効率的じゃなくていい。アルゴリズムの外に出るモノとの出会い方 宮崎智之×竹田信弥×花井優太(前編)

効率的じゃなくていい。アルゴリズムの外に出るモノとの出会い方 宮崎智之×竹田信弥×花井優太(前編)

『ケトル VOL.54』さらば青春の光,三浦 直之,kemio,武藤 千春,藤井 健太郎,上田 慎一郎,chelmico 太田出版

新型コロナウイルスが猛威を振るい、多くの人や文化が影響を受けました。それは、本に携わる書き手や書店や編集者も例外ではありません。そしてそれによって失ったものや、得た発見、新たな取り組みも生まれています。今回はそんなコロナ禍での変化について、フリーライターの宮崎智之さん、赤坂のある書店「双子のライオン堂」店主の竹田信弥さん、カルチャー雑誌『ケトル』の副編集長である花井優太さんが語ります。デジタル化がさらに加速するなかで、3人がちょっと立ち止まって考える前編です。

??距離が生まれたのは人と人だけじゃない

宮崎:今日は新型コロナの感染拡大以後に、どのような思いで、どのような仕事に取り組んでいたのか。刻一刻と変わる情勢を記録しておく意味も含めて、我々30代の3人で語り合っていきたいと思います。まずは『ケトル』の花井さんからお願いします。

花井:多くの仕事が新型コロナの影響を受けていますが、それは雑誌づくりも例外ではないですよね。そんな中、6月発売号で組んだ特集は「みんなの大好き」です。全工程リモート制作になっています。新型コロナ以後は、いわゆる「三密」を避けなければいけなくなり、結果として人と人だけではなく、距離を取らざるを得なくなってしまった場所や文化があります。たとえば、演劇や映画は、気軽に観に行けるものではなくなった。アウトプットまでの制作方法が限られる領域もたくさんある。

そこで6月号の『ケトル』は、お笑い、劇作家、映画監督、ミュージシャン、テレビプロデューサー、YouTuberといった作り手や表現者が、さまざまな制約がある中でどういうことを考えて行動しているのか、今後をどう考えているかなどについて語る、インタビュー集になっています。

宮崎:なるほど。いろいろな「みんなの大好き」を作っていた人たちが、新型コロナ禍の現状や思い、実践していること、これからのことを、話しまくっていると。面白そうですね。

花井:加えて、好きなものと実際に距離を取らなければいけなくなってしまった方たちにも話を伺っています。食べ歩きも、スポーツ観戦も、鉄道ファンが電車に乗りまくるのも、厳しいわけでして......。そういう「好き」と距離を取らなければいけなくなってしまったときに、それを好きで好きでたまらない人たちは今どう過ごしているのかも大切なことだなって。あとはやはり「みんなの大好き」なので、Twitterで「#わたしの大好き」というハッシュタグを用意して、多くの方から好きなものに対する思いや気づきを募集しました。

宮崎:僕が「大好き」で真っ先に思い出す場所は、やっぱり書店なんですよね。

竹田:はい。

宮崎:それぞれこだわりの書店に行くっていうのも楽しいし、「書店に行くぞ!」って意気込んで行くときもあるんですけど、新型コロナ以前は「ぶらつく」みたいなことが多かったのかなと思っていて。仕事で煮詰まったときだったり、気分を変えたいときだったり、なにかのついでだったり。書店にふらっといって、棚を眺めながらぶらつく。いま思えば、とても贅沢なことですよね。

でも、新型コロナ以後は「書店に行くぞ!」と、肩肘張って向かうことが多くなってしまった。新型コロナ以前に僕の生活の中にあった書店とは、少し変わってきてしまった気がします。

竹田:わかります。新型コロナ以前は、生活の一部として無意識に大切にされていたんだなと実感します。いまは、お客様から「書店を守らなければいけない」という声をたくさんいただくのですけど、もっと大変な業種もありますし、そもそも本自体が不要不急だと思う人もいる。食べ物とか生活必需品とされるものに比べると、たしかにそうですね。

かといって、書き手や本を作る人も生活があり、書店にもそれぞれ生活があるので本を売らないといけない。大きな視点でみても、血液として、流通がとまってしまうと、どこかで破綻が起きてしまう可能性もあって。もちろん、食べ物と同等に本が大事という人もいるし。そこはこの2カ月くらいずーっと考えていますね。答えはないですけど。

??人間だからできる選書サービスを始めました

竹田:僕も宮崎さんと同じで、近くの公園に行く気軽さで、書店に通っていました。ときには、本を買わないこともあります。でも、買わずに入れるスペースでなにか示唆を得ることができたあの感じは、ある意味、ほかの店舗ではなかなか再現できないですよね。オンライン書店も便利だけどやっぱり違う。

宮崎:わかります。オンライン書店を使う場合は、買う本がすでに決まっているので、ふらっと行くあの感じとは少し違うんですよね。ぼーっと棚を見ている間にいろいろ思いついて、意外な本を購入したりするのが、書店特有の魅力だと思います。そういう意味で、僕が面白いと思ったのが、竹田さんの「双子のライオン堂」が展開している選書サービスなんです。

