遺伝性の乳がん、卵巣がんの発症リスクがもっとも高まるのは30代と50代

遺伝性の乳がん、卵巣がんの発症リスクがもっとも高まるのは30代と50代

遺伝性の「乳がん」「卵巣がん」の発症リスクが最も高まる年齢は?(depositphotos.com)

 英ケンブリッジ大学公衆衛生・プライマリケア学のAntonis Antoniou氏らは、「BRCA1遺伝子」や「BRCA2遺伝子」に変異がある女性が「乳がん」や「卵巣がん」を発症するリスクが最も高まる年齢などを明らかにした研究結果を『Journal of the American Medical Association(JAMA)』6月20日号に発表した(「HealthDay News」2017年6月20日)。

遺伝性の「乳がん」が発症するリスクが最も高まる年齢は31〜40歳と51〜60歳

 Antoniou氏らは、1997〜2011年に英国やオランダなどで登録されたBRCA1遺伝子変異陽性の6036人とBRCA2遺伝子変異陽性の3820人の計9856人を対象に前向きコホート研究(経年的追跡調査)を5年間にわたって実施した。9856人のうち4810人は、調査時に「乳がん」または「卵巣がん」の既往があり、5年間の追跡期間中に中央値で426人が乳がん、109人が卵巣がん、245人が対側乳がんの診断を受けた。

 分析の結果、発症リスクは成人後、年齢が上がるにつれて急上昇し、「BRCA1遺伝子」の変異がある女性が「乳がんを発症」するリスクが高まる年齢は「31〜40歳」に最大となり、その後は生涯にわたって横ばいだった。一方、「BRCA2遺伝子」の変異がある女性も成人後にリスクの上昇が始まり、「51〜60歳」に最大となり、その後は生涯にわたって横ばいだった。

親族に乳がん既往者がいれば発症リスクはさらに上昇

 また「BRCA1遺伝子変異」がある女性が80歳までに「乳がん」を発症する確率(累積発症率)は72%、「卵巣がん」を発症する確率は44%。一方、「BRCA2遺伝子変異」がある女性が80歳までに「乳がん」を発症する確率は69%、「卵巣がん」を発症する確率は17%だった。

 乳がんの診断後、20年間に対側乳がんを発症するリスクは、「BRCA1遺伝子変異」がある女性は41%、「BRCA2遺伝子変異」がある女性は21%だった。さらに、「BRCA1/2遺伝子変異」がある女性の乳がんの発症リスクは、女性の親族に乳がん既往者がいれば、さらに上昇し、変異の位置もリスクの増減に関与する事実なども判明した。

 Antoniou氏は「今回は高精度のリスク推定を行うため、より大規模な前向きコホート研究を実施した。乳房や卵巣の予防的切除などの対策を取るべき時期を決める有益な知見となった」と推奨している。

 従来の「BRCA1/2遺伝子変異」と「乳がん」や「卵巣がん」の発症リスクに関する後ろ向き研究によれば、70歳までの乳がん発症の確率(累積発症率)は「BRCA1遺伝子変異」がある女性は40〜87%、「BRCA2遺伝子変異」がある女性は27〜84%と幅が広く、精度が低かった。

遺伝性乳がんとは?発症の可能性が高いのは20代

 米国がん協会(ACS)のLen Lichtenfeld氏は「従来の発症の確率(累積発症率)よりも精確かつ、現実を反映した推定値だ。『卵巣を摘出したくない』と願う女性も、『もっと早く摘出しておけば良かった』と後悔する女性もいるが、どのような選択肢があり、どのような結果がもたらされるかを冷静に判断するのに役立つ」と語る。

 ただ、「乳がんの家族歴のない女性が遺伝子検査を受けるべきか否か」については、議論がある。家族歴も既往歴もないなら、BRCA1/2遺伝子変異陽性の確率は極めて低いとされるものの、例外もあるので、検査対象を広げるべきとする専門家の定見もある。

 6月23日、乳がんと闘病中だった小林麻央さん(34)が亡くなった。遺伝性乳がんと報道されたが、遺伝子検査の結果、「BRCA1/2の変異は陰性で、遺伝性乳がんではなかった」と自身のブログで否定している。

 また、2013年2月、米国の女優アンジェリーナ・ジョリーさんが予防のために健康な乳房を切除した。そもそも「遺伝性乳がん」とは何だろう?

 多くのがんの主因は、喫煙や過度の飲酒などの生活習慣、紫外線や放射線、化学物質などの環境要因や老化だが、乳がん患者のおよそ5〜10%は「BRCA1/2遺伝子変異」が原因で起こる「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」だ。

 欧米人を対象にしたデータによれば、「HBOC」の人は、一生のうちに乳がんを発症するリスクは一般人の約10倍。治療後、温存した乳房に新たながんができたり、対側乳がんを発症したり、卵巣がんにかかるリスクも高い。

 昭和大学の中村清吾医師によると、一般的に乳がんは45歳以上に多いが、「HBOC」の人は若いうちに発症しやすく、特に「BRCA1遺伝子変異」では75%が50歳未満、25%が40歳未満に発症していることから、20代の発症は遺伝性が強いととしている(参考:「小林麻央さんが否定した「遺伝性乳がん」とは? 発症リスク10倍、父娘遺伝も...」よりhttps://dot.asahi.com/dot/2017062300062.html)。

家族歴をできるだけ正確に医師に伝え、遺伝子カウンセリングを受けることが賢明

 日本人の乳がん患者は、およそ9万人――。

 乳がんも卵巣がんも、早期発見すれば治療できる。家族が同じ変異を持っているなら、BRCA 1/2遺伝子検査は予防医療の重要な選択肢になる。

 ただ、BRCA1/2遺伝子検査は健康保険適用外のため、およそ20万〜30万円の費用がかかる。家族歴をできるだけ正確に医師に伝え、遺伝子カウンセリングを受けることが賢明だ。

 なお、BRCA1/2遺伝子変異は男性にもあり、男性乳がんや前立腺がんを発症する。父から娘に受け継がれて乳がんや卵巣がんにかかることもある。

 「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」についての詳しい情報は、特定非営利活動法人 日本HBOCコンソーシアム(http://hboc.jp/)を参照してほしい。
(文=編集部)

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