誰が買うの?東京都心の豆腐屋リヤカー 直撃取材で分かった「意外な需要」とは

東京都心でリヤカーをひいて豆腐を売り歩く「豆腐屋あこ」 買い物代行や見回りも

記事まとめ

  • 「豆腐屋あこ」こと菅谷晃子さんは足立区、千代田区、港区西麻布で豆腐を売り歩く
  • 豆乳、惣菜、漬物など50種類くらいを販売しており、時には買い物代行を頼まれることも
  • 綾瀬のお客さんは一人暮らしのお年寄りがほとんどで、見回りもかねているという

誰が買うの?東京都心の豆腐屋リヤカー 直撃取材で分かった「意外な需要」とは

誰が買うの?東京都心の豆腐屋リヤカー 直撃取材で分かった「意外な需要」とは

JR四ツ谷駅付近でリヤカーを引く菅谷晃子さん(2019年7月撮影)

ラッパを吹きながら町を練り歩く、昔懐かしい豆腐の引き売り販売。見かけることも少なくなった印象だが、実は東京都内では今もリヤカーをひいて豆腐を売り歩く姿が目撃されている。

今でもそのスタイルを続けていること自体が希少だが、驚くべきことに、それがビルの立ち並ぶオフィス街で行われているのだ。


「豆腐屋あこ」こと菅谷晃子(38)さんは23歳の時から豆腐を売り始め、今年で16年目。週3で足立区綾瀬、木曜日は千代田区麹町、金曜日は港区西麻布を訪れている。

麹町と西麻布と聞いて、少し不思議に思う人もいるだろう。

Jタウンネット編集部は麹町にあるが、オフィスビル・飲食店が多く、六本木にほど近い西麻布は高級店やおしゃれな店の多いイメージだ。もっと住宅が集まった地域もあるだろうに、「なぜこんなところに豆腐屋が...」と思わずにはいられない。

どうしてこの場所なのか。なぜリヤカーでの販売を続けるのか。菅谷さんに聞いた。

ズバリ売り上げは?

実際にどのように販売しているのか。2019年7月31日13時ごろ、麹町にやってきた菅谷さんに、少し様子を見させてもらった。

人も車も多く行き交うJR四ツ谷駅付近で待っていると、突然「プープー」というラッパの音が聞こえてきた。30度を超える暑さの中、ラッパ片手にリヤカーを引きながら菅谷さんが現れた。この日は「応援」として男性1人が同行していた。


ラッパを吹きながら、常連のお客さんの家を回っていく。基本的に訪問販売はしないが、常連のお客さんに限っては、インターホンを押して家を訪れることもあるとのことだ。

この日も訪問したマンションの女性が買っていった。少し疲れてしまったというお客さんには、2階まで運んであげるなど、できる範囲で対応している。


販売しているのは豆腐だけではない。豆乳、惣菜、漬物... 50種類くらいを販売しており、時には買い物代行を頼まれることもある。最近は子どものために豆乳を買う母親が増えており、豆腐や豆乳への関心の高まりを感じているという。

1日の販売数を聞いてみると、豆腐だけで20個ほど。金額でいうと1日3、4万くらいだという。冬場はがんも、厚揚げ、白滝など、夏場はところてんや刺身こんにゃくなどが売れるという。年間を通して売り上げはさほど変わらないが、猛暑が続いたりすると食欲が落ちて売り上げが減ることもあるようだ。



せっかくなので筆者もリヤカーを引かせてもらった。意外と重さは感じないが、バランスを崩さないよう気を付けなければいけない。曲がり角は特に注意が必要で、背後からの誘導を受けてなんとか曲がることができた。

ラッパにも挑戦してみる。息は吐く、吸うを繰り返すだけだが、吸うのが少し難しく、なぜか吐くを2回繰り返してしまった。吸うと吐くとでは音が違うので、タイミングを間違えるとかなり違和感がある。

しかも、ラッパの音は結構響くので間違えてしまうととても恥ずかしい。ラッパを吹きながら片手でリヤカーを引くのは、慣れるまで時間がかかりそうだ。

リヤカーを引くのは12時〜19時半ごろの時間帯の中で6〜8時間ほど。4駅くらい歩くという。

1時間ほど行動を共にしたところ、買ってくれたお客さんは2人。菅谷さんは引き続き販売を続けた。

綾瀬・麹町・西麻布... 買う人はどんな人?

菅谷さんが豆腐のリヤカー販売を始めたのは23歳の時、リヤカーで行商販売を行う「築地野口屋」のフリーペーパーを見たことがきっかけだという。子どもの頃からいじめられっ子で自分に自信がなかったという菅谷さんは、「腕よりも心で販売できる人募集」の言葉が「すごくグッときた」と話す。

千葉県松戸市に住んでいるという菅谷さんは、近いエリアの足立区・綾瀬でリヤカー販売を始めた。5年ほど経ったころに四ツ谷(麹町近く)に倉庫ができたといい、「いろんな世界を見てみたい」という理由で、四ツ谷での販売を志願したという。


現在は綾瀬・麹町・西麻布の3エリアを回る。それぞれのエリアで、客層に特色があるようだ。

「下町(綾瀬)は仲良くなると家族みたいになるんですけど、信用してもらうのに時間がかかるというか、通りすがりの人が買ってくれるっていうのがあんまりないです。でも麹町や西麻布の人はそれがすごく多い。値段とかあまり気にしないでほしい物を買ってくれる人が多いです」


綾瀬のお客さんは一人暮らしのお年寄りがほとんどで、雨や雪など天候の悪い日はいつにも増して喜ばれるという。

「お豆腐を買うっていうよりはおしゃべりを楽しみに、家族が家にやってくるみたいな感じ。お茶を出してくれていろんな話をしたり、おやつを一緒に食べたり、ラインとか教えてあげたり。長い間毎週行ってるから、家族みたいな感じで、ついでにお豆腐も買ってもらうって感じが多いです」

都会なイメージのある西麻布も路地に入れば古民家があり、お年寄りが出てきて買ってくれるとのこと。麹町はオフィス街ということで、会社員が仕事の休憩中に来てくれることもあるようだ。


一人暮らしのお年寄りの見回りもかねて、楽しく仕事を続けているように見える菅谷さんだが、過去には大変な経験をしたこともあった。

「毎週会いに行ってたおじいちゃんの、ご遺体の発見者になったことも。5、6年前には、あまり触れ合いのなかった1人暮らしのおばあちゃん家を見ると、ハエだらけだった時もありました。
豆腐を売るだけじゃなくて町の人たちと話せるような仲だったら、ハエだらけになる前にもうちょっと早く見つけてあげることができたんじゃないかって思います。
話しかけるのはすごく苦手だけど、あいさつとか大事にしながら、笑顔で、売るとか売らないとか関係なく、コミュニケーションしながら歩こうって決めたのは、これがきっかけです」

高齢化が進む中で、豆腐のリヤカー販売は新たな役割を担っているようだ。

(Jタウンネット編集部 笹木萌)

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