある。

 1991年にかの組織が現地の公安機関によって法に則った取り締まりを受けた後、趙維山はまた(組織名を)「全権」に改称して河南省などに潜伏、「「能力主」の時期はまもなく終わる、イエスはふたたび肉体をともなって姿を現した。(再臨にあたり)女性であることを選んだ、すなわち「実際神」である」などといったデマを広め、「実際神」の組織を設立し、その活動は黒龍江省・河南省・広東省・江蘇省・江西省などの10あまりの省や直轄市に及び、万を超える群衆をペテンにかけている。「邪教「実際神」活動情況及工作要求(絶密)」『中国宗教迫害真相調査委員会』〉

 文書に出てくる「呼喊派」(欧米圏の呼称は「シャウターズ」)とは、中国の家庭教会から生まれた神秘主義的な傾向が強いプロテスタントの教派だ。敬虔な信徒たちが「阿門(アーメン)」などと神を称える言葉を呼喊(よびさけ)ぶことでこの名で呼ばれ、文化大革命からほどない1983 年の時点で、はやくも当局から「邪教」認定を受けた。

■全能神たる「女キリスト」は、共産党「サタン」との戦いに勝利する

 全能神の事実上の創始者・趙維山は、この呼喊派の影響を受けて全能神を立ち上げている。

 全能神の教義の特徴は、キリストが中国人女性として再臨したとする信仰に加えて、人類の歴史を「律法」「恩典」「国度」の三時代に分ける、「神三歩作工」(神のはたらきの三段階)と呼ばれる独自の歴史認識を持つことだ。

 すなわち、天地創生をおこなったエホバ(ヤハウェ)の時代が「律法の時代」で、ナザレのイエスが布教活動をおこなって以降が「恩典の時代」──。と、ここまでは既存のキリスト教が説く内容と比較的近いのだが、全能神はその後に、キリストが中国人女性として復活した現代を「国度の時代」と位置づけている。そして、やがて全能神である女基督(女キリスト)がサタンとの戦いに勝利して人類を救済すると考えているのである。

 さらに全能神は、「恩典の時代を担ったイエスは、人びとに贖罪と愛の教えを説いたがために、最終的にサタンとの戦いに勝利をおさめることができなかった」「国度の時代は、神による征服事業であり、サタンに勝利するために人びとは女基督に服従しなければならず、自分〔=女基督〕に従う者のみが最後の審判をまぬがれることができる」と考える終末観を持つとされる(『結社が描く中国近現代史』)。

■あまたある新宗教から「邪教」の筆頭格に

 そんな全能神が、中国国内で「邪教」として明確に定義づけられたのは1995年である。これは法輪功をはじめとする気功の各派が活動を制限されはじめたのとほぼ同時期だ。中国では1980年代からオカルトブームが社会を席巻していたのだが(詳しくは 本書 参照)、当局はこのあたりの時期から取り締まりの方針に傾いていったのである。

 1995年11月、中国共産党中央弁公庁と国務院公庁が出した「「公安部の“呼喊派”などの邪教組織の調査取り締まりに関する情況および工作意見」の転載発令に関する通知」において、呼喊派とその系統の新宗教である常受教・中華大陸行政執事站・能力主・実際神(=全能神)、さらに門徒会・全範囲教会・霊霊教・新約教会・主神教などのキリスト教系新宗教と、東洋思想系の観音法門の合計11団体が名指しで「邪教」指定を受けた(その後ほどなく、筆者が 以前の記事 で書いた真佛宗もこれに加えられている)。

 この時点では、中国当局はむしろ呼喊派の取り締まりに重点を置いていたとみられるが、その後に当局が「邪教」リストを更新していくたびに、全能神に対する当局のマークは強まっていく。

 やがて山東省で全能神関係者によるマクドナルド殺人事件(後述)が発生した直後の2014年6月4日、中国公安部系の組織とみられる反邪教聯盟によって最新の「邪教」リストが発表され、全能神はこのときから筆頭格の扱いを受けることになった。

 今世紀に入るころから、中国共産党は「邪教」問題を、新疆やチベットの少数民族独立運動と並ぶ、体制の安定を揺るがす警戒対象であるとみなしている。また、1999年の中南海包囲事件以来、中国ではながらく法輪功が「邪教」の代名詞的存在だったが、2014年6月以降は全能神がこれに取って代わるようになった。

