GWに読む本はこれだ!本の雑誌が選ぶ2018年度ベスト10を発表!!

二〇一七年十一月から二〇一八年の十月までに出た本の中から本の雑誌社員がおすすめ本を持ち寄ってベストを決める座談会は今年も喧々諤々。芥川賞をあげたいノンフィクションから犬のゴンちゃんの泣ける話、非売品図録までルール無用の面白本ラッシュの中、まさかの一発大逆転で一位に輝いたのはいったい?!(「本の雑誌」2019年1月特大号より)

営A 今年はこの一冊に決めました。国分拓さんの『ノモレ』です。これは別格のノンフィクションなんですが、それが評価されきれていない現状に、私はかなり腹立っております。

編A 評価されきれてない?

営A そう。この本は三人称の視点なんですね。もとは原住民だったんだけど、三代くらい前から現代社会の中で暮らすようになった人を主人公にして、その人の視点で国分さんは書いている。そういう書き方はノンフィクションと言えるのかという指摘もあったりするんですが、読んでるとそういう指摘がうっとうしく思えてくる。「新潮」に発表されたことを考えたら芥川賞でもよかったんじゃないかって思うくらい、この本は文学だと思う。これ以上の本には十年は出会えない。もはやオールタイムベストです。そしてサッカー本大賞は津村記久子『ディス・イズ・ザ・デイ』。

発人 ベストテン内ではなく、サッカー本大賞枠でいいと?

営A 十分です。謙虚にならないと。この本がいままでのサッカー小説と圧倒的に違う点は応援する側のドラマや人生を描いてるところなんです。登場人物みながそれぞれいろいろな思いを込めてチームを応援するさまが描かれていくんですけど、それがシーズン最後の試合に凝縮していくんですよ。試合の描写とそれまでに描かれていた人たちの感情がシンクロするから、ものすごくのめり込んじゃうんです。僕の場合は浦和レッズの勝利のためにスタジアムに行ってるんですけど、スタジアムのグルメとかマスコットなんかを楽しみにしている人たちもいっぱいいて、サッカーの楽しみ方は千差万別なんだってことを教えてくれる作品です。

営B いい小説ですね。

営A そういうわけで、僕は今年はこの二冊で十分です。

発人 じゃあ、次は浜田さんいきましょう。

営B じゃあ、まずは『銀橋』(KADOKAWA)。

編A きた! 中山可穂。

営B 『男役』『娘役』に続く、宝塚シリーズの三冊目です。より宝塚の芳しい匂いが香ってくる小説です。小説二冊目は原田ひ香『ランチ酒』(祥伝社)。見守り屋っていう夜から朝まで見守ってあげる仕事をしている女性を描いた連作短編です。仕事が終わったあとに昼ご飯を食べながら一杯飲んで一日を〆るんですけど、それが実に美味しそうに描かれてる。そして三冊目が姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』。二年ほど前に実際に東大生五人が起こした強制わいせつ事件をベースにした創作なんですけど、なんというか、事件とは関係なく、これを読んでると普段は無意識に流して生活しているイヤな自分自身と向かい合わざるを得なくなるんです。

営A 気がつかないうちに人を見下してたりする部分とか?

営B そうそう。これまでの自分の人生を思い出してイヤだったところを、みんなに覗き込まれているような気持ちになっちゃうんです。これはみんなに読んでもらいたい。で、小説以外からは『山小屋の灯』。文を書いてる小林百合子さんは山界の平松洋子さんのような存在です。普通、私たちは山小屋では寝たり休んだりするためだけに立ち寄るんですけど、この人たちはゆっくりしてるんですよ。山小屋を経営する人たちと親しく交流して、彼らの人生とか、どういう考えで山小屋をやってるかというドラマを浮かび上がらせる。私がふだん山を歩くときとはまったく違う視点を与えてくれるんですね。すばらしい本です。野川かさねさんの写真もすごくよかった。次はこれ。

営A 今度はヤクルト枠が出てきた(笑)。

営B 『96敗 東京ヤクルトスワローズ それでも見える、希望の光』(長谷川晶一/インプレス)。「文春野球コラム」連載のヤクルト枠をまとめたものに、監督やピッチャーへのインタビューを追加収録したお得な一冊。うちには同じ本が五冊あります。

