逃げた組員の代わりに妻が小指を... "剛腕マル暴"が明かす暴力団捜査のリアル

逃げた組員の代わりに妻が小指を... "剛腕マル暴"が明かす暴力団捜査のリアル

『マル暴: 警視庁暴力団担当刑事 (小学館新書 さ 21-1)』櫻井 裕一 小学館

 暴力・殺人・抗争・恐喝など、社会の"裏側"で暗躍する「暴力団」。日常生活を送るうえで一切関わり合うべきではない反社会的勢力だが、構成員が自分のすぐ近くにいる可能性は否定しきれない。いつ凶悪事件に巻き込まれてもおかしくはなく、身の周りで不穏な気配や不可解な出来事が起きていないか常に意識すべきだろう。

 とはいえ私たち一般人から"遠い世界"だからこそ、暴力団がどんな組織なのか漠然としか把握していない人も多いはず。そんな暴力団と対峙してきた剛腕刑事の目線で"暴力団捜査秘史"を明かした1冊が、櫻井裕一氏の著書『マル暴 警視庁暴力団担当刑事』(小学館)だ。

 同書は櫻井氏が刑事課マル暴のデスクに詰めていた、1991年の出来事から幕を開ける。見知らぬヤクザがいるという1本のタレコミ電話を受け、櫻井氏と相棒の刑事が向かった先は東京・高田馬場駅。ヤクザの男は本物のけん銃を所持していたため逮捕に至ったが、のちに男が自分の組から逃れようと"警察を利用"した事実が判明する。

 そんな男の元に面会へ訪れたのは、男の妻ただ1人。しかも彼女は逃げた夫の代わりに、"ケジメ"として小指の第1関節から先を失っていた。冒頭から肝が冷えるようなエピソードであり、櫻井氏も自身の思いを以下のように綴っている。

「ヤクザ社会というのは、やれ侠気だ、任侠道だと、自らの存在を美化するところがある。『親分のため』『メンツのため』と犯罪行為や組織暴力を正当化しているのだ。

しかしその実、暴力団事件で酷い目に遭うのは、何の罪もない一般人であり、立場の弱い女性や子供である。時に、このけん銃事件で指を取られてしまったような、ヤクザの家族である。

任侠道の裏側には、かならず泣いている人がいる──この事件で感じた苦い思いこそ、私の警察官としての情熱の原動力でもあったと思う」(同書より)

 それにしても、過去から現在に至るまで暴力団はどのようにして存続してきたのだろうか。櫻井氏いわく暴力団の経済活動や収入源は、"日本経済の隆盛"とともに大きく変化してきたという。たとえば1960〜70年代にかけてのヤクザの主なシノギは、闇市の支配、小口の債権取り立て、麻薬の密売など。80年代のバブル期を経た2000年代は金融詐欺の一種「ポンジ・スキーム」詐欺が増え、2010年代はご存じのとおりオレオレ詐欺やカード詐欺が増加していく。

 時代の流れやカタギの"懐事情"に合わせてシノギの内容が移り変わる一方、櫻井氏が"いつの時代も変わらない"と指摘するのが覚せい剤や恐喝などで得るシノギだ。

「食うに困った暴力団は、伝統的な違法薬物の密売に回帰する。現代では、ヤクザはカネに困って組を抜けても、一定期間は正業には就けない。(中略)暴力団への締め付けが厳しくなり、あらゆるシノギが細る中でも、覚せい剤の押収量は年々増え続けている。覚せい剤がなくならない限り、暴力団もなくならない」(同書より)

 同書ではメディアの存在について触れている点も興味深い。ヤクザ事案を扱うテレビ・新聞記者が"警察寄り"である一方、実話誌の編集者やライターは"ヤクザ側に近いポジション"を取る。一般人からすればライターに根掘り葉掘り聞き出されるのも困りものではないかと考えてしまうが、ヤクザ側の視点に立つと必ずしもそうとは限らないらしい。櫻井氏によれば雑誌を通じて存在感をアピールすることで若い衆の憧れを募らせることができ、雑誌で褒められれば末端組員の士気も高まるという。

 そんなことをされてはさぞマル暴も迷惑かと思いきや、意外にも櫻井氏は昔から実話誌を"熟読していた"と語る。

「実話誌に載っている組織図や、組の沿革などの情報はほぼ間違いないからだ。(中略)もちろん、事件についての記事には誤りも多い。だが、それは『ヤクザ側が信じていること』もしくは『読者(世間)に信じてもらいたいと考えていること』なので、資料として使い道がある」(同書より)

 今回ご紹介した内容は同書のほんのごく一部。暴力団が引き起こした事件などの詳細が櫻井氏ならではの視点から語られており、語弊があるかもしれないが"暴力団捜査のリアル"について興味は尽きない。また同書終盤で、櫻井氏がヤクザの"出所後の生活"まで気にかけているのも注目すべき点だろう。それらを踏まえたうえで私たちがこれから反社会的勢力とどのように向き合うべきか、改めて考える時間を設けてみてほしい。

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