【善と悪はどこからやってくるのか】VOL.42 藤井道人監督

【善と悪はどこからやってくるのか】VOL.42 藤井道人監督

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 俳優・山田孝之が裏方に徹し全面プロデュースした映画『デイアンドナイト』が、いよいよ1月26日(金)から公開。「善と悪はどこからやってくるのか」。正解を出すことが不可能といっても過言ではない、強いメッセージを持った作品です。本作の監督を務めたのは、CMや映画、ドラマなどで幅広く活躍されている藤井道人さん。今回は、本作にかけた思いなどを、じっくりお伺いしてきました!


――「人の善悪」という、人によって捉え方が違うテーマですが、この難しいテーマを取り上げたいと思った最初のきっかけはなんですか。

藤井道人監督(以下、省略):今回の企画は、5年ほど前から、阿部(進之介)さんと「何かやりたいね」って話していたところから始まりました。二人とも好きな映画監督が同じで、『 21グラム』や『アモーレス・ペロス』のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督なのですが、人間に対して深く突っ込んだ作品が多いんです。彼が撮る人間の眼差しというのが、決して幸せではないというか。社会から外されてしまったような、円の外側にいる人たちの話を撮るのがすごく上手で。当時、僕も阿部さんも、どこかで自分たちがそっち側にいるような気がしていたので、そこに惹かれていたんですよね。
 洋画でこういった作品があるなら、日本でもオリジナルでそんな作品を撮れないかなって思ったのが、そもそものスタートでしたね。

2013年ごろ、僕も阿部さんも「正しいとは何か」とか、様々なモヤモヤがあって、それをディスカッションしながら考えていきました。僕が最初にテーマに上げたかったのは「善と悪はどこからやってくるのか」というキーワードと、作品の中に風車を取り入れたいという2つくらい。そこから阿部さんの"明石"というキャラクターを作っていき、この本が出来上がったんです。

映画『デイアンドナイト』より

――脚本の完成までに4年を費やしたとのことですが、練り上げていく過程で、改めて一番難しかったと感じた部分はありますか。

 実は、脚本開発費というのは基本出ないんですよ。なので自分たちの本業であるドラマや映画の撮影の合間を縫って、脚本を書くっていう作業がやっぱりいちばん大変でした。だから4年もかかってしまったというのもあるんですが。

その中で一番大変だったこと......一つとはいえませんね。オリジナルの脚本だからこそ、みんなにゴールがないんですよ。「こういうことがしたい」という漠然としたテーマしかなくて。漫画や小説が原作であれば「こういうゴールがあって、感情のピークを迎えるためにここのシーンはこうしよう!」みたいなのがあるんですが......。

また、映画化の資金が獲得できるかどうかもゼロの状態でしたね。本作は当初、違法滞在の外国人たちの話だったんですが、そういうセンシティブなネタは(未来の)スポンサーがだめっていうんじゃないかって(笑)。紆余曲折して、28稿まで書き直しました。クランクインの一ヶ月くらい前まで書いていましたね。


――本作は、それぞれのキャラクターが「善悪」の中で揺れ動きながら行動していきますが、監督自身が共感する部分、自分がこのシチュエーションなら同じような判断や行動をしてしまうだろうなといったキャラはいますか?

今、自分の別作品(『青の帰り道』)が公開されていて、そっちは群像劇なんです。どれだけ共感性があるかが勝負どころの作品ですが、一方『デイアンドナイト』は登場人物のリアルというものをすごく追求した気がしていて。転落していく一人の男を、ある種の見世物小屋のように傍観していたという意識がありました。

実は、この映画を作る時にすごくたくさんの時事ネタを集めたんです。その中で、さまざまな地方都市に本作と同じ闇みたいなものがあることを知りました。なので僕は自分を明石という人間にシンクロさせるというよりも、「彼がどうなっていくんだろう」と傍観していたような感覚でした。最終的には、善悪の境界線がなくなっていく男性の話を撮りたかったんだなと、思っています。

映画『デイアンドナイト』より

――今回、山田孝之さんが全面プロデュースをされていますが、俳優ではなくプロデューサーとしての山田さんとお仕事をされて、いかがでしたか?

これはどこでも言っているんですが、つくり手として本当に素晴らしい方です。監督って自分の座組で作品を撮ることが多いですが、俳優はいつも違う監督やスタッフと組み、いろんなチームを見てきているんですよね。だから、誰がどこでどう辛いかとかも、すごく冷静に見てくれているんです。現場で「山田さんいなくなったな〜」って思ったら、大量のヒートテックを持ってきてスタッフに差し入れをしてくれたり、雪の日の撮影では、一人でスコップを持って雪かきをはじめたり。みんなその姿に同調して、「山田さんがやっているのに俺たちがやらないわけにはいかない」と、協力し始める。でも当の山田さんは、他人に強いることは決してありません。それに、演出面での要求も一度もなかったんです。みんなを引っ張ってくれる人間としての深さがあり、僕にとってヒーローのような存在です。


――完成披露記者会見では、山田さんがヒロインの清原果耶さんを絶賛されていましたが、監督から見た彼女の魅力とは?