発人 五冊? どうして。

営B イベントに何回も行ったからです。今年はこの本のおかげで負けていてもめちゃくちゃ楽しかった。もう一冊は歌集。石川美南さんの『架空線』(本阿弥書店)。久しぶりにこの人の本が出てよかったです。以上。

編A じゃあ次は松村が。ジョー・ネスボ『真夜中の太陽』が一番です。仕事をしくじった殺し屋がノルウェーの雪深い奥地に逃げてきて、運命と出会うっていう話なんですけど、主人公がものすごくダメな人なんですよ。弱いし、すぐばれるウソつくし。

発人 松村も目黒さんと一緒でダメ人間が好きだよね。

編A そうかなあ。でもこの人はヘタレなんだけど絶対に一線は越さないんですよ。そこがいい。それで逃亡先で子供と仲良くなったりその母親に惚れちゃったりとかして自分の運命を拓く。あとの三冊は女の子ががんばるシリーズです。まずミランダ・ジュライの『最初の悪い男』。会社の中でなんとなく周囲から浮いちゃってる女性の話なんですよ。なんて説明したらいいのかわからない本なんですが。

営A すごくヘンな話だよね。

編A 閉じてるんですよね。社長の娘で十七歳のギャルっぽい女の子と同居することになるんですけど、その娘は主人公とは正反対のカオスな人間なんですよ。足が臭かったり皿を洗わなかったり。でもそれによって主人公が劇的に変わる。その子との関係もどんどん変わっていくし、それでも人生は続くといういい話。

営A いい話かなあ(笑)。

編A グレアム・スウィフト『マザリング・サンデー』(新潮社)は一九二〇年代のイギリスの階級社会で生きるメイドの話なんですけど、隣に住む貴族の息子と情事を持ってるんです。そのお坊っちゃんには婚約者がいて、主人公も自分の立場はわかってる。で、六月みたいな三月のある一日、これがほんとに二人の最後という日に、とある事件が起きて彼女の人生はがらりと変わる。最後の情事のあと一人残された主人公が全裸のまま男の屋敷の中を歩き回るシーンがあるんですけど、その全裸徘徊シーンがとてもよい。

発人 とてもよいんだ(笑)。

編A デニス・ルヘインの『あなたを愛してから』(ハヤカワ・ミステリ)も女性が主人公なんですけど、冒頭でいきなり夫を撃ち殺すんです。愛していた夫なのに、なぜそうなったのかを遡っていくんですけど、読みながらこういう話なんだろうなと思っていたら、ガラッと変わって「えええっ」とびっくり。一気読みでした。たいへん楽しかったです。

営B あとは飛浩隆『零號琴』(早川書房)?

編A これは装丁も渋いしタイトルも硬いしで、難しい話なのかなと思ったら、めちゃくちゃノリが軽いんですよ。読みやすくて逆にびっくりするくらい。それでいてこんなのどこから出てくるんだっていうイメージの奔流がすさまじい。面白かったです。以上です。

経理 私はまずこれです。『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』。イタリアにある小さな村の古本屋さんから始まって、イタリアの出版文化史をどんどん遡っていくんです。イタリアにはこんな本屋の物語があったんだと驚かされた一冊です。写真も多いし、すごくきれいで楽しかった。二冊目はビートたけしの『ゴンちゃん、またね。』(文藝春秋)。小説家志望の男の人が犬を飼い始めるんですけど、散歩ついでに買い物に行って店の外につないでおいたら、いなくなってた。

発人 いなくなっちゃうんだ。

営A やばい、浜本さんが泣きそうだ(笑)。

経理 子供たちがいたずらで連れていっちゃうんですよ。そのうえいじめて尻尾を取っちゃったり脚に怪我をさせたり。

発人 ひどい(涙)。

経理 それをおじいさんが助けて、自分の家に連れて帰って医者に診せたりするんです。おじいさんは犬を返さなきゃいけないということはわかってるんだけど、おばあさんを亡くした悲しさもあってゴンちゃんのことを家族の一員のように思うようになってしまって、返す機会を失ってしまう。

