仕事は忙しい人に頼んだほうがいい理由

仕事は忙しい人に頼んだほうがいい理由

@DIME アットダイム

 CMで人気の“ふてネコ”だが、あの猫のようにカフェなどで何をするでもなく時間を潰している人を見かけることが昨今少なくなったようにも思える。いくつかの研究によれば、以前よりも忙しさを感じている人が増えているということだ。いったいどういうことなのか。

■情報技術の進歩で常に仕事が頭から離れない

 仕事と私生活の調和を目指す「ワーク・ライフ・バランス」という言葉もすっかり定着し、長時間労働の弊害がかつてよりも意識されはじめている。それを裏付けるように、各種の統計によれば日本人の平均労働時間は徐々に減ってきており、一説によれば30年前よりも1日の労働時間が1時間少なくなったという。もちろん休暇の所得日数も増えている。これは世界の主要産業国でも同様で、OECDの調査によればいずれの国でも1990年の時点よりも、2012年時点での平均労働時間は減っている(中国は例外のようだ)。

 しかしどういうわけなのかそれでも多忙を訴えている人は増えている。それはやはり、昨今の社会の急激な変化にあると、少なくない数の研究者が指摘している。社会の変化とは情報技術の進歩であり、つまりスマホなどの情報端末の普及だ。これによって仕事をしようと思えばいつでも進められ、仕事に関する連絡がいつでもできるようになり、その結果常に仕事が頭から離れず、慌しさを実感するということだ。

 ジェームズクック大学シンガポール校の心理学者、イーファ・マクローリン氏の研究によれば、スマホを日常的に利用することで実際に“時の経過が早まる”と指摘している。

「我々の多くは最新のデバイスを使いこなしてよりスピーディーに、より効率的になろうと試みますが、これらの機器は我々の中の“体内時計”を刺激して時間の流れを早めているように見えるのです」(イーファ・マクローリン氏)


「Science Alert」より

 便利な活用ができる情報端末だが、場合によっては使っている側が振り回されてしまうケースも少なくないということだろうか。よくよく考えてみれば実際には必要のない作業を、スマホを持っているがゆえに行なっていることもけっこうありそうだ。そうであれば当然、自由な可処分時間が減ることになり、結果的に生活が慌しくなってくる。

 また、同じく情報の氾濫によってレジャーの選択肢が増えたことも、我々の生活に忙しさをもたらしていると指摘している研究者もいる。ネット上ではいろんな情報にすぐさまサクセスできるが、実体験を伴うレジャーや旅行では何かひとつを選ぶことは、他の可能性を捨てることになる。それを嫌って短時間で出来る限り多くのことをしようとすれば、生活はどんどん慌しいものになってくるのはある意味で当然といえるだろう。

 ほかの理由として、個人的な性向が左右するものではあるが、現代社会にあって忙しさが成功や達成感と深く結びついていることを指摘する説もある。ある種の人々は満足感を得るために、意識するしないに関わらず好んで忙しい状態に身を置いているということだ。そのほうが生活に満足感が得られ、精神的にも安定するのである。

 忙しい状態が好きだという人は別にして、もしも日々の忙しさをなんとかしたいと思う向きは、これらのことを少し気にかけてみてはいかがだろうか。場合によってはスマホ利用の自粛という選択肢もじゅうぶんにあリ得るのだろう。

■忙しい人に仕事を頼んだほうがいい

 日々の生活の慌しさがストレスになっている場合は当然何らかの手を打つべきだが、自覚するとしないとに関わらす忙しい状態が好きだといういう向きは、実はいろいろな意味でラッキーなのかもしれない。最近の研究では、忙しい人ほど仕事をしっかりやり遂げるという見解が示されている。

