音楽×アート×食の『Reborn-Art Festival』開幕、プロデューサー小林武史「予想しなかった出会いを楽しんでほしい」

音楽×アート×食の『Reborn-Art Festival』開幕、プロデューサー小林武史「予想しなかった出会いを楽しんでほしい」

7月22日から51日間、宮城県石巻市で『Reborn-Art Festival』が開催される。実行委員長を務める、音楽プロデューサーの小林武史が新フェスへの想いを語った 撮影:野呂知功(TRIVAL) (C)oricon ME inc.

 日本の音楽史に残るヒットを手掛けてきた音楽プロデューサー、小林武史。Mr.Childrenをヒットに導いたことでも知られる音楽プロデューサーであり、非営利団体「ap bank」代表理事を務め、キーボーディストとしても活動し、櫻井和寿、亀田誠治らビッグアーティストが集結するBank Bandのメンバーでもある。小林武史が総合プロデュースをする新たな形の総合アートフェス『Reborn-Art Festival』が7月22日〜9月10日の51日間、宮城県石巻市で開催される。この大規模なイベントがいかなるものなのか、『Reborn-Art Festival』の話を中心に、プロジェクトのリーダーとしてのこだわりや小林流の人生の楽しみ方について迫った。

■いかなる想いで音楽×アート×食の『Reborn-Art Festival』を作ったのか

 小林が代表理事を務める非営利団体「ap bank」が主催し、2005年から2012年までの8年間開催した大型野外音楽フェス『ap bank fes』。12〜15年は被災地の復興に集中するために開催はされていなかったが、昨年に本祭のプレイベントとして『Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016』として復活。『ap bank fes』にアートと食の要素が追加されて、『Reborn-Art Festival』に進化したともいえる。なぜコンテンツを拡大し、さらに「51日間」という大規模なフェスになったのか。その想いを語ってもらった。

 「このフェスは震災復興支援の目的がありますので、開催期間は長期にわたるほうがいい。音楽フェスに現代アートをジョイントすることで、開催する期間を長くできる。多彩な趣向の人がいるので東北の地に入る人の数を増やしたかった。復興っていっても東京・都心の力やお金の力など【大きな力】に依存するだけじゃなく、その大きな力も使いながら、うまく中(東北)に“場作り”ができないのかなという思いがありました」

 「新潟で開催している大規模の芸術祭『大地の芸術祭』のチームの人達も仲良くさせてもらっていて、アートが地域にもたらす効果をすごく感じています。大地の芸術祭は地元にも根付いて、新潟の十日町・津南エリアの人にとって、また新潟県人にとっては誇りとなっている。今回のフェスも、東北の人たちにとって「東北ごと(自分ごと)」として捉えてもらえるようになるといいですね」

 「音楽フェスの良さは短期集中。しかしながら今回は51日間の長期開催。『ap bank fes』3日間のプログラムもありながら…音楽が持っている即興性みたいなものを生かした形にしていくことを、ミュージシャンとしてまず思い当たりました」

 「51日間となれば、食も当然必要となってきます。去年のプレイベントの3日間だけでも有名なシェフの方々がものすごく頑張ってくれた。今年は『ap bank fes』の3日間はもちろん、51日間に渡って多くのシェフが参加してくれています」

 「フェスには行くけれど、現代アートは見に行かない、その逆という人もいると思います。音楽、アート、食、多様な“興味の入口”を作って、その境界を超えていくようなフェスにしたいと思ったんです。今は趣向や専門性が大きくなってきている時代。その良さもあるけれど、Reborn-Art Festivalではもっともっと“予想もしなかった出会い”を大切にしたい。ミュージシャンとしてそう思っています」

■27アーティストが集結する大型音楽フェスで“拡散する力”を発揮

 7月28日(金)、29日(土)、30日(日)に開催される『Reborn-Art Festival2017×ap bank fes』が音楽のメインコンテンツ。3日間で豪華27アーティストが出演する大型音楽フェスとなっている。今までとは異なる意図でアーティストをブッキングするなど、新たな試みについて語ってくれた。

 「多様な個性、アーティスト性が出るようにという思いがまずありました。『ap bank fes』はキーになっているミスチルの櫻井君と僕が絶えずあーだこーだ考えています。大きなものに依存しないで、と先ほど言いましたが、ミスチルは僕も長いこと関わってきていますから、そのつながりを感じたうえでより多様なものを作っていくっていうこと」

 これまで8年続けてきた『ap bank fes』は、Mr.ChildrenとBank Band、が中心というところがありました。そこに集まってひっつく、“ひとつになる力”に向かっていっていた。今年ももちろん、Mr.ChildrenとBank Bandも出るのですが、どこかでつなぎ留める力も意識しながら、拡散・分散する力も大切にしたいと思って、多様なアーティストに出ていただきます」

