コロナ病床不足でも「民間病院」活用が進まない“一目瞭然のデータ”公開《受け入れで24%が入院収益減》

コロナ病床不足でも「民間病院」活用が進まない“一目瞭然のデータ”公開《受け入れで24%が入院収益減》

菅総理 ©文藝春秋

 菅義偉首相は2月2日、プロンプターを初めて使用した会見の中でこう述べた。

「重症者をはじめ、必要な方が適切な医療をきちんと受けることができるよう、医療体制の確保にも全力を挙げてまいります。現場の方々が財政面で躊躇することのないよう、また新型コロナ患者を受け入れる医療機関が損失を被ることのないよう、しっかりと支援してまいります」

 11都府県のうち、栃木県以外の10都府県について3月7日まで緊急事態宣言を延長するとした菅首相の記者会見。首相は「コロナ患者を受け入れる医療機関への更なる支援」について強調した。

■受け入れ医師の悲痛告白「医者も看護師もバーンアウト寸前」

 しかし、「言うは易く、行うは難しですよ」と嘆くのは、コロナ中等症・軽症患者を受け入れる、首都圏にある病院の医師だ。現場の「医療ひっ迫」の現状は「全く収まる気配がない」という。

「1人が退院しても、またすぐに新しい患者がベッドに入ってくることの繰り返しで、実感として患者は全く減っていない。医者も看護師もバーンアウト寸前です。あまりに忙しいうえに、物資も不足していて、本来なら感染防止のために使い捨てにしなければならない医療用ガウンを使いまわしたりしています。

 病院内は感染者がいる区域といない区域でゾーニングされていますが、患者の数に対してベッドの数が足りないので、コロナに感染している可能性が限りなく高いと思われるPCR検査結果待ちの患者とコロナと全く関係ない理由で入院している患者が、同じ病室に入っていることもあります。こうした部屋は、ほぼ密室に近い状態で管理されるため同室患者の感染確率はかなり高くなってしまい、実際に同室患者全員が陽性となったこともあります。さらに病床によってはマスクをしていない患者がいることも多いので、それも感染拡大につながっているかもしれません」

 1月27日時点で東京都のコロナ病床使用率は全入院患者数で73%(2933床使用/4000床)、重症者用病床に限っては113%(567床使用/500床)。東京都では2月2日の新規感染者数こそ556人だったが、入院中の重症患者は129人に上り、依然高止まりの状態が続いている。

■病院の総ベッド数のうち、コロナ対応に使われているのはわずか2%

 さらに新型コロナウイルスに感染した自宅療養者は全国で3万5000人に上る。入院が必要と診断されたが入院できず、やむを得ず自宅にいた結果、死亡してしまうケースが出るなど、緊急事態宣言が出ている11都府県のうち7都府県では少なくとも18人が療養中に死亡した。また、重症を脱し、症状の落ち着いた患者の転院先が見つからず、新たな重症患者を引き受けることができない事態が生じるなど、「コロナ病床の不足」は深刻な社会問題となってきている。

 どうすれば十分な数のコロナ病床を確保できるのか。問題の根本は「一部の病院やスタッフに負担が集中していることだ」と指摘するのは、元厚生労働省医系技官の木村盛世氏だ。

「新型コロナ患者を受け入れている医療機関、そしてその医療従事者は非常に厳しい状況にあります。しかし、“コロナに対応していない病院”にはまだ余裕があります。実は日本の病院の総ベッド数は約160万床もあるのですが、そのうち現在、コロナ対応に使われているのはわずか2%の約3万床です。この“使われていない98%の病床”をどううまく稼働させるかが、今後の重要なポイントなのです」

■コロナ対応において病床数だけに注目するのは適切ではない

 その“使われていない98%の病床”の多くは、中小規模の民間病院やクリニックのものだ。現在、コロナ患者を受け入れているのは公的病院や公立病院が主で、「民間病院」でのコロナ患者受け入れは思うように進んでいない。この「民間病院」は全病院の8割を占め、病床数も全体の6割近くを占めているのだ。

 病院経営コンサルティングのグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)の渡辺幸子代表が、その理由を説明する。

「その背景には二つの理由があります。まず、各自治体が、日本の8割を占める民間病院にコロナ受け入れを要請することしかできず『指揮命令』することが困難なことがひとつ。もうひとつは、日本は病院・病床数が多すぎるがゆえに、医師や看護師などの人的資源が分散し、一病床あたりの医療資源が非常に薄い状態で治療せざるを得ない状況にある点です。そのため、ケアに手がかかるコロナ患者を診る場合、病床はあっても医療者が足らず、病院毎にコロナ患者用に確保できる病床数が限られてしまうという事情があるのです。