■マクドナルドで勧誘拒否の女性を撲殺

 現在の中国当局の全能神に対する認識も、当然ながら非常に厳しい。

 たとえば、やはり当局系のサイトと見られる『反全能神聯盟網』に2019年5月31日付けで発表された「全能神邪教を防ぐハンドブック」は、全能神が「「世界の終わり」などのデマをばらまいて恐怖のムードを作り出し」、「信徒を扇動して肉親の情を捨てさせ社会から遊離させ、少なからぬ家庭を滅茶苦茶にし、甚だしくは罪なき人間を惨殺して」いる凶悪な破壊的カルトであると再三強調する。

 この文書いわく、全能神の主要な害悪とは、暴力による殺人、全財産の寄付、信者と連絡がつかなくなる、家族の崩壊、中国共産党と中華人民共和国政府に対する攻撃、正統な宗教の破壊……などである。なかには、全能神信者の母親が宣教の邪魔だからと生後3ヵ月の娘を殺害した、信仰のために家庭から失踪して15年が経過した、全能神信者になった母親が子どもを勘当したなど、非常に陰惨なエピソードも数多くみられる。

■住んでいた家の壁には「残殺」「虐殺」「なぐれ」の文字も

 もっとも、中国共産党が政治的な敵対者に対して、多分にデマを交えた徹底的な中傷を展開することは、往年の反日デモの際の日本企業バッシングなどでもお馴染みだ。

『反全能神聯盟網』の主張は、相当な脚色が施されている可能性が高く、充分に注意して読む必要がある。

 ――しかし、プロパガンダではなく事実だとみられる過激な事件も起きている。

 その代表例が、2014年5月28日に全能神の信者を名乗る男女が起こした「山東省招遠市マクドナルド殺人事件」だ。まずは報道をベースに事件の概要を見ておこう。

〈 山東省煙台招遠市内のマクドナルド店内で5月28日、男女6人が女性を取り囲んで殴り続けて殺害した事件で、中国の警察当局は同月31日、「容疑者6人はカルト集団の構成員だった」と発表した。容疑者6人と殺害された女性に面識はなく、勧誘のために電話番号を聞かれたが拒否されたことで暴行が始まったとされる。中国メディアは6人が所属していたとされる新興宗教集団「全能神」の危険性を強調する記事を配信しつづけている。

 事件発生は5月28日夜。殺害されたのは今年36歳になる女性の碩燕さん。夫と7歳の息子、夫の母と暮らしていた。28日夜には市内のマクドナルド店で夫と息子とともに食事をした。その後、夫は息子を遊ばせるために、先に店を出た。呉さん1人が店に残った。「惨劇」は約20分後に発生した。

 店内にいた「全能神」の信者である男女6人が、呉さんを入会させようと勧誘。電話番号を尋ねたが、呉さんは応じなかった。すると6人は呉さんを囲んで殴り始めた。店関係者や他の客が止めようとすると、殴りかかられたという。

 警察官が駆け付けた時、6人は呉さんを引き倒して、全身をけったりアルミ製のパイプで頭部を殴りつけていた。6人は警察官にも殴りかかるなどで抵抗した。応援の警察官が多数駆けつけ、近くの大型店舗の警備員も協力して、6人を取り押さえた。呉さんは病院に搬送されたが死亡した。

 容疑者6人のうち成人の男は1人で、娘2人と未成年の息子、さらに家族関係はない女2人。警察は刑事責任を問えない未成年者1人を除く、5人の身柄を拘束した。

 警察によると、6人は同じ家に住んでおり、周辺住民への聞き込みにより、5月28日の事件発生以前に、犬を殴り殺すなどしていたことが分かった。また、住んでいた家の壁に貼っていたボードには「残殺」、「虐殺」、「なぐれ」などの文字が残されていた。

