コロナ禍で“3割引き”の一等地、絶好調の個人向け不動産…進む不動産業界の「二極化」現象社会 明暗分けるその境界

コロナ禍で“3割引き”の一等地、絶好調の個人向け不動産…進む不動産業界の「二極化」現象社会 明暗分けるその境界

電通本社ビル ©?文藝春秋

 コロナ禍になってから不動産関連のニュースが騒がしい。昨年末にはエイベックスが東京・南青山にある本社ビルの売却を発表し、年明けには電通グループで東京・東新橋にある本社ビルの売却の話が持ち上がった。六本木ヒルズのけやき坂通りのブランド店の撤退や、パソナの淡路島移転の話など、都内の不動産不況のニュースが次から次へと飛び込んできている。

 実際、東京以外の街を歩いていても店舗の閉店が目につく。緊急事態宣言で臨時休業している店もあるため、見た目だけで一概に判断することはできないが、コロナ禍前よりもテナント募集の看板が増えたのは明らかである。感染回避で人が家から出なくなり、消費低迷で店舗に足を運ばなくなったコロナ禍を考えれば、次の借り手はしばらくないと思われる。

■「うちを入れて下さい」

 しかし、千葉県某所に自社ビルを持つ知人にこの話をしたところ、「実はそうでもないんだよ」と声を潜めた。

「昨年の緊急事態宣言時に、1階の大手居酒屋チェーンが臨時休業になったんだよ。そしたらどこで情報を聞きつけたのか、大手コンビニチェーンから連絡があってね。『1階のテナントが空いたらうちを入れて下さい』って言われてさ」

 知人の自社ビルはJRの駅から徒歩30秒ぐらいの近さにある。コンビニが入ったらほぼ間違いなく稼げる。そのオファーがあったせいか、知人には悲壮感が漂っていなかった。コロナ禍で全ての不動産がオワコン化していると思っているのは、どうやら不動産の事情をまったく知らない、私のような素人だけのようだ。

 では、コロナ禍は不動産業界にどのような影響を与えたのか。電通やエイベックスなど売却される一等地にも、先述したコンビニのように、テナントが次から次へと入るのか。こうした「コロナ禍の不動産事情」について、東京と大阪の賃貸物件と不動産売買を30年以上やってきたある不動産会社のベテランA氏に取材を行うことができた――。

■空いた「一等地」の行方

??不動産業界で大きく変わった点は何でしょうか?

「やはり飲食店の撤退です。大手飲食チェーンは店を閉じ、固定費を抑えてコロナ禍をやり過ごそうとしています」

??路面店が抜けると、街は空きテナントばかりになってしまいますね。

「実はそうでもないんです。空いた一等地には別の大手飲食チェーンが代わりに入り始めています。小さな飲食店も頑張っていて、赤坂周辺ではコロナ禍になってからも新規開店やリニューアルオープンするお店が増えています」

■「ディスカウント率でいえば3割引」

??コロナ禍で外食産業が厳しい中、なぜ、出店するんでしょうか?

「コロナ禍前よりも一等地が安く借りられるからです。ディスカウント率でいえば3割引ぐらいでしょうか。その場所を以前から狙っていた企業にとって、今は出店チャンスです。小さな飲食店もデリバリーやテイクアウトなど業態を変化させながら、少人数で運営する方法を見つけ始めており、飲食店の全てが撤退しているわけではありません」

??想像していたよりも飲食店は頑張っているんですね。

「でも、現状は撤退されるお店のほうが圧倒的に多いです。特に昼間の人口は多いけど、夜に人が少なくなる街の空きテナントは増加傾向にあります」

??たとえば?

「神田駅周辺は事務所や店舗ビルが多くて、土日には人がいなくなる街なので撤退するお店が増えています。新宿駅の北側から新大久保方面に抜ける街も空きテナントが増えていますね」

■生き残りのカギは時流に合わせた「業態」

??そういう街だと、居抜きでも入らなそうですね。

「立地条件さえ良ければ、飲食店以外の業態が入るケースも増え始めています。たとえば新橋駅のSL広場前にオープンした『新型コロナPCR検査センター』は、その典型例だと言えます。他にも、撤退した店舗を改装してシェアオフィスや共同事務所として、再オープンする物件も増えています」

??テレワークの普及でシェアオフィスの需要は高まっていますからね。その時流にあった業種業態が、賃貸として新たに入ってくるということですね。

「飲食店に関しても、ファストフードチェーンの撤退が目立ちますが、一方で換気によって感染対策が比較的取りやすい、焼き肉店の出店数は増えています。出張する人が減ってビジネスホテルも苦戦していますが、おそらく今後はマンションに改装される流れになっていくと思います」

■海外の投資家から見れば安定性が高い日本の不動産

??売却される電通やエイベックスの本社ビルも、何か別の業態が入って埋められていくのでしょうか?

