「対面が一番かと言われれば微妙」東大生の75%がオンライン授業に満足する意外な理由って?

「対面が一番かと言われれば微妙」東大生の75%がオンライン授業に満足する意外な理由って?

©iStock.com

 新型コロナウイルスの流行とともに急速に浸透した大学のオンライン授業。しかし、多くの学生からは「授業が身になっている気がしない」「施設利用や教員・学生との交流の機会が奪われている」といった不満が続出した。

 一方で、東大生の7割はオンライン授業に賛成しているという調査結果も発表されている。なぜ東大生はオンライン授業を肯定的に評価しているのだろうか。ここでは『 オンライン授業で大学が変わる コロナ禍で生まれた「教育」インフレーション 』(大空出版)を引用。授業環境の変化に苦心する大学生が数多く存在する一方、大半の東大生がオンライン授業に満足している理由を紹介する。

◇◇◇

 大学生による、大学生の視点に立ったオンライン授業の評価の試みを紹介しよう。東京大学の現役学生が執筆、編集、配信するオンラインメディア「東大UmeeT(ユーミート)」が行った、東大生を対象にした意識調査である。

「(UmeeTの)編集部内で話していて、オンライン授業という初の試みに対する学生の反応はどうなのか、その情報は東大の先生たちも欲しているし、他大の学生も気になっているだろうと。(ニュースとして)需要があるはずだということで調査をはじめました。何より自分自身が興味があり、知りたいと思ったことがきっかけです」

 UmeeT編集部でライターを務める武居悠菜さん(教養学部2年=20年度時点)は振り返る。

■一早くオンライン授業に舵を切った東京大学

 ほとんどの大学が20年度の前期授業の開始を遅らせる措置を取る中で、東大は3月下旬に学事歴(年間スケジュール)を変えない方針を表明、4月上旬から早々とオンラインによる新学期を開始した。武居さんが調査を行ったのは4月下旬と、これも素早い反応である。5月3日にネット上にアップされた記事「実際どうなの? 東大生にオンライン授業の感想を聞いてみた」は、そのタイムリーさもあって大きな注目を集めた。国立情報学研究所(NII)が5月29日にオンライン開催した、第9回「4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム」(第24回から「大学等におけるオンライン教育とデジタル変革に関するサイバーシンポジウム『教育機関DXシンポ』」に改称)に武居さんがパネリストとして招かれ、「学生から見たオンライン授業」と題して調査結果を発表する機会を得たほどだ。

 ちなみにこのシンポジウムは、全国の大学などによるオンライン授業の取り組み事例を広く紹介し、互いに学び合うことを目的として、3月26日の第1回開催以降、精力的に開かれている。さまざまな角度のテーマについて、各大学でキーマンに当たる人たちが報告を行う。試行錯誤が続けられているオンライン授業の“現在進行形”を概観するのにお勧めだ。

 さて、オンライン授業に対する東大生の反応について見ていこう。調査は同編集部のフェイスブックとツイッターを通じたアンケート形式で行われ、70人から回答を得た。

 まずは「オンライン授業に満足していますか」という問いへの回答だ。「満足」と「ある程度満足」を合わせると約75%、つまり4分の3の学生がオンライン授業を支持している。評価する具体的な理由として、記事中で紹介された主な意見を以下に挙げてみよう(漢字表記や語句の用法など、言い回しを若干、原文と変えています)。

■オンライン授業に対する東大生の感想

 ▽ギリギリまで寝ていられる

 ▽学校までの移動が不要なので、キャンパスをまたがって授業が取りやすい

 ▽板書が見えない、教授の声が聞こえないということがない

 ▽自分にとってベストな環境で受けられる

 ▽周囲に無駄なものがないので、対面よりも授業に没入できる

 ▽ちょっとしたことでも質問しやすい

 ▽スライドがPDFで配布される

 東大生に限らず、オンライン授業を受けている学生であれば、どれも納得できる意見に違いない。少し補足しておくと、最後の「スライド配布」というのは、授業ではパワーポイントなどで作られた資料を使用するが、それが事前にLMS(編集部注:学習管理システム)などを通じて配布されることを指す。予習をするのに役立つし、授業に出席できなかった時も、クラスメートに頼んで資料をコピーさせてもらう、といったことが不要になる。

