「300種類の魚を釣るまで、釣った魚しか食べない」さかな芸人ハットリが直面した死の瞬間とは

「300種類の魚を釣るまで、釣った魚しか食べない」さかな芸人ハットリが直面した死の瞬間とは

今年4月から270種の魚を釣ったさかな芸人ハットリ。知床ではオオカミウオも釣り上げた

10月10日は「魚(とと)の日」。この日は多くの魚イベントが開かれたりと、魚に注目が集まるが、おそらく日本一魚にストイックな男がいる。それがさかな芸人ハットリだ。

彼はこれまで「1ヶ月間、自分で釣って調理した魚以外食べない」「1ヶ月間、築地市場でネタを見せ、投げ銭代わりに貰った魚以外食べない」「20種類達成するまで、自分で釣って調理した淡水魚以外食べない」「100種類達成するまで、東京湾にて自分で釣って調理した魚以外食べない」とさまざまな魚企画に挑戦。魚を釣り上げるたびにSNSやブログで公開している。

「進ぬ!電波少年」や「黄金伝説」のような過酷なチャレンジだが、すべて自ら、勝手にやっているのだ。

そんな彼は現在、「300種類の魚を釣るまで、自分で釣って調理した魚以外、食べないチャレンジ!」を実行中。さかな芸人となったきっかけやチャレンジの苦労を直撃した。

■リア充になるつもりがサークル合宿でぼっちに

――今年30歳、芸歴9年目ということですが、最初からさかな芸人として活動しているんですか?

ハットリ 今、主にヒットソングの歌詞を魚の名前にして歌うっていう替え歌ネタをやっているんですけど、昔は魚に絞らず生き物全般でやっていました。完全に魚にしたのは最初の魚のチャレンジを始めてからです。

――もともと魚が好きだった?

ハットリ 小学校の頃、父親に渓流釣りを教えてもらったりはしていました。ただどちらかというと釣りよりも図鑑マニア気味でしたね。大学のダイビングサークルで本当は水着ギャルとキャピキャピしたかったんですけど、気質というか......そのノリが合わず、合宿でも気づいたらずっと南の島で図鑑を読んでました。石垣島のリゾートバイトでも、ひたすらサンゴの図鑑とにらめっこして......。

――サークル合宿にしろ、リゾートバイトにしろ、どっちもリア充要素満載なのに。

ハットリ ......父親が大学教授で、実家に図鑑がいっぱいあったんですよ。魚に限らず、昆虫とか恐竜とか、星座とかも好きで。

――めちゃくちゃ固い家柄ですね。よく芸人を目指しましたね。

ハットリ 大学は早稲田大学だったんですけど、お笑いサークルがあるところで選んだんですよ。お笑いがやりたくて。卒業したら教師になるつもりだったんですけど「一生学校通いじゃん」と思って、3年はやりたいことやろうと思ったんです。それなのに潮の流れが速くて、気づいたら流され30歳のさかな芸人に(笑)。

■15kg減量で命の危機?

――これまで魚絡みでさまざまな企画を行なっていますが、それはなぜ始めたんですか?

ハットリ 2013年に芸人として行き詰ったとき、他の芸人がやってないことやろうと思って「路上ライブの投げ銭だけで一カ月生活」をやってみたんですよ。そしたら、意外と普通に生活できて、その延長線上で「1ヶ月間、自分で釣って調理した魚以外食べない」企画を始めました。釣りだったら、特別な免許とかも要らないですし。

――魚だけしか食べないって単純に体に悪そうですけど、大丈夫なんですか?

ハットリ 前半は何度も「ああ、死ぬのかな」と思いましたよ。一応、付け合わせの野菜はOKにしているんですけど、今のチャレンジで100種類超えるまで、飲み物も制限していたんですよ。それまでは、水と自作のスムージーだけ。一回、病院で検査したらいろんな数値が悪かった。まあピークから15kgくらい痩せてガリガリでしたから当たり前なんだけど(笑)

――マイナス15kgはすごい!

ハットリ 圧倒的に糖分が足りないですから。100種類超えたときに飲んだコーラは、ぬるかったけどめちゃくちゃうまかったです。ただ今は基本、釣った魚の調理で味噌や醤油を使うので、塩分過多。それに空腹を誤魔化すのに甘いものを飲むので糖分も取りすぎ。身体にいいことないですよね、いまはとにかく炭水化物が欲しい、味を中和したい(笑)。

――やはり釣れなくて空腹ということもあるんですか?

