『チンギス紀』北方謙三×橘ケンチの異色トークライブが実現! EXILEファンをも引きつける北方氏の魅力とは

『チンギス紀』北方謙三×橘ケンチの異色トークライブが実現! EXILEファンをも引きつける北方氏の魅力とは

北方謙三氏とEXILE・橘ケンチ氏の異色対談

8月20日、東京・丸ビルホールにて「『チンギス紀』刊行記念トークライブ『文学と音楽の地平線』」が開催され、作家・北方謙三氏、EXILE/EXILE THE SECONDのパフォーマーとして活動するアーティスト・橘(たちばな)ケンチ氏が登壇した。

文芸誌『小説すばる』(集英社)にて連載中の「チンギス紀」。モンゴルの英雄として広くその名を知られながら、生涯の多くが謎に包まれたチンギス・カンの一生を壮大なスケールで描く大河ロマン小説だ。

今回、同作の単行本1・2巻刊行を記念し、作者の北方氏、そして読書好きとしても知られブックレビューサイト『たちばな書店』を運営する橘氏によるトークライブが実現。本記事では、作家×アーティストという異色対談の模様をお届けする。会場は、ケンチ氏ファンの女性で溢(あふ)れており......。

* * * 

北方 橘さんとは本日初めてお会いするんですが、非常にいい方ですね。「今日のトークショーで、橘さんのファンを私が取ってしまうかもしれませんよ」と言ったら「どうぞどうぞ」と(笑)。こんなに多くの女性の前で話す機会があまりないので、私にとってはアウェーですが......でも、これだけ若い方々が読書を楽しんでいらっしゃるというのは、作家としてとてもうれしいですね。

橘 作品のイメージから、「いかにもハードボイルドという感じの強面の方なのかな」と思っていましたが、実際にお会いしたら印象がまったく違って安心しました。失礼ながら、とてもチャーミングな方だな、と(笑)。北方先生ファンの中には女性も多いのではないですか?

北方 作家デビューした頃は読者の9割が男性でしたが、最近は女性の方も増えてきましたね。特に『水滸伝』シリーズには女性ファンが多く、サイン会などで泣いたりする方もいるんですよ。

橘 『水滸伝』、シリーズ累計で1100万部というのもすごいですよね。EXILEのCDだってそんなには売れていません(笑)。確かに、『水滸伝』には泣けるシーンもたくさんあるので、ファンの方が涙する気持ちもわかります。

北方 いえ、感動して涙するのではなく、「私の好きなあのキャラクター、次の巻では死んでしまうんですよね......」って泣くんですよ(笑)。「◯◯が死ぬのは覚悟しています。ただ、病死はやめてください。せめて戦死に」ってお願いされて、こちらも困っちゃう。その言葉がきっかけで、病死にする予定だった人物を「病を押して戦場に行き、仲間を助けて立ったまま死ぬ」というストーリーに変更してしまったこともあります。

 本当ですか!? 言ってみるものですね(笑)。

北方 そもそもね、「作家が登場人物の生殺与奪(せいさいよだつ)を握っている」なんて考え方は、幻想か、もしくはつまらない小説家が考えること。小説の登場人物というのは、ストーリーが進んでいくと次第に性格を持ち、ひとりでに立ち上がって物語の中で暴れだすものなんです。そうなると作者にも動かしようがない。そういう、小説の"神様"のような、自分以外の突き動かされる感覚は往々にしてありますね。橘さんも経験がおありでしょう?

 ダンスの神様が降りてきて「ケンチ、踊れ」って言われたことはないですけど(笑)。でも、例えばダンスのターンをしているとき、限界まで回った後の"最後のひと押し"をしてくれる、ということはあるかもしれません。

ダンスといえば、僕たちダンサーにはいずれ体力の限界がくるときがきます。作家さんにとって能力の限界が来るときはあるのですか?

