炭酸ガスが傷を治す!? 床ずれの治療から誕生「炭酸ジェルパック」の開発秘話

炭酸ガスが傷を治す!? 床ずれの治療から誕生「炭酸ジェルパック」の開発秘話

どうして炭酸は美肌効果があるのか(depositphotos.com)

 このところ、各飲料メーカーが新しい炭酸水商品を投入している。かつてウイスキーなどの割材として消費されていた無糖炭酸水が、直接飲みの商品として市場を急速に拡大している。「第二次炭酸ブーム」という言葉さえ聞こえてくる。

 しかし、炭酸水という言葉や商品名が急速に広がる中で、そもそも炭酸とは何か、その効果はどんなものかということは意外に知られていない。

 そこで、皮膚科・内科として長年、炭酸の医療的な研究に携わり、その研究の成果として画期的な美容素材「炭酸ジェル」を開発した、日置正人医師に話を聞いた。

難治性の褥創治療に悩んでいた20年前

 「炭酸とは、気体である二酸化炭素(CO2)が水に溶けている状態のことを指します。二酸化炭素はその状態により、名称が変わります。気体の時は『炭酸ガス』、液体の時は『液体二酸化炭素』と呼ばれて主に溶接で使用されています。固体時がよく知られている『ドライアイス』ですね」

 「炭酸飲料水のボトルの栓を開けると、プシュっと音がして泡が出てきます。これは、大量の二酸化炭素に強い圧力をかけて水に溶かして作られている炭酸飲料水が、ボトルの圧力から解放され抑え込まれていた二酸化炭素がいっせいに空気中に逃げていく現象です」と日置医師は説明する。

 日置医師がこの炭酸に注目したのはもう20年以上前のことだ。

 「一番最初は、自分の髪の毛を増やす育毛剤の研究をするため、開業しながら研究開発の会社を立ち上げました。結果として独自の育毛剤も開発しましたが、同時に炭酸というものに非常に大きな関心を持ちました。当時、内科と皮膚科の開業医だったため、皮膚疾患の中でも、特に難治性の高い褥瘡(床ずれ)の治療に頭を悩ませていたのです」という。

 褥瘡とは寝たきりで体の動かせない方の臀部や背中など、布団に長く接していることで慢性的な傷となる皮膚病だ。患部が常に刺激にさらされ、症状が悪化しやすく、進行すると組織が壊死してしまうというやっかいな疾患だ。こうした褥創のケアは長期入院の患者さんに対する看護師のケアでも大きな課題となっていた。

 「看護の現場を訪れたり、文献を調べたりするうちに、ある方法がかなりの効果をあげていることを知りました。それが『炭酸ガス』を使うやり方だったのです。炭酸ガス入り入浴剤を洗面器のお湯に入れ、そこにガーゼやタオルを浸して軽く絞ってから、患部にあてるというケアです。患部が手や足なら、直接、炭酸ガス入り入浴剤を入れたお湯につけます。メカニズムとしては、水に溶けている炭酸ガスが血行を促進し、皮膚の新陳代謝を高め、傷の修復作用を促進する、というものです」と当時を振り返る。

 実は炭酸ガスをこうした皮膚疾患の治療に利用するという考え方は、海外でも古くから実践されてきたが、『メディカルトリビューン』(2002年9月26日号)では、ドイツのレオンベルク郡病院ホルスト・ハマン教授による報告がトップ記事として紹介されている。

 炭酸ガスをビニール袋の中に入れ、それを患部にすっぽりとかぶせ密閉する方法で、難治性で悪化しやすい傷が治癒に向かったという内容の報告だった。

 日置医師によると「人間の体はつねに新陳代謝を繰り返し、古い細胞は排出され新しい細胞に生まれ変わっています。この代謝には酸素が不可欠で、その酸素を供給するのが血流です。血行が高まり血流が良くなれば、血液に乗って細胞に酸素が送り届けられ、代謝が活発になります。褥創は血行不良が原因ですから、炭酸ガスで血行促進をすれば、改善が期待されるのです」という。

皮膚の代謝を高める「ボーア効果」とは?

それではいったいどのようなメカニズムで二酸化炭素が血行促進に結びつくのか?

「酸素は通常、血液中のヘモグロビンによって運搬されています。細胞内に酸素を送り込むためにはヘモグロビンから酸素を引き離さなければなりません。この引き離し役が二酸化炭素です。二酸化炭素によりヘモグロビンから酸素が切り離される作用は『ボーア効果』と呼ばれます。二酸化炭素分圧が高くなると、血管は酸素不足だと認識し、血管が拡張し酸素を放出し血流も増加、結果として代謝が高まるのです」と日置医師。

 しかし、炭酸の創傷治療効果に注目したものの、炭酸ガスは大気中に発散しやすいことから、実際に皮膚に届く量には限りが出てしまう。「もっと大量の炭酸ガスを効率よく、しかも簡単に患部に届けることはできないか」考え試行錯誤を繰り返し、ジェルに炭酸を封じ込めるという手法を思いついた。

 「あらゆる種類の造粘剤を片っ端から試し、長年の研究・開発の末たどり着いたのが、海藻の成分であるアルギン酸ナトリウムで作ったジェル状のパック剤でした。ジェルを使うことによって、中に閉じ込めることのできる炭酸の濃度を飛躍的に上げることに成功したのです。さらに、ジェルであれば、患部に塗りパックすることで、炭酸ガスが大気中に逃げることなく効率よく作用させることができるという利点もあります」

「炭酸ジェル」というまったく新しいドラッグデリバリーシステム(DDS)の誕生の瞬間だ。

 その後について日置医師は次のように話す。

 「こうして誕生した炭酸ガス入りジェルパックは何度も試作を重ね、安全性を確認し、皮膚潰瘍や創傷のケアに取り組むクリニックや医師に紹介すると、大きな関心が寄せられ、採用する医師が増え、改善症例の報告が集まってきたのです」
 
 しかし、日置先生の炭酸に対する取組みは続き、ジェルパックの効果が思わぬところに見出され、その可能性が広がっていく。次回は炭酸美容という新しい分野の確立について話を伺う。
(文=編集部)

日置正人(ひき・まさと)
医療法人紘祥会理事長。日置クリニック院長。1981年、大阪市立大学医学部卒業。88年、大阪市立大学大学院医学研究科卒業。その後、城東中央病院内科部長を経て、93年、日置医院を開設。皮膚科・小児科・内科での診療の傍らアトピー性皮膚炎、円形脱毛症、美容に至るまで幅広い研究活動を展開、一般臨床医の立場から創薬を目指す。
「炭酸パック(CO2ジェル)」の開発者として知られ、美容皮膚、育毛などのアンチエイジングの分野で独自の理論を展開、数々の実績をあげている。著書に『炭酸美容術』(幻冬舎)、『ミトコンドリア不老術』(幻冬舎)、『20分で素肌美人になる』(現代書林)、『日置博士の新育毛理論 「脱毛因子ブロック」で髪はよみがえる!』(現代書林)などがある。

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