ベンチャー界隈の揉め事 サッカー本田圭佑さんも爆心地で巻き込まれる騒動を実況生中継

ベンチャー界隈の揉め事 サッカー本田圭佑さんも爆心地で巻き込まれる騒動を実況生中継

©iStock.com

「日本のベンチャー界隈」と言われてもピンとこない人たちでも、オンラインで事業プレゼンやって投資家からカネを集めたり、若い経営者が事業を立てて東証とかに株式上場させて一攫千金とかいうネタを見ることってあるじゃないですか。

■名前のある人たちが実名で罵り合う最高のエンターテイメント

 この前ラウンジでテキーラ一気飲みをした女性が事故死した騒動の後で投資先から縁切りで株買い取りさせて欲しいと言われて揉めた投資家もいれば、まだ上場していないのに下半身だけは発達して女子アナウンサーや知名度はある中堅女優を会社のカネで囲おうとして無事週刊誌に醜聞を書かれたり、果ては派手な女性遍歴から隠し子連れ子が複数いるのに大物女優と別居婚に持ち込んで、初代ドラクエの宿屋の親父よろしく「ゆうべは おたのしみでしたね」とニヤニヤされるケースもまた散見されるわけであります。

 現在進行形で問題になっているベンチャー投資におけるトラブルも、外野から見れば日本だけでなく世界中にある投資における「言った」「言わない」という類の、犬も食わないようなしょうもない問題ではあるのですが、なんせ投資界隈でそれなりに名前のある人たちが実名でぞろぞろ出てきて、しかもTwitterで、noteで、Clubhouseで、日経で、ダイヤモンドで、NewsPicksで盛大にお互いを罵り合いしているという点で最高のエンターテイメントに仕上がっております。

 実名で投資トラブル起こして、ネットで暴露した挙句、経済マスコミがインタビューを取りに行って燃料を投下していくスタイルは最高だなあと思うんですよね。

 お前ら何してんだよ。

本田圭佑氏、元FiNC溝口勇児氏、元ネスレ高岡浩三氏、「WEIN挑戦者FUND」を設立??ウェルビーイングとオープンイノベーションに特化
https://thebridge.jp/2020/05/wein-fund

 投資家、経営者としてそうそうたるメンツが集まって派手にやらかした本件ですが、全体の流れを追っていきましょう。

■大スター本田圭佑さんと俺たちの溝口勇児

 あらましで言えば、日本サッカー界の大物現役プレイヤー・本田圭佑さんが、投資界隈に進出してきてそのスポーツでの成功と鍛えた前向きな精神であっという間に投資界隈のスターダムにのし上がります。この世界は本人のビジネスマンとしての能力よりもコネと豪運が大事なので、それを備えているというのは素晴らしいことなわけですね。

 手がけた投資がいきなり上場して成功することで、実績もつき軍資金も出してもらえるということで、周囲にいろんな大人が集まってきて日本のベンチャー界隈における一大エコシステムが成立します。

 もちろん良いことばかりではなく、投資の観点からすれば筋の悪そうに見える酒類販売の事業投資をしたり、投資プレゼンでは本田圭佑さんの出資はどれも少数・少額なものばかりに見え、いわゆる「いっちょ噛み」批判はそれなりにあります。あまり資金のつかないネットサービス業方面のシード系投資に躊躇なく踏み込んでくるため、そういうリスキーなカネの使い方をしたくない大人からは評判がよく、半導体や計算機工学のような分野で100億円単位の大規模投資を最初からしなければならない界隈からはまったく相手にされていないという特徴のある投資家です。

 いわゆる「ビジネスの仕組みよりも、人物を見て突っ込んでくるタイプの投資家」の筆頭である本田圭佑さんは、その人物鑑定が上手くいけばバッと派手な投資成果を挙げるし、今回のように「生きのよい若者」と思って乗り込んでみたら思ってたのと違ったという話になると光の速さで高速瓦解するあたりがお茶目であります。