北方 脳の力の限界......そういう意味での"脳力"の壁はあるかもしれない。作家というのは言葉を組み合わせ、論理で組み立てる職業。その選び方が年と共に甘くなってきたり、組み合わせ方が安直になったりする、ということは避けられないのかもしれないですね。私は今年71歳になりますが、『チンギス紀』は10巻以上続く予定ですので、そこまではなんとか脳力を鍛えておかないと。書くためにも力が必要ですから。

橘 『チンギス紀』にも、「馬は、乗りたい時に乗ればいいというものではなく、毎日の手入れが必要なのだ。走らせないと、ただの駄馬になる」というフレーズが出てきます。僕も、ステージでパフォーマンスをするために日々の努力が大切なんだと感じました。ツアーなのでトレーニングをしない日が続くと感覚が鈍ってきますから。

北方 そうですよね。小説家だって、3日書かなかったら、原稿用紙一枚書くのに丸一日かかったりする。ただね、私の場合は、何があっても「毎日原稿用紙一枚だけ文章を書く」ということを課してるんです。飲んだくれて帰ってきて、机に向かうのなんて嫌ですよ。でも万年筆をなんとか握りしめて、一枚埋めるまで眠らない。もちろん、半分眠りながら書いてるから、売り物になんてならない文章なんだけど(笑)。でもこういう習慣を継続してるから、いつも机に向かうとスッと書けますね。

 すごいですよね。僕もお酒を飲んだ後でも、毎日10ターンぐらいはして寝ようかな(笑)。

北方 読書好きが高じて『たちばな書店』の"店主"も務められているという橘さんですが、本を好きになったきっかけはなんですか?

橘 父親から「とにかく本を読め」と教えられたことがきっかけで、20代から本格的に読書をするようになりました。本からパワーやインスピレーションを得る機会もたくさんありますね。父は北方さんの作品をほとんど読んでいるぐらいの大ファンで、今回の対談もとても喜んでました。

北方 ありがたいですね。そういう方のおかげで私の生活は成り立ってますから(笑)。それにしても、橘さんが『たちばな書店』で、自分でお読みになった本を、ご自身の言葉でつづられているというのは本当にすばらしいこと。最近じゃ本屋さんだって、ベストセラーリストを上から順に並べているだけだったりするでしょう。

 僕自身、本によって救われたり、教えられたことがたくさんあるので。そういった作品の魅力を世の中に伝えていきたいなと思って、この企画をスタートさせました。

北方 何しろ"店主"ですから。本が大好きで、愛情と情熱をお持ちなんでしょうね。ぜひ85歳まで『たちばな書店』を続けていただき、各地に支店を出してほしい。

 『たちばな支店』ですね(笑)。

北方 本というものはただの"紙"ですが、無限の物語が詰まった非常に素晴らしいものです。橘さんはそれを感じて、書店の店主までおやりになっている。今日初めてお会いして、強烈なシンパシーを感じましたね。私もぜひ、たちばな書店のメイン作家になりたいなあ。

橘 本当ですか!? ぜひお願いしたいです! 僕も85歳まで書店を続けられるように頑張らないと(笑)。

司会者 以下「――」 ここからは、事前アンケートによる皆さんからの質問をおふたりにお答えいいただきたいと思います。「北方先生は、橘さんのようなアーティストから刺激を受け、作品に反映されることはありますか?」

北方 私はロックが好きなんだけど、音楽を聞いているといつの間にか心がワサワサしてきてね。音楽が知らず知らずのうちに作品に影響を及ぼしているのかな、と思うときはありますよ。具体的に「こういう音楽に影響を受けて、こういう作品ができた」というわけではないんだけどね。

 お好きなミュージシャンはどなたでしょう。

北方 若い人だと、クリープハイプやSuchmosかな。それもね、はやる前に見つけたんだよ。私はパソコンができなくてYouTubeとかも見ないから、全部ライブハウスで見つけるんです。下北沢とかのね。

橘 えっ、先生、下北沢のライブハウスに行かれるんですか!?

