【「本屋大賞2020」候補作紹介】『流浪の月』――世間から受け入れられないふたりが織りなす「新たな人間関係」とは

【「本屋大賞2020」候補作紹介】『流浪の月』――世間から受け入れられないふたりが織りなす「新たな人間関係」とは

『流浪の月』凪良 ゆう 東京創元社

 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2020」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは凪良ゆう著『流浪の月』です。
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 2006年のデビュー以来、長らくBL(ボーイズラブ)の分野で執筆を続けてきた凪良ゆうさんですが、本書『流浪の月』は、2017年に発表した『神様のビオトープ』に続く非BL作品です。世間から受け入れられない、世間とは相容れない者たちの関係が、静謐(せいひつ)ながらも圧倒的な筆力で描かれています。

 父親が亡くなり、母親も家を出ていき、親戚の家に預けられることとなった小学4年生の家内更紗(かない・さらさ)。同居する従兄から性的な嫌がらせを受け、家に帰るのが辛い日々が続きます。そんなとき、公園で声をかけてきたのが大学生の佐伯 文(さえき・ふみ)。更紗はそのまま彼の家へついていってしまいます。

 文の家での生活は居心地がよく、更紗は両親と暮らしていた頃のような自由をしばし満喫しますが、けっきょくは見つかってしまい、更紗は元いた親戚の家へ戻ることに......。そして世間では「ロリコン男が少女を連れ去った誘拐事件」として大々的に報道されてしまいます。

 その後、更紗は文への罪悪感と会いたい気持ちを抱え続けたまま大人になり、恋人と同棲しながら淡々と仕事に励む日々を送っていました。しかし、事件から15年が経ったある日、更紗は偶然、文と再会してしまうのです。そこからふたりが再び織りなす関係とは......?

 私たちは、物事や関係性において、ルールや常識と照らし合わせてレッテルを貼りがちです。そのほうが生きる上で便利でラクだから。けれど、本書を読んで「私たちが決めつけていることは真実とは異なる場合がある」「本人同士にしかわかりえない感情や関係性だってある」ということを知らされるのです。

 たとえば、いくら文が優しく理性的で、更紗にとって安心できる存在だったとしても、世間における事実としては、文は「少女をさらったロリコン誘拐犯」であり、更紗は「誘拐されたかわいそうな少女」でしかありません。更紗がどれだけ真実を語ったとしても、世間は奇異や同情の目で見るほかないのです。この絶望や無力感を読んでいる間、痛感させられるでしょう。

 ふたりの間には、いわゆる「恋愛感情」はありません。けれど、ふたりにしか理解しあえない確かな結びつきがあり、それがふたりの生きる力になっています。一方で、世間的には「家族」や「夫婦」、「恋人」といった名前がついていても、中身のない空虚な関係性だってあるはずです。家族や夫婦であっても分かり合えないこともあれば、名前のつけられない関係性であっても分かり合えることもある。私たちがふだん気づかない、もしくは気づいていても目をつぶってやり過ごしてしまうことを、まざまざと突き付けてくる物語に、読後しばし呆然としてしまいます。

 せめて願うのは、どうか更紗と文のふたりにとって幸せで安心だと思える日々がずっと続いてほしい、ということ。祈るような気持ちでページをめくるとともに、大切な誰かとの関係性に思いを馳せずにはいられなくなることでしょう。

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