「PRADAEXTENDS」が示したプラダの先進性【COLUMN】

「PRADAEXTENDS」が示したプラダの先進性【COLUMN】

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Richie Hawtin

6月に京都の京都中央信用金庫旧厚生センターで始まった展覧会「ブライアン・イーノ・アンビエント・キョウト(BRIAN ENO AMBIENT KYOTO)」が好評のため、当初の予定を延長して9月3日まで延長された。アンビエント・ミュージックの草分けとしてテクノミュージックにも大きな影響を与えた偉大なるアーティストの再評価は、パンデミック以降のイベントを暗示しているようにも見える。


「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」の会場風景・作品『Light Boxes』

光と音をテーマにした今回のイーノの展示は性別を問わず、会話を必要とせず安らげる作品であり、70年代から彼を知るファンと20代の若者までが、精密に計算された音響システムのスペースで、それぞれの時間を自由に楽しんでいる。

文字情報や言葉(今回のイーノの作品には一部、歌詞や詩が含まれているが)を、極力排除したテクノやアンビエント・ミュージックのミニマルな表現は、フィジカル、バーチャル、オンライン、オフラインを問わず共有できるコンテンツであり、サブカルチャー系のイベントとしては稀有の来場者を記録した。それは日本で1970年代後半からテクノミュージックがポップ化し、NYコレクションを騒がせたユーゴスラヴィア人のゾラン(Zoran)やミラノのジャン・フランコ・フェレなどに代表されるミニマムファッションがモードシーンを席巻した1980年代前半、さらにジョージア出身であるデムナ・ヴァザリアのヴェットモンからバレンシガへと受け継がれるオーバーサイズシルエットのトレンドと重なる。

海外のラグジュアリーブランドは、この数シーズンいち早く環境音楽(アンビエント・ミュージック)やテクノミュージックと空間ヴィジュアルをミックスしたさまざまなイベントでアプローチを図っている。それはデジタルプレゼンテーションとしての相性の良さもある。ボッテガ・ヴェネタは表参道フラッグシップのオープン1周年を記念して、 7月1日~7月10日にイベント“THE SQUARE TOKYO”を開催。ボッテガ・ヴェネタのファブリックを使用した家具と現代音楽家・ピアニストの原摩利彦のパフォーマンス、大沢伸一が制作したアンビエントなサウンドスケープが流され櫻井焙茶研究所によるオリジナルブレンドの煎茶が提供されるなど、フィジカルなイベントが行われた。

今回は7月にプラダが東京で開催したクローズドながらオンラインで一般に公開されている「PRADA EXTENDS」のレポートをお送りする。



パンデミック以降のクラブカルチャーとブランドコミュニケーション
photo by tatsuya noda

プラダが7月21日、パンデミック以降の新プロジェクト「PRADA EXTENDS」を東京で開催した。第1回目は、当初東京で予定されていたが、コロナ禍が拡大したことにより、昨年11月にロンドンのテートモダン・タンクスで行われた。1990年代から活動するテクノ音楽のDJ兼アーティストであるリッチー・ホーティン(Richie Hawtin/別名義Plastikman)をキュレーターに起用し、若手のテクノアーティストとVJによるクラブパーティーをリアルとオンラインで公開された。

リッチー・ホゥティン(左)とトークショーのファシリテーターを努めたドミューンの宇川直宏

「PRADA EXTENDS TOKYO」は渋谷のプラダ・ミヤシタパーク店で第1部のトークショー、第2部は寺田倉庫をクラブに招待制イベントとして実施。リッチーのトークショーはライヴストリーミングスタジオ「DOMMUNE」によってライブ配信が行われた。寺田倉庫での様子はプラダの公式サイトとYouTubeチャンネルで8月初旬より公開されている。

これまで建築やデザイン、アートなど“アカデミック”なカルチャーとコラボを実施してきたプラダが、クラブ、テクノという“サブカルチャー”のコンテンツイベントを行なったことは、ラグジュアリーシーンに大きな地殻変動が起こっていることを知らされる。キム・ジョーンズによってスケーターズカルチャー、ヴァージル・アブローによってヒップホップカルチャーを新しい血として輸血したことでLVMHがメンズを足掛かりにメゾンを蘇らせたように、プラダは現時点で世界最高峰のアンビエント・テクノのDJ兼アーティストのリッチーを起用することで、まったく新しい顧客を「プラダ」ブランドに招き入れた。そのモデレーターとなったのは、いうまでもなくラフ・シモンズだ。


ミレニアルズへの導火線、ラフ・シモンズとリッチー・ホゥティン
2020年2月のパンデミック以降、オンラインでの発表が中心となったミラノメンズコレクションで最初に大きな驚きを与えたのは「プラダ」に「ラフ・シモンズ」が共同クリエイティブディレクターとして就任するというニュースだった。同年4月2日に就任したラフはミセス・プラダ(ミウッチャ・プラダ)と9月に2021年SSウィメンズコレクションを発表。その直前7月に行われたミウッチャ・プラダ単独名義でのメンズコレクションはラフを迎えるためのプラダのプロトタイプともいうべき、ミニマルなスタイルを並べた。

プラダがラフを共同CDに選んだ理由はさまざまな背景が考えられるが、2018年にカルバン・クラインを退任してから自らのシグニチャーラインだけを発表してきたラフのタレント性とミレニアルズへの影響力をミウッチャが最も理解していたということだろう。ラフはジル・サンダーがプラダの傘下にあった時代(2005〜2011年)に、クリエイティブディレクターを務めており、互いは良き理解者でもある。

コロナ禍のなかラフとミウッチャ・プラダは21/22AW、22SSをデジタルで発表。ショー直後に世界各地のプレスや学生などをオンラインで繋ぎ、普段インタビューに答えることのないミウッチャが、ラフと並んで自身のクリエイションについて話すという映像は、コロナ以降のメゾンの変化を感じさせた。その最初のコレクションからリッチーは音楽を担当。ちなみリッチーはラフがディオールのクリエイティブ・ディレクターだった時も音楽を担当しており、2021年には同じくDJのdeadmau5と共同でNFTの新プロジェクトをスタートしている。


MACHINA

「ラフ(・シモンズ)は僕が90年代にベルギーでDJをしたイベントで最初から最後までの4時間、DJブースの前で踊っていたことで知り合った。プラダのショーの音楽を頼まれた時、即答せず、プラダのクリエイションを紐解くことから始めた。そしてそれが僕の音楽制作の根底にある余計なものを削ぎ落とすことで、ミニマルな景色を生み出すという手法と同じだと気付いて、コラボすることを承諾した。その手法はラフも同様で、今回のイベントではテイストや素材が違っていても、似た手法で作品を生み出すアーティストをさまざまな地域から選んだ。特にパンデミック以降、異質なものが混ざり合うことで新しい世界が始まると感じており、自分がそのハブの役割になれば」とリッチーは話す。


UTA

今回は、東京を拠点とするアーティストmachina、Yuri Urano、韓国からLioncladといずれも女性アーティストがパフォーマンス。 VJはRichie Hawtin×Kaoru Tanaka、Lionclad×Ken-ichi Kawamura、 machina × Shohei Fujimoto,、Yuri Urano×Manami Sakamotoというユニットで行われ、当日はモデルのUTAや山田優など多くのセレブがフォトセッションに来場した。


文/野田達哉:ファッションヘッドライン初代編集長

*当記事は『月刊商店建築』2022年9月号(8月28日発売)に掲載されたものを一部加筆・修正、写真を追加したものです。



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