米国帰還兵士の強い自殺願望をも低下? 認知行動療法

米国帰還兵士の強い自殺願望をも低下? 認知行動療法

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睡眠障害や不眠症とうつ病の関係はよく知られている。よく眠った次の朝は気分も良く、やる気や希望に満ちていることが多いのに対し、睡眠不足や睡眠の質が悪い日が続くと気分が落ち込みやすく、ナーバスになりやすいということを経験したことがある人も多いだろう。

それが進んでいくと自殺願望にもつながってしまうので、放置しておくことは危険である。

□兵士の死者数は戦死より帰国後の自殺の方が多い

意外かもしれないが、屈強な米国の軍人が引退後に悩むのが精神疾患や自殺願望である。

実際に戦地に出向くと、人の生と死をすぐ近くで経験することも多く、場合によっては人を殺したり、自分の死の恐怖を感じたりする機会もある。そんな緊張状態を経験した兵士は帰国後、精神状態が不安定になり、1日あたり約18人もの自殺者が出ているという。

アフガニスタンとイラクからの帰還兵だけでも自殺者は数千人にも上り、戦闘中の死者数(6,460人)を上回るとみられている(※1)。

兵士に限らず、PTSDやうつ病患者では、睡眠障害、特に不眠症が自殺願望につながっているという研究報告が複数ある。戦地での経験により、PTSDを持っている元兵士は非常に多く、それが自殺につながっていると考えられている。

□睡眠に対する認知行動療法は自殺願望の抑制に効果がある

そんな中、睡眠に対する認知行動療法(CBT-I)を取り入れることで自殺願望を減らそうという研究が行われた(※2)。

CBT-Iとは、薬などに頼らず、日常生活の中で睡眠に悪影響を及ぼすような要因を排除し、睡眠のために良い日常生活を送ることで睡眠障害を改善しようという治療法である。

日本の病院のデータでは、慢性不眠症の約6割程度の人で、睡眠障害の症状の50%以上が改善され、不眠のせいで社会に出られないという重度の睡眠障害がある人の83.3%が社会復帰をしたという効果の高い治療法である(※3)。

不眠症に対するDSM-W基準を満たす退役軍人647人を対象に、睡眠認知行動療法を行い、最後まで行うことができた405人のデータを取った。CBT-I前には自殺願望が32%であったのに対し、4か月のCBT-I療法により、21%と自殺願望を持っている人が約3割減った。

□睡眠不足が自殺願望、ひいては自殺そのものへつながる可能性

睡眠障害と自殺願望にはおそらく、セロトニン作動性神経の障害や、視床下部―下垂体―副腎を介するホルモンの異常が関与していると思われる(※2)。

また、睡眠不足が情動をつかさどる左側扁桃体の活動を抑える機能を低下させるという報告もある(※4)。さらには睡眠不足がセルフコントロールの機能を弱めて衝動的な行動に駆り立てるというという報告もあり、自殺願望だけではなく、実際の自殺行為へつながりやすくなるものと思われる(※5)。

睡眠不足はさまざまなメカニズムで気分を落ち込ませたり、感情を不安定にしてしまったりする要因となっている。睡眠障害による気分の落ち込みは、きっかけがあれば自殺願望ひいては自殺行為にまでエスカレートしてしまうかもしれない。つらい時には寝てしまうというのが、有効な自己防衛手段の一つであるだろう。しかし、睡眠がうまく取れなくて気分が落ち込んでしまうような人は、CBT-Iなどの睡眠障害に対する治療を受けてみてほしい。

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