竹田:うまく話を振っていただき、ありがとうございます(笑)。はい。お客様から自分の家の本棚の写真と、簡単なアンケートの回答を送ってもらい、それを私が見て、「その本棚には入ってないけど、この本が入っていたらいいと思いますよ」と提案をするサービスです。

宮崎:じゃあ僕が自分の本棚の写真を送れば、竹田さんが選書してくれるわけですね。

竹田:そういうサービスなんですけど、プロの作家の方はお断りしたいです(笑)。

宮崎:選書のプロではないですよ(笑)。でもこれって、さっきのオンライン書店の話とも関わってくると思うんですけど、本棚を送ってくるくらいこだわりのある人なら自分の好きな本くらいはわかっているわけじゃないですか。好きな作家さんとか、自分の興味のあるテーマの新刊ならチェックできるはずです。自分のアンテナには引っかからない意外な本を見つけることができるのがリアル書店の魅力だとすると、「類推」では選書に魅力がない。

竹田:そうですね。類推するわけではなくて、一個外す感じで本選びをしています。

宮崎:レコメンドなんだけど、AI(人工知能)ではなくて竹田さんというリアルの人が介在する、と。

花井:面白いですね。多くのウェブサービスは、アルゴリズムを使って各々に「好き」なものをレコメンドしてくれます。これはすごいことなんですけど、それが当たり前になっているからこそ、ズラすということに価値が出てくると思うんです。ユーザーはそのズレを楽しむ。

宮崎:要するに、竹田さんは本の目利きなんだけど、人間だからこそ起きてしまう竹田さん特有のバグみたいなものが、ひとつの売りになるってことですよね。「誤配」というか。

??すぐ正解を求められる世の中だけど、別解があってもいい

花井:竹田さんのやっていることは、この世の中の出会いという出会いをもはや支配しているアルゴリズムの外に出るという超パンクスな行為で、今までは場所の性質や属人性で成り立たせていたものをウェブサービスで再現しようとする試みだと思います。だから、「誤配」というよりは「別解」と呼びたい。ユーザーは「正解」ではなく「別解」を求めているわけなので。

竹田:「別解」ですか。なるほど。一応、「なぜこの本を勧めたんですか?」と聞かれたら答えられるようにはしています。サービスとしては言わないんです。考えてほしい。けど僕としては明確な理由がある。だから「別解」という表現は、とてもいいなと思いました。

俳句の連句に例えると、連句にはまずは発句があり、時節柄や気候、場所などについて主催の人やゲストが五七五で詠む。それに七七で応答するんですけど、この時に、隣り合う句同士で世界観が近すぎるとダメなんですね。最初の人が、本屋について歌を詠んだとするじゃないですか。次の人は、本の話をすると近すぎるから、猫が出てくる歌にしたりする。その句同士の関係は、詠んだ人にしかわからず、連句では感想戦をして楽しんだりする。僕は、こうした微妙な飛躍が好きなんですよね。そんな連句のような飛躍のある配本ができればな、と考えています。

宮崎:雑誌にも「ズラす」といったような部分があるのではないでしょうか。

花井:はい。頭の中にベン図を思い浮かべて欲しいんですが、たくさんの円が全部きれいに重なっている状態って、広がってはみ出る部分がないですよね。軸はもちろん必要ですよ。ただ、はみ出ている部分が「雑」で、重なっている部分が「幹」になる。幹があるから雑があり、枝葉が広がっていく。思ってもいなかったような情報との出会いの多くは、雑に潜んでいるなと。ある種、連想ゲームみたいにどんどん企画を転がしてズラしを設計していくんですけど、竹田さんのお話はそこと通底するものがあると感じて、とても興味深かったです。

(後半につづく。後半記事の掲載は6月25日予定)


●識者プロフィール

宮崎智之(みやざき・ともゆき)
1982年、東京都生まれ。フリーライター。著書『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。TBSラジオ「文化系トークラジオLife」などに出演。雑誌「ケトル」で「ネタモト」を連載中。

竹田信弥(たけだ・しんや)
1986 年東京都生まれ。双子のライオン堂店主。高校時代にネット古書店として双子のライオン堂を開業。現在赤坂で実店舗営業中。著書に『めんどくさい本屋―100年先まで続ける道 (ミライのパスポ)』(本の種出版)。文芸誌「しししし」発行人兼編集長。『街灯りとしての本屋』(雷鳥社)構成を担当。共著に『これからの本屋』(書誌汽水域)『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)など。

花井優太(はない・ゆうた)
1988年千葉県生まれ。プランナー/編集者。太田出版カルチャー誌『ケトル』副編集長。エディトリアル領域だけでなく、企業のキャンペーンやCMも手がける。TBSラジオ「文化系トークラジオLife」などに出演。

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