オーディションのときに、ズバ抜けたオーラの女の子がいて「あ、この子だろうな」って思ったんです。芝居を見たら、山田Pが、僕の肩を叩いてきて、見たら山田Pの体に鳥肌が立っていたんです。2次審査のとき、山田Pは横で泣いているし、すごいなって。僕も彼女しかいないなって思いましたね。実は、今回の演出で一番緊張したのは彼女です。おばあちゃんみたいなオーラがあるというか、貫禄がすごいというか。普段は可愛らしい16歳の女の子なんですが、現場入るとプロ意識がすごいですね。彼女の役に向かう本気の姿勢は、良い意味で触れがたく、素晴らしい女優さんだと思いました。


――主題歌はRADWIMPSの野田洋次郎さんが手がけられます。楽曲を聴いた印象をお聞かせください。

裏話ですが、去年、野田さん主演で『100万円の女たち』というドラマをやりました。当初は野田さん主演でいくかどうか悩んでいたのですが、その時に背中を押してくれたのも山田さんだったんです。結局、満足のいくドラマができました。そんなこともあり、今回は最初から野田さんに主題歌を書いてもらいたいと思っていました。

今回も、山田さんから野田さんにお願いしてくださって。映画が完成するまでは、もちろん不安だった部分はあります。でも、野田さんの歌が奈々という存在を、ちゃんと未来に届けてくれた。やっぱり頼んで良かったなって思いました。今日もここに来る前に、ずっと聴いていました。


――あらためて、本作は監督にとって、どのような作品になりましたか。

一つの集大成であり、一つのスタート地点ですね。2018年というこの年が、自分のスタートラインだなと思いました。4年5年かけて難しいテーマをわざわざ扱って、「そこまでして映画をやるものなのか」と誰かが聞いてきたら、「やるもんだよ」って僕は答えます。人の人生をちょっとでも動かせる一つの手段でもあるので。これからも一つ一つ丁寧に映画を作っていくためにも、本作が公開されるのは、僕にとって大事なことです。賛否はあると思いますが、自分の納得のいく映画になりました。それが、同じように映画体験をしてきた人に届くのかっていうのもすごく楽しみですし、いろんな意見を聞きたいなって思っています。

映画『デイアンドナイト』より

――ところで。2014年の『オー!ファーザー』のときのインタビューでは、好きな映画に『エターナル・サンシャイン』を挙げていただきました。今も一番好きな映画ですか?

そうですね。『エターナル・サンシャイン』は、大学の映画学科に受験するきっかけの映画なので。でも、『デイアンドナイト』に紐づけていえば、『ビューティフル』が好きですね。僕、映画を観て号泣することは基本的にないのですが、ボロ泣きしたのがこの作品です。

それから最近観たなかでは『グリブズビー・ベア』ですね。俳優の山中崇さんから勧められて、ジャケットをみたらそれほど惹かれなく「面白いの?この映画」って思ったら、すごくいい映画で。25歳まで監禁されていた子どもが自主映画を撮るという話なんですけど、主人公は初主演の男性です。今年はそれ一本ですかね。


――ありがとうございます! 最後に映画をご覧になる方へのメッセージと、見どころをお聞かせください。

「善と悪はどこからやってくるのか」というテーマですが、人や家族に対する愛というものを描いた映画になっています。この映画を見終わったあとに、自分の横に自分が守ってあげられる人は誰だろうって考えてもらえる映画になればいいなって思っています。自分も誰なんだろうって思いながら映画を撮りましたので、ぜひ御覧ください。

藤井道人監督ありがとうございました!
『デイアンドナイト』は、1月26日(土)から全国ロードショー!

(取材・文・写真/トキエス)

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映画『デイアンドナイト』
2019年1月26日(土)より全国公開
2019年1月19日(土)秋田県先行公開中

監督:藤井道人
脚本:藤井道人、小寺和久、山田孝之
企画・原案:阿部進之介
プロデューサー:山田孝之、伊藤主税、岩崎雅公
出演:阿部進之介、安藤政信、清原果耶、田中哲司ほか 
配給:日活

2019/日本映画
公式サイト:https://day-and-night-movie.com/
?2019「デイアンドナイト」製作委員会

- STORY -
善と悪はどこからやってくるのか。
父が自殺し、実家へ帰った明石幸次(阿部進之介)。
父は大手企業の不正を内部告発したことで死に追いやられ、家族もまた、崩壊寸前であった。そんな明石に児童養護施設のオーナーを務める男、北村(安藤政信)が手を差し伸べる。孤児を父親同然に養う傍ら、「子供たちを生かすためなら犯罪をも厭わない。」という道徳観を持ち、正義と犯罪を共存させる北村に魅せられていく明石と、そんな明石を案じる児童養護施設で生活する少女・奈々(清原果耶)。しかし明石は次第に復讐心に駆られ、善悪の境を見失っていく----。

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