人工知能(AI)が心不全患者の余命を診断〜予測精度は医師よりも20%高かった!

人工知能(AI)が心不全患者の余命を診断〜予測精度は医師よりも20%高かった!

余命を診断で人工知能が医師に勝利!(depositphotos.com)

 マスコミがトランプ大統領の失言や失策をうっかり見落とす日はあっても、ニュース・サイトがAI(人工知能)の最新トピックを捕り逃す日はない。

 もしも、AIが人間の寿命を予測できたら、人生の見え方は変わるだろうか? そんな妄想に耽っていると、AIが心臓病の発症を機械学習しながら、心不全(肺高血圧症)患者の生存率を精確に予測したという特電が飛び込んで来た。

 イギリスの医療研究機関MRC(Medical Research Council)ロンドン医学研究所(LMS)のDeclan O'Regan氏は、AIの機械学習とデータ・マイニング技術のコラボによって、心不全(肺高血圧症)患者の寿命予測の精度が高まったことから、死亡リスクが高い患者を早期に特定し、集中治療できる可能性が強まったと発表した(「Research News」2017年1月16日 )。

 AIが寿命予測! 何ともハ−トビートが熱くなるエポックだ。早速、探ってみよう。

心不全(肺高血圧症)患者の1年後生存率の予測精度は、医師が60%、AIは80%!

 O'Regan氏は、AIの機械学習とデータ・マイニング技術をコラボレーションしつつ、AIソフトウェアのアルゴリズムの研究・開発に携わって来た。どのようなメカニズムだろう?

 まず、AIソフトウェアは、過去の心臓病患者の膨大な履歴データに基づいて、心臓の属性、機能、形状、構造、心不全(肺高血圧症)の発症リスクを機械学習する→MRI(磁気共鳴画像法)によってスキャンした心臓の動画を自動的に解析する→高度な画像処理を駆使して「仮想3Dハート」をイメージングする→「仮想3Dハート」によって心拍の30,000パターンをシミュレーション解析する→バイタルサイン(体温、脈拍、呼吸、血圧)、血液検査データなどを同時に解析する。

 これらの詳細かつ有用な解析データの相関関係やパターンを検索・抽出するデータ・マイニング技術を応用し、心不全(肺高血圧症)患者がどれくらい長く生きるかを精確に予測する→死亡リスクの高い心不全(肺高血圧症)を特定し、適切なタイミングで最善の診断・治療を行うという流れになる。

 つまり、今回開発されたAIソフトウェアは、このような機械学習のプロセスを踏みながら、アルゴリズム(解析手順)を包括的に進展させ、解析データが生成した複雑な関係性を識別・定量化できるため、識別・定量化したパターンを用いれば、心不全(肺高血圧症)患者の寿命予測を行えるのだ。

 O'Regan氏によれば、今回のAIソフトウェアで250人以上の心不全(肺高血圧症)患者のデータを解析したところ、心不全(肺高血圧症)患者の1年後生存率の予測精度は、医師が60%、AIは80%とAIの予測精度が20%も上回っていた。驚異的な高精度ではないか!

 ちなみに、肺高血圧症は、左心室の異常、血栓、塞栓、全身性疾患などによって心臓から肺へ向かう動脈(肺動脈)の血圧が高まった状態だ。肺高血圧症が起きると、心臓への負担が増大するため、放置すれば心不全に至り、余命は2年半とされる。
AIの機械学習によるイノベーションは、数奇な未来を引き寄せるのか?

 O'Regan氏は「機械学習がもたらす新しいAIソフトウェアは大きな前進だ。医師は、既存の患者データだけに依存せずに、AIソフトウェアが提示する高精度な解析データに基づいた確定的な判断を下せるので、心臓病の治療法が変わるかもしれない」と説明する。

 LMSのTim Dawes氏は「放射線科医は、最もリスクの高い患者を特定するために、経験に頼った手作業の検査法だけで長時間を浪費している。AIの機械学習によるイノベーションは、心不全(肺高血圧症)の自動予測の新たなアプローチになる」と期待を込める。

 AIの機械学習は、すでにがんや脳疾患の研究に役立っているが、心臓の3D画像の解析は困難を極めているので、AIソフトウェアは、心臓病における画期的な臨床研究の端緒を押し拓くだろう。

 O'Regan氏は「次のステップは、このAIソフトウェアを活用し、今回のHammersmith病院のデータとは別の病院のデータを検証しなければならない。究極の目標は、寿命予測だけでなく、患者別の最適な治療法予測を行うAIソフトウェアを開発することだ」と強調している。

 AIテクノロジーが加速し、ビッグデータが爆発する近未来。AIソフトウェアのアルゴリズムがより進化し、AIの寿命予測技術がブレークスルーしたらどうなるだろう?

 たとえば、「デス・カウンター(寿命予測分析計)」の新発明や「死亡予測保険」などの珍サービスも出現するかもしれない。

 そんな夢物語のような次代が到来したなら、何歳の時に、どのような原因で、どのような症状や病態を招いて死亡するかが予知できるのだろうか? 人生の見え方も、人間の生き方も大きく様変わりするのだろうか?それが幸福な正夢なのか、恐怖の悪夢なのかは、未来に問い質す他ない。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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