指紋がついてるのになぜ? 平積みされた本の一番上を買う男の心理とは

指紋がついてるのになぜ? 平積みされた本の一番上を買う男の心理とは

指紋がついてるのになぜ?平積みされた本の一番上を買う男の心理とは

「ごめん、ちょっと本屋寄っていい?」

一昨日発売になった新刊を買いたいという友人の岡野(仮名)に連れられ、19時からの飲み会前に新宿の大きな書店に入ったときのこと。

店頭に平積みで置かれていたのは、「世界のエリート」という単語が入った外国人が表紙のビジネス書、先日芥川賞を受賞した村田沙耶香『コンビニ人間』、朝井リョウ『何様』などの有名文学作品。

新刊を立ち読みする客たちをすり抜けて、岡野はすぐに目的の本を見つけたようだった。

「ああ、あったあった」

平積みに置かれていたその本は、ビジネス書と文学作品のあいだに置かれていたので、おそらくエッセイ集か何かだったのではないか。

平積みで12、3冊ほど積まれていた中から、一番上に置かれた本を迷わず手に取った岡野。

「ちょっと待ってて」とレジへ向かう彼に思わずツッコミをいれた。

「買うの、一番上でいいの?」
「え、なに?」
「一番上の本って立ち読みして触られてるじゃん。中にあるキレイなのにしろよ」
「ああ、いいのいいの。ていうか一番上のがいいんだよ」

(…なに言ってんだ、こいつ?)

レジで会計を済ませた岡野と、店を出る筆者。思わず疑問をぶつけた。

「俺は本を買うとき、一番上のは選ばないけどな。ちょっとズルいかもしれないけど、二番目か三番目の本を取る」
「ああ、わかるわかる。そういう客って多いのわかるよ。他の客に触られてなくて、指紋がついてなくてキレイだからでしょ?」
「そうそう」

そこから話題は変わり、目的の居酒屋が入った雑居ビルのエレベーターの前まで到着。階数ボタンを押す岡野。

「でもさ、俺は一番上の本を取る主義なの。だって…」

◆ ◆ ◆

…なるほど。筆者は岡野の説明に納得した。

たしかに、本を愛してやまない読書家の岡野の行動はたぶん正しい。しかし、筆者が彼と同じ行動を取れるかは別の話だ。

で、岡野が一番上の一冊を取る理由はこうだ。

「だってさ、みんなが一番上に積まれた本を買わなかったら、その本はどんどん立ち読み客に読まれていくわけじゃん? そのうちその本は指紋まみれになるだろうし、ヘタレてくる。

書店に運ばれてきたときは新品だったその本が、一番上に置かれ続けているせいで『中古本』になっちゃうんだよ。どんどん汚れていくんだから、誰もその一冊を買わなくなるでしょ?

俺は誰も買わない中古本を生み出したくないの。だから一番上に積まれた本を買ってるわけ」

岡野は、一番上に積まれた本を自分が買って「更新」することによって「本を救っている」と言っていた。

◆ ◆ ◆

各駅停車しか停まらない小さな書店でも、新刊は1日で10数冊入る。ならば、その10数冊が中古本化するおそれがある。

全国の書店数を想像してみる。一番上に積まれたせいで、立ち読み用として多くの客に触られ、中古化してしまう本の数はかなりの規模になる。

今度本を買うとき、筆者は一番上の本を迷わず手に取れるだろうか。

少し不安だが試してみようと思う。

(新刊JP編集部・東喜多郎)