スポーツ界のリーダーは何歳が適任か……45歳の私が現場に口を挟むことをやめた理由

スポーツ界のリーダーは何歳が適任か……45歳の私が現場に口を挟むことをやめた理由

開幕戦敗戦後のロッカールーム(公式YouTubeチャンネル「ブロンコスの小屋」より)

 1月に開幕したプロバスケットボールリーグ・B3は第6節までを消化しました。私が代表を務めるさいたまブロンコスは残念ながら8戦全敗。主力選手の故障もあり、単独最下位に沈んでいます。

 厳しいシーズンになるだろう、と予想も覚悟もしていましたが、やっぱり負けるのは純粋に悔しい。新生チームとしての初勝利をなんとかもぎ取ってほしいと願っています。

 ただ、負けを重ねていくなかで、私の心の中には、悔しさを凌駕する、前向きの感情がムクムクと芽生えています。

 このチームが、ここからさらにどんな苦難、葛藤を経験し、どうやって成長していくのか。目先の勝敗よりも、未来に向けたチームづくりのプロセスのほうが遥かに楽しみに感じられてきたのです。

 ブロンコスには泉秀岳という選手がいて、アシスタントコーチとGM的役割を兼任しています。開幕戦では選手とコーチのバランスの取り方に戸惑い、普段なら決められるシュートも入らないような状態になってしまっていました。それでも、日々悩みながらチームを成長させようと、懸命に努力してくれています。

■「外国人を補強しようか?」と声をかけると…

 新型コロナウィルスの影響で、新規の外国人選手が入国できなかったこともあり、新しいスタートを切った新生ブロンコスは、Bリーグのチーム戦略のセオリーといえる「外国人3枚(3選手)」ではなく「外国人1枚」での戦いを強いられています。それでも泉は日本人選手中心のチーム構成の中で、どう強い相手に立ち向かえばいいか、明確な戦略を立て、来季に向けて日本人選手層を厚くしていこうと、知恵を絞ってくれています。

 試合を見ていると、とにかく空中戦を制する強力な外国人選手がいないのが痛い。3枚と1枚では、やはり高さで優位を保てる時間がどうしても少なくなってしまう。いてもたってもいられず、連敗が続くなか私から泉選手に対して「外国人を補強しようか?」と声をかけたことが幾度となくありました。しかし、彼は「まだ必要ありません。むしろ、日本人選手5人でのプレー時間が長くなっていく中で、少しずつブロンコスなりの戦い方が形になってきているので、今のメンバー、今の戦い方でもう少しやってみたい」と、明確な意思を示してくれました。

 確かに勝つことはできていませんが、選手たちが手応えを感じている試合も多くありました。しっかりと未来を見据えて苦境に立ち向かっていく様子を見て、私は「チームのことは泉に任せていこう」という思いを強くしました。

■大切なのは次世代リーダーの成長

 全敗、というのは確かにつらい状況です。スポーツの世界では、勝ちが欲しくて緊急補強に乗り出す、といったようなこともしばしば起こります。それによって「6勝15敗」くらいの、お茶を濁すような成績に持っていくことはできるかもしれません。しかし、そういった応急策は、根本的な解決にならないことがほとんどです。ここまでの8戦全敗を経験しながらわかってきたのは、もちろん目の前の「1勝」を追い求める姿勢は持ちつつも、未来を見据えることがより大切だということです。小手先の補強ではなく、組織としての強度が増すような施策に注力する。

 そのために一番大切なことは、チームと経営のそれぞれに、次世代リーダー人材を成長させなくてはならないことだ、と考えています。

 そこで、チームの代表となって1年も経っていない段階ではありますが、私自身がまず思い切って、一歩ずつ退いていくことを決断しました。

 私があれこれと現場に口を挟むのをやめて、もっと現場に任せる。いろいろと考えさせる。そして、困難や課題を乗り越えていってもらおう、と考えるようになりました。

 たとえばチームの経営に関しては、B2のクラブで社長を務めていた経験もある北川裕崇バイスチェアマンに、ほぼすべてを任せています。

 そして私の役目は、後方支援に重点を置いています。チームが負けつづけ、今季がファンの獲得や事業の拡大につながらなかったとしても、来季を見据えてチームづくりに邁進できるよう、資本政策などを通して組織として持ちこたえられるような最後の支えとなることだと考えています。