北方 うん。ライブハウスで"ダイブ"したりなんかしてね。お客さんたちが、「おい、ジジイがダイブしてきたぞ」「落っことしたら死ぬから気をつけろよ」なんていいながら、最前列まで運んでくれるんですよ(笑)。

――若いアーティストからも影響を受け、北方作品のキャラクターが生き生きとしてくるのですね。次の質問は、「橘さんがチンギス紀をお読みになって、心に残ったシーンはどこですか」。

 蕭源基(しょうげんき)と、テムジン(チンギス・カンの幼名)の別れのシーンは心に残りましたね。自分の元を去るテムジンに、愛読していた『史記本紀』という歴史書を蕭源基が渡そうとするのですが、彼は断る。「歴史は、俺が作ります」と言って。

北方 あのシーンは"書けてしまった"んです。先ほども言ったように、小説には考えないで書けてしまうことがままある。蕭源基は私もお気に入りの人物ですね。

 そのほかにも、タルグダイ、ジャムカといった、個性豊かなメンバーが民族や思想を超えてモンゴルの地に集まっているのも作品の魅力ですよね。この多彩さは、EXILEにも通じる部分があるのかもしれません。

――『大長編シリーズを書き続けられる継続力はどこからきているのでしょうか?』という質問も届いています。

北方 どこからって、続いてるんだからしょうがないでしょ(笑)。冗談は置いておいて、努力はしていると思いますね。例えば、長編というものは言葉をいくらでも使えますから、書いているうちにどうしても文体が"甘く"なってしまう。

そういうとき、私は原稿用紙15枚の短編を書くようにしているんです。15枚というのは非常に短いですから、使う言葉を厳選しないといけない。そうやって頭を切り替えると、長編に戻ったときに文体がキュッと締まるんです。『チンギス紀』を書いている間も、今まで6本の短編を書きましたよ。

橘 つくづくすごいですね。ストイックさでは先生に到底かないません。

北方 私も橘さんも、好きなことを一生懸命やっているだけですよ。やりたいことに対して情熱、パッションがあるだけ。我慢して我慢して、というのは私の趣味ではありませんから。好きなことだからこそ苦しくてもやり遂げられる、人間それが一番大事ですからね。

 確かに、僕もこれまでいろいろなことに挑戦させていただきましたが、最終的には好きなものが残りますね。今日も、読書やEXILEの活動を続けてきたおかげで、北方先生との対談という素晴らしい機会をいただくことができました。

北方 私も今日、橘さんとお会いできて非常に光栄です。そして、こういう素敵な出会いを運んできてくれたのが「本」。本が橘さんや、『チンギス紀』の読者、そして今日会場に来てくれた人たちと私をつないでくれた。これからも本、そして物語の力を信じて、小説を書き続けていきたいですね。

 本を通じて、北方先生に『たちばな書店』のメイン作家になっていただくこともできましたし(笑)。今日来てくださった皆さんも、いろいろな本と出会って、本を通していろんな出会いを見つけてほしいと思います。

北方謙三KITAKATA KENZO

1947年生まれ、佐賀県出身。中央大学卒業後、81年『弔鐘はるかなり』で小説家デビュー。2016年、『水滸伝』『楊令伝』に続く『岳飛伝』全17巻を完結し「大水滸伝シリーズ」全51巻が完成。17年、『チンギス紀』の連載が『小説すばる』(集英社)にてスタート。現在1、2巻が発売中。3巻は10月下旬発売予定。

橘ケンチTACHIBANA KENCHI
2009年に「EXILE」に加入後、12年7月から「THE SECOND from EXILE(現EXILE THE SECOND)」としても活動。17年6月より、ブックレビューコミュニティサイト『たちばな書店』の"店主"を務める。

取材・文/結城紫雄 撮影/鈴木大喜

関連記事(外部サイト)