 コロナ患者を受け入れる場合には、専?の治療に対応できる医師の在籍が必要ですし、看護師も通常より2〜3倍の人数が必要になります。重症患者の対応では人工呼吸器や人工心肺装置ECMOなど高度な医療機器と集中治療室、そしてその治療にあたる集中治療専門医も欠かせません。

 コロナ患者の治療にはこのように重症度に応じた医療提供体制の条件を考える必要があります。中等症までのコロナ患者受け入れには医師・看護師の体制整備のために少なくとも病床数200床以上の規模の病院であることがひとつの目安になると考えます。その条件を満たす病院の数は、私どもの推計では、民間病院全体のわずか7%の469病院です」

■コロナ患者を受け入れると、経営が成り立たなくなってしまう

 しかし、その7%の民間病院でも、コロナ患者を受け入れるかどうかの対応は分かれている。都内でコロナ患者を受け入れる民間病院の医師が打ち明ける。

「民間病院でコロナ患者の受け入れが進まないのは、まず第一に、コロナ患者を受け入れると、経営が成り立たなくなってしまうからです。われわれも患者の命は救いたい。しかし、コロナ患者を受けいれる措置を講じるだけの金銭的余裕は今の民間病院にはとてもない。コロナ患者を診たくても診られないというのが実状です」

■受け入れた病院の24%、受け入れていない病院の17%が収益減

 前出の渡辺氏がデータを挙げて病院の「窮状」を説明する。

「コロナ禍では、コロナ患者の受け入れに拘わらず、多くの病院の収益が大幅に減少しているという現状がまずあることを理解すべきです。私どもが全国の334病院を対象にした分析調査では、減少幅がピークだった第一波の2020年5月の入院収益減少率は、2019年5月と比べて、コロナ患者を受け入れている病院が24.0%。一方、コロナ患者を受け入れていない病院でも入院収益は17.1%減少でした。

 つまり、もともと35%の民間病院の経営が赤字である状況の中、コロナ禍でさらに経営が悪化した。第一波の時は、コロナ患者を受け入れなくても、病院の収益は減ったが、コロナ患者を受け入れると収益減がさらに拡大したのです。コロナ患者を引き受けるか、引き受けないか、どちらにしても収益が減った理由には、コロナ以外の感染症(肺炎、インフルエンザ、ウイルス性腸炎など)が激減したことや、病院を受診することによる感染を恐れて不要不急の受診を控えたことなどがあります。

 国は、日本で8割を占める民間病院にもコロナ患者の受け入れを期待していますが、こうした状況では、自治体病院のように経営に補填できる補助金が期待できない独立採算の民間病院に対して『コロナ患者を受け入れよ』と言ってもなかなか難しい話です。

■医師の善意だけでコロナに立ち向かうのは困難

 コロナ患者の対応には専用の病棟や病室を設置するのですが、通常患者との動線を区分けできなければ、一般患者を制限することになり、その分収入が減ります。さらにコロナ患者には看護師を手厚く配置しなければならず、その分通常患者の受け入れを制限することになり、受け入れ患者全体としては減少し、病院全体の経営を圧迫してしまう。さらに、コロナ患者を受け入れるとしたら、クラスターの発生やコロナ対応を恐れる職員の離職などのリスクを抱えることになります。こうした現状においては、『経営が成り立たなくなっても、病院の使命として患者の命を救いたい』という“医師である経営者の善意”だけでは、民間病院がコロナに対応することは困難だと考えられます」

■政府も医師会も、まずはお金の問題で動くべきだった

 こうした民間病院の「窮状」を打開するために、政府は1月に新型コロナ患者用の病床を新たに確保するため、1床当たり最大1950万円を助成する措置を講じた。また、厚労省は1月22日にコロナから回復した患者の転院を促すため、回復後の患者を引き受ける病院への診療報酬を上乗せすると発表した。入院料に最大90日間、1日あたり9500円を上乗せする。だが、これらの措置によって民間病院経営者がコロナ患者受け入れによる経営悪化リスクをカバーできると判断するかどうかは未知数だ。前出・木村氏は「国の責任の重さ」を指摘する。

「日本の病院は、民間病院が8割ですからコロナ危機に対処するには、民間を含めた医療を総動員しなければなりません。だから政府も医師会も、まずはお金の問題で動くべきでした。ところが、昨年の最初の緊急事態宣言後あたりから、様々なアイディアが民間から出ていたにもかかわらず、国は全く対策を打ち出せませんでした。

 しかし、今からでも遅くはありません。政府予算には5兆円の予備費がありましたし、第三次補正予算でも約19兆円が上乗せになりました。そこからコロナ患者を受け入れた民間病院の損失補填ができるようなさらなる規制緩和を進めるべきです」

 菅首相は会見で明言したように、医療現場への適切な財政支援を急ぐべきだろう。

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(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

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