死体ビジネス? 学術? 見せ物? 今も各国で開催「人体の不思議展」の功罪!

死体ビジネス? 学術? 見せ物? 今も各国で開催「人体の不思議展」の功罪!

現在「人体の不思議展 BODY WORLDS」はオーストラリアのメルボルンで開催中(depositphotos.com)

 世界七つの海を股にかけ、人間の好奇の目と蛮心を呼び覚まそうと、今なお地球狭しと徘徊する「死体ビジネス」がある。その名は「人体の不思議展 BODY WORLDS」――。

 1995年に日本で開催されて以来23年、アメリカからヨーロッパ、アジア、アフリカまで、全26カ国121都市、およそ4600万人もの目を釘付けにし、現在はオーストラリアのメルボルンで開催中だ。

「人体の不思議展 BODY WORLDS」とは何か?

 主催者の「人体の不思議展実行委員会」によれば、ハイデルベルク大学の医師・解剖学者のグンター・フォン・ハーゲンス博士が発明した「プラスティネーション」によって保存した、現実の人体150体以上のオリジナルな解剖学的・生物学的・生理学的な学術展示コレクションとしている。

 肌の下にある人体の構造性、系統性、諸器官の配置性をはじめ、弾力性、復元性、脆弱性、審美性などをあらゆるアングルから半透明のフルボディで観察できるので、訪問者に様々なインスピレーションを喚起させ、健康と活力の貢献性を気づかせ、人体と生命の価値と尊厳を学ばせるのが狙いだ。

 「プラスティネーション」とは何か? 従来、展示標本は、ホルマリン液漬けや剥製の死体が主体だった。

 だが、プラスティネーションは、死体、臓器、組織に含まれる血液、体液、水分、脂肪分などをプラスチックなどの合成樹脂に置き換えるため、死体、臓器、組織を腐敗させずに、生々しい形状と生き生きした外見を保ちながら保存できることから永続的展示に適している。

 訪問者のおよそ66%が「身体の健康にもっと注意を払いたいと」本音を吐露しているが、その感想と印象を聞いてみると――。

 「信じられないほどの学びがある。心と体を分けることは、人生に多くをもたらした」アンドレ・アガシ(テニス選手)、「驚くほど魅力的で巧妙に出来ている体の仕組みに命の大切さ、神秘さを教えられた」トニー・ホーク(スケートボーダー)、「言葉にならない素晴らしい実体験。神聖な気持になれた」ジェニファー・アニストン(女優)など......。

 検索すれば、同類の「感動」は、山のようにあるかもしれない。

 だが、重要な論点は、このような極私的な感想や個人的な評価では決してない。

650万人もの日本人が感動?人権侵害の懸念や批判が沸騰!

 開催当初、「人体の不思議展 BODY WORLDS」の評価は高かった。日本では1998年まで各地で開催され、死体を輪切りにスライスにした標本、血管系だけを残した標本、胎児が子宮に眠る妊婦の標本、皮膚を剥がした筋肉の標本、バスケットボールをするポーズをとった標本などが展示され、関心を集めた。

 2012年の閉幕までに、およそ650万人が来場している。

 だが、死体の埋葬、解剖などの関連法に違反しないのか、人間の尊厳を侮辱しないのかなど、法律的・倫理的な人権侵害の懸念や批判が沸騰する。

 たとえば、日本医師会は死体解剖保存法違反を指摘し、山口県保険医協会や新潟県保険医会は法と社会通念にそぐわない展示会の中止を要請。京都府保険医協会は死体解剖保存法に抵触することを理由に主催者を告発。厚生省は人体標本を「遺体」とみなし、京都府警が標本管理に違反した疑いで捜査した。

 海外でも、フランスの裁判所などが展示会の中止を命令。チェコやイスラエルは、法的許可文書を提示しない人体展示を禁止。カトリック教会のロベルト・ツォリチュ大司教は「人間の尊厳は死後でも極めて神聖なものであり、人体を見せ物にしてはならない」と警告した。

死体を非人道的な手法で調達!?利益は2006年の時点で約9億ドル!

 このような逆風にもかかわらず、主催者は「実物の死体の解剖標本を陽のもとに晒して展示する」と標榜しつつ、その学術的な正当性と貢献性を強く主張してきた。

 だが、死体はどこから、どのように入手したのか、提供者は誰なのか、本人や家族の法的な同意を得ていたのかは判然としない。

 中国共産党の内政や外交問題を報道するグローバルな多言語メディア『大紀元』によると、ハーゲンス博士は、1999年に中国の大連市に「Von Hagens Dalian Plastination Ltd」を設立後、死体を非人道的な手法で調達。

 大連市に建設した数カ所の死体加工工場で従業員数百人がホルマリン液に浸した死体を取り出し、整理、切断、解剖、防腐、姿作りなどの処理を行い、プラスティネーションによる死体標本を量産した。

 『ニューヨーク・タイムズ』によると、ハーゲンス博士は、本人や家族の同意はいらない、新鮮な人体が大量に手に入り、医療技術を持つスタッフの人件費も安いうえに、供給された死体の加工処理の法的責任を問われる懸念はないことから中国を選んだと答えた。

 主催者は「死体の提供は同意を得ている」などと表示しているが、裏付ける証拠はない。協力施設に南京大学が表示されているものの、南京大学は否定している。死体標本の献体証明書の開示も一切ない。

 なお、ハーゲンス博士のプラスティネーション協会は、世界各地での展示会への標本貸し出しによって、2006年までに約9億ドル(990億円)もの巨利を得ている。

 では、その「死体ビジネス」の真相はどうなのか?

