数々のヒット作に出演してきた人気声優・福山潤が「声優を辞めようと思った」ほど燃え尽きた作品とは?

数々のヒット作に出演してきた人気声優・福山潤が「声優を辞めようと思った」ほど燃え尽きた作品とは?

人気声優として活躍する福山潤さん


2017年に誕生から100周年を迎えた日本のアニメ――。日本が世界に誇る一大コンテンツのメモリアルイヤーを記念して、週プレNEWSでは旬のアニメ業界人たちへのインタビューを通して、その未来を探るシリーズ『101年目への扉』をお届けしてきた。

第10回に登場するのは、声優の福山潤さん。『巌窟王』『コードギアス 反逆のルルーシュ』『暗殺教室』『おそ松さん』など、数々のヒット作に出演してきた人気声優だ。

インタビュー前編では、同い年の声優・立花慎之介さんと共に新事務所「BLACK SHIP株式会社」を立ち上げた経緯についてうかがった。連続インタビューの中編となる今回は、「声優を辞めようと思った」ほどの影響があったという『巌窟王』での経験から、後の代表作となる『コードギアス』との出会いまで語ってくれた。

■『巌窟王』で燃え尽きる

――福山さんの声優としてのキャリアを振り返ったとき、本格的に注目されるきっかけになったのが、主役のアルベールを演じた『巌窟王』(放映:2004年10月〜2005年3月)だったと思います。しかし、ご自身は同作に力を入れすぎたあまり、燃え尽きたような感覚になってしまったそうですね。

福山 その当時は本気で「声優を辞めよう」と思っていましたね。

――それだけやりきった感覚があった?

福山 誰しもキャリアを積むと、自分の中でどうしても外せない1本というのが出てくると思うんですが、それが僕にとって『巌窟王』でした。古典をSFにアレンジする挑戦的な内容を、ど真ん中でやりきった作品で、スタッフのみなさんの気合いもすごかった。制作期間に余裕があったわけじゃないのに、終盤の20話くらいまで声の収録をフルカラーでやらせてもらえましたからね。

後にそうした環境に出会うことは何度かあるんですが、当時の自分にはこれ以上はないだろうっていうくらい贅沢な現場に思えて。当時の自分はできることが増えてきて、やりたいイメージも見えてきて、そこにちょっと近づけているという実感もある中で、思いっきり感情をぶつけられる場を与えてもらえたという嬉しさがありました。

その結果、作品に対する思いが大きくなりすぎちゃったんですよね。『巌窟王』が終わってから、ほかの作品に対しても、「こうあるべきだ」ってことをぶつけてしまい、そこからズレていったときの思いをコントロールできなくなってきて......。このままでは先に進めないまま腐ってしまうだろうな、ここら辺が自分の限界なのかなって悩む状態が半年くらい続いたんです。

――『巌窟王』がすごい現場だったために、同じ水準をほかの現場にも求めてしまっていた?

福山 どんな作品でも、スタッフの方々がどうやって作っているかってことのコミュニケーションを密にやっていれば話は変わったのかもしれないですけど、当時の僕は、「とりあえず現場に行って、そこで感じることがすべてだ」ってやり方をしてしまっていたので、すごく融通が利かない人間になっていたんだと思います。

何がイヤだったかって、このままだと文句ばかり言うようになってしまうってことでした。そうはなりたくないって思ったときに、声優を辞めるべきなのかもしれないなって考えるようになって。

――しかし、実際には踏みとどまった。

福山 そういうことを考えているときにいろんな出会いがあって、自分の考えは傲慢すぎるって気が付いたんです。僕がデビューしたばかりの頃、大活躍していた先輩から、「面白い作品はいっぱいあるけど、自分が心から好きだと思える作品は100本に1本くらいだよ」と言われたんですね。当時は「そんなバカな」って思ったんですけど、その先輩が言っていたことの意味が段々とわかるようになってきて。

確かに面白い作品はいっぱいある。でも、自分の好みと合致する作品との出会いは奇跡みたいなものであって、それを基準にすべての仕事に向き合うのはおかしな話だし、一緒にやっている人たちに対して失礼でしかない。自分はたまたま奇跡的な出会いがキャリアの早い時期にあったので、それを当たり前のように錯覚してしまったんです。

結局、僕は誰かに「君の不満もわかるよ」って言ってほしいだけだった。ものすごい甘えじゃないですか。これに気が付いたときに、急に恥ずかしくなって、全面的に自分が間違っていたと認めることができました。

■とにかく悶々としていた若き日々

――もしかして、昔からぐるぐると考えがちな性格でしたか?