 で、その本田圭佑さんのお眼鏡にかなって、一連のスターばっかり投資ファンドを任されたのが俺たちの溝口勇児さんです。非常にアグレッシブで野心的な若手経営者である溝口さんは、精緻に積み上げたビジネスモデルで事業を転がすというよりも、「これをやれ」「俺についてこい」的な組織力ドリブンで事業を切り開き経営を成り立たせるタイプの人物です。経営者としての能力は高いのかもしれません。

 以前、溝口さんが創業し、そしてある種の追放にあってしまった事業においては、溝口さんの考えが時流にフィットし追い風のときにはもの凄いパワーを発揮して成長する一方、組織的な成長で歪ができて立ち止まらなければならなかったり、ビジネスで良くある系のトラブルへの対処を強気にすることで問題がむしろ大きくなってしまい「卒業」しなければならなくなった経緯があるように感じます。

 そんな溝口さんの卒業後フリーにおいて声をかけた本田さんは、溝口さんの光の面を見ていたのかもしれません。ところが、実際に起きたことは溝口さんの経営に対してパワハラの告発あり、不正な資金の使途ありとの指摘もあり、ベンチャー企業あるあるの見本市であったように見受けられます。

■組織が高速崩壊、岩本有平さんに問題をすっぱ抜かれる

 そんな火薬庫のような状態で、上からガソリンとダイナマイトを投げ込んだ勇者が登場します。その名も俺たちの岩本有平。あくまで日本のスタートアップ界隈のガバナンスに問題提起をする体裁を取りながらも、事実関係を丁寧に並べてトロ火でじっくりと豚を360度丸焼きにするような報道のスタイルに感動を覚えます。

 話の内容は、要するに本田圭佑さんに見いだされ他の投資家も集まって8億円ほどの資金を元手にベンチャー企業への再投資と経営支援をやるはずだった溝口さんのWEINは、実は投資した先から経営指導料・コンサル料的な名目で資金を吸い上げ直し、また、溝口さんの個人でやる物件の内装費をごまかすような背任ライクな行為があるうえ、溝口さんのパワハラ体質的な問題もあって社員に退職者がゾロゾロ出て、見かねた他の経営者が溝口さんを吊るし上げ退任を迫ったよというものです。

 もうこの時点で結構高カロリーで胃がもたれるんですが、ポイントなのは、投資された金額はたった8億円とはいえ概ね投資家などの外部からのカネであることです。ベンチャー投資や支援を目的として投資家からおカネを集め、投資した先から経営指導料として、投資済みのカネを巻き上げるというのは、まさしくアントニオ猪木が求めた永久機関のようなものです。投資元である溝口さんのWEINと、WEINの投資先であるベンチャー企業がいつまでもおカネをグルグルできるという最高な仕組みなのであります。

【独自】「スタートアップのガバナンスに一石を投じる問題」挑戦者支援のWEINが崩壊──本田圭佑氏らもすでに退任|DIAMOND SIGNAL
https://signal.diamond.jp/articles/-/588

 この記事内容に、同じく本田圭佑さんと投資を行ってきた元コロプラ社のエンジェル投資家・千葉功太郎さんも「この記事の内容は事実です」とTwitterで追認。ベンチャー界隈の一角で経営者セミナーなど経営指導・支援を行う千葉道場を営む千葉さんの証言もある一方、溝口勇児さんはTwitter上で一連の記事による疑惑を完全に、完璧に全否定します。

■第三者を装って溝口勇児さんを擁護する関係者も

 そこへ、このWEIN溝口勇児さんのおカネの使い方は適切だった、なぜなら私が調査した結果シロだったからだ、とTwitter上で発言する猛者が現れます。「スタートアップ税務専門家」を標榜する藍原博也さんです。

?