発人 つらい話じゃないですか。

経理 つらい話なんですけど、絵がかわいいんですよ。

編B 絵もビートたけしなんですね。

経理 それから原ォの『それまでの明日』(早川書房)。

編A 十四年ぶりの最新作でしたもんね。

経理 面白いですよね、やっぱり。次が塩田武士さんの『歪んだ波紋』。誤報に関わってしまった新聞記者たちを描いた短編集です。私は『罪の声』で塩田さんのファンになったんですけど、なかなか新作が出なかったので楽しみにしてた一冊です。あとは辻村深月さんの『青空と逃げる』(中央公論新社)。お母さんと息子の話ですね。辻村さんは、やっぱりこういう家族小説がすごくいいですよね。

営A うん。うまいですよ。

発人 はい。次は高野さん。

編B 私はぜんぜん物語を読んでいなくて、一冊目は保阪正康の『昭和の怪物 七つの謎』(講談社現代新書)。保阪さんがこれまでに書いてきたような謎が多いんですけど、渡辺和子さんのところがすごくて。

発人 『置かれた場所で咲きなさい』の人?

編B そう。宗教家の人。あの人が死ぬまで赦さなかっただろうという人のことを二十ページくらい書いてるんですけど、そこが黒くて面白い。

編A 黒いんだ(笑)。

編B 読むと、これは保阪さんが取材した中でも書けるギリギリなんだろうなっていうのが伝わってくる。渡辺和子というと、いかにも花に囲まれてるイメージだけど、それがまさか瀬島龍三にまじって出てくるとはっていう驚きの一冊です。それからシリーズとして平凡社のスタンダードブックスを。理系の人文的なエッセイをまとめたいいシリーズですよね。ハードカバーで造りもかわいい。第二期完結したけど、第三期も出してほしいという希望も込めて。最後はこれです。『会田誠展 グラウンドノープラン』。図録なんだけど非売品。なぜか販売してないんですよ。

発人 ちょっと待てよ(笑)。

営A 誰か、この人にルールを教えてあげて(笑)。

編A 今年、表参道であった会田誠展がパワフルですごかった。新作も出したし、山口晃さんとコラボしたり。この図録もなかなかの出来なんですよ。

発人 買えないものをベストテンに入れられても困っちゃうんだけどな(笑)。

編B ベストに入れるというわけではなくて、こういった一回性で終わってしまうアート物の展示が形として残っていると嬉しいなと思って。造本は普通でいいから。以上です。

発人 僕は二冊持ってきました。まず上半期のベストが橋本治『草薙の剣』(新潮社)。日本を主人公にした大河小説というのかな。

営A これは僕もおすすめなんですけど、「時代」を書いている話なんです。明治の終わりくらいから百年ちょっとの間に日本でどういうことが起きてきたかっていうのを様々な主人公を要にして描いてる。しかもその人のおじいちゃんとかがどう暮らしてきたかを描くことで日本という国の歴史というか生活史を書いてる。それぞれの人生が描かれることによって時代がどう変わってきたかを表現してる。

発人 すばらしい! そういう話なんですよ(笑)。日本の歴史というものを振り返って考えるには最高の一冊です。それで下半期のベストが『青少年のための小説入門』。読字障害で読み書きができないヤンキーの青年と中学生の少年が組んで作家を目指す話です。新人賞を受賞してデビューするんですよ。ドラマ化されて、将来を嘱望されて覆面作家としてテレビに出たりするわけ。

編A すごいじゃないですか。

発人 そこからの展開については首を傾げるところもあるんだけど、「小説は無力だって言ってたけど、そんなことないよね?」っていう帯のコピーが全編に通底してる、その熱さがすばらしい。とくにいいのは少年が小説を朗読してヤンキーが換骨奪胎してアイディアを出して作品を作っていく過程。実際の小説がたくさん出てくるんだけど、少年の要約の仕方がべらぼうにうまくて、その小説を読んでみたくなるんですよ。

営A 読書案内にもなってるんだよね。

発人 いろんな小説を読むきっかけにもなると思うんです。そういう意味でもベストに入れたい。杉江はほかはいいの?

営A いいですか。じゃあ、時代小説が出ていないので『童の神』を。平安時代、京都の周りにいた下層の人たちは童と呼ばれて蔑まれていたんですよ。童って差別用語だったんです。その人たちが京都の中央の人たちに刃向かう。何年か前に高橋克彦の『火怨』で大興奮したあの気持ちを思い出すような胸熱くなる小説で、今村翔吾にはこういう本を書いてほしい。以上です。

編A 揃いました。なにを一位にします? 『ノモレ』?『青少年のための小説入門』?

