誤用が多い「気の置けない」の本当の意味

誤用が多い「気の置けない」の本当の意味

誤用が多い「気の置けない」の本当の意味

「気の置けない」は「気の置けない友人」「気の置けない間柄」などとよく使われますが、意味を勘違いしている人が多い表現です。

文化庁のアンケートでも、約半数の人が間違った意味を選んでいます。

よくある誤解は、本来と逆の意味です。これでは会話がかみ合わなくなってしまいますので、正しい意味・使い方をおさえておきましょう。

■「気の置けない」の意味

「気の置けない」はそもそもどういう意味なのでしょうか。辞書には次のような定義が出ています。

「相手に気づまりや遠慮を感じないさまをいう」(『日本国語大辞典』小学館)

「遠慮したり気をつかったりする必要がなく、心から打ち解けることができる」(『デジタル大辞泉』小学館)

「気を許してつきあうことが出来る様子だ」(『新明解国語辞典』三省堂)

つまり、気を使わずにくつろげる様子、また、そのように気楽に安心して付き合うことができる関係性を指す慣用句なのです。

「気の置けない」の誤用・語源

「気の置けない」は誤用している人の多い表現です。

語源から理解すると、間違わなくなりますので、語の成り立ちから、丁寧に確認していきましょう。

◇「気の置けない」を誤認している人は47.6%

気楽に付き合うという意味の「気の置けない」を、逆に、気を使って遠慮するという意味だと思っている人がいます。

文化庁の「国語に関する世論調査」(2012年度)によれば、誤用だとされる「相手に気配りや遠慮をしなくてはならないこと」という意味だと思っている人が、47.6%にのぼります。半数近くの人が意味を勘違いしているのです。

もしかしたら、「気の置けない」の「置けない」という打消表現にネガティブな語感を感じたり、「気を許せない」「落ち着けない」と同義語だと受け止めたりしているのかもしれません。

しかし、そもそも「気の置けない」がどうやってできてきたか、その語源や成り立ちを知っておけば、誤用はなくなるはずです。

◇「気の置けない」の語源と「気の置ける」との違い

なぜ「気の置けない」が「心を許せる」という意味になるかといえば、元々「気の置ける」(もしくは「気が置ける」)という表現があって、それが「つい配慮が生まれる」「打ち解けられない」という意味だったからです。

たとえば、夏目漱石の『門』という小説には、「向うでも何だか気が置けて窮屈だと云う風が見えた」という文があります。

「窮屈だ」と後に続くことから分かるように、この「気が置けて」という表現は、遠慮して気詰まりな心持ちを表しています。

配慮が生まれるという意味の「気の置ける」に打ち消しの助動詞「ない」を付けたのが「気の置けない」であるため、「気の置けない」は、配慮が生じない、遠慮しない、つまりは、心許せて気楽である、という意味になるわけです。

ですから、「気の置けない友人」といえばポジティブなニュアンスで、幼馴染みや親友のような、特に仲のいい間柄を指します。

「気の置けない」(遠慮しない)だけを覚えるのではなく、「気の置ける」(遠慮が生まれる)と一緒に覚えておけば、勘違いしなくて済みます。

■「気“が”置けない」や「気“を”置けない」とも言えるのか?

「気の置けない」という慣用句を「気“が”置けない」「気“を”置けない」とする人がいますが、これらは正しいのでしょうか。

結論からお伝えすると、「気“が”置けない」は実質上「気“の”置けない」同じなので、正しい表現であり、使っても問題ありません。

しかし、「気“を”置けない」は文法的におかしいものなので、使うのは避けた方がいいでしょう。

◇「気“が”置けない」の場合

「気の置けない」という表現を分析してみると、ここでの「の」は主格の格助詞といわれる文法的役割です。

主語を示す助詞ですから、「が」に置き換えられます。「風の強い日」=「風が強い日」であるのと同様です。

ですから、「気の置けない」と「気が置けない」は同じ意味だといえますし、実際に「気が置けない」の形で使われている文例がたくさんあります。

◇「気“を”置けない」の場合

他に、「気を置けない」という形で使う人もいますが、この形は不適切です。

というのも、「気の置ける」「気が置ける」の「置ける」は、特に目的語を持っておらず、「自動詞」という文法的役割で使われています。

ですので「気を置けない」のように、目的語を持つ「他動詞」の形で使うのは間違いです。「気を置けない」と言ったり書いたりするのは控えましょう。

「気の置けない」の使い方・例文

「気の置けない」の正しい使い方・用法が分かる例文を以下にまとめました。

・付き合いも長いので、すっかり気の置けない間柄だ。

・気の置けない者同士で仲良く暮らすのもいいと思う。

・料理は本格的ですが、気の置けないカジュアルな雰囲気のお店です。

・水入らずで、気が置けなくって可(い)いじゃありませんか。(泉鏡花『女客』)

・話しぶりも、明るくて、気が置けなかった。(菊池寛『貞操問答』)

以上のように、「気を使わずにくつろげる様子、また、そのように気楽に安心して付き合うことができる関係性」を示す言葉だということが分かるかと思います。

また、文豪の小説の用例を見ても、「気が置けない」の形で使われている例文もあります。「気の置けない」「気が置けない」、どちらの形でもいいことがよく分かります。

■「気の置けない」の類語

「気の置けない」を言い換える時に使える表現を集めました。

◇「気詰まりや遠慮を感じない様子」を表したい場合

まず、類語のうち、気詰まりや遠慮を感じない様子をいうのが、

・気を使わなくて済む

・肩の凝らない

・気兼ねのない

・親しみやすい

などです。リラックスできる雰囲気・印象を表しています。

◇「人間関係がとても親しいこと」を伝えたい場合

「気の置けない間柄」のように、人間関係がとても親しいことを伝えたい場合には、他にも、

・心を許せる

・フレンドリー

・打ち解けた

・気心の知れた

・懇意(こんい)の

・親しい

などの言い換え表現を用いることができます。

誤解されそうな場合には類義語への言い換えを

「気の置けない」は、気兼ねをしないで心安くいられる様子をいう語で、「気が置けない」という形でも使われる語です。

「心を許せない」という間違った意味で覚えている人も多い語。文章や会話に出てきた時は、前後の文脈を確認する必要があります。

自分が使う時も、誤解されそうで心配な場合には、「気を使わないで済む」や「心を許せる」などの類義語に置き換えた方が安心ですね。

(吉田裕子)

※画像はイメージです

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