「エシカルファッション」に対抗する「ジャパンレザー」の愁苦【COLUMN】

「エシカルファッション」に対抗する「ジャパンレザー」の愁苦【COLUMN】

記事画像

ファストファッションブランドにおける過剰生産、廃棄ロス、労働搾取、環境汚染などの問題から端を発した、「エシカル」(=倫理的な)の流れは、欧米ではこの数年でファッションブランド、消費者意識の新たな付加価値としてすっかり定着した。1990年代にハイファッションブランドを標的にしたアクティビストの行動が活発化し、1991年にカルバン・クラインがファーフリー(動物の毛皮廃止)を宣言。以降ラルフ・ローレン、ヴィヴィアン・ウエストウッド、ヴェルサーチェ、ステラ・マッカートニーなどが動物実験に反対し追随した。

2018年春夏にグッチがファーフリーを宣言したケリンググループは傘下のイヴ・サンローラン、アレキサンダー・マックイーン、バレンシアガなど全ブランドを2022年秋までに排除を宣言した。プラダは2020年春夏シーズンからのファーフリーと並行して、カーボン・ニュートラルに向けた取り組みとして2021年秋にヴァージンナイロン製品をすべて再生ナイロンへの置き換えを完了している。


2020年2月ミラノで開催されたMIPELに出展したビーガンレザーを展開するアルケミ アトリエ(ALKeMe ATeLirR)のブース

このサスティナブルな取り組みはファッションのトレンドとしてファーフリーからレザーフリーの動きにまで、拡大する気配を見せている。パンデミック直前の2020年2月にミラノで行われた「MIPEL」(バッグ、靴などの国際見本市)を取材した際(本誌2020年5月号)、同展のテーマは「サスティナブル」だったがヴィーガンレザーを提案していたのはカナダやアメリカの一部のブランドのブースだけ。トレンドとしての機運はあったものの、レザーフリーの社会的な動きはそれほど顕在化していなかった。しかし、2021年にエルメスが菌糸体から開発されたヴィーガンレザーのアイテムを発表、バーバリーがエキゾチックレザー(ワニやヘビなど)の廃止を決定、ボルボやテスラ、アウディなどが新しいラグジュアリー仕様の車種としてレザーフリーを打ち出していることから、ハイファッションのトレンドとしてヴィーガンレザーが注目され出している。


エシカルに向かう消費者と価値を再認識される革職人
ジャパンレザー、メイド・イン・ジャパンにこだわった「LIVE.R MEGURO」のトートバッグ3万1,900円(税込)

東京・目黒に2015年にジャパンレザーにこだわったオーダーショップとして誕生した「LIVE.R MEGURO」は、日本のタンナー(皮革加工メーカー)の技術力の高さを伝えるテーラード・レザーウエアで知られている。表面にプリントを施し削り出すことでスウェット素材にフェイクさせたレザーのパーカーやコードレーンのレザージャケットなど趣向を凝らしたアイテムも提案してきたが、この数シーズンは日本の加工の技術本来の高さを示す素材の軽さや柔らかさを活かしたアイテムが中心となっている。主に兵庫・たつの市のタンナーと共同で素材を開発。自らパターンを起こし、オーダーに訪れる顧客のリクエストに応じる。1990年代からテーラーリング、ジャパンデニムブランドで技術を学んだオーナー兼デザイナー、パタンナーの武永昭二氏はヴィーガンレザーの影響について「(ヴィーガンレザーの)ウエアへの使用はまだ素材のクオリティ的に難しい段階。日本の高級タンナーは原皮の下処理や環境問題への対応など、世界に誇れるレベル。日本でレザー離れが起きるほどにヴィーガンへの消費者意識が高まるとは思わないし、日本と海外のタンナーを生産工程の環境問題で同列に論じるのは、どうかと思う」と話す。


LIVE.R MEGUROの武永昭二氏

日本では文化自体がエシカルな発想から発展してきたことから、天然素材由来の技術や商品は伝統工芸や民藝運動などが“ジャパンメイド”として、新しいマーケットとして見直されている。皮革産業に関してクロムなめしが一般化するまで、19世紀にヨーロッパではタンニンなめしが100%だったのに対して、日本では20世紀半ばまで油なめしで行われ、最近まで化学薬品を使用しない「白なめし」という手法が残っていた。それは狭い国土の地域の森や川を守るため生態系に配慮する独自の工夫から発達した。特に姫路の白革は19世紀末のパリ万博で紹介され、その強靭さから盛んに輸出された。加工における職人技術は、姫路やたつのなどの兵庫、東京、栃木、長崎、岐阜など産地それぞれに特徴を持ち、海外からも認められる高級レザーを扱うタンナーやレザー職人は後継者不足に悩みながら、現在も数多く存在する。エシカル、サスティナブル、ヴィーガンと押し寄せる欧米のマーケティング手法と、日本が欧米と違う環境のもと、独自の伝承で築いたそれらの技術が追いやられるなか、「ジャパンメイド」というブランドはその文化を提示している。


文/野田達哉:ファッション・ヘッドライン初代編集長

*当記事は『月刊商店建築』2022年7月号(6月28日発売)に掲載されたものを一部加筆・修正、写真を追加したものです。




関連記事(外部サイト)