 また、質問のしやすさ、しにくさがオンライン授業の評価に影響しがちなことは、東大でも同じ状況のようだ。武居さん自身、記事の中で「先生がチャット欄などでの質問を積極的に促している授業では、対面の時の3、4倍くらいは先生に対する質問が出ているような気がします」と述べている。リアルの教室で周りの目を気にしながら挙手するよりも、チャット機能などを使ってわからない箇所を聞く方が、心理的ハードルは数段下がるとみられる。

■不満を持っている学生も

 一方、少数派ではあるが、不満を持っている学生も1割いる。調査ではそう考える理由や、改善してほしい点を聞いている。どんな声が寄せられたのかを見てみよう。

 ▽一方的な音声のみの講義は、スライドがあるといえども、ラジオのようで苦痛

 ▽講義ノートを見せて、ただ説明を述べるだけというスタイルはやめるべきだ

 ▽全受講生の顔出し強制。いくら「顔を出して皆さんと議論しましょう」というお達しが出ても、発表者でもないのに顔を出したくない

 ▽授業後にほかの受講者と話しながら帰ることで友達ができたり、勉強になったりすることが多かったので、それがなくなったのは残念。ほかの受講者と仲よくなるハードルは非常に上がった

 ▽友達と休み時間にしゃべったり、聞き逃したところをさっと聞いたりすることができない

 講義スタイルへの不満は、教員がオンライン授業のやり方に慣れる過程で、学生側の希望を取り入れるなどしてブラッシュアップしたり、成功した実践例を共有することで解消していくものと思われる。しかし、後段の「仲よくなれない」「友達としゃべれない」という点は一朝一夕に解決は難しそうだ。

 ただ、リアルなコミュニケーションが取れないという意味では、そもそもコロナ危機によりキャンパスや大学施設への立ち入り、使用が制限されている現状が前提として存在する。オンライン授業、イコール「友達ができない」ということでは必ずしもない。この視点はポストコロナ時代を展望する中で、大学教育のニュースタンダードにオンライン授業をどう組み込んでいくのかを考える時に押さえておくべきだろう。

■6割超が「オンライン継続を」

 オンライン授業の「満足度」調査とは別個に、東大UmeeTの武居さんは所属するゼミの学生を対象に、オンライン授業の望ましい「授業形態」についてもアンケートを取っている。すなわち、▽「ライブ授業」(=同時双方向型)▽「録画配信型」(=オンデマンド配信型)▽「資料配布型」(=課題提出型)のいずれがいいか、である。それをまとめたものが、先述したNIIシンポジウムで発表されているので、併せて見ていこう。結果は以下の通りだ。

 同時双方向型のオンライン授業が圧倒的な支持を受けている。その理由として挙げられるのは、▽質問しやすい▽ほかの人の質問も見られる▽教員との知的交流が可能▽いい意味での緊張感がある、集中できる▽(リアルタイムで視聴するので)生活リズムが崩れない―などだ。その一方、「自分のペースでの学習は難しい」という声もあったという。

 割合は少ないが、オンデマンド配信型を支持する学生が挙げる理由にも説得力がある。いわく、▽通信状況が悪い人でも不利をかぶりづらい▽再生速度を変えられるから(学習の)効率がいい▽聞き逃したところを聞ける▽自分のスケジュールに合わせて見る方が集中できる―といった具合だ。逆に弱点としては「どうせ(配信録画を)ためてしまって見ない」という声が多かった。

 東大のみならず、おしなべて学生に評判が悪いのが、資料をオンラインで配布して個人学習をさせる課題提出型だ。東大UmeeTの調査では「大学に在学する意味は?」とか「図書館も使えないので自主学習が難しい」という意見が上がっている。しかし、一方で「時限に縛られず、個々のペースで学習できる」として評価する声もあった。