■「Reborn-Art Festival 2017 × ap bank fes」出演アーティスト

7月28日(金)
Bank Band / エレファントカシマシ / Awesome City Club / 大森靖子 / KICK THE CAN CREW/ 水曜日のカンパネラ / スガ シカオ / 秦 基博 / back number / Mr.Children

7月29日(土)
Bank Band / ART-SCHOOL /ACIDMAN / きのこ帝国 / ゲスの極み乙女。 / TK(凛として時雨) / Chara / 藤巻亮太 / ぼくのりりっくのぼうよみ / Mr.Children / LOVE PSYCHEDELICO

7月30日(日)
Bank Band / 銀杏BOYZ / Salyu / 竹原ピストル / 七尾旅人 / NOKKO / ペトロールズ / Mr.Children / Mrs. GREEN APPLE / WANIMA
※五十音順(Bank Bandは除く)

 「今年も、ミスチルの櫻井君ががっつり関わってくれています。今まさにMr.Children は25周年のツアー最中だからなかなか時間がとれなくて、「お疲れのところ悪いね〜」なんていつも言いながら打ち合わせしています(笑)。でも、そんな中でも僕にとっては、おそらく櫻井君にとってもこの活動はやっぱり“やらないといけないもの”になったんですね。僕も東北、熊本、阿蘇らの被災地には炊き出し要員を手配して被災1週間以内に支援に行ってきました。一度そういう現場を目の当たりにすると身体が反応してしまう。これはもう、ap bankを始める前には、まったく想像もしていなかったことですね。被災地への復興支援はやり続けなくちゃいけない、という思いはありますね。嫌な気持ちもなく、無理や義務感でもなく、そういう意味では、やっぱりやった人にしかわからない感覚なのかもしれない」

 「まさに今、今年の『Reborn-Art Festival』を象徴するような曲を作っています。アートフェスのティザーであり、テーマソング。「What is Art?」(アートってなんだ?)っていうタイトルにおそらくなるのかな。今回参加してくれる作家さんの中でも、石巻の浜に打ち上げられたり、放り出されたり…ゴミのようなものを使って作品を作る方もいます。ある意味人間も素材でしかないという側面もある。それをどうやってクリエイトするのか?ということも感じてもらいたい。作家が作品に込めた想いはありますが、見る方にとって全く異なるメッセージとして受け取っても構わない。はっきり、スッキリとしたものではない、“分かりやすいものじゃないキャッチボール”がどんどん起こっていくといいなと思っているんです」

 受け取り方の多様性が面白い。楽しみ方を提示する一方通行ではなく、受け取り方の多様性を楽しむアートフェスになっているようだ。

■小林武史が考える“生きたお金の使い方”

 2年以上の準備期間を経てようやく今夏に開催される新しい形のフェス。思い出深いエピソードを聞いた。

 「これまでの『ap bank』の活動やBank Bandも、ある種の優しさに作用する傾向にありました。例えば環境問題のことを考えるときにはバランスを取ることになりがちだったり、ひとときのムーブメントではダメで「持続性」が重要になったりするから、「包んでいく」「繋げていく」という意味が多かったと思います」

 「今回Reborn-Art Festivalになった時には、人間そのものも素材として考えるという、ある意味突き放してみることを提示しています。捨てられたものかもしれないものの中から可能性を見出す。ap bankを続けてきて、震災があって、次のステップとして見ていたものは、よりラフにタフにアクティブになっていくということだった気がするんです。ap bankがリベラルという立場で他方を批判していくというスタンスでは、ものごとは解決しないという思いもありました」

 小林は、大きな力としてまとまるより、個々が考えることや、その想いを拡散していくことを次のステップとして考えている。

 「僕ら届ける側の気持ちは、復興支援や環境問題への興味関心を集めるだけでなく、このフェスを継続していかなければいけないということも大切に考えています。僕も櫻井君も言っているんですが、ap bankのお金はもう社会的な繋がりを作るための公的なものとして考えてます。「生きたお金の使い方って何だろう」っていうことを一つのお題としてap bankは設立されたとも言えるんです。自然環境の破壊に目をつぶって、資本的商業的に爆走していいわけがないっていうところからのスタートでした。「お金って道具でしょ?」っていう。その、お金に振り回されすぎてやいませんか?っていうことですね」

 「お金は道具」とはいえ、「お金の問題は甘くしているとダメ、クリアしないとこういった新しいプロジェクトは生まれない」と語る。小林武史が考える“生きたお金の使い方”の一つの形が『Reborn-Art Festival2017』だったのだ。

■小林武史のリーダー論「“核”と心が響き合っているか」

 『Reborn-Art Festival』は、今年から本格的にスタートするビッグイベント。プロデューサーとして多くの人数を動かすリーダーとして、大切にしていることは何だろうか。

