「遠方の会場でスタッフに囲まれて…」 “無料”をうたう着付け教室が利益を出すビジネスモデルとは

「遠方の会場でスタッフに囲まれて…」 “無料”をうたう着付け教室が利益を出すビジネスモデルとは

©iStock.com

「着物を着てみたいけど、自分一人では着られない…」そんな着物初心者にぴったりの存在のように思える「無料着付け教室」。しかし、なかには悪質な着付け教室もあり、参加者からのクレームがまとめられたサイトも存在している。

 それにしても、なぜ「無料着付け教室」は無料で運営できているのだろうか。ここでは自らも着物を着るノンフィクション作家の片野ゆか氏が、複雑怪奇な着物についてのあらゆる疑問を解き明かそうと奔走した書籍『 着物の国のはてな 』(集英社)を引用。「無料着付け教室」運営のカラクリを紹介する。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

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■受講料無料のビジネスモデル

 染匠株式会社が運営する このサイト (※編集部注:一般消費者が体験した着付け教室・呉服店の口コミ・評判・クレーム事例が投稿されている)には「知らないと後悔する着付け教室の話」という、着付け教室に特化したコーナーもある。ここまでザックバランに業界事情を暴露している会社なら、私が抱く疑問についても教えてくれそうだ。さっそく染匠株式会社に連絡をとってみた。「着付け教室のトラブルの多くは、講師やスタッフによる強制的な着物販売です」というのは、同社広報担当のAさんだ。

 見るだけで勉強になる、コーディネートの勉強をしてほしいなど、着物経験値の向上をたてまえに販売会へ参加させるのが常套手段。とはいっても、今どき軟禁状態で販売なんて、法律的にも難しいと思うのだけれど、それに近いことがおこっているのだろうか?

「過去には遠方までバスなどで行き、見学会のあとに展示販売がおこなわれるケースがあったようです。団体行動なので、ひとりでは帰りづらい環境です」

 Aさんは、熱心な販売と押し売りの区別が難しいのは、生徒のほうも興味ゼロではないからだという。販売目的のイベントとわかっていても、着物が好きで習っていたら、着物や帯を試着してみたいという気持ちを持つのはむしろ自然なことだ。

■着物を脱げない状況で行われる勧誘・商談

「ただ、数人のスタッフにかこまれて勧誘や商談がおこなわれますと、見たいだけの人や買う気のない人は、嫌気がさして苦痛となることもあります。人体に装着されますと自分からは簡単に解くことができないので、そのときは恐怖心に変わるかもしれません」

 聞いていてゾッとした。

 連想したのは、どんなに「いらない」「買えない」と言っても、相手にその声が届かない状況だ。自分では脱ぐことができないなかで、複数のスタッフにとりかこまれて、ローン返済計画をたてるために電卓を叩かれ続けるなんて、まるで拷問かホラーじゃないか。よほど購買意欲がないかぎり、販売会で試着なんかしちゃダメなのだ、とあらためて肝に銘じた。

 なにより怖いのは、着付け講師が売り手に全面的に協力してしまうところだ。初めての販売会で、生徒は引率の先生を頼りにするしかないのに、裏切られた気持ちになるだろう。それとも巧妙な販売マニュアルによって、「せっかく先生が時間をかけて選んでくれたのだから、断ったら悪い」と思わせてしまうのだろうか。

■講師に販売ノルマが課せられていることも

 なぜ、無料や格安の着付け教室でこうしたことがおこるのか?

 Aさんは、大きな問題点は主にふたつあるという。

「ひとつは、講師それぞれに着物の販売ノルマがあることです。達成できなければ、ノルマが自己負担になるケースもあると聞きます」

 もうひとつは、着付け教室の運営にかかる経費をメーカーや卸問屋が負担しているという点だ。

「広告制作費や家賃、光熱費を負担するかわりに、教室運営者にたくさんの生徒を集めてもらい、そこで着物や帯を販売するのです」

 無料・格安着付け教室というのは、先行で負担した高額な経費を着物販売で回収するというひとつのビジネスモデルなのだ。

「どんな着付け教室も、最初は『押し売りはない』と説明します。でも経費負担をするメーカーや問屋がいる以上は、販売なしに運営は成り立ちません」

 こうした仕組みがわかってくると、販売ノルマを課せられる着付け講師もまた、被害者という気がしてくる。

■行ってもいい着付け教室

 それでは、有料の着付け教室に通えば安心かというと、話はそう簡単ではないらしい。生徒が受講料を払っていても、着付け講師に販売ノルマが課せられているケースもゼロではないというのだ。

