繰り返される電通の激務・過労死事件〜なぜ「過重労働」はなくならないのか?

繰り返される電通の激務・過労死事件〜なぜ「過重労働」はなくならないのか?

なくならない過重労働が死を招く(shutterstock.com)

 過労死の実態や防止策の実施状況を報告する「過労死等防止対策白書」を厚生労働省がまとめた。

 過労死をテーマにした同様の報告書は、これまで世界でも例がなかったものだ。

 そんな話題が報じられるなか、電通に勤務していた女性社員の自殺が長時間の過重労働が原因だったとして労災が認められた。奇しくも10月8日の新聞の紙面には、電通社員の自殺と過労死白書の公表が掲載されることになった。

 電通に勤務していた高橋まつりさん(当時24)が自殺したのは昨年末。東大文学部を卒業した高橋さんは2015年4月、電通に入社。

 インターネット広告を扱う部署に配属されたが、時間外労働は1カ月約105時間にのぼった。社内の飲み会の幹事をすることもプレゼンテーションや接待の訓練と位置づけられ、飲み会後は「反省会」と称して深夜までダメ出し――。

 さらに「君の残業時間は会社にとって無駄」「女子力がない」などと上司に否定されていたという。

 高橋さんのSNSへの書き込みには、「休日返上で作った資料をボロくそに言われた もう体も心もズタズタだ」「毎日次の日が来るのが怖くてねられない」「はたらきたくない 1日の睡眠時間2時間はレベル高すぎる」などの悲痛な叫びが残されている。

活かされなかった25年前の教訓

 電通における過労死事件は、これが初めてではない。

 1991年に入社2年目の社員が自殺した問題では、会社の責任をめぐり最高裁まで争われた。判決では会社の責任が認められた。

 これは過労死における会社の責任を取り扱う上での重要判例となった。このとき電通は遺族と和解し、再発防止を誓ったが、25年前の教訓は活かされていなかった。社員を追いつめることも教育の一貫であるかのように認識させる同社の体質は、何ひとつ変わっていないように思える。
 
まつりさんのTwitterには<早朝に帰宅>が頻出

 今回の「過労死等防止対策白書」は、「過労死等防止対策推進法」(2014年に施行)で定めた「毎年報告書を作る」ことを受けてまとめられたもの。

 同法では、過労死をこのように定義している。

 「この法律において『過労死等』とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう」

 企業には、こういった過重労働ゆえの過労死を防止する「安全配慮義務」が定められている。だが、依然として日本社会には「長時間労働こそ美徳」とするような風潮が残っている。

 実際、まつりさんのTwitterには早朝の4時や5時に「これから帰宅」という内容が頻出。異常な勤務状況だったことがわかる。

 「過労死等防止対策白書」によると、<時間外労働が発生する原因>について、企業側は次のような理由を挙げている。

 「顧客からの不規則な要望に対応する必要があるため」「業務量が多いため」「仕事の繁閑の差が大きいため」「人員が不足しているため」などが多い。

 そして労働者側は、「人員が足りないため」「予定外の仕事が突発的に発生するため」「業務の繁閑が激しいため」という理由を挙げている。

 時間外労働が発生しやすい労働環境に加えて、いまなお過労死がなくならない状況の背景には、<仕事から逃げてはいけない>という、日本社会に通底する無言の圧力があるのではないだろうか。

 命よりも大事な仕事など存在しない。自分の存在を打ち消したくなるほど仕事に耐えられなかったら、<会社に行かない>という選択肢だってある。

 「過労死」を防ぐには、そんな当たり前のことを口にできない社会の空気を変えていかなければ、同じ悲劇が繰り返されるだろう。
(文=編集部、監修=里中高志)

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