福山 悶々とはしていましたね(笑)。よく喋るんですけど、それ以上に頭の中で問答しているタイプで、ずっと自問自答の日々でした。

――デビューしたときの事務所を辞めてしばらく仕事がなかった時期も、将来についてかなり悶々とされていたそうですね。

福山 辞めたきっかけは、自分が根本的にこの業界で戦っていく力がないって自覚したことでした。最初に所属したのが大きい事務所だったこともあり、このまま守られていたら、いつまでも外で戦う力がつかないんじゃないかって危機感があったんですね。

それで僕は出演していた『∀ガンダム』の途中で事務所を辞めたんですけど、自分としては出演シーンも多くないし、大事にはならないと思っていたんです。でも周囲からは、「何やってんだ!?」ってどよめきが起こるくらいのことをしでかしていて。いかに無知だったか。未だに当時の自分には、「とりあえず誰かに相談してから決めろ」って声をかけたいですもの。

――それくらい自分一人で考えるタイプだった。

福山 そうですね。案の定、事務所を辞めてフリーになってからは仕事もなくなって。かといって声優を辞めるわけでもなく、身が入らないバイトをしながら、「いずれ戻りたい」と中途半端に思っていました。それなら誰かに助けを求めればいいのに、「いや、悶々とする時期だって必要だ」っていうめんどくさいことも考えていて(苦笑)。

たまにお仕事をもらっては、「やっぱりこの世界でやっていきたい」と思うんですけど、「イチからやり直したいので事務所を紹介してください」とは言えない。「たまたま作品に出させてもらったくらいで事務所に入れてくれって、あまりに節操がないのでは......」ってまたぐるぐると負のスパイラルに入ってしまう。大変に自分らしい時期だったと思います(笑)。

そういう苦しい期間を過ごしたので、再出発できたときには、一度なくしたものが戻ってきた喜びがすごくデカかったですね。それで余計なことは求めず、まずは自分ができることを積み重ねていこうと決めました。

――それが前編でうかがった「30歳までは個人名義の活動はせず、声優の仕事に集中する」という決意につながったわけですか。

福山 そうですね。徐々に声優業界が華々しいものになってきて、イベントでも何千人が集まるようになってきたとき、「すごい」って思うと同時に、「これを当たり前だと思ってはいけない」という恐怖を感じたんです。このままいくと勘違いしてしまう可能性があるなって。だから意図的に、個人名義の活動を制限していたんです。

■「代表作がない」と言われた

――福山さんは『巌窟王』のあと、『コードギアス』で主役のルルーシュを演じます。この時期はアニソンイベントの「Animelo Summer Live」が始まったり、聖地巡礼が話題になったりと、マスメディアでもアニメブームが取り上げられた時期でもありました。そのときに福山さんは『コードギアス』の大ブレイクにより、若手声優の代表格として、業界外からも注目されるようになっていきました。

福山 本当に巡り合わせが良かったんです。僕は『コードギアス』という作品に出会う前、「君には代表作がないよね」ってよく言われていました。僕自身は「そんなことないですよ」って答えるんですけど、「でも、突出して売れた作品がないじゃない?」と言われて。当時はアニメのソフトがすごく売れていたので、今だったら大ヒットになるような数字でもヒットとして扱われなかったんです。

もちろん、僕にとっては『巌窟王』を始めとして、全精力を注いだ作品はたくさんありました。でも、一般の人から見たら何をやっている人なのかわかりにくいよねって指摘も納得できて。要するに、僕は数字を持ってなかったんですね。

なので、『コードギアス』に抜擢されたときも、監督の谷口(悟朗)さんはああいう皮肉屋な方ですから、「福山くんを起用しようとしたら、止められたんですよ。売れないからって」と言われました(笑)。まあ、谷口さんなりの発破のかけ方と理解しています(笑)。

――福山さん自身は「代表作がない」と言われることをどう感じていたんですか?

福山 正直それでも良いじゃないか!という気持ちでした。僕の中にはその時々の代表作があり、本気で取り組んだ作品ですから、自分以外の方が僕のどれを代表作にしてくれても構わない、それが無いのであれば、それでもいい。そう思っていましたね。興行としての代表作と出会う前に、本気で向き合い続けた作品にどれだけ出会えるか、という事が当時の僕には重要でした。それに伴って、自分が主演をさせて頂く事での意識も変化していきました。僕らは作品1本単位のギャラは主演だろうが脇だろうが変わりません。対してプロデューサーや製作委員会の人たちは、ここに何億って金額をかけているわけですよね。

そういう大きなプロジェクトの主演として入るのだから、自分に課せられる責任をちゃんと理解しないといけない。宣伝の仕事で声優が表に出ることが増えていった中で、『コードギアス』の前くらいから、そういうことをはっきりと思うようになりました。

――主演としてヒットの責任と向き合うようになった、と?

福山 全てを背負い込む必要はないんですけど、せめて自覚はしないといけないなって。そういうことを考え始めたタイミングで出会ったのが、『コードギアス』という作品でした。

◆続編⇒首の筋肉が切れた? 声優・福山潤が限界に挑戦し続けた『コードギアス』の日々を振り返る

■福山 潤(ふくやま・じゅん)
大阪府出身。1997年、『月刊ASUKA』のラジオCMナレーションでデビュー。アニメ『無敵王トライゼノン』で初主演を務める。2018年4月には声優の立花慎之介と新事務所「BLACK SHIP」を設立し、代表取締役CEO兼所属タレントに。代表作に『コードギアス 反逆のルルーシュ』のルルーシュ役、『暗殺教室』の殺せんせー役など

取材・文/小山田裕哉 撮影/玉井美世子 ヘアメイク/福田まい[addmix BG]

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