 「 “魅力の大きい部分はちゃんと伝えたい”“全体の核になるポイント作り”と、実はものすごいシンプルに考えています。それがいくつか繋がっていくと、そこからさらに派生する展開ができる。昔から、ひとつの曲をプロデュースするときも同じ考えでやってきました。“気持ちがグワーっと流れていくポイント”を積み上げるということが大事ですね。今回のフェスを例にするとなると、僕らがやろうとしていることは前例もないし、分かりやすいことでもない。だからこそ、みんなでシンプルに来てよかったと思えるっていうところが、一番の核」

 「もっと全般的総合的な意味においてはアナログ感に近い想いがあります。“響き合う”みたいなこと。何と響き合うのか?それはやっぱり、来てくれるオーディエンス、お客さんたちですよね。ミスチルの櫻井君とも話していたんですが、僕らは“都市でできないこと”を今回はやらないといけないと思っています。それは、分かりやすいものじゃないかも知れないですが、作り手が提示した通りだけではない、来てくれた多彩な感覚を持つ人々に、一期一会で何重にも感性に響くものを用意できるか」

 「例えば、その“都市でできないこと”のポイントのひとつが、石巻エリアの臨場感です。僕がお客さんだったら、石巻に行って、スタッフ、ボランティア、演者しかいなかったら「どこなのここ?」って思うと思います。地元の人たちが関わることによって、石巻ならではの臨場感が生まれてくるわけですよね。実際にお客さんにどうやって作用するのかはやってみないと分からないこともありますが、そういう細かいところもしっかりブレずに考えていきたいと思っています」

■「大事なポイントでは、音楽でリズムを作っていく」

 音楽家であり、会社の代表であり、イベントのプロデューサーであり…壮大なプロジェクトのリーダーである小林。第一線で活躍し続ける男のエネルギーの源はとは。

 「音楽家として最近はSEKAI NO OWARIのシングルをプロデュースして、本人たちが「最高でした」と言ってくれるくらいの会心の出来になってきている。ほかにもback numberや若手の才能と関われています。音楽シーンとの向き合い方は多少変わってきています。昔の「僕とMr.Children」みたいにアーティストの全てに関わることはもうできないけれど、そういう若い人たちとクリエイティブで関われている事がエネルギーの源ですね。こういう社会的活動に関わっていると、音楽家としてスタジオに入る時間はやっぱり少なくなってしまう。だからこそ音楽活動でリズムを作っています。音楽のクリエイティブに、楽しく関われること自体がエネルギーになって、ひいては人生のリズムになってきています」

 このインタビューの中でも、「響き合う」「アナログ」「オーディエンス」などの言葉を印象的に使っていた小林。根っからの音楽家であることが、生きるエネルギーそのものになっている。“本当に好きなもの”は頻度が少なくなったとしても、しっかり、濃く関わっていくことが小林流の人生の楽しみ方だ。

■小林武史が今見据えているものは、「新たな音楽の届け方」

 「今も音楽プロデューサーとして、「なんとかヒットさせたい奴ら」もいるんですが、一方で音楽の在り方を作っていくことが面白い。今、すごいテクノロジーの進化があります。少し専門的な話になりますが、BOSEの「スモールPAシステム」によって、革命的なくらいライブのコストが変わってきていいます」

 「今まではかなり専門性をもって音楽を出す仕組みを作らないと、簡単なライブもできなかった。そして、作った仕組み自体が重たくなって続かなくなることがいろいろありました。それがテクノロジーによりもっとフットワーク軽く表現できるようになるんです。元々僕は、そういうことを実現したかったんです。今回のReborn-Art Festivalはそういった試みの場でもあり、51日間を通じてきっとやりながら僕も学んでいくことになるんです。今年が終わったら色々分かるんでしょうね。それは僕だけのビジョンじゃなくて、日本の音楽業界ひいては、世界的にも求められることになると思います」

■読者へメッセージ「はみ出して捉えてみることも大切」

 「今回のReborn-Art Festivalでもボランティアは7〜8割が女性なんですよ。女性のほうが、一歩超えて自分の中のケミストリーを起こそうという気持ちに能動的です。男は社会的な生き物ですからね。自分の立ち位置の中で苦しくても役割を見直さなくちゃいけないこともある。よく考えて、物事を捉えてみることが必要だと思う。そのためにも体力、精神力、男性は恵まれた身体能力を使いながら、“はみ出して捉えてみる”っていうことが大事かな。役割を考えてみるときに、同じステージでばかりぐるぐる回っていても、“それじゃ気づかないだろう”みたいなことがある。さっき僕はリズムっていったけれど、潜って見たり、はみ出してみたり、浮かせてみたり…意識的に行動してみてください」

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