金融庁長官は“霞が関一”の教養人 菅首相の“圧力”に耐えられるか

金融庁長官は“霞が関一”の教養人 菅首相の“圧力”に耐えられるか

著書には仏近代彫刻家マイヨールの評伝も ©共同通信社

〈追い詰めない長官 未踏の金融行政は手探り〉

 日経新聞電子版(1月29日配信)に載った見出し。金融庁の氷見野良三長官(60)のことだ。〈追い詰めない〉とはどういうことか。

「菅義偉首相が看板政策に掲げる『地銀再編』についてです」(官邸関係者)

 筆者が入手した資料によれば、氷見野氏は1月14日、第二地銀トップとの懇談の場でこう語っている。

「8月以降、皆様の協力を頂き、週3回程度、ウェブで1対1で面談させて頂いている。スクリーン越しではあるが、お人柄も感じとることができ、大変貴重な機会となっている」

 要は、むやみに地銀を追い詰めるのではなく、経営陣とじっくりと対話を重ねていく方針なのだ。

「地銀の経営環境は地盤や歴史によって様々で、処方箋も千差万別。氷見野氏は再編に頼ることなく、地域課題を解決して経営を強化していく道もあると考えているのです。ただ、こうしたやり方は首相からはウケが悪い。氷見野氏単独では首相とのアポもなかなか取れず、麻生太郎金融相と同席するケースも目立ちます」(金融庁関係者)

 それだけではない。2月末に任期を終える預金保険機構・三國谷(みくにや)勝範理事長の後任人事を巡っても、首相の反感を買った。

■菅首相の“人事介入”

「預金保険機構は地銀再編に欠かせない重要組織。実際、政府は同機構の剰余金を活用し、再編に必要なコストを支援する制度を盛り込んだ金融機能強化法改正案を今国会で成立させようとしています。そんな中で氷見野氏は三國谷氏の再任案を官邸に上げたものの、突っぱねられた。『69歳の三國谷氏は高齢で改革姿勢に欠ける』が理由のようですが、庁内では『これからは金融庁にも人事介入するぞ』という首相の意思の表れと受け止められています。結局、後任は三井秀範・元金融庁企画市場局長に決まりました」(同前)

 強まっていく首相からの圧力。「ただ、それは無理もない話だ」と指摘するのは、金融庁幹部の一人だ。

「氷見野氏は霞が関一とも言われる教養人で、これまで思想書の『 易経入門―孔子がギリシア悲劇を読んだら 』(文春新書)を上梓するなどしてきた。語学力は外務官僚より上です。国際畑が長い反面、政治家との付き合いは乏しい。遠藤俊英前長官が昨夏、氷見野氏を連れ立って永田町を回った際、『氷見野は海外で顔が広いが、政界では知られていないことに驚いた』と語っていたほどです。地銀全体の在り方より目先の結果を求める首相に苦労しているのでしょう」(同前)

〈追い詰めない長官〉が、首相に追い詰められていく。

(森岡 英樹/週刊文春 2021年2月18日号)

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