「仮に売却される大きなビルがあったとしても、小口の投資家を抱えている機関投資家や外国人投資家が買ったりするので、立地条件のいい一等地のビルはすぐに買い手が付くと思います。海外の投資家から見れば日本の不動産は安定性が高いですし、大箱を求めている元気な企業もまだまだ日本にはありますからね。一等地のビルで新たな入居者を見つけるのに苦労はしないと思います」

■実は絶好調な個人向け不動産

??でも、法人向けの賃貸は業態変化で凌げたとしても、個人向けの不動産はコロナ不況で買い手がつかないのではないでしょうか?

「ところが個人向けの不動産は昨年の春先からも好調で、特に10月頃から絶好調なんです。都内高級住宅地では豪邸のような大規模土地の売買取引が増加し、億ションも調子よく売れています。 賃貸物件の家賃は下落傾向にありますが、不動産物件はその逆の動きをしています」

??なぜ、消費の動きが鈍いのに、不動産の売買は好調なのでしょうか?

「富裕層の所得がコロナ禍でも落ちていないからです。株価の影響もあると思いますが、『コロナ禍でも不動産は下がらない』と分かった富裕層が、一気に買いに走っているのが現状です。あと、サラリーマンは長期化するコロナ禍の影響で今年度から年収が下がり始めますから、今のうちにローンの審査を通しておきたいという人も一定数いて、それで不動産の売買が盛んになっているという背景もあります」

■容赦なく進む不動産業界の二極化現象

??想像していたよりも、不動産業界は好調なんですね。

「そうとも言い切れません。立地や建物のクオリティが高いところはすぐに買い手も借り手も見つかりますが、条件が悪い物件はコロナ禍前よりも明らかに手をつける人が少なくなってきています」

??二極化しているということでしょうか?

「その通りです。駅から10〜20分以上離れたテナントはコロナ禍前よりも借り手がつきにくくなっています。価格を下げても借り手がほとんどつきません。今までは駅から離れた小さな物件でも、飲食店や民泊などのビジネスを成立させることができていましたが、それも海外からの人の往来が減った今では、価格が下がる一方です」

■二極化の境界は…

??二極化の境目みたいなところがあるのでしょうか?

「不動産は地理的要因だけでなく、駅の人気度、地域のブランド、建物の築年やクオリティ等で価格が決まりますからね。境目を断言するのは難しいです。ただ、強いて言うなら都市圏では駅から5分あたりがボーダーラインになっている印象です。分譲住宅であれば12〜13分以内であれば需要がありますが、それ以上離れると厳しいといった感じです」

??二極化といっても、見極めは難しそうですね。

「より良い物件は好まれて、マイナス要因の数が多くなればなるほど需要がなくなっているということです。これからは不動産本来の競争力を見抜くことが重要になってくると思います。たとえばコロナ禍以前では、駅から遠くても『インバウンドが増加しているから少し離れたところでもはじめよう』と郊外にホテルを開業した事案も少なからずあった。そうしたケースでは今後、『そもそもホテルの立地として最適だったのか?』と問われていくと思います」

??コロナ禍前までの不動産はバブルだったということでしょうか。

「用途を超えた無理な不動産に、高い値がつき過ぎていたところは大いにあったと思います。飲食店もしかり、オフィスもしかり、その場所にそこまでの高い付加価値がないのに、借り手が多かったのがコロナ禍前の不動産マーケットでした。しかし、コロナ禍で不動産の価値が適正化されて、本来の価値通りに取引が行われるようになりました。そういう意味でいえば、コロナ禍になって不動産という商売そのものが原点に帰ったような気はします」

■「中途半端なものは売れない」不景気時のセオリー

 取材を終えて思ったことは、消費も不動産も二極化が進んでいるという現実だった。

 たとえば、外出が減って靴は売れなくなっているが、外出そのものが特別な日になった今、1万円以上の高額なスニーカーは好調に売れている。スーパーでは安いもやしと袋麺が売れる一方、高級スーパーでは高額な肉やフルーツを買い求める人が増えている。

 不動産も同じで、付加価値の高い物件には買い手が集まり、価値の低い物件には値もつかない。「中途半端なものは売れない」というのは、景気が低迷した際に必ず起きる消費の流れであり、コロナ禍でその流れが加速したのが、今の不動産業界の現状と言える。

 今後、一等地にはその時流に合った業種や体力のある企業が入り、それ以外の価値の低い物件には、適正価格に相応の業種が入り込むようになると思われる。安い物件でもビジネスが成立するような業種が街の空きテナントに次々に入ることになれば、アフターコロナの世界では、生活様式だけではなく、街の景色も大きく変わってしまうかもしれない。

(竹内 謙礼)

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