標本にされた遺体は中国人? 法輪功学習者?

 2003年、新華社傘下の雑誌『瞭望東方週刊』は「中国は世界最大の人体標本の輸出国になった」と報道。

 2006年、『ニューヨークタイムズ』は、「中国で死体売買の関係者と死体の出所を確定するのは難しい。主催者も標本の供給者を明かさない。公安当局の説明も二転三転、死体を提供したとされる南京大学も関与を否認。死体は精神病患者や処刑された囚人の可能性がある」と報道している。

 人体の出所が取り沙汰されると、中国のエージェントのプレミア・エキシビション社は「中国警察当局が提供した中国の公民や住民の遺体だ。警察当局は、中国の刑務所から人体を入手している」と公式サイトで免責声明文を発表。

 中国人権問題に詳しいカナダの弁護士デービッド・マタス氏は「2017年にプラハで開かれた人体標本展の死体のほとんどが公安、警察当局から供給された中国人の遺体だ」と解明している。

 『大紀元』などの中国国内外の情報によると、人体標本は、共産党当局が厳しく弾圧・連行した法輪功学習者が多いと強調。2004年にドイツ紙『シュピーゲル』は「工場周辺に少なくとも3つの刑務所や強制収容所があり、政治犯や法輪功学習者が拘留されていた」と詳報している。

法輪功とは?

 法輪功は、1990年代におよそ7000万人が修練していた伝統気功法だ。中国体育当局によれば、その精神修養法が共産党のイデオロギーに抵触するため、1999年当時の江沢民主席が弾圧を決定。以後、共産党当局は自宅、陳情所、職場などあらゆる場所で法輪功学習者を連行し、弾圧を加えた。

 2017年8月、国際人権NGOフリーダムハウスは「法輪功学習者は、チベット族、ウイグル族、キリスト教徒よりも過酷かつ凄惨な迫害を受けた」と主張。

 法輪功迫害問題を10年間追い続けてきたマタス弁護士によると、収容されている法輪功学習者は、家族や友人に連帯責任が及ぶのを恐れ、身元を決して明かさない。現在も多くの身元不明の学習者が中国の収容所に拘留されている」と推測している。

 法輪功迫害を独自調査する国際組織「追査国際(WOIPFG)」の代表で、米ハーバード大医学研究員でもある汪志遠氏は「なぜ臨月近い妊婦の遺体を家族ではなく、公安当局が管理できたのか? なぜ身元を捜索しないのか?」と厳しく批判している。

死体加工工場の内実を赤裸々に暴露

 2014年11月の新唐人テレビは、大連の死体加工工場に勤務していた中国朝鮮族の男性(李さん)の告白を報道。李さんは「従業員は全員、医学部の卒業生で給与は高い。私の仕事は肝臓部分の処理。大きな水槽に死体をホルマリン漬けにした後、脂肪と水分を抜き、化学薬品をかける。仕上がりはもう人間ではない、プラスチックのようだ。妊婦もいた」などと内実を赤裸々に暴露した。

 2013年、調査ジャーナリストのイーサン・ガットマン氏は「中国当局、軍、警察、公安、医療機関、エージェントなどが組織ぐるみで法輪功学習者などから臓器を強制的に奪取した。臓器狩りによって数万人以上が殺害された恐れがある。殺害された法輪功学習者の家族からDNAサンプルを採取し、標本のDNAと照合すれば、法輪功学習者が死体標本に利用されたか否かの嫌疑が晴れ、疑惑も憶測も全て解明できるかもしれない」と語り、ハーゲンス博士にDNA鑑定を強く要請。しかし、ハーゲンス博士が応じる見込みはない。

 ちなみに、2011年にドイツ紙『ビルト』は「ハーゲンス博士が自らパーキンソン病の末期にある事実を明かした。死後は遺体を標本展示するらしい」とリークしている。

 累々たる屍(しかばね)を世界中に公然と晒しながら順風満帆、七つの海を巡航し続ける「人体の不思議展 BODY WORLDS」。闇から闇へ。「死体ビジネス」の犠牲になった人々が誰なのか? その真相は、庸として掴めない。

 今こそ、「死体ビジネス」の功罪を問うべき潮時だ。「学術展示か、見せ物か?」「健康の啓蒙か、人権の蹂躙か?」「生命の礼賛か、人道に反する蛮行か?」と。
(文=編集部)

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