大学教授が語る「デキる社会人になる子育て術」

大学教授が語る「デキる社会人になる子育て術」

大学教授が語る「デキる社会人になる子育て術」著者の鬼木一直氏

親としては、我が子に社会に出てから自立して、自分の選んだ道でいきいきと活躍してほしいもの。でも、そのための「正解」が用意されていないのが子育ての難しいところです。書店に行けば、子育ての「理論」についての本はたくさんありますが、実際に何をすればいいの?と困ってしまうことが多いですよね。

『デキる社会人になる子育て術 元ソニー開発マネージャが教える社会へ踏み出す力の伸ばし方』(幻冬舎刊)はそんな親の悩みに答える一冊。経済産業省が提唱する「社会人基礎力」の要素である「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力を養う家庭教育を具体的に解説しています。

今回は著者であり東京富士大学経営学部の鬼木一直教授にインタビュー。子育てにおいて親が知っておくべきことや、本書の使い方についてお話を伺いました。

■子どもが「デキる社会人」として自立するために親ができること

――今回の『デキる社会人になる子育て術』をお書きになったきっかけからお聞かせください。

鬼木:私は大学で教鞭を取りながら、入試の制度を考えたり、大学教育をよりよいものにしていく仕組みを検討していますが、その中で重視しているのが本学で「実務IQ」と呼んでいる、単純にいい会社に入るだけではなく、社会人になってから活躍できるような能力の育成なんです。

そうした取り組みを進めていく中で、学会などで議論しているうちに、子どもの能力を育むためには大学教育だけでは不十分であり、小学生時代の教育や、もっといえば幼少期の家庭教育が大事だよね、という結論になることがあるんです。

――でも、それはわかる気がします。

鬼木:もちろん、大学教育は大切ですが、小さいうちから将来を見据えた教育を考えていった方がいいというのが本書の考え方です。

この本では、経済産業省が掲げている「社会人基礎力」をベースにしています。この社会人基礎力の考え方は現代教育に即しており非常に素晴らしい方針ですが、教育の現場でこの力を育む教育が十分になされているのかといったらまだまだですし、ましてや家庭教育においては、ほとんどの親御さんが認知していないのが現実です。

家庭教育については、親御さんとしてもなんらかの指針がほしいところだと思うのですが、難しい理論書のようなものはあっても、具体的にどうすればいいのかまで踏み込んだ著書はなかなかありません。この本はその部分を噛み砕いて、実例を交えて伝えるようにしています。少しでも方向性を示せればいいと思っています。

――本書の特徴としては、実際に教育に携わりながら、子育てもされている人の体験に基づいているというところになるのでしょうか。

鬼木:その通りです。それに加えて、私はソニーで長く働いてきました。教育研究と子育て経験、そして社会人実績の三つの視点から書かれた子育ての本はほとんどなく、今回の本を書いてみようと思い立ったわけです。

――大学で教えている中で、最近の学生について感じるところはありますか?

鬼木:教えてあげればどんどんできるようになる学生が多いのですが、「自分で考えて」というと困ってしまうケースが多々あります。ソニーにいた時にも同じことを感じていました。私が学生だった頃は、自由にしていいと言われると喜んで行動を起こす雰囲気があったのですが、今は指示がないと動けない学生が多いように思います。SNSなどの普及により情報規制が厳しくなってきている影響もあると思います。

――社会に出てからは、やはり自発的に動ける人が必要とされますからね。

鬼木:そうですね。今回の本ではそうした「社会に出てから活躍できる資質」を幼少期からいかに育てていくかということを紹介しています。単なるノウハウに終わらず、実例が豊富であることが本書のポイントだと思っています。

どんな人に読んでほしいというターゲットを想定しているわけではありません。もちろん、小さいお子さんを育てている方には読んでいただきたいと思っていますが、必ずしもお母さんということではなく、お父さんにも読んでいただきたい本です。特に今は新型コロナの影響で在宅勤務が増え、お父さんが子育てに携わる時間がたくさんありますから。

――タイトルにある「デキる社会人」について、鬼木教授はソニー時代にどんな人を「デキる」と思ってきましたか?

鬼木:「デキる社会人像」は時代によって変わってきていると思います。かつては「あの人に聞けばわかるよ」といって頼りにされるような、知識を持っている人がデキるとされてきましたが、今は大抵のことはインターネットで調べられますから、知識そのものの価値は相対的に落ちていますよね。

今はインターネットでは解決できないこと、例えば「考える力」「企画する力」「行動に移す力」がある人を「デキる社会人」と呼ぶと思っています。必ずしも教科書通りに行かないのが仕事なので、うまくいかない時にどうするのか、どのように窮地を打開することができるのかという、視野の広さや引き出しの数が勝負になります。この本では「選択肢力」という言葉を使いましたが、アイデアの引き出しの数は一見本筋とは関係のない経験から生み出されることが多いので、子どものうちに、親の目からみて「くだらない」と思うことでもチャレンジさせてあげるべきであるというのが私の思いです。

――先ほどのお話にあった「社会人基礎力」とはどのような力ですか?

鬼木:定義としては、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」であり、その要素として「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力があります。私はこれらを、仕事だけではなく、生活していくうえでも大切な能力であると考えています。

学校の成績は記憶、パターン認識により一時的に向上することができますが、実践では容易に答えが出ないことの方が圧倒的に多いものです。今回の本ではこれらの3つの能力を家庭内の日々の生活の中でどのように高めていくのかを具体的に示しました。

――「チームで働く力」一つをとっても、企業で働く時にすごく大事ですよね。会議などでファシリテーションができる能力などは、大人になってからではなかなか身に付かないような気がしています。

鬼木:ファシリテーション能力は会議を円滑に進めるために大切な力ですが、本書の中で取り上げている「コーチング」に近いものがあり、自分で答えを教えるのではなく、質問を重ねることでメンバーから有益な情報を引き出す能力です。

子育てにはこの力がとても必要で、子どもにこうしなさいというのではなく、「どうしたらいいのか」というのを子どもに考えさせることが大切です。例えば、食べ物をこぼしてしまった時、ただ叱るだけだと子どもには叱られた記憶しか残らないので、同じ失敗を繰り返してしまいます。そうではなくて「どうしてこぼしてしまったのかな?」と子どもに問いかけて、「もっとお皿を近くに置いておけばよかったなあ」と自発的に考えさせる。その方が次に繋がるんです。

こうした取り組みを続けることで、子どもにも考える力が身に付いていきます。

――そういうことは学校教育ではなかなか身に付かないのでしょうか。

鬼木:そんなことはないと思いますが、学校は多人数教育ですし授業を進めないといけませんからね。学校の授業も「丸暗記」からアクティブラーニングに変わってきてはいますが、個性を活かし、自分で発想させるという点についてはまだ足りないと感じています。

やはり子どもにとっては家で過ごす時間が長いので、家の中での親の教育、というより普段の会話を通じて育んでいくということが大事なんです。

(後編につづく)

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