『サーチナ』「マクドナルド店内撲殺事件で中国各メディアが〈反カルト〉記事掲載」2014年6月2日

 ※原文の明らかな誤字脱字は修正した〉

■主犯のメンバーには死刑が言い渡された

 中国国内の他の報道によれば、全能神の信者である6人の男女がマクドナルドの店内で客たちに無差別に電話番号を聞いてまわり、それに応じなかった被害者女性(37歳とする報道も多い)を、突然「邪霊」であるとして撲殺したとされる。犯人グループの主犯格は50代の男・張立冬で、さらに彼の娘の張帆と張航、息子の張某(未成年)、女性の呂迎春、張巧聯らであった。

 逮捕後、張立冬は自身が過去7年来の全能神の信者であることを認め、国営放送CCTVはその証言を大きく報じた。他のメンバーが全能神の書籍を読んでいたことも明らかにされた。その後、裁判を経て2015年2月に主犯の張立冬とその娘の張帆に死刑が執行され、残る成人三人にも終身刑を含む懲役刑が下された。

■当局の「邪教」摘発キャンペーン?

 もっとも、事件については中国国内メディアの報道をベースにせざるを得ず、情報に強いバイアスがかかっている可能性がある。念のために別の見解も紹介しておこう。

 たとえば、全能神に好意的な姿勢で知られるイタリアの学術団体CESNUR(新宗教研究センター)の雑誌『The Journal of CESNUR』に論文を寄稿しているアメリカやオーストラリアなどの宗教学者たちは、張立冬ら犯人グループの正体について「全能神の元信者」「全能神を名乗った別の教団の信者」といった当局発表とは異なる見立てを発表している。同じくCESNUR系で中国国内の宗教迫害ニュースを専門に扱っているウェブニュースサイト『Bitter Winter(寒冬[ハンドン])』(日本語版あり)も、事件について全能神無罪説を主張する記事をしばしば掲載している。

 もちろん全能神の教団自身も、事件の犯人は自分たちの信者ではないと主張している。確かに、犯行グループのメンバーに「神の化身」を称する女性二人が”本当に”含まれていたことは、全能神の教義(本書中で詳述)とは矛盾があるように感じなくもない。

 また、事件発生から4日足らずで当局が全国規模の「邪教」摘発キャンペーンを大々的に展開したり「邪教」リストを更新したりした点も、ずいぶん用意周到だ。捜査前から準備を進めていなければ、これほどの速度で大規模なプロパガンダを打つことは困難だろう(ちなみに1999年の法輪功弾圧の場合、彼らが中南海包囲事件を起こしてから摘発の開始まで約3ヵ月間の準備期間が置かれた。信者の人数や事件の性質が異なるので全能神のケースとの単純な比較はできないが、扱いは明らかに異なっている)。

■西側各国の主要メディアでも報道された

 とはいうものの、張立冬以下の犯人グループが全能神の関係者であることは、中国の国内報道を引用する形ではあるが、イギリスのBBCやアメリカのCNN、ロイター、『ニューヨーク・タイムズ』などの西側各国の主要メディアでも伝えられている。ひとまずマクドナルド事件については、国際的には全能神の関係者の犯行であるとみなす認識が一般的だと考えていいだろう。

 ※なお、マクドナルド事件について全能神無罪説を主張する論文を掲載した『The Journalof CESNUR』の発行元であるイタリアの学術団体CESNURは、全能神のみならず世界平和統一家庭連合(統一教会)やサイエントロジー、日本のオウム真理教、韓国の新天地イエス教証しの幕屋聖殿(新天地教会)などの社会的に物議を醸かもしている各種の新宗教や破壊的カルト、欧州のネオナチなどにも容認的な姿勢を取っており、欧州社会では彼ら自身に対する批判が少なくない。いっぽう、CESNUR傘下のウェブニュースサイト『Bitter Winter』は、アメリカ国務省や日本の法務省が中国の人権弾圧問題の参考資料として用いるなどしており、国際世論に対して一定の影響力を持っている。マクドナルド事件の真相は、論じる者の政治的立場によって評価が変わる問題だと言えそうだ。

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※本記事は2020年2月6日刊行の『現代中国の秘密結社』(下部リンク参照)の一部を、編集のうえ抜粋したものです。また、著者の安田氏のもうひとつの安田氏の新著、群馬県のベトナム人豚窃盗問題と技能実習生問題の真の闇を暴く『 「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』 (KADOKAWA)も2021年3月2日刊行予定!

(安田 峰俊)

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