認知症やうつ病と間違えやすい50歳からの“てんかん”の危うさ(2)

 認知症になったのではないかと心配した娘は、父親と相談して大学病院の神経内科を受診させたが、脳波などに異常は見当たらない。医師はまず認知症とうつ病を疑った。
 「家庭環境でも悩み事はないし、生返事を繰り返すのは、どうもおかしい。しかし、そのような状態は、お年寄りでなくとも起こりえる。認知症のタイプによっては、いわゆる“まだらボケ”という状態もあり、しっかりしている時もあれば、おかしなときもあるのです。また、うつ病ということも考えられる。そもそも、加齢とともに物忘れは多くなりますからね」
 診察の後にこう説明した医師だったが、しばらく様子を見ることになった。

 Aさんの夫はこう言う。
 「結局、その時は脳の画像診断などの検査でも異常が見られませんでした。そこで、色々調べているうちに『日本てんかん学会』のホームページを見つけ、ひょっとしたらと思い専門医の診察を受けると、原因がてんかんであることが分かったんです」

 Aさんのこうした症状は、抗てんかん薬で治まることが多く、発作を抑えれば元通りの生活を送ることができる。記憶力が低下していた人でも、治療を始めるとある程度は回復することがあるという。
 怖いのは、前述の通り、気づかないまま自動車に乗り、運転中に発作を起こすようなパターンだ。

 55歳の男性Bさんは、3年前から就寝後に全身が震えるようになった。最近になると1分前後、目を見開いて震える発作も起こるようになったが、脳波などを調べても異常は見つからなかった。Bさんの場合も、少しずつ記憶力が低下し、結果、認知症と誤診された。
 前出の井上氏が言う。
 「こういった症状は脳の老化現象の一つで、誰でも発症する可能性がある。疑わしい症状があれば一刻も早く受診し、治療することが大切です」

 また、加齢に伴い、脳卒中、頭部外傷、脳腫瘍、アルツハイマー型認知症などの病気になる人が増えているが、これらは脳に傷跡を残してしまい、結果として、てんかんを発症する原因となってしまうという。他の病気が原因となって二次的に起こるてんかんを「症候性てんかん」といい、高齢者で発症するてんかんの多くを占める。

 Cさん(男性・68)の場合は1年前に脳梗塞の発作で倒れ、無事、回復したものの半身に麻痺が残ったため、自宅で介護を受けていた。ある日、食事中に娘がCさんの様子がおかしいことに気づいた。スプーンを握ったまま、ボーッと窓の外を眺めているのだ。
 娘が声を掛けても、相変わらずCさんは黙ったまま、あらぬほうを見ている。すると、ふとCさんは向き直り、娘の不安げな顔を見て「どうした?」と不思議そうに尋ねたという。

 2、3日の間、Cさんは時折そのような状態になり、やがて普段どおりに戻った。しかし、脳梗塞の再発と認知症を疑った娘は、かかりつけの医師に、そのことを話した。この場合も、認知症のテストやMRIを受けても異常は見つからず、専門医によって、てんかんが原因であることが分かった。
 「てんかんは、高齢者に身体的にも、心理的にも大きな影響を及ぼします。高齢者の場合、転倒による骨折の危険もあるため、発作を抑えるための適切な治療が必要とされます。また、高血圧や糖尿病などの他の慢性疾患があり、複数の薬を服用している場合が多いため、薬の相互作用を考えて薬剤を選択することも重要となってきます。さらに、患者さん本人のてんかんに対する偏見や理解のなさから、心理面にも配慮をした治療が求められます」(前出・井上氏)

 高齢化社会において、本人はもちろん、周囲の注意も必要だ。

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