 なんかこう、第三者がWEINのおカネの使い方を調べたけど、問題となっている支出は溝口勇児さん個人に支払われる役員報酬などと相殺しているから違法でもなんでもないんだよという風情で出てきたので、一瞬「おっ、そうなのか?」と思うわけですよ。

 でも藍原博也さんで企業検索すると、この溝口勇児さんのWEIN傘下にある「WEIN税理士法人」の代表社員であることが分かります。おい、第三者を装って「溝口さんはシロです」とTwitterに堂々と出てきておきながら、貴殿はガッツリ関係者じゃないですか。

 さらに、このカラクリを深掘りしてみると、WEIN挑戦者ファンドの投資先は、当時溝口勇児さんが代表者であったWEIN系2社(WEIN FG社、WEIN IG社)で、そこから経営指導料毎月75万円相当を受け取るための別の法人「WEIN GROUP社」なる箱が作られています。そこは溝口さん個人会社になっているため、本田圭佑さんや千葉功太郎さん他投資家が怒り、他経営陣が溝口さんに辞任を迫ってもおカネの詰まった箱はWEIN挑戦者ファンドではなく、投資した各社から経営指導料を取ったWEIN GROUP社である以上、投資家も経営陣も泣き寝入り、粛々と退任して離脱するほかなくなっているように見えます。

 一連の面白スキームではシード投資のテンプレ製作者であり、元金融庁、森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士でもある増島雅和さんの名前も投資家界隈では取り沙汰され、また、溝口さんの業務窓口は高橋宏治さんという溝口さんの前職のころからの付き合いの人物であるということで、こりゃまあ投資家からすれば一本取られてますねという話になります。

■有象無象大集合! 投資界隈野次馬大集結の巻

 そこへ、現役WEIN社員を名乗る、前谷優太さん(22歳)のnote弾が炸裂します。

 やっぱり世の中こうでなければなりません。

WEINの一員として見てきたことを、すべて話します。
https://note.com/ugokuhonya/n/n6dd5b816560f

 なんだろう、この意識高い感じの青いリンゴを齧って口の中が超酸性になる感じは。

 しかも、よく見たら現役慶應義塾大学の塾生であることが分かり、先の藍原さん同様、当義塾がまた無用に世間を騒がせてしまい先輩である私としても申し訳ない気分でいっぱいです。さらには、みんな大好き田端大学主宰者の田端信太郎さんが関係している企業にインターン経験があるなど、イケてる雰囲気のヤバい人は常にイケてる雰囲気のヤバい人とワンタッチあるという恐怖体験も味わえます。

 一見、この22歳の手による勇気ある告発noteは見ていて面白いわけですが、世にある会社というものは資本関係も含めて契約書と出入金の状況によって動くものであり、その内容を知り得ない一般社員が経営問題について語れる部分は本来少ないわけです。

 そのうえで、いくら会社の中のトラブルであるとはいえ、実際に勤務している人物が経営陣や広報での手続きなしに社内の秘密を対外的にブチまけるというのは公益通報以前の問題であるわけで、読み物としては最高に面白いんだけどもコンプライアンスが行方不明になっているあたりに好感が持てます。

 さらには、いままで特集を組んで持ち上げてきたNewsPicksが問題を受けて溝口勇児さん、本田圭佑さんのインタビューを掲載。また、日経も当事者である元ネスレ日本の高岡浩三さんのコメントを取っています。さらにはビジネスインサイダーも出てきて、こりゃもうオールスターの風情であります。

【溝口勇児】カネの私物化、パワハラ…疑惑をすべて語る
https://newspicks.com/news/5641817/

【独占】本田圭佑、ファンド崩壊の反省を語る
https://newspicks.com/news/5641817/

 なんだろう、この関係者全員が別々のことを言っている感じの大混乱は。

「WEINファンド」解散へ 起業家不在の混乱: 日本経済新聞
? https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ2538B0V20C21A2000000

 一連の話で言えば本田圭佑さんのインタビューだけ読んでいれば感覚的に分かるのではないかと思います。NewsPicksの記事を要約をするならば、本田圭佑さんは要するに溝口勇児さんの人物鑑定を間違えた、いろいろあったが面倒なのでさっさと問題を収束させて次の事業や投資のことを考えたい、と愚痴混じりにお話しいただいたという形になります。