 そしてチームは、前記したように泉選手に任せる。北川はきちんと選手側と意思疎通をして、泉が戦いやすい体制を作っていく。そうすることで彼ら自身が考え、伸び、今よりもワンランク、ツーランク上へと成長してくれるのではないか。ふたりとも、このチームの「未来の要」となる人材です。彼らに挑戦の機会を与え、この機にステージアップさせておくことができれば、今の苦境を脱したあとの組織としての成長につながっていきます。

■スポーツ界リーダーは40代が適任

 私はスポーツの世界の社長やリーダーは、40代が適任だと考えています。ただし、後に記す五輪の組織委員会トップの人事などは、政治的要素が絡みすぎるので、なかなかそうはいかないと思っていますが。でも、45歳になる私自身は、さらに次世代の人材を作っていく、その成功例を日本のスポーツ界に示したい。そんな思いを強く持っているのです。

 ブロンコスが目指すべきは、着実に成長のステップを踏み、チームと事業の土台をつくりあげ、その過程をファンにしっかりと示していくことです。目先の1勝、1敗よりも、未来に向けて進んでいる姿がファンの共感を呼ぶ、そう信じて突き進んでいきたい、と思っています。

 視線を向けるべきは、あくまで未来――。これは、東京オリンピック・パラリンピックについても言えます。

 政府は、オリンピックを「コロナに打ち勝った証」と位置づけ、今夏の開催を実現させようとしています。しかし、世論は「中止・延期」が7、8割で、民意がついてきているとは言えない状況です。また、組織委の森喜朗会長の失言に端を発した騒動によって、旗色はさらに悪くなっています。森会長は辞任を表明し、今度は80歳を超える川淵さんへのバトンタッチも画策されましたが、いかにも旧来的な根回し、森会長からの禅譲的な選考プロセスに批判があつまり、一転して政府の方からの圧力で白紙撤回となりました。

■スポーツ界のトップに巣食う保身や忖度

 今回の一連の混乱は、この令和の時代にあっても、昭和の「日本の病」がまだまだ日本の中枢に居座っていることを露呈してしまった、と思います。

 私は2年前、日本のスポーツ界のど真ん中で戦っていたときの葛藤を著書『横浜ストロングスタイル』にまとめましたが、まさにあの本の中で描いたスポーツ界のトップに巣食うしがらみ、保身や忖度だらけの実態が、白日のもとにさらされた、といっていい。

 組織の若返りを図り、次世代人材に思い切って仕事を任せるといった人事のダイナミズムで組織を上昇気流に乗せていく、ブーストをかけていく。

 そんな未来への期待感が全く感じられず、改革を図ろうというポーズすら見えず、ただただ閉塞感だけが感じられてしまう。すべては民意とはかけはなれたところで進む、政界・スポーツ界のドタバタ劇、と感じている人も多いと思います。ただただ、残念としかいいようがありません。

■東京五輪開催は「コロナに打ち勝った証」というメッセージに違和感

 オリンピックについていえば、この騒動以前から、ずっと違和感を覚えていたことがあります。

 オリンピック開催が「コロナに打ち勝った証」というメッセージを、政府や組織委員会はずっと繰り返しています。

 しかしこの言葉は、ただ政府が発したいメッセージに過ぎず、世間一般の人たちのほとんどが、そうは思っていないでしょう。

 そもそもお祭りというのは、お米などがたくさん収穫できたときに行われるもの。コロナ禍でいわば“飢饉”の状態にある今、「飢饉を乗り越えた証に」と言ってお祭りをしようというのは無理な話ではないかと思います。今、我々はコロナとの戦いのさなかにある。乗り越えてはいない。そしてこの夏も、まだ乗り越えた、とは到底いえない状況があるように思います。

