女性キャスターを逮捕、日が差さない独房で拷問……中国で何があったのか

女性キャスターを逮捕、日が差さない独房で拷問……中国で何があったのか

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 中国は、オーストラリア国籍の女性キャスター成蕾(チェン・レイ)氏(45)を2月5日、「国家機密を違法に外国に提供した」疑いで逮捕した。

 中国湖南省生まれの成氏は10歳で中国人の両親に連れられて豪州へ移住。公立大学を卒業した後、大手飲料会社に勤めていた。だが、ジャーナリストになる夢が忘れられず米ニュース専門局CNBCで上海やシンガポールの特派員に。その後、中国中央テレビへ移籍し、2012年から海外向けのCGTNのビジネス番組でキャスターを務めていた。

 昨春、北京で暮らすシングルマザーの成氏は、コロナ禍で学校閉鎖となり、11歳の長女と9歳の長男を豪州に住む母親に預けた。「豪中の架け橋」として知られた彼女だが、武漢市が感染の隠蔽を図ったという調査記事をFacebookで紹介していた。

 彼女の人生が暗転したのは昨年8月。治安当局によって突然拘束され、日が差さない施設の独房で、拷問に複数回かけられたという。

 9月には豪州人記者2人が中国当局から彼女との関係を聴取される寸前に在外公館に逃れ、緊急帰国した事件も起きた。

 これが報じられると、中国政府は「6月に豪州当局が中国人記者4人を捜査しパソコンなどを押収した」と発表。中国側は報復措置で、成氏を標的にした可能性も。

 一連の動きの背景には「過去最悪」と言われるほどの中豪関係の悪化がある。

■中豪関係が悪化したきっかけ

 親中派の豪州が路線転換したのは18年のこと。中国が政治家への資金供与や企業買収で豪州を侵略する様を描いた、クライブ・ハミルトン教授の著書『 目に見えぬ侵略 』がベストセラーに。中国の工作活動への懸念が高まり、外国のスパイ活動や内政干渉を阻止する法案ができ、次世代通信規格5Gの整備で中国のファーウェイを排除した。

 そして、昨年4月にモリソン豪首相が、新型コロナの発生源などについてWHO(世界保健機関)から独立した調査を要求した。

 中国側は激怒し、国営紙の胡錫進編集長は「豪州は靴の底にへばりついたチューインガム。剥ぎ取ってやらねば」とSNSで煽った。また5月以降、中国は豪州産牛肉やワインなどに高関税を課し、秋には石炭の荷揚げを差し止め、豪貨物船が海上で立ち往生する事態になった。

 豪州にとって、中国は輸出額の3分の1以上を占める最大の貿易相手国で、経済的には痛手だが、豪国民は傲慢な中国に不信感を強めている。豪州は日米印との連携強化を進め、合同海上演習に参加。成氏の逮捕によって、豪州だけでなく世界中に中国への反感が広がることになるだろう。

(濱本 良一/週刊文春 2021年2月25日号)

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