 米・コロンビア大学の研究チームは2万8000人の18ヵ月間の生産管理アプリの利用履歴を分析することで、人々の作業量と生産性の関係を研究した。常に仕事を抱えている忙しい人は、そうでない人よりも仕事に対するモチベーションが高く、もし納期(締め切り)に間に合わなかった場合ても、より短時間で仕事を完遂できる傾向があることがわかった。つまり仕事を発注する側に立てば、納期の設定をやや前倒しするなど少し工夫をして忙しい人に依頼したほうが確実な進行が見込めることになる。逆に、忙しくない人は納期を逃した後もその仕事をやり終えるのに時間がかかることもわかってきたのだ。


「World Economic Forum」より

 これは何を意味しているのかといえば、忙しい人は時間の使い方がより効率的で、そしてあまり褒められたことではないかもしれないが、納期を逃すことについてそれほどの呵責を感じていないということになる。納期を逃したことにあまり動揺しないからこそ、その後平常心でなるべく早く仕事に取り組んでリカバリーすることができるということだろうか。

 また、困難な課題であっても忙しい人のほうが最後までやり遂げる可能性が高いこともわかった。さらに作業かかる時間も、忙しい人のほうが短く済んでいるのだ。忙しくない人が平均で37日かけて納期が18日遅れた仕事を、忙しい人は平均25.5日で仕上げ納期を13日遅れで済ませているということだ。

 おそらくはIT業界のソフトウェア開発などの分野を念頭にした生産管理にまつわる研究であると思うが、納期がシビアな仕事であっても、忙しく仕事を抱えている会社や個人に依頼したほうが良い結果を招きやすいことが指摘されることになった。忙しい人や組織はますます忙しくなるという2極化を説明できるものでもある。しかしものには限度もあるので、たとえ忙しい状態が好きな勝ち組(!?)の人々も健康にはじゅうぶん留意して仕事に励んでいただきたいものだ。

■忙しい高齢者は頭脳明晰

 今日の高齢化社会ではシニア世代、シルバー世代の活躍がますます求められているが、老齢期にあっても適度に忙しい状態であったほうが、脳の健康に良いという研究が発表されている。米・テキサス大学とアラバマ大学の合同研究チームがこの5月に発表した研究では、老年期にあっても忙しい生活を送っている人々は脳の優れた認知機能を保っているという研究結果が報告されたのだ。

 研究では50歳から89歳の330人の個々の生活スタイルを一連の質問で把握するとともに、5つの認知機能を測定した。その5つとは、情報処理速度、ワーキングメモリー、エピソード記憶、推論能力、記憶の強化だ。研究の結果、年齢や教育程度にかかわりなく、忙しいライフスタイルを送っている者のほうが、脳の情報処理速度、記憶力、推論能力、語彙力が優れていることが判明した。特にさまざまな関連した記憶をよみがえらせるエピソード記憶について優秀なスコアを記録したという。


「Medical Daily」より

 研究者によれば、単純に忙しさがそのまま優れた認知機能に結びついているとは言えないとしながらも、適度に忙しい生活の中で新しいことを覚えたり学んだりする機会が多いことが、結果的に脳に対する良い刺激になっていると考えられるということだ。

 ただ誤解してはならないのは、半ば強制されたスケジュールなどで“忙殺”される状態にあることはまったく逆の結果を引き起こす点だ。忙しさをストレスに感じてしまっている状態では、むしろ脳の機能にダメージを与えることがわかっている。あくまでも適度な忙しさが、脳の健康に大きく寄与するものになるのだ。

 もちろん適度な運動も脳の健康に良いことが証明されていることから、運動の予定も含めて日々のスケジュールを埋めてアクティブに過ごすことが肝要のようだ。ますます進む社会の高齢化にあって、人生の“活躍期間”が伸びているだけに、脳の健康維持は今後社会的な課題となってくるのかもしれない。

文/仲田しんじ

フリーライター。海外ニュースからゲーム情報、アダルトネタまで守備範囲は広い。つい放置しがちなツイッターは @nakata66shinji

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