 また、「コロナに打ち勝った証」という発想は、正直にいえば、後ろ向きです。民意を振り向かせたいなら、過去ではなく、未来に向けてのオリンピックであることを発信していくべきです。

 もちろん、表面的なメッセージだけではなく、その内実も伴うものにする必要があります。

 わかりやすく言えば、オリンピックの開催によって国民に、概念的な夢や希望だけでなく、実際に物理的で経済的な恩恵・メリットがあるような施策を打って、国民のマインドを大きくシフトする、というくらいのことがなければ、もはや民意が心底オリンピックを受容しないのではないでしょうか。緊急事態だからこそ、普段では不可能なくらい大胆な施策を打つ必要がある、と思います。

■オリンピックのロゴマークを自由に使えるようにしてみたら…

 今必要な発想は、たとえば……。

 オリンピックのロゴマークを、誰でも自由に使えるようにしてみてはどうでしょうか。

 もちろん、その障壁は高く、極めて非現実的な案だということは承知しています。その上での、外部からの振り切った提案です。

 でも、もしロゴマークをはじめとする権利を、今年に限り、また国内に限って、数パーセントのロイヤリティで開放することができるならば、中小企業から商店街のお店単位まで大小様々な事業者が、それぞれにオリンピックと関連付けた商品やサービスを開発することで、直接的な利益を得られる可能性が出てきます。「オリンピックを開催することで元気を取り戻そう」というコンセプトに、国民全体のモチベーションが加わり、説得力が出てきます。

■経営者の目線で考えると、オリンピックはやるしかない

 こういった大胆な施策を掲げながら「今は苦しいけれど、未来に向けて、人類がその一歩を踏み出すオリンピックにしましょう」というメッセージを発信できたなら、今よりは国民の理解を得られるのではないでしょうか(とはいえ、7〜8割の反対を覆すことは容易ではありませんが)。

 とにかく大事なのは、未来志向です。

 こうした未来志向を体現する形であれば、人々を活気づける“元気玉”として、オリンピックを開催する意味があると思います。

 念のために申し上げておくと、私はオリンピック推進論者ではまったくありません。

 ただ、経営者としての観点で考えた場合、今から中止という判断を下すと、莫大な損失だけが残ってしまう。そこにどうしても目が行きます。中止にするなら判断の時期は早ければ早いほうがよくて、それは少しでも出血(損失)が少なくなるからなのですが、もうそのタイミングはとうの昔に逃してしまったように思うからです。

 海外からのオリンピック目当ての観光客については、あきらめざるをえないでしょう。しかし、現状、日本国内のスポーツ興行は入場制限など一定のルールのもとで有観客開催されており、オリンピックも有観客での開催は可能です。

 もう、ここまで来たらやるしかないのではないでしょうか。

 ただ、やるからには、繰り返しになりますが、目の前の困難と非現実的な形で組み合わせた「コロナに打ち勝った証」ではなく、人々がもっともっと前向きになれるような「スポーツ、オリンピックは日本の未来の元気玉」といった理念、とにかく未来に目を向けた理念と仕組みのもとで――。それが私の考えです。

 ワクチンの接種が日本でも始まる見込みとはいえ、コロナ禍は依然として終わりが見えません。ごく一部を除いて、どの業界も大きな痛手を受けています。いわば“全敗”の様相です。あえて言えば、ブロンコスと同じ、といっていいでしょう。

 そのなかで開幕予定日まで半年を切ったオリンピック。

 もし開催するならば、未来への前向きな思いを国民が共有できるよう、狭い利害や常識に囚われず、民意や世間の空気を汲み取っていると感じられる、あらゆる方策を検討してほしい。

 まずは「日本の病」の闇を払拭できるような、大胆な「人事のダイナミズム」を国内と世界に示せたら、民意と世界の空気を大きく変える一手になるのではないか。

 私はそう考えています。

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※さいたまブロンコス公式サイト  https://broncos20.jp/
※池田純オフィシャルサイト  https://plus-j.jp/

(池田 純)

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