旅人マリーシャの世界一周紀行:第195回「未承認国家ナゴルノ・カラバフの子供たちが投げかける答えづらい質問」

旅人マリーシャの世界一周紀行:第195回「未承認国家ナゴルノ・カラバフの子供たちが投げかける答えづらい質問」

ナゴルノ・カラバフの独立の象徴「We are our mountains(我らが山)」


「もう深夜だけど、ATMへお金をおろしに行ってきます! 10分で戻ってこなかったら心配して!

アルメニアの首都エレバンで、宿の人にそう言い残して外へ飛び出した私。外国で女ひとり夜道を歩くことはできれば避けたいが、明日早朝から未承認国家ナゴルノ・カラバフへ弾丸出発するためには必要であった。

誰かに背後を狙われたりしないか緊張しながら無事にお金をおろして宿へ戻ると、それから寝る時間などはなく、荷物をまとめ朝の出発時間まで情報収集に勤しんだ。

ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャン西部にある地域で、古くから隣国アルメニアとの間で領土紛争の舞台となってきた。アルメニア人が多く居住し事実上は独立しているが、国際的には国家として承認されていない。

両国の仲の悪さから、コーカサス3ヵ国を周遊する時はジョージアを介さないと行き来が難しいことは旅人の間では有名。さらに、アルメニア渡航後のアゼルバイジャン入国は厳しく、特にナゴルノ・カラバフへの渡航歴をパスポートに残してしまうと入国できないとか。なので、旅人の多くは、アゼルバイジャン⇒ジョージア⇒アルメニアの順番で旅をする。

私はアゼルバイジャンも再訪したいし、ナゴルノ・カラバフ行きをやめようかとも思ったのだが、「未承認国家」というミステリアスな響きに結局、旅人魂が揺さぶられてしまった。

さて、エレバンからナゴルノ・カラバフの首都ステパナケルトへはミニバンで7時間ほど。私は安宿で出会った日本人のカナちゃんと、レバノン人の男の子と3人でバス停へ向かった。しかし、バスに乗る直前でレバノン人の彼が、「僕はアルメニアはシングルビザ(入国が一度だけ許可されたビザ)しか持ってない」と言い始めた。

未承認国家とはいえ国境もありビザも必要だ。果たしてアルメニアに再入国できるのか、誰に聞いても定かじゃないので、彼は渡航を諦め私たちに手を振った。世界では国籍やパスポートによってビザの条件が違うが、ここでも改めて日本のパスポートは強いなと感じた。

そして、バスに乗り込み移動の間に仮眠を取ろうと思っていたのだが、窓からの絶景がそれを許さない。青空には、まるで富士山のような白い頭をした山が浮かび、広大な緑の大地には白や黄色の花が咲き輝いていた。

途中の休憩で寄った小さな商店やラバシュ(紙のように平たく伸ばしたパン)工房では、日本人が珍しいからであろうか、「アナタはゲストだから」と、ワインやチュルチヘラ(ナッツが入った棒状の飴)の試食に、焼き立てのラバシュは丸々2枚いただき、とにかく歓迎されていることを実感する。

国境でも特に厳しい扱いを受けることもなく、すんなり入国した。


そしてついに首都ステパナケルトに到着すると、未承認国家と聞いていたから物々しい雰囲気かと思ったら、至って普通の小さな街で穏やかな様子。時間が限られている私は、急いで領事館に向かい滞在に必要なビザをゲットした。

それからこの街の唯一の見所、街はずれにある「We are our mountains(我らが山)」の像がある小さな丘へ向かった。その像はイースター島にあるモアイ像に似ていたが、どうやらこの国の老夫婦、先祖を表しており、独立の象徴とされている。

像を前にひとり必死にセルフィーを撮っていると、バウバウバウ!と突然犬に吠えられた。

「犬はキミに怒っているよ! 魔女が来たってね!」

そう私をからかってきたのは、犬を散歩させている小学生くらいの男の子6人とひとりの女の子。

「僕たちについて来なよ!」

私は、子供だからって油断はならないぞ......、と思いながらも面白そうなのでついて行くことにして、学校帰りかと聞くと、

「6月から9月は夏休みだよ!」

「長くない? 日本の夏休みは8月の1ヵ月だよ。大人なんてお盆休みで1週間ってとこ......」

「長くないよ! こっちが長いんじゃなくて、日本が短いんだよ!」

なるほど。

一緒に歩き始めると、男の子のひとりが英語で私に質問を投げかけた。

「ねぇ、キミはコリアの北と南、どっちが好き?」

私は世界を旅する者として、なるべく国の好き嫌いという区別を持たないようにしているし答えをはぐらかしたのだが、今度はもっと難しい質問が飛んできた。

「キミはアゼルバイジャンが好き?」

う......。好きと答えたいが、2国が仲が悪いと知っていたので言葉に詰まった。

「僕は嫌いさ。だってあの国はひどいんだ。僕たちアルメニア人から土地を奪ったり、たくさんの人を殺したんだ」

彼は悲しさと怒りの混ざったような表情でそう言った。

「私はどこの国が嫌いという気持ちはないよ。人それぞれだと思ってるし。例えば生まれたばかりの赤ちゃんはそれとは関係ないでしょ?」

「でもとにかく過去にそういうことがあったんだ。僕は歴史を勉強したんだ。先祖がひどい目にあわされたことを知ってとても憎んでいるよ......」

子供たちは学校や親から歴史を学び、アゼルバイジャンに対して憎しみを抱えていた。私はまさか子供たちまでもがこんなに強く敵対心を持っていると思っていなかったので驚いた。

そんな話をしたかと思えば、彼らが私を連れて行ったのは街中にある小さな遊園地。空中をクルクル周るブランコのような乗り物に誘ってくれた。

「キミはゲストだからプレゼントがしたい」

小学生におごってもらうわけにはいかないよと私が言うのに、彼らはガンとしてお金を受け取らなかった。その後も、体重移動で進む電動ボードに乗せられたり、すっかり彼らにおもてなしをされたので、鞄に入っていたお菓子やボールペンをお礼にあげた。

地球の裏側の国から来た魔女をこんなに手厚くもてなしてくれるのに、隣国を憎まなくてはいけないとは、なんとも皮肉な現実であった。

【This week's BLUE】
未承認国家にも日本のアニメは届いていた! さすが!

●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】

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