発人 『青少年...』が一位というのは...十位までには入れてもらいたいとは思うけど。

営A 橋本治は?

発人 野間文芸賞を受賞したからなあ。

営A じゃあ、『彼女は頭が悪いから』?

営B 一位じゃなくてもいいです。

編A みんな慎み深い(笑)。

営A 『モンテレッジォ』は感動したけどね。こうやって本を作って本を届けていた人がいたんだねって。この村には行きたくなりますよね。

発人 一位は『ノモレ』でいいんじゃないかな。別格だし。

編B そうですね。真っ当なノンフィクションですし。

営A じゃあ、『彼女は頭が悪いから』を二位にしたい。

営B やった!

発人 三位が『モンテレッジォ』で。

編A 『最初の悪い男』を四位にしてください。めちゃくちゃな話もいいかなということで。

営A 今年の外国文学の中ではピカイチだよね。

編A すごかったですよ。『青少年のための小説入門』は何位にしますか。

発人 九位でいいよ。

編A 謙虚になってる(笑)。

営A 十位は『山小屋の灯』にしましょう。「山界の平松洋子さん」と言われたら読みたくなる。会田誠展は流通してないから入れられないね(笑)。高野さんも来年はルールを覚えて再挑戦してね。

編B すみませーん。

編A 残りは五、六、七位か。『真夜中の太陽』はどうでしょうか。ミステリー枠ということで七位ぐらいで。

発人 よし、七位。塩田武士を五位にしない?

営A ジャンルでいうと、あとは時代物がないくらい?

発人 そうか、じゃあ『童の神』を六位に。

経理 残りは八位ですか。

発人 あ、いけね。『古本屋台』を忘れてた!

編B そうだ! あれはベストテンに入れなきゃダメですよ。

営A すばらしいよね。『古本屋台』は入れましょう。八位でいい?

編B いやいや。八位なんて言わず、一位でいいんじゃないですか! 古本のことを知らなくても楽しめるし、このはっちゃけ具合は出版業界を元気にしてくれますよ。

営A まあ、たまんないよね、オヤジのセリフが。「一杯だけにしておけよ」って言われるの。

発人 「ウチは飲み屋じゃないんだよ」って言われたり(笑)。

営A 平成の間に失われてしまったものが全てつまったマンガですね(笑)。

編B だったら一位でいいでしょ。平成最後のベストだし私が推した本、ほかに入ってないし。

営A 高野枠(笑)。

編A 急に強気になってきた(笑)。

経理 それじゃ順位をずらしたらどうですか。二位に『古本屋台』を入れて。

編B いやいや、一位ですって。『ノモレ』が下とは言わないから同率一位で!

発人 ちょっと待て(笑)。

営A ルールを変える女(笑)。

編B 『古本屋台』はちゃんと本の雑誌が一位として残しておいたほうがいいと思いますよ。同率一位って響きがよくない?

編A いやいや、やはり一位は一つであるべきかと。昔、柳田理科雄『空想科学読本』と小野不由美『図南の翼』がぶつかったとき、目黒さんと椎名さんがじゃんけんして一位を決したことがありましたよね。それくらい一位というのは厳密なんですよ。

営B 大事にしてたんだね。

経理 じゃあ高野さんと杉江さんでじゃんけんしますか。

編A 伝統にのっとって(笑)。

編B よおし、じゃんけん。

営A ぽん!

編B やった!

営A 負けた...。

発人 よし、決定!

〈本の雑誌が選ぶ2018年度ベスト10〉

1位『古本屋台』 Q.B.B. 集英社

2位『ノモレ』 国分拓 新潮社

3位『彼女は頭が悪いから』 姫野カオルコ 文藝春秋

4位『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』 内田洋子 方丈社

5位『最初の悪い男』 ミランダ・ジュライ/岸本佐知子訳 新潮社

6位『歪んだ波紋』 塩田武士 講談社

7位『童の神』 今村翔吾 角川春樹事務所

8位『真夜中の太陽』 ジョー・ネスボ/鈴木恵訳 ハヤカワ・ミステリ

9位『青少年のための小説入門』 久保寺健彦 集英社

10位『山小屋の灯』 小林百合子/野川かさね写真  山と溪谷社

元祖サッカー本大賞 『ディス・イズ・ザ・デイ』津村記久子 朝日新聞出版社

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