25歳独身女の日記「たった10分間の恋」が忘れられない…!

25歳独身女の日記「たった10分間の恋」が忘れられない…!

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いつまでたっても彼氏ができない私に向かって、女友達から言われたひと言。「誰か忘れられない人でもいるの?」。この言葉がやけに耳に残っている。忘れられない人か……そんな人、いるわけがない。毎日特別悲しい日もなければ、胸をときめかせる日だってないのだから。なのに、あの日、私は頭の奥底に眠らせていた記憶に気づかされることになる。人生は予期できぬことの連続だ。25 歳独身女の日記より。

1.
その日私は、いつも通り出社する1時間前、7時半にハッと目を覚ました。都内の7畳のワンルーム。女の子の一人暮らしだから、用心のためにカーテンは1日中閉めっぱなし。そのせいか、部屋はいつだって静寂に包まれている。ここまでは、いつもと変わらぬ朝だった。
2.
枕元にある携帯を手に取り、時間を確認する。……と、LINEのテロップに『t』というアルファベットの頭文字だけが表示されている。「ん……」全ての思考が停止した。たったひとつのアルファベットから、眠らせていた記憶が鮮明に呼び覚まされていく。心が痛い。
3.
『t』との出会いは2年前になる。2歳年上の職場の上司だった。彼は、ふんわりした雰囲気を持つ、ひと目見てわかる優しい人。いわゆる癒し系で、女の先輩たちからもかなり人気があった。

人一倍仕事を片付けるのが早く、そして完璧にこなすのだった。当時新入社員だった私は、毎日過ごすのに必死で目もくれなかったのだけど。
4.
ある日、私は職場で重大なミスを犯した。発送するべき資料の送り先ミスだ。その日、私は会社中から怒られ、涙をこらえながら残業をした。もう辞めようとすら思った。

その日の夜は、珍しく彼も会社に残っていて、どうやらプレゼンの準備をしているようだった。

シーンとしたオフィスに私と彼だけがいる。
5.
「お疲れ様。大丈夫?」最初に口を開いたのは彼だった。「はい。大丈夫です」。会話はそれだけだったけど、なんとなく一緒に帰るタイミングが重なった。

会社から駅までの帰り道。あれだけどん底だったのに、その日はビルだらけの通りも星も綺麗に見えた。それだけで元気が出た。

その日から、時間を合わせて一緒に帰るようになった。口数は少ない彼だけど、一緒にいると気持ちが落ち着いて、息がしやすかった。
6.
気づいたら、彼と一緒に帰るために会社に行くようになっていた。今まで寝て過ごしていた休みの日は、ジムに行ったり、会社にはいていくスカートを買いに行ったり。今まで楽さを優先して履くことがなかったピンヒールで通勤するようにもなった。何もかもが苦じゃなくなり、毎日が楽しくて仕方なかった。

ただ、一緒に駅まで帰るだけなのに、こんなにも幸せなんだ。
7.
その日もいつも通り、一緒に帰っていた。すると、彼はふいに私の手を握った。もう、何がなんだかわかならい。恥ずかしくて、体の中が熱くて、もう何も言えないし、目も合わせられない。これ以上のことはないと本気で思った。ずっと続くと思った。

しかし、終わりを告げられたのは唐突だった。「俺、彼女いるんだよね」。私は精一杯の笑顔で「そっか」としか言えなかった。一緒にいない時間、私は彼のことを考えて過ごしていたけど、彼は私のことなんて頭になかったんだ。彼が私を見ていたのは会社から駅までの10分間だけ。
8.
思い出した。この記憶を消すために、彼の名前を消して、イニシャルの『t』と登録しなおしたことを。

始まっていなかった恋に終わりはない。そんな辛い想いをまたするのが怖くて、なかなかLINEを開けない。

たったひとつのLINEが私の人生を狂わせるのだから。

 

End.