「セクシー飼育キット」で渦巻いたエロい妄想の結果とは

「セクシー飼育キット」で渦巻いたエロい妄想の結果とは

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誇大広告が法的に厳しく監視・規制されている現在では、広告と実際の商品が全く違う、なんてことは随分と減りましたが、誇大広告を禁じるような規制がなかった時代はそりゃヒドイものでした。


粗末なイラストと数行のコピーだけで子供たちをたぶらかそうとした、少年漫画雑誌のモノクロ通販広告も相当エグかったですが…。


「怪しすぎた昭和の通販広告」


私の人生で一番印象深い誇大広告といえば、何と言っても1971年に登場したコレでしょう。



『シーモンキー』 えっ、海の猿? 600円(当時)の飼育セットを買い、付属の水槽に水を入れ、袋に入った2つの薬品を順番に溶かすだけで、どうやら広告画像のような見たこともないカワイらしい生物が誕生するというのです。いや、これには興味がそそられましたねぇ。


極め付きはこちらのイラストです。どうでしょう、この艶めかしい生物たちは。特にメスらしき個体のセクシーさときたら。こんな生物が机の上の小さな水槽で誕生し、飼育までできるなんて、いろいろと良からぬ妄想までしてしまうではありませんか。



私はシーモンキーが欲しくて居ても立っても居られなくなり、「夏休みの自由研究のテーマにどうしても必要だから」と親に泣き付いて買ってもらったのがこちらのキット。使い終わった薬品の袋も大切にとってありました。




そもそもは、米国のトランス・サイエンス・コーポレーションが57年に『インスタントライフ』、62年に『シーモンキー』と名付けて売り出したものを、日本のテンヨーが輸入販売したもので、箱は英語表記のままでした。


実際の作業ですが、まず「1」と書かれた袋の中身を水に溶かす。24時間たったら「2」の袋の中身を入れる。たったこれだけで数時間後にシーモンキーが誕生するというんです。当時は『ボンカレー』(68年)や『カップヌードル』(71年)などインスタント食品が次々登場し、脚光を浴びた時代。まさに“即席時代”を象徴した画期的商品でした。


さて、「2」の中身を入れ、あと数時間程度でシーモンキーが生まれてくるという、このときほどワクワクしたことはありません。私は水槽の前をひとときも離れず、生命誕生の神秘的瞬間を息を飲んで今か今かと待ち構えていました。


あ! 水槽の中に動くものが…。ごく小さい何かがヒョコヒョコと動いているのが分かりました。やった〜、シーモンキーの誕生だ!!


ん? よく見るとイラストと全く違いますよ。いや、もうちょっと大きくなればきっと広告のようなセクシーな生物になるに違いない、と成長を見守っていましたが、人間の形とはかけ離れていく一方…。エビのような胴体にムカデのような無数の足が生えていて、それが細かく動く、とても「海の猿」と呼べるようなものではない、不気味な生物…。このときになって、やっと私は理解したのです…これはミジンコなのでは?


そう、実はシーモンキーの正体はアルテミナ・サリーナ(Artemia salina)という小型の甲殻類の仲間で、その卵は乾燥に耐え、長期に渡って休眠することができるため、熱帯魚の生餌として普通に売られてる生物だったのです。


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水温が20℃以上の水槽に卵を入れると24時間ほどで孵化し、成長を始めるという、この生物の性質をうまく利用・演出したのがシーモンキーというわけ。そして、71年だけで20万個売り上げたというヒットの要因は、絶妙なネーミングとあのイラストのおかげでしょう。広告大国アメリカならではのショーマンシップに、まんまとやられました。


純朴な小学4年生男子の夢は無残に打ち砕かれたわけですが、それでも私はマメに水を掃除したり、ストローで空気を入れてやったり、かいがいしく世話をして、何と卵を持つまで成長させることに成功しました。このときは本当にうれしかったですね。


その卵がもうすぐかえるという、ちょうどそのとき、わが家で飼っていた猫が水槽を倒して中身を床の上にぶちまけてしまい、シーモンキーは全滅してしまいました。私のひと夏のシーモンキー体験は、こうしてあっけなく終了したのです。


さて、シーモンキーは実は今も売られています。名前はそのまま使われていますが、あの印象深いイラストではなく、実物の写真となっています。他にも類似品が多数あり、ガチャガチャで数百円で買えるものまでありました。どれも成長したアルテミナ・サリーナの写真を載せていますが、今、私が子供だったとして、これらを飼いたいと思うかは疑問です。


やはり、いかがわしいイラストが夢を与えてくれたからこそ、あのとき、狂おしいほどのワクワク感を味わえたのだと思います。


(写真・文/おおこしたかのぶ)


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【画像】


Arthur-studio10 / Shutterstock


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