ハットリ たくさん釣れた時にツミレみたいにして保存食にしておくんですけど、最高で4日間、絶食したかな。海がしけちゃうと釣れないので。あと小魚しか釣れない場合は味噌汁とかにしてかさ増ししてしのぎます。金魚が釣れちゃったときは煮付けにしましたけど、水っぽくてキツかったな。

――金魚は食べたくないですね。これは調理できないみたいな魚もいました?

ハットリ 基本、「刺身」「煮る」「焼く」「揚げる」で、どうにかなるんですよ。ウツボとかウミヘビは骨がえぐいくらい多くて苦労するけど、味はいい。今まで一番キツかったのは荒川のウナギです。一口目はおいしいんですけど、どぶ川の匂いが2秒後に来るんですよ。うまいとまずいを両方味わうって想像できます?

――どぶ川を味わうことはなかなかないですね......。かなり山奥にも行かれていますよね?

ハットリ そうですね。基本、公共交通機関で移動しているので山奥行くときは徒歩です。一回33km歩いていたけど、それも普通になりましたね。時期によっては野宿も。熊が出るからやめな!って言われたときは急いで山から下りましたけど。

■旅のお金は"流し"の仕事で確保

――完全にサバイバーじゃないですか(笑)。

ハットリ 無人島生活もたぶん平気です。一番伝わらないツラさは"解剖"ですね。魚種を特定するのに鑑定士の人にお願いしているんですけど、そのために解剖しなきゃいけないんです。例えば開いてヒレに入っている「軟条」というすじの本数やエラの内側に生えてる「鰓耙(さいは)」とか数えられるように"解剖"しなきゃならない。こんな目に合うとは......と思いながらやってます(笑)。

――それも学術的根拠を基にしているから大事なんですね。ただこの企画って自分でやっているからギャラとかないんですよね? お金ってどうしているんですか?

ハットリ そこなんですよ。どうしても交通費はかかるので。今は月2本くらいイベントに呼ばれていますけど、それじゃ足りないので流しの芸人として、飛び込みでお店にいってネタやっておひねりをもらっています。そこで仲良くなったお客さんの家に泊めてもらったりして、どうにかこうにか(苦笑)

――平成の世に流しの芸人って......。

ハットリ 昔、「1ヶ月間、ひたすら北上する」っていう企画で、流しで生計を立ててたので、慣れているんです。でも、以前の企画で知り合った人が釣りスポットを案内してくれたり、京都のすごく魚好きな小学生が宿泊させてくれたり、すごい縁を感じます。

■さかな芸人が今、一番食べたいのは意外なもの?

――思わぬ収穫ですね。

ハットリ 釣りを教えてくれてる軟骨魚ハンターの西野勇馬くんが式根島の釣り場を案内してくれたんですけど、その時が一番死ぬかと思いましたけどね(笑)。彼がストイック過ぎて、36時間寝ないでずっと釣りするんですよ。ツラすぎてダウンしてたら「今、釣れてるから寝てる場合じゃないっすよ!」って起こされて、殺されると思いましたよ。ぶっちゃけるとその段階で僕、釣り嫌いになってましたから!

――やっぱりもう釣りはしたくない?(笑)

ハットリ 一時期、釣り愛はなくなってました。300種類って多いんですよ。釣れても以前釣った魚でノーカウントだし。今はゴールが見えてきたから大丈夫なんですけどね。でも、今はとにかくイカが食べたい、魚類じゃなくて軟体動物が食べたい! 今回のチャレンジとは関係ない釣りがしたい!

――肉じゃないんですね、結局、水棲動物(笑)。現在(10月5日時点)270種類に到達、もうゴールも近いですが、これが終わったら次は500種類ですか?

ハットリ いや魚種縛りはもうやめようかと、ツラいんで(笑)。ただ違うテーマで釣りには挑戦するつもりです。最終的に僕がなりたいのは全国の水族館や魚市場のイベントで芸をやって生きていくということ。子供たちに魚のことを伝えていきたいんです。

魚に関わるものって色々あって、漁師さんとか板前さんとか飼育員さんとか。それぞれ魚への携わり方は違うんですが、そのいろんな方とご縁があるので、そこで触れたものを芸として広めていけたらなと思います。

■さかな芸人ハットリ
早稲田大学教育学部卒業。2010年から芸人活動を始め、14年に「日本さかな検定1級」に合格。テレビやイベント出演、流しライブ活動等のほか、自ら過酷な『さかな生活企画』を行なう。現在、クラウドファンディングにて『【さかな芸人ハットリの】全国を旅して釣りあげた魚の書籍を作りたい!【後編】』に挑戦中。詳細は公式ブログ【https://ameblo.jp/tairyokigan/】、Twitter【@hattori95】にて

取材・文/鯨井隆正

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