 同社の公式サイト内で、私がもうひとつ注目したのは、ステルスマーケティングの問題を扱っている記事だ。これは口コミサイトや比較サイトなど、中立的な立場で批評を装い、消費者に宣伝と気づかれないようにした広告宣伝手法で、略称「ステマ」と呼ばれている。

 Aさんは、着付け教室を探すとき、口コミやランキングは「ステマではないか?」という意識を持っておいたほうがいい、と話す。

「信憑性をチェックするポイントは、サイトの運営元がわかりやすく明記されていること、運営元をグーグルで検索して事業内容を確認することです。ただし調べてみても、何をやっている会社なのかわからないことも多いのですが」

 それでは安心できる着付け教室というのは、どんな条件なのだろう?

 個人的には、講師に販売ノルマがないことは、最重要ポイントのひとつだと思う。しかし、Aさんによると「これについては、会社や本人に訊いても教えてくれないので、受講者が確認するのは難しいと思います」と話す。

■着付け教室選び6つのチェックポイント

 ちなみに染匠株式会社が運営する、きものカルチャー研究所について訊くと「販売ノルマは一切ありません」ときっぱり。これは会社によるのだろうが、結局のところ「ない」と断言できるかどうかが、ひとつのポイントといえるのかもしれない。

 きものカルチャー研究所では、全国からサイトに集まった苦情や悩み、体験談などをもとに「健全な着付け教室とは何か、追求した結果を教室運営に反映しています」とAさんは言う。

 そのチェックポイントをまとめてみると、つぎのようになる。

 1 受講料の詳細(入会金、テキスト代、月謝、免状料、受験料)を提示

 2 コースの期間やカリキュラムの内容を公開

 3 授業と販売会は別枠で開催。販売会は原則自由参加にしている

 4 特殊な着付け小物の購入を強制しない

 5 手持ちの着物一枚でコースを修了できる

 6 派手な宣伝活動をしていない

 ちなみに「きものカルチャー研究所」は、入会金3300円、月謝7700円(都市部8800円)、授業は月4回・4か月、修了試験無料(合格率90パーセント)となっている。地方と都市部で月謝が違うのは、家賃を反映したものと容易に想像できて明朗会計な印象だ。授業は初等科の場合、マンツーマンから2名程度の個別指導だという。

「無料やワンコインの着付け教室があるなかで、あまりに高い受講料では生徒が集まらないという厳しい現実があります。低価格で良心的な教室をめざすと、低コストでの運営は欠かせません」

 Aさんは、テレビや雑誌など多額の費用がかかる広告は使わない、賃料の高い駅前の一等地のビルなどに教室を出さない、事務処理をITの導入で省力化するなど、低コストでの運営の工夫についても説明してくれた。

「生徒さんは、ご自宅にあった着物やご親戚などから譲られた着物、リサイクルショップで購入した着物など、それぞれお好きなものを利用されています。素材も正絹だけでなく、ポリエステルや麻、綿など、いろいろです」

 あまりに着物の丈が短いなどサイズに問題がある場合を除いて、手持ちの着物で受講可能というAさん。また同社は着物メーカーでもあり、購入してそのまま着られる既製品の着物が10000円前後、襦袢は5000円前後から取り扱っているという。

 こうした着付け教室は、業界全体ではめずらしいのかもしれないが、探してみれば地域密着型のカルチャースクールの着付けコース、小規模経営の教室、個人運営の教室もあるはずだ。ただそうしたところは派手な広告をうたないだけに、リサーチにはそれなりに時間をかける必要がある。

 これは着物をやりはじめて知ったのだけれど、最近は着付け講師や着物スタイリスト、リサイクル・アンティーク着物ショップのオーナーなどが、SNSを通じて自分の着物姿やコーディネートを公開している。そこから好みの人をフォローして、教室やレッスンの実施について問合せをしてみるのもよさそうだ。

 今どきは、YouTubeを検索すれば「はじめての着付け」「初心者でもできる着付け」などの動画がたくさん出てくる。私自身は、早々に“親戚のおばちゃん”問題(※編集部注:著者自身が着物を自ら着付けた際、似合わない着物を選んでしまったがために鏡に映る自身が老け込んで見えてしまった)にぶちあたってしまったので無理だったが、人気ユーチューバーの運営サイトの書き込みを見ると、動画だけで着付けを覚えた人が少なくないこともわかる。ひとまず着てみたいと思うなら、今やリアルな教室にこだわる必要はないのかもしれない。

「どうしてこんな高額の着物を売っているの?」 それでも格式高い“呉服屋”に行くべき3つのメリット へ続く

(片野 ゆか)

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