 いやー、なんというベンチャー界隈あるあるなんでしょう。勉強になります。

■で、我が国のスタートアップ界隈なんですけど

 今回は不幸な事件だったと思うんですよ。正直、ベンチャー投資の世界で言うならば、投資をしてみたけど鳴かず飛ばずというのが大半です。10社投資して1社上場したりバイアウトできればファンドとしてはペイなのである、という考え方が主流であるため、今回のように総額でも8億円ぐらいの小さな規模の投資では、むしろ「追加投資とか考えることなく、いきなりコケて良かったね」というレベルの話なんじゃないかと思います。

 ただ、出てきた名前がいちいちビッグネームなので、例えば今回の溝口勇児さん追い出し劇で中心人物になった経営陣の一人、元ノーリツ鋼機の西本博嗣さんってそもそもどういう人だったんでしたっけ、というような古傷を愛でる動きがネットで広がってしまうのも事実であります。

 そういうキラキラした人たちが会社での資金の使途ひとつで仲間割れし、大揉めし、泥仕合になり、汚物の投げ合いの果てに全身汚物まみれになる一部始終を見るにつけ、無関係の野次馬からすれば「いいぞ、もっとやれ」と囃し立てるのが見物客の流儀であることは言うまでもありません。

 一方で、いわゆる日本のベンチャー界隈は二分しており、「日本はなぜビル・ゲイツやジョブズを産み出せないのか」とかいう謎の問題提起が繰り返される中で、上層部では千億単位の研究開発費を慎重に積み上げる事業開発が、底辺では本件のように数千万、一桁億程度のベンチャー投資が幅を利かせ、インナーサークルを作って内輪で案件を回し合って株式上場ありき、あるいは高額のバイアウトで現金化というしょうもない世界が広がっています。

 もちろん、東証一部上場や海外市場での株式公開に漕ぎ着ける企業も中にはいるのですが、ひとつのあたった事業だけで上場するような一本足打法にならず、国際的な競争にも立ち向かえる企業体を育成するという考え方からすれば、日本のベンチャー投資の方法論はある意味でコネと男芸者の世界になり果ててしまっている感はあります。

■優秀な人材が使い捨てられてゆく

 それもこれも、株式上場すれば一攫千金で、企業家もVCも大儲けという大前提があるので、若き起業家でこれはと思う人を青田刈りするような世界がある一方、きちんとしたマネジメントのできる大人が事業を切り盛りするような華のない事業は見向きもされず投資金も集まらないという現状は、単に世間を知らない若い人たちをいいように食い物にしている面もあるのでしょう。

 結果として、スタートアップで上手くいかなかった人たちの墓場のような人材市場ができ、大事な20代から30代前半を上場による一攫千金という人参で馬車馬のように走らせられた、健康と精神を害した経営者や技術者の吹き溜まりができます。上場基準は甘くなり、創業の時点から粉飾決算をしていたような会社がコネを駆使して上場しておカネを集める傍ら、使い捨てられた優秀な人材が経歴書を汚しながら夢破れて転職を繰り返していくさまは見ていて悲しいものがあります。

 本田圭佑さんのように、人物本位で経営者を鑑定し投資を行うスタイルは素晴らしいと思いますし、溝口勇児さんにも言い分はあり、こんなはずじゃなかったと思うところは大でしょう。ただ、今回のWEIN社だけで数十人の若者が雇われ、最長でも9か月で職を失ったり、自ら退職したりしています。

 そういう事業環境だから仕方がないね、スタートアップっていうのはリスクがあるんですよ、という話で終わらないような、もう少しかかわる人たち全体に救いのあるような着地になって欲しいと思います。ベンチャー企業というと聞こえはいいけれど、湯婆婆が出てきて「ベンチャーなんて贅沢な名だね。いまからお前の名は新興零細企業だ! いいかい、零細中小企業だ、返事をするんだ新興零細中小企業」なのですよ。

 要するに、ベンチャー企業が中小企業のだらしない親父を量産してしまっている面は否めませんので、そういわれるのが嫌なのであればガバナンスをしっかりし、コンプライアンスは守りましょう。約束だよ。

(山本 一郎)

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