 さらに武居さんは、コロナ危機が収まった後のことについても、学生の意見を集めている。講義形式の授業に関して、「オンライン授業を継続してほしい?」という問いに対する回答を見ると、6割を超える学生が、従来の対面授業が全面的に再開可能になってからも、オンライン授業を続けてほしいと考えている。その理由として挙げられるのが、▽移動が不要で効率がいい▽質問しやすい▽自分に合った環境で受けられる―といった内容だ。特に「移動」という時間的、空間的制約が取り払われることを歓迎する声が多いという。

 オンライン授業の「スタンダード化」については、先に紹介した東大UmeeTとしての意識調査に対しても「自由記述」として多く寄せられていた。記事に取り上げられた意見をいくつか挙げておこう。

 ▽大人数が聴講する授業は全面的にオンラインに移行した方が絶対にいいと思う。少人数で密に行うものは対面の方が効果が高いだろうが、マス授業は対面で受けると集中力も途切れがちだし、物理的に見えづらい、聞こえづらいという問題がある

 ▽コロナ収束後も(オンライン授業を)オプションとして提供してほしい

 ▽学生の学びの機会が以前より広がるのではないかと思う

■日本の教育が変わるチャンス

 ところで、調査を行った武居さん自身は、結果をどう見ているのだろうか。本人のオンライン授業への評価や問題意識も含めて、改めて聞いてみた。

――オンライン授業への満足度がかなり高いという結果が出ましたね。

「学期が始まる前は、面白くなさそうだとか否定的な空気だったので、75%が満足しているというのは、正直『多いな』と思いました」

――調査は4月に行われましたが、その後、何か変わったところはありますか。

「最初の頃は通学しなくていい気楽さもあって、オンラインが評価されていたと思いますが、学期が進むにつれて『人恋しさ』や『寂しさ』が出てきて、少し満足度も落ちていった感じがします。オンライン授業自体に不満足だというより、単純に『人に会いたいな』という気持ちではないでしょうか」

――特に前期は東大に限らず、全面オンライン化でキャンパスに通えず、ストレスをためる学生は多かったようですね。

「1年生の不安は大きかったと思います。『情報が取れていない気がする』と言った人がいました。オンライン授業の情報がワンストップですべてわかる学内サイトがあり、それを見ていれば漏れはないはずですが、自分の知らないところで何か動いているのではないかと思ってしまうらしいです。確かにリアルで大学に通えている時なら、上クラス(2年生)から『楽に単位が取れる科目』などを耳打ちしてもらえたりするので、そういう情報からは遠くにあるといえますね」

――ライブ授業(同時双方向型のオンライン授業)の支持率が70%を超えています。

「録画(オンデマンド配信型)の方がいいという人がもっといるかと思っていたので、ライブ授業が意外と多かったという印象です。普通の授業に近いものを受けているという満足感があるのではないでしょうか」

■大学の授業へのあこがれ

――対面授業に近いものとして、ライブ授業が評価されているのでしょうか。

「1年生は対面のよさを求めており、大学の授業へのあこがれがあるので、ライブ授業に高い評価が出ます。対面のよさは人と人とのつながりにあると思いますが、ではそれが一番かといえば微妙なところです。大教室で授業をすると黒板が見えないとか、周りの声がうるさいとか、いろんな問題もあって、『オンラインの方がいい』という人もいます」

■オンライン授業ならではの可能性

――オンライン授業の継続を求める声が多いことをどう思いますか。

「私自身もオンライン授業は残していいと思っています。従来なら同じ時限にやっているほかの授業は受けられませんでしたが、録画ならそれができます。3限が駒場(キャンパス)で4限が本郷(キャンパス)という授業の組み合わせは無理でしたが、それも可能になります。そういう自由さがオンライン授業にはある。対面とオンラインのどっちがいいかではなくて、どちらも提供されていて『選べる』のがいいですね」

――オンライン授業ならではの可能性があるということですね。

「先生方と話していて思うのは、オンライン授業で行われているように資料を配布しておき、学生に事前に読ませて授業はディスカッションをやるというふうに変わっていくといいと思います。日本は『知識を教える』型の教育をずっと続けていますが、それとは違う波に乗るきっかけになるかもしれません。学生にとっては大変だけど、面白くなると思います。コロナが終わったから元に戻ろうね、ではない道を探るべきだと思っています」

(堀 和世)

関連記事(外部サイト)