第106回 『吸血怪獣ヒルゴンの猛襲』

『吸血怪獣ヒルゴンの猛襲』
1959年・アメリカ・62分
監督/バーナード・L・コワルスキー
脚本/レオ・ゴードン
出演/ケン・クラーク、イヴェット・ヴィッカース、マイケル・エメットほか
原題『ATTACK OF THE GIANT LEECHES』

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 1980年代のレンタルビデオ時代に古いアメリカ製モンスター映画が続々とVHSビデオ化されていく中、B級映画の帝王ロジャー・コーマンによる一連の作品もリリースされマニアは狂喜した。だが『金星人地球を征服』(56年)や『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(60年)などの代表作がビデオ化される一方、期待に反して発売されず残念な思いをした作品があった。筆者が少年期の1970年代に何度かテレビ放映された『吸血怪獣ヒルゴンの猛襲』だ。なんでもコーマン本人は、お気に召さなかったらしいが。

 そういった不遇の作品を取り上げるWHDジャパンから、当時のテレビ邦題でDVDが発売されたことは本当に喜ばしい。そのパッケージに書かれた解説文にはこう書かれていた。「"ヒルゴン"というウルトラ怪獣を彷彿とさせる題名のため、多くの子供達も視聴し内容の残酷さ(当時として)に子供時代のトラウマになった人も多いと言われる、究極のカルトモンスター映画である」。「これ、俺のことだ」と共感を覚えた世代人も多いことだろう。『ヒルゴン』DVDのキャッチコピー「カルト映画史上最恐のモンスター 遂に登場!!」は、我々にとって大袈裟な煽り文句ではなかった。


 舞台はフロリダの湿地帯。早朝の薄暗い湖でカワウソの密猟を40年もしているレムが、「トゥクトゥクトゥク」と不気味な声で鳴く黒い怪物に遭遇する。顔の真ん中に大きな吸盤があるヒルゴンだ。鳴き声の文字化って人によって異なる表現になるが、子供の頃の筆者にはそう聞こえ、いま聞いても同じだった(笑)。

 腹が出て頭の薄い中年デイブが経営する村酒場にはリズという若妻がいて、これがまた品性に欠けるが可愛くて色っぽい。まったく店を手伝わず、客がいても部屋で音楽を大音量で流し歯を磨きながら寝間着のまま客前に出て来る。デイブにはもったいない気もするが、完全に尻に敷かれている。密猟者レムはリズの浮気相手なのだが、森のなかで変死体で発見される。検死の結果、保安官はワニの仕業と発表したが、生物学者グレイソン博士は吸盤らしき傷痕から「巨大なイカかタコの仕業」と推測する。

 そんなことが起きても全く気にしない悪妻リズは、さっさと店の常連客カルに乗り換える。湖畔でイチャついていると、ずっと2人の様子を見ていたデイブがショットガンを構えて登場、修羅場が始まる。「リズが俺を誘ったんだ!」と見苦しいカルの顔にリズが唾をペッペッ。「もう俺の女房に近づくなよ」と、ようやくデイブの怒りが収まりかけたその時「トゥクトゥクトゥク」と2匹のヒルゴン(番かな)が現れ両人を水中に引き摺りこんでしまう。翌朝、怪物の存在を信じない保安官に「2人を湖に沈めたな?」と手錠を掛けられたデイブは、留置場で首吊り自殺を遂げる(なんか可哀想)。

 次の犠牲者は「村のカス」と呼ばれるロクデナシとその友人。遺体1体につき50ドルという報奨金に目が眩んだ2人は、ヒルゴンにボートを転覆させられさらわれる。なぜヒルゴンは人をさらうのかというと、水中洞窟内の巣に運び血を吸っていたのだ。ヌラヌラしたヒルゴンが顔の吸盤を首に吸い付け血をチュウチュウ吸うシーンはとても気色悪く、クリストファー・リーのドラキュラとは異質な生理的嫌悪を感じ、子供の頃ションベンチビリそうだった。

 こうなったら遺体を浮かび上がらせようと、過激な博士は禁漁区管理官スティーブの制止を訊かずダイナマイトを水中で爆発させる。すると大揺れした水中洞窟内の水際で失血死している村人らの遺体が、ザブンザブンと水の中に転げ落ちていく(笑)。やがてプカ〜と水面に浮いてくる村人らに野次馬は騒然。カルも村のクズもみんな目を見開いたまま息を止めて頬が膨らんでいる(がんばれ!)が、リズだけ見当たらない。

 軍隊時代の戦友マイクをボート上で待機させたスティーブは水中銃を持って湖に潜り、保安官ら衆目監視の中リズ救出作戦が始まる。その頃、リズの血を吸おうとしていたヒルゴンが侵入者を察知しスティーブを迎撃、名作『大アマゾンの半魚人』(54年)の水中撮影を彷彿とさせる激しい水中戦が始まる。

 やがて力尽きたリズが洞窟から水中に転げ落ち、パンチラ&スケチクで視聴者サービスしながらプカ〜と湖面に浮上、マイクに引き上げられるが既に失血死していた。ヒルゴンはマイクと2人掛かりのナイフ攻撃で仕留められ、巣もダイナマイトで爆破される。博士は近くのロケット打ち上げ実験で使用された核燃料がヒルを巨大化させたと推論する(他の生物は? と言ってはいけないのがこの手の映画)。ヒルゴンが退治され人々が引き上げて行ったあと、「トゥクトゥクトゥク」と聞こえて完。低予算のテレビ用映画ながら、多くの子供にイヤ〜な記憶を植え付けた1本だった